10話 森で出会った女の子と猪
森について早速サーチの魔法を発動する。少なくともあの魔法が何かしらモンスターをとらえる事が出来たのだからきっと信用していいのだろうと思う。またも自分の視界に入り込むその僅かな光を頼りに途中途中で目印をつけながら進んでいく。今度はまた違う方向を指していた。
「さっきみたいに足元にいる可能性もあるし……気を付けないとな」
木々を掻き分けながらたまに地面も注視して進んでいく。まぁさっきの暴れだした植物的なものに関して言えば何か対策とかあるわけではないけれど。
「そういえばここってちゃんと狩場……なんだよな?」
女神を疑う等と言うつもりは毛頭ないのだけれど、それでも疑問に思ってしまった。森と言う周りが見にくい性質から自分が見つけられてないだけなのかもしれないが、それでも今の所冒険者をこの森で見かけていない気がしたからだ。街を出てから森に行くまでの間であれば数こそそんなに多かったわけではないけれど、しっかりと見た。別段何かコミュニケーションをとったわけではないけれど。
「まぁ誰もいないなら独り占めできる……って事でいいよな」
まぁ何が売れるか分からないから独り占め出来たとて儲けがめちゃくちゃ出るのかは分からないが。
「う~せめて今日の昼と夜との飯代は稼ぎたいよな……いやそもそもこの世界の通貨についてすらロクに知らないけど……」
頭の中で一瞬魔法で生み出せたりしないか、等と邪な思考が入り込んできたけれどぶんぶんと首を横に振って邪念を振り払う。そもそもこの世界だって法律的なものはあるだろうから魔法で偽造の通貨を生み出すなんて行いはご法度だろう。というか通貨がどんな通貨なのか知らないから生み出したくても自分の国の硬貨しか出せない気もする。
ずんずんと進み、光の方に向かう。自分の進み方の所為なのかも知れないけれど、心なしかその光が動いているように思えた。そういえば森と言えば日本だったら鹿とか猪とか熊とかがいる森もあるんだっけか、となるとそういった動くモンスターが期待出来るかもしれない……いや売値知らないけど。あとは虫とか……。ぞくっとする。虫は嫌いだ。
「ええい、虫なんて出会わなければ良いだけだ……」
森で何を言っているんだと自分にツッコミを入れているとがさがさ、と音がした。自分が歩いているから鳴った音などではない。前方の草木が掻き分けられる音だ。
この音がする、という事は動物のモンスターか若しくは同じ冒険者かのどちらかだけれど今まで散々冒険者は見ていないしモンスターだろうか。俺はそこで立ち止まって身構える。そこから出てきたのは、そんな自分の緊張とやらを意味のない物にする答えで、端的に言えば人だった。
「えっ」
「えっ? ……あっ!」
相手も同じ反応。
見るとどうにも冒険者らしからぬ風貌というかな恰好をした女の子。見ると顔やら腕やらに木の枝なんかでつけたのだろうかと思わせるかすり傷のようなものが見受けられた。
「えっと……君は……誰? 冒険者……?」
取り敢えず尋ねる。もしかして本当にここが狩場などではなくてこうして普通の人が草木を取りに来る場所だったりするんだろうか。そう思っていると女の子はやけに慌てた様子で叫んだ。
「こ……こっちは危険です! 逃げてください!!」
「は? え?」
何が何やらと思っていた時だった。俺のサーチの魔法で捉えていたあの光が大きくなっているのが分かった。つまり動いて此方に向かっているという事になる。
「早く!!」
引っ張られて彼女に連れていかれるがままに来た道を戻った。訳が分からずその音がした方向を見ると、そこから見えたのは巨大な影だった。
「あれは……」
「ヒュージボアですよ!!!」
ボア、という名前とその見た目から猪であることが分かった。どうにも鼻息を荒くしている辺りこの子が何かやらかしたのだろうか。というか流石異世界と言うべきか、サイズがめちゃくちゃでかい。木々を平然となぎ倒しながらこちらに迫ってきているから怖いというかなんというか。しかしサイズが何であろうとモンスターという事ならば恐らく魔法を食らわせればいいだけの話ではないか。そもそもが女の子の体力に更に俺を引っ張っているわけだから追いつかれるのは目に見えているというかなんでまだ追いつかれていないのか不思議な位だ。
恰好をつける訳ではないけれどこの目の前のモンスターであれば何とかなる気がする、と彼女が掴んでいるその手を無理矢理ぶんと腕を振って剥がし、右手に力を籠める。
「な、なにを……!?」
「アクアボール!!」
右手に生み出した巨大な水の塊をそのまま突進してくるその巨大な猪に向けて放った。威力など気にせず、出来る限りのパワーで。俺の放ったその玉が当たるとぼん、と巨大な音がして爆風が起こったかと思うと目の前が土煙に包まれて、思わず腕で顔を隠す。
視界が良好になり猪の状態を見ると、明らかに死んでいた。あの猪の上半身部分が消し飛んでおり、中身の内臓だとか血であるとかが飛び出していた。そして当然に体を支える等と言うことが出来なくなりあの猪だったものはばたりと地面に横たわった。
「う……うぇ……」
気持ち悪さこそ覚えたけれど不思議と吐くことは無かった。絶対に自分なら吐くと思っていたから、もしかしてこれも神様のバフの力なのだろうか。あ、と思って後ろを振り返ると俺を引っぱっていた女の子は目の前の惨状に唖然としてしまったのか、伸びて気絶してしまっていた。
流石に置いていくわけにもいかないし街まで勝手に連れていくのも気が引けたので彼女の意識が戻るまで近くで待って居ようと思い、猪を少し遠ざけておいて近くの地面に座った。それから申し訳なさを感じながら、彼女のかけていたバッグをちょっと強引にとって枕の要領にして彼女の頭の支えにして寝かせてあげた。女の子が横にいるからか少しどきどきしている気がする。




