決勝
これにてクラスマッチ編終了。
次回からは夏休みへ入っていきます。
新連載、書き始めました!
いつになるかわかりませんが、その時はお知らせします。
そして新連載を始めた時、少しの間こちらの投稿をお休みします。
ご了承ください。
次は俺たちの番だ。
やる気に満ちた顔で、俺は主審の掛け声に応える。
クラスマッチ、ソフトボール男子の部、決勝。
舞台は整った。あとは自分たちのプレイをするだけ。
俺たちは後攻なので、守備につ・・・こうとしていたその時、とても慌てた様子の聖奈から呼び止められた。
「やばいよ!相手の1組。予選2試合とも10点以上取ってる!しかも失点もたったの2!」
「それはやばいな…。そっちの予選は完全ノーチェックだったからな。みんなに伝えとくよ」
そう言ってショートの位置に戻る。
そして俺は全員をマウンドに集め、相手チームのことを話した。
「マジか…。勝てるのか?」
口々に漏れるその不安に対し、俺はハッキリと言い放つ。
「ああ、勝てる。最悪の場合の秘策もあるからな」
その声にみな安心し、笑顔が戻る。
正直、秘策なんてない。
一応1つ策はあるが、実践して成功するかは分からないので、ここぞの時に取っておくことにした。
・・・おかしい。
相手の初回の攻撃は三者凡退で終わった。
しかも、全員がとても平凡な内野ゴロ。
予選で2試合とも10点以上取ってるチームがこの程度のはずがない。なにか企みがあるのか?
だが、とりあえず儲けた。
「絶対先取点とるぞ!」
先頭バッターの背中を押すように声をかける。
そのバッターが出塁。次のバッターもいい当たりを連発。
・・・やっぱりおかしいよな。
3点取ったことにより、チームは大盛り上がりだ。俺を除いて。
いくらみんなが打つからって、3点も取れるのはおかしくないか?
そんな疑問が俺の頭の中を支配する。
(いや、大丈夫)
自分になんとか言い聞かせた。
が、次の回。相手の作戦に気付かされることになる。
「怜!あいつら急に打ち始めたぞ!」
相手の打球が変わった。
球足が速くなり、内野を鋭く抜けていく。
スリーアウトを取った時には、5点取られて逆転されていた。
「・・・・・・・・・」
沈黙。その言葉がそのまま俺たちの間に流れる。
「まだ2点差だろ!みんななら逆転できるぞ!」
翔が声を出す。
まだ負けは決まっていない。それをみんなの心の中で共有し、立ち直った。
だが、悪夢は続く。
この回2点を取り、追いついた。
しかし次の回、5点を取られ、その裏まさかの無得点に抑えられた。
4回の表、守備につくみんなの足取りは重い。
相手の作戦はこれか・・・
俺は今更になって気づいた。
相手の作戦は『上げて落として上げて落とし尽くす』
希望以上の絶望を見せつけ、相手の戦意を喪失させる。
(あれをするか)
俺はある作戦をするべく、マウンドに行って投手に声をかけた。
「俺と代わろう。勝つために」
すると投手は無言でボールを渡し、ショートの守備についたのを見届けたあと、ホームに背を向けて叫んだ。
「勝つぞー!」
だが、みんなからの返事は小さい。
(希望があることを見せつけなきゃな)
まずは初球。外への少し速い球。打者は見逃してストライク。
そして次、インコースへスローボール。早めに振ってファール。
そして最後、インコースへ速い球。相手は手が出なく、三振した。
俺が投手になった理由は簡単、配球で抑えるため。
さっきの要領で後続も打ち取り、9球でスリーアウトを取った。
「ここから全部無失点で抑える。だから、諦めずに戦おう」
みんなの顔に笑顔が戻り、雰囲気が良くなった。
それを表すかのように打線が繋がり、3点取って2点差に縮めた。
俺は5回裏も無失点に抑え、とうとう最後の攻撃をむかえる。
「俺に回してくれ。出番が来たら絶対に試合を決める」
点差は2点。俺の前には5人。回ってくる時は試合が決まる時だ。
するとみんなが期待に応え、ついに俺に回ってきた。
ツーアウト2、3塁の1点差。2人返せばサヨナラの場面。
ベンチやグラウンド外からの応援の声も、俺には届いていなかった。
今大会の打率は8割。長打は0。
しかしこの場面、決めるとするなら長打はほぼ必須。
俺は落ち着いて守備位置を見る。
内野は前進守備。外野も前。
そのシフトに、穴を見つけた。
レフトとライトが線側を締めていない。
ファーストかサードの頭を超えれば、長打を狙える。
俺が深呼吸し、構えて投球されたその初球。
俺のバットが、外角に来た球を綺麗に捉えた。
そのボールはファーストの真上を抜け、線際を転がっていく。
その間に2人が生還・・・サヨナラだ。
一塁上で呆然としている俺の背中に、翔が飛び乗ってきた。
「やったな!優勝だ!」
「ああ、喜ぶ前に整列しよう」
「11対10で、4組の優勝です」
主審の言葉で、ようやく優勝したことを実感した。
「おめでとう!最後すごかったよ!」
「ありがとう。佳乃も応援ありがとうな」
佳乃から祝福を受け、頬を緩ませた。
かくして、クラスマッチソフトボール男子の部は4組の優勝で幕を閉じた。
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