5.村への到着
今回は表現が難しい箇所が多く、文章が乱れているかもしれません……
誤字脱字訂正や助言コメント等がありましたら頂けると助かります。
馬車に揺られながらフユキは再度現状に付いて整理しておこうと、目を瞑って考え事に浸っていた。
この大地は一体何なのか。
ここの大地の人間は感情的であり行動も逐次選択されている為、ゲーム時代のNPCの様な存在ではないことは明白。しかし、現実世界であるのかというと、それもまた魔法や技能の存在によって否定的になる。
ゲームキャラであった『フユキ』の記憶から考えると、元のゲームの世界が作られたものであったという現実そのものが信じられないような事であるが、プレイヤー側であった『宮崎冬雪』の記憶から考えるとそれは自然な事のようにも感じる。
二つの記憶が入り交じることで、余計謎が深まっている様に感じていた。
そして現実的に考え出した結果、二つの可能性に行き着いた。
1つ目は夢の様なものではないかということ。しかし、これはフユキ自身がすぐに否定した。いくら深く眠っているからとは言え、ここまで現実に近い夢を見ることは難しいと考えたからだ。
2つ目はここがデータの中の世界であるということ。これについてもSFじみた話であり、直ぐに否定しようとしたが『宮崎冬雪』としての記憶の中に"選定人類VR移住計画"という都市伝説があったため、それが引っかかっていた。
その都市伝説の内容は簡潔だ。現代では人類が増えすぎた為に地球上の資源が尽きつつあった。そのため何らかの方法で選出した住民を、記憶だけデータ化してバーチャルの世界に住まわせるという物だった。
現実的ではない都市伝説の話だったのだが、現在の状況が現実的ではない為、その話が脳裏に焼き付いて離れなかったのだ。
その様な思考を巡らせていると、フユキに対して御者から声がかかる。
「お嬢さん、そろそろリンウッドの村が見えて来ますよ。おっと失礼、お休み中でしたか?」
「いえ、少し考え事をしていました。リンウッドの村というのはあれですか?」
「ええ、この国の村の中でも有数の商人往来数を誇る交易中継の村『リンウッド』です」
目を瞑って下を向いているフユキに対して声をかけた御者は、てっきりフユキが眠っているものだと勘違いして謝罪をする。
しかしそう見えても仕方がなかった。フユキの現在の姿の年齢は、おおよそ15歳程度に見られてもおかしくはない。身長は140センチ後半程で、大人びている事から多少は上に見られるかもしれないが、それでも外見の影響というのは大きいものだ。
そのくらいの年齢であれば長い馬車移動に疲れて眠ってしまっても仕方がない。
フユキは少し遠くに見えてきた建物群を指差して、あれが村なのかと質問をした。それに対して御者は豆知識を交えて返答した。
遠くから見た雰囲気としては、村という雰囲気はまったくなかった。建物が密集しており、村というより街に近い外見をしている。人々の数も遠くからでも見て取れる程多く、村の出入り口では自分が今乗っている様な馬車が連なって並んでいるのが見えた。
おそらくそれは入場待ちなのだろうと推察したが、それほどまでに混み合っているとは予想していなかったフユキは感嘆の声を上げた。
「所で、なぜこんなにも商人が集まるのでしょう?」
「それは隣にある都市に関係しているんです」
「都市、ですか?」
「ええ。城壁都市セントラルウッド。この国のちょうど中央に位置する城壁都市でして、そこには列車が通っているのです。そしてその列車を通じて交易品を遠方まで運んでくれる組合がありまして、その組合こそが我ら交易商人の目的地というわけです」
都市の名前を聞いたフユキは、馬車の中で御者から引き出した情報を思い出す。
その内容は主にこの国のことだ。
この国は、現在フユキの立っている大陸の最も東端にある半月状の領土を持っている国であり、名前を『ハイラント王国直轄領』と呼ばれている。そしてハイラント王国の本国は、現在の大陸から海を出てはるか東の別の大陸にあるという事だった。
またハイラント王国直轄領は発展方法が少し特殊であるため、直轄領であるとは言え政治形態や文明が本国と少し異なり、一見すると別国のようにすら見える程の、異様な特徴を持っているという話だ。
しかしこの大陸では王国は小さな国に過ぎず、最も勢力の強い帝国と呼ばれる国や、特殊な力を持つ法国と呼ばれる国と隣り合っていることもあり、王国側としては常に緊張状態であるらしい。
そして、王国はそれらの国と争いになった時の事を考えて3つの城壁都市と1つの首都となる都市を作った。
その城壁都市の内の1つが、国のちょうど中央部に位置する『城壁都市セントラルウッド』であった。また、セントラルウッドと同じY軸上の北側と南側にそれぞれ別の城壁都市も存在している。
それらを統括する頭脳となる都市が、この直轄領の首都となる『城壁都市ファストハーバー』なのだ。
