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大根と王妃②  作者: 大雪
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第7話

その谷は太古の昔から『霧隠の谷』と呼ばれていた。

全てを覆い尽くす真っ白な深い霧が、まるで谷の存在を隠すように谷の周囲を覆うからだ。


一年間四六時中。霧が晴れるのはある一定の条件が揃うある一時だけ。


その時にだけ谷への道が開かれ奥底へと誘う。

しかし一度時が過ぎればあっと言う間に道は閉ざされた。霧はあらゆる物を阻み狂わせた。

おかげで、この谷に辿り着くのは至難の業とされ、それでも強引に近づこうとする者達は霧にまかれ行方知れずとなった。

そのせいか、この谷は長年誰も寄りつかずほぼ放置状態。

民達は何時しかこの谷の存在を忘れた。

谷を領地内に所有する筈の領主すら記憶になく、地図からもこの谷の場所は消えた。

知っているのはごく少数のみ。

ある一族だけがこの谷の存在を親から子へと教え、谷に入る為の道を教えた。


人間界でいう所の人跡未踏の地。

それは今後も続くはずだった。


二十数年前のあの夜に大勢の者達が此処に逃げ延びて来るまでは――




その日の朝、空は何処までも青く晴れ渡っていた。

穏やかな風が吹き抜け、金色に輝く太陽からは暖かな日差しが大地に向けて降り注ぐ。

太陽は全ての源。

それを示すかのように地上の作物の成長を促し、豊かな実りを授ける。

集落の者達はそれに感謝しながら自分達の糧を得るために今日も仕事へと励んでいった。


しかし数時間後――。

あれほど晴れていた空は次第に曇り、大きな落雷が集落の外れに落ちた。

あっと言う間に大量の雨が大地に降り注ぎ、固く乾いた土を湿らせていく。

嵐――その言葉が正にお似合いの有様に、外で作業をしていた集落の者達はすぐさま仕事をやめて家へと舞戻る。比較的青空が多い集落の天気だが、当然雨もふる。

これほど酷い嵐は珍しいが、集落の者達は対して気にしていなかった。


天気に関しては――



強い風に煽られながら、蓮璋とともに外から戻ってきた明燐は閉じられていく扉を振り返った。


「嫌な感じがする雨ね・・・」


明燐の胸には言い知れぬものが込み上げた。



自室の窓から天候の変化を目の当たりにした果竪は大きな溜息をついていた。


「・・・せっかく寝台から離れられたっていうのに」


この集落に辿り着いてから十日目。

ようやく体の傷が癒え、外出が許された果竪は、意気揚々とその時を待っていた。


あと少しで外に出られる!