ファストハーバーは大陸でも最も東の海沿いに立地しており、直轄領の中で唯一本国とのやり取りがある都市であるが、その話は後になってからわかることだ。
「列車は他の村には走っていないんですか?」
「走っていないということは無いのですが、この直轄領内ではまだ走り始めたばかりでして…… 停車する駅の数も今の所計7つ。首都ファストハーバーから出て3つの城壁都市に枝分かれして直轄領の西の国境まで行って終わりなんです」
「要は駅から駅までが遠い過ぎると……」
「ええ。ですのでこの辺りで買った交易品は大体の商人がセントラルウッドに運んでくるわけです」
列車があるのであれば是非とも乗ってみたいと思うフユキ。
それと同時にそのセントラルウッドと呼ばれる都市の重要性を認識する。
そして隣村であるリンウッドが混雑する理由もそこから推測できた。貿易品を城壁都市セントラルウッドで売り払おうとする商人は、隣村であるリンウッド村を通り城壁都市セントラルウッドへと向かっているのであろうと。
フユキがそのまま国の話を御者としていると、後ろから新たな馬車が近づいてきた。
流石は商人の往来が激しいと言うだけはあり、先程までは後ろにつく馬車は1台もいなかったはずが、少し速度を緩めた隙に既に数台の列ができていた。
「お嬢さん、教会の神官さんかい!?」
「いえ、違いますよ」
「そうかそうか、いやすまねぇ。服装が似ていたもんでな!」
フユキに対して神官かどうかを訪ねてきたのは、1つ後ろに付いてきた馬車の御者であった。
フユキは現在自分が乗っている馬車の御者にも同じことを尋ねられていたことを思い出し、この服装は早々に変えたほうがいいかもしれないと感じる。
フユキの現在の服装には、ゲームでいう所の防御力は存在していない。あるのは魔法による強化で、魔法や技能を使用するのに必要な"MP"を向上させる類の効果や、一部の熟練度を最大値である50以上に底上げする様な効果しか施されていない。
なぜ防御力が無いのかと言うと、フユキは種族特性上死ぬことが無いからだ。
フユキの種族『鬼姫』はアンデッド属性の種族であり、ゲーム中HPがゼロになった場合には自分の意思でその場で再生するかどこかの拠点に転送されるかを選べるシステムだった。そのため、HPがゼロになっても問題なかったのだ。
一部のボス戦では、HPがゼロになった場合転送しか許されない状況というのもあったのだが、現在はどうなっているのかフユキですら分からない。
「確かによく見りゃ導具も杖も持って無さそうだしな!」
「ええ。私は魔術を使えませんので」
後ろに付いている馬車の御者のセリフで、また移動中に聞き出した情報について思い出す。
それは魔術について。
ゲームの時には魔法と呼ばれていた技術だったが、この地では魔術というのが一般的であると。
また、フユキが聞く話によると、ゲーム時に使っていた魔法とこの地で使われている魔術では、その性質がまるで別物であるという事もわかっている。
ゲーム時代の『魔法』は道具も何も必要とせずに学んだ知識だけを元に発動できていた。だが『魔術』を発動する場合"導具"か"杖"と呼ばれる物が無いと、発動にとても時間がかかる上に一部の魔術ではろくに発動すらしないという事だった。
フユキは元々魔法を使えないキャラとしてプレイしていたが、この地で新しく魔術というものを学んでみるのも悪くは無いと思っていた所だったのだ。
「魔術とはどこで習えるものなのでしょう?」
「そうだな。魔術といえばこの直轄領は魔術の先進国だ。頼み込めばそこらの宮廷魔術士や魔術用品店の店主なんかにでも教えて貰えるだろうな。もちろん無料でとは行かないだろうが……」
フユキは、このハイラント直轄領が魔術の先進国であるという事はもとより聞いていた。
ハイラント本国は騎士の国として、ハイラント直轄領は魔術の国として文明を発達させてきたのだ。しかし、魔術を誰かに教示できる程の知識を持つ者が身近に居るという点は初耳であった為、記憶に留めておいた。
「もし魔術に興味があるならファストハーバーにある魔術士大学に行くといいかもしれないな。あそこならきっとお嬢さんの望むものもあるだろう」
「大学ですか…… わかりました。ありがとうございます」
魔術に関する知識が皆無なのにも関わらず、いきなり大学には行けないだろうと思うフユキ。しかし『宮崎冬雪』としての大学時代はまるで溝に捨てた様に終わってしまっていたため、もう一度キャンパスライフを送れるというのであれば行ってみるのも手だと考える。
そんな会話をしていると、フユキの乗る馬車の前方から声が掛かった。
「おいおい、うちの客にあまり迷惑かけないでくれよ?」
「お、なんだ、グリエじゃねぇか! お前次は人身売買に手を出したのか?」
「違う。この方は私の命の恩人であり、この荷物達の命の恩人でもある方だ」
「女っ気の無いお前がそんな可愛げな少女を連れてるもんだからよ、俺はてっきり攫ってきたのかと思っちまったぜ」