なのに、そんに果竪の喜びを打砕くかのようにして雷鳴が轟き、かと思えば大量の雨が降り出した。これでは、外に出られない。


「あ〜〜、もうっ!ただでさえ時間が無駄に出来ない時なのにっ」


寝台の上で蓮璋達の事情を聞かされたのは今から十日前。

とんでもない事実に驚愕と怒りの声を上げたのも十日前。


しかし、すぐに何とかしなければと立ち上がろうとすれば明燐に止められた。

手術は上手くいったとはいえ、まだ完全に傷が癒えたわけではないと。

危機に瀕している筈の蓮璋達からも同じ事を言われ、せめて傷が治ってからと説得された。


それに事を焦ってもどうにもならないと。

しかし、それが決定的な状況悪化をもたらしたのも事実であり、果竪は自己嫌悪に陥った。


勿論、皆が自分を止めた理由も分っている。

明燐達が心配しているのは自分の体だけではないと果竪はすぐに気づいた。

自分が狙撃された事は分っていた。しかし、その相手が分らない。

明燐達を問質しても、同じだった。



なぜ、そんな事をされたのか


誰がそんな事をしたのか


分らない事が多すぎる今、不用意に果竪が動く事は危険だという。


しかし、果竪には何となく相手が分っていた。

たぶん、自分を狙撃したのは


カチャリと部屋の扉が開く。

入ってきた明燐に果竪は考えるのをやめ振り返った。


「お帰り、雨に打たれなかった?」

「思い切り打たれましたわ。先程着換えてきた所です」

「それで、どうだった?」

「ええ、すぐに補修しましたが、一時的なものにすぎませんわ」


つい三日ほど前だ。

集落を貴族の目から隠す目眩ましの結界に綻びが生じた。

こんな事は何時もの事だと集落の者達は言ったが、その綻びは次第に増え続けた。

それに嫌な予感を覚えた蓮璋が直ぐさま補修を行なったが、それから毎日の様に綻びが現れた。

今までは一度直せば半年は持ったというのに。

これは明らかに異常だった。


もしや、結界を支える者達に異変がと思い身体検査するが何も見つからない。

この事から、外部からの影響ではないか・・・という事になった。

しかし、もしそうだとすれば下手に集落の外に出る事は危険だった。


もし領主が此処に当たりをつけていて、その領主の力に寄る物であればそれは罠という事になる。


果竪は舌打ちをしたい気分だった。

十日前、自分がすぐに動けていればこんな事にはならなかったのに。


皆が自分の体を心配し、また狙撃される危険性を考慮した結果、とんでもない時間の浪費と状況の悪化を招いてしまった。

必ずしも貴族――この領地の領主が当たりをつけているとは言えないが、今までとは違う異変は状況が楽観できないものとしている。


それに、例え領主とは無関係に結界に異変が起きているとしても、このまま綻びが大きくなれば結界は壊されてしまう。


早く何か手を打たなければ。


「それに早く解決しないと大根作りもままならないしね」

「御願いですから、此処で勝手に大根畑を開墾しないで下さいね。誤魔化すの大変なんですから」

「何を言うのよ。私は大根の伝道師!」


なぜだろう。

ある筈のない照明が果竪を照らしているように見えるのは私の気のせいだろうか。


「大根の為に生きて大根の為に死ぬのよっ!」


言い切った

言い切ったよこの人


果竪の大根熱は何処に居ても健在だった。

寧ろ酷くなった気がする。

明燐はちらりと室内を見回した。

今はまだ大丈夫だが、この部屋があの馬車と同じく大根一色に染まるのも近いかもしれない。


その時、明燐は部屋の隅にちょこんと置かれた大根の人形を発見してしまった。

なんてことだもう浸食が始まってる!!

危うく脱力しかけながらも明燐は必死に己を奮い立たせた。


あの大根は後で撤去して置かなければ。


「それより、結界の話だけど・・・どうしようか」


果竪の言葉にハッと我に返る。

まずい、ここで自分が大根に気づいた事がばれたら撤去どころではなくなる。

明燐は至って冷静に返事を返した。


「・・・難しい話ですわね・・そもそも私は結界に関しては不得手ですから・・・こういう時に朱詩がいれば良かったんですけど」


朱詩――王宮の一等書記官にして、果竪と明燐の昔なじみたる青年。

人懐っこくて明るい性格から周囲の警戒心をあっと言う間に取り去ってしまえる彼は、有力な人材と王宮でも重宝がられていた。


が――


「あんな腹黒はいらん」

「腹黒って・・」


仮にも昔なじみ。俗に言う親友という間柄の相手にとんでもない言い草だ。

しかし、果竪はふいっと顔を逸らした。


「まあ、確かに状況を鑑みれば朱詩がいれば良かったかもね。あいつは結界博士だし、生まれつき潜在能力も高いからある程度の無理も出来るしね」

「そうですね」


但し同時に気紛れな所があり、自分の気の乗った時にしか動こうとしない。

気が乗らない時に動かせるのは、国王か宰相ぐらいである。

なんて使い勝手の悪い奴なのか――って、今はそんな事はどうでもいい。


「とにかく、綻びをどうにかするのがまず第一よね」

「まあ・・そうですね」

「それで、蓮璋達はどうするって言ってるの?」

「今、それについて蓮璋が他の人達を集めて話し会いが行なわれていますが・・」


難しい事は間違いないだろう。


「原因がはっきりしてないのも一つの問題です。これが自然なものか、それとも領主によるものか、または別の何かの力が働いているものか」


原因を読み間違えるだけで死に、全滅に直結しかねない。

もともと、この集落は常に領主から発見される恐れと隣合ってきた。

彼らが慎重になるのも当然である。


「原因か・・・」

「原因が分らなければ手の打ちようがありません。それぞれにあった対処法がありますからね」


原因さえ分れば、たぶん蓮璋が対処してくれるだろう。

明燐はここ毎日ずっと一緒にいたが、蓮璋がいかに高い能力を持っているかを知った。


でなくとも、そもそもこの集落を長い間結界で隠し続ける力の強さは凪国でも上位に入るだろう。兄であれば優秀な人材として欲しがるのは間違いない。


また、この集落に住まう村人達はもともと非戦闘の部類に入る。

にも関わらず、馬車を襲った際の手際の良さは彼の統率力がいかに素晴らしいかを示している。


末は将軍か参謀か。

それか、文官でもいい。あの幅広く深い知識と頭の回転の速さは正しく頭脳明晰と言わしめる。

それでいて、武術の腕前も素晴らしい。


蓮璋を手土産にしたらさぞや兄が喜ぶかも。


「そういえば、蓮璋に求婚されたんですってね」

「な、何でそれをっ」


思いも掛けない果竪の言葉に明燐は慌てた。

な、なぜそれを知ってる!その時果竪は眠っていたはずっ!