フユキの乗る馬車の御者と、背後に居る馬車の御者は、とても中の良さそうな勢いで話を弾ませる。
久々にあったのか商売話から世間話、昔話までし始めた2人。フユキはそんな2人の話の隙間を付いて質問をする。
「お二人はどういったご関係で?」
「俺とグリエは商売仲間ってやつさ。昔でっかい仕事で協力して荷運びをしたことがあってな」
フユキの質問に対して、背後に居る馬車の御者は、先程までの荒々しい口調とは違う儚げのある口調でそういった。
そんな含みのある言い方であったが、フユキはまるで気にすること無く今度は自分の乗る馬車の御者に対して質問をする。
「そういえばあなたはグリエさんというのですね」
「名乗り忘れていましたね、申し訳ない。私は交易商のグリエ・トラデレッグと申します」
「こちらの方も名乗り忘れていましたのでお気になさらず。私のことはフユキとお呼びください」
ここまでの移動でお互い名前を聞き忘れていたため、その場で自己紹介をする。
グリエはしっかりと名前に名字を付けての自己紹介だが、フユキは言い方を工夫してなんとか名前の部分だけで誤魔化した。
今即興で名字を作ることは難しいことではないが、本名の名字を使うわけにも行かない。かと言って適当に付けた場合は後に何があるか分からない。そのため、偽名を使うにしてもせめてもう少し情報を得てからにしようと考えての行動だった。
「次の者、前へ!」
その号令は村の出入り口に立っている鎧を着込んだ男から発せられた。
呼ばれたのはグリエだ。
グリエは後ろの馬車の御者に「ではまた」と挨拶をしてから、馬の手綱をしっかりと握りしめて村の出入り口に立つ鎧の男の元へと移動する。
それと同時にグリエは説明を始める。
「荷物の中身は交易品です。後ろに乗る少女は道中保護しました」
「交易品か…… どうやら間違いないみたいだな」
鎧の男は、馬車の荷台に積んである木箱の中身を事細かく検査して、問題ないという結果を出す。そして、荷物に向けていた視線をフユキの方へと移すと、全身を舐め回すように観察した後にグリエへと質問する。
「商人よ、この少女は教会の関係者か?」
「いえ、わかりません。それも含めてこの村にある教会へ出向こうかと」
「そうか。このような服装…… どちらにせよただの賊が手に入れられるような物ではないか……」
グリエは嘘を付いた。
本当はフユキが教会の関係者では無いことや、むしろこの地についての知識すらないということは、疑うべくもなく明らかであった。
だが、教会の関係者であると言った場合には特に検査などはされずに通される事が多い。それほどに教会というのが重要視されているのだ。
しかし、商人であるグリエがフユキの事情に関してそこまで肩入れする利点は無い。ではなぜこの様な嘘を付いたのか。それは、フユキと狼の集団との戦闘を見て、貸しを作っておいた方が良いと考えたからであった。
グリエの思惑はともかく、その作戦は予想通りの方向へ進んだ。
「よし! 通って良いぞ! しかし、その少女が問題を起こした場合は牢獄ではなく我々リンウッドの衛兵が対処する事とする!」
「わかりました。ありがとうございます」
鎧の男から許可が降りると、グリエは営業スマイルを絶やさずに挨拶をして馬を出した。
許可が降りると同時におかしな条件を付けられたものの、グリエにはそれがどういった意図で発せられた物なのかお見通しだった。
そのため、フユキに対して念の為忠告をしておく。
「フユキさん、できることならこの村ではあまり目立たない方がいいですよ。あの衛兵達はいかにも法的措置を取るといった言い方をしていますが、実際は問題を起こした場合は自分達の好きにさせてもらうということですからね」
「そういうことでしたか。それなら問題はありませんよ。どちらにせよここに長居するつもりはありませんので」
フユキはすべてを察した後に問題ないと答える。
要はこの街で面倒事を起こした場合には、犯罪者として囚われるのではなく、一個人として衛兵隊に囚われるという訳だ。現在のフユキの姿を考慮して、その後に何をしようとしているのかという点は容易に予想が付いた。
後の話によると、街の治安も悪いが衛兵の質も悪いという事だった。
こうしてフユキはこの大地で初めての文明社会に足を踏み入れた。
村の中は、現代の言葉に言い換えるとするのであれば近世辺りの時代。レンガ造りの建物も見えるが多くは木材建築で、木が剥き出しになっている。
また、街行く人々の服装はかなり綺麗で現代物にも見劣りしない出来栄えであるが、中には鎧を着ている人や剣を持っている人もいる。
そして杖を持っている人達も沢山おり、服装はいかにも魔法使いといった服装をしており、魔術士であることが簡単にわかった。
ファンタジー好きであったフユキにとって、その風景は夢のようだった。
そして馬車の中から表情を崩さないままうっとりとその風景に見入っていた。
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