「食事を運んでくれた人が教えてくれたわ」


明燐は舌打ちしたくなった。余計な事を。


「で、どう答えたの?」

「勿論馬鹿な事は言わないでと言ったわ」

「馬鹿?求婚する事が馬鹿なの?」

「そ、それは」

「私は良いと思うけど」

「果竪っ」

「だって、蓮璋って今まで果竪に求婚してきた人達とは違うもの。もとは貴族の息子っていっても驕った所も我儘で甘やかされたボンボンの片鱗すら伺えないし」


確かに、精力的に集落の人々の為に働く姿は貴族の馬鹿息子達とは違う。

それこそ、理想の貴族の姿。


「それに、私の目から見ても蓮璋は高物件だと思うわ」

「こ、こう・・」

「って、こんな言い方はあれだけど・・でも、蓮璋が純粋に明燐の事が好きなのは私から見ても分るし」

「果竪・・」

「だから、もし断るにしてもきちんと断るのよ?」

「きちんと断るって・・」

「真剣な相手にはぐらかすなんて失礼じゃない。相手だって遊びで求婚してるんじゃないしね」

「そ、それはまあ・・」

「最終的には明燐の気持ち次第だけどね。でも、後悔するような選択はしちゃだめよ」


って事で、私からの話は終ね――


そう言って笑う果竪に明燐は目を伏せた。

私だって・・・本当は。


「ねぇ、さっきの綻びの原因に戻るけど、まさか王宮側が原因って事はないよね?」

「え?」

「いや、今気付いたんだけどさ・・私達って王宮に戻る予定だったでしょ?それが馬車を襲われ、まあ色々あって此処に来たよね?でも、向こうはそんな事は知らないからさ」

「あ――」

「向こうは着く筈の王妃が来なければ当然探す。で、探したら馬車の残骸と護衛達を見つけて、王妃が浚われたって伝わったら」


真相は違う。確かに最初は王妃を浚うべく馬車が襲われたが、その後は実に紳士的に対応してくれた。

それに、王妃の馬車を襲った理由も聞いている。


そして――実際に王妃に害をなし怪我をさせたのは、別の誰かだ。


しかし、そんな事を王宮側が知る由もない。

それどころか、王妃が賊に浚われたという事実だけを見るだろう。

護衛達がそう証言している筈だから。


となれば、向こうはどういった対応に出てくるか。


「当然、王妃を助け出そうとするわよね」


王妃と、侍女長。しかもこの侍女長は宰相の妹だ。

そんな二人を浚われて向こうが黙っているわけもなく、寧ろ賊を血眼で探し出すだろう。

例え、果竪が王妃に相応しくなくとも、国としての威信の問題である。


しかも最悪な事に、この国の上層部は頭が切れる。

軍隊だってお飾りではない。

下手をすれば一日で賊の身元を洗い出すなど簡単なことだろう。


「そもそも、私達が住んでた屋敷から王都に辿り着くのに必要な日数は一週間。

でも、屋敷を出て十日目の今日、私達はこの集落にいるわ。」


そう――屋敷を出た十日前から今のいままで自分達はこの集落に居続けた。


「そうして、本来の到着予定日より今日で三日も過ぎている。はっきりいって、今こうしている間にも軍が来ててもおかしくないわ」


何度も言うが、本来の到着予定日は三日前。

屋敷から王都まで一週間あれば辿り着く。

だから、本来であればもう三日も前に王都に辿り着いていた筈。

何事もなかったように今頃王宮でのんびりとしていた筈。

しかし、今から十日前。

王宮に戻るべく屋敷を出てすぐに連れ去られてしまったのだから当然予定日通りに辿り着くことは出来ない。

すぐに報告が行かなかった事実を差し引いても、予定日であり、丁度屋敷を出て一週間後の今から三日前に王妃が王都に現れなければ異変に気付くだろう。それから三日経過した今頃は・・・考えるだけで恐ろしい。


「そうですわね・・」


下手をすれば集落の者達が全員罪人として血祭りにあげられかねない。


「でも、考えて見るとその方が良くありません?」


明燐の言葉に果竪が目を見開いた。


「血祭りがっ?!」

「いえ、軍が攻め込んで来た方が、国王に話をつける近道になるのではないかと」


王妃を浚った相手だ。当然、国王の前に引き立てられるだろう。

明燐はそのことを言っているのだ。


「その時に、蓮璋達に自分達の身に起った事を伝えて貰えば」

「証拠は?」

「証拠も何も蓮璋達に起きた事は事実ですもの。それだけで充分でしょう?」

「でもそれを示す物は何も無い」


大きく溜息をつく果竪に明燐は首を傾げた。


「果竪?」


呼びかけに答えるように果竪が明燐を見る。

その眼差しは何処か遠くを見ているようであり、明燐は不安を覚えた。

自分は知っている。

確かに、果竪のこんな一面も知っている。

時折、酷く老成したような・・まるで数千年生きた賢者のような眼差しをする果竪。

そんな果竪を見る度に明燐は思った。

何時もの明るく元気な果竪に戻って欲しいと。


果竪がゆっくりと口を開いた。


「確かに、蓮璋達に起きた事は事実だよ。私も、その鉱山に訪れた事がある。でも、証拠はないの――全てのね」


果竪は静かに言った。


「蓮璋達が鉱山に閉じ込められた原因は新種の鉱石に寄る物よね?」

「ええ、そうです」

「では、その鉱石が実際にあったという証拠は?」

「それは――」


はっ――と、明燐は目を見開き手で口を覆った。


鉱石があったという証拠


その最も簡単なものは実物の鉱石を見せること


でも


「ないよね?鉱石は全て貴族の懐に入ってしまったんだもの。一つ残らず取り尽くされてしまった」


一つでも残っていれば話は違ったかも知れない。

けれど、欠片一つさえ領主のものとなり、他の者達の手には残されていない。

勿論、鉱山の中にも一つも残っていない。


「ここの集落の人達が鉱山に閉じ込められたのは、新種の鉱石を領主が独り占めにする為。

でもね、仮にそう訴えても、そんな鉱石はなかったと言われてしまえばどうする?」


証拠となる鉱石があるならばまだしも、何も無い自分達。

そんな状態で訴えれば結果は火を見るより明らかだ。

向こうだって馬鹿じゃない。新種の鉱石などなかったと一言言えばいい。

なぜなら、新種の鉱石を独り占めする為に村人達を殺したと訴えたとしよう。

新種の鉱石を国に申し出ず独り占めにし、その上村人達を虐殺したとなればそれは重罪に値する。


けど、もし新種の鉱石などなかったとすれば?


なかったという証拠を提示されてしまえば?


鉱石などなかった――それが認められてしまえば、訴えの全てが覆ってしまう。

鉱石のせいで殺された。

けれど、鉱石がなければ殺される必要はない。

そう――そんな鉱石はなかったのだから、独り占めにする為に村人達を虐殺する必要もない。

寧ろ、それは全て村人達の妄想だと言われてしまえば。


「で、ですが・・」

「領主を訴えるのよ。証拠もなしに訴えて勝てる相手じゃないし、他の者達がそれで納得する筈がない。それどころか、下手をすれば領主を侮辱したという罪でこっちが罪に問われてしまうわ」

「・・・ならば、虐殺の証拠を・・鉱山を調べれば」


鉱石が見つからずとも、虐殺の証拠はある筈。

蓮璋達が閉じ込められていた鉱山を調べればすぐにでも証拠があるのではないか。

大量虐殺の証拠が。


しかし、果竪は首を横に振った。


「・・無理。あの鉱山はもうないわ」

「え?」

「二十年前・・私が老師と出逢ってから一週間もしないうちに鉱山はなくなった。文字通り、あそこは消えたの」

「消えたって・・」

「場所はあるわ。でもね、あそこからは大量の邪気が溢れ出していたせいで危険区域とされたらしいの。それですぐに領主が国王に上告した結果、あの場所は禁区域として封印されたわ。たぶん・・・証拠隠滅の為に何かやったのね」

「そんな・・」

「当時その話を聞いた時には、私も納得しちゃってね。だって、あそこの鉱山から魔物が現れたのは私も見たもの。だから、その魔物達の出現もその邪気のせいで、それから民を守る為に禁区域に指定されたんだと思ったの。実際にはとんだ狸領主だったけどね」

「果竪・・・あの閉鎖された屋敷に居たというのに、とても物知りですわね」

「使者という情報源が居たしね」


自分を帰らせようと力を尽くす王宮からの使者。

しかし、それは果竪にとっては格好の情報源でもあった。

上手く突けば王宮の内情、近隣の領地の事を教えてくれる。

そもそも、安全面の為に王宮からこの屋敷までの道程で関わる領地の情報は全て網羅するのが使者の鉄則だ。

それ故に、沢山の最新且つ真実性の高い情報を落としてくれた。


「・・・流石ですわね。何処に居ても、貴方ならば生きていけますわ」

「褒めすぎだよ」


褒めすぎなものか。

寧ろ、果竪の能力の高さに明燐は末恐ろしささえ覚える事がある。


「せめて鉱山が残っていればね・・・」

「でも、それでは蓮璋達は死んだ仲間を弔えないんじゃ」


蓮璋達は死んだ仲間達を弔いたいと願っている。

しかし、鉱山がなければそこに眠る者達を弔うどころの話ではない。


「領主の悪事がバレれば大丈夫よ。たぶん、あそこは元々禁区域にするほどの危険はなかった筈。魔物だって領主の手によって投入されたのなら尚のこと。だから、領主の不正と罪を暴き、同時にもう一度そこの調査をすれば自ずと禁区域指定はなくなるわ」


だからこそ、蓮璋達も一刻も早く王に伝えたかったのだろう。

自分達の起きた悲劇を。


しかし、ここで一つ疑問が沸く。


「でも・・おかしいですわね。幾ら危険だと領主から申し渡されても、王宮から調査が入る筈です」


幾重にも結界が張り巡らされる禁区域はそれ一つ作るにもかなりの重労働だ。

しかも、その場所が完全なる浄化が行なわれるまで永きに渡って立ち入り禁止にされてしまう。

それは周辺住民にとってはかなりの痛手になる。特に、生活の場や交通の場を二分にしてしまうような場所に禁区域を作るとなると慎重な調査が行なわれる。

あの鉱山があった場所はそれほど交通面、生活面での支障はきたさないが、それでもそれほど危険な場所でない所に禁区域指定は出されない。


「まあ、調査して禁区域指定に相応しいと思われたんだろうね」

「思われたって・・そこまで危険じゃない所を相応しいだなんて判断する調査官が・・・」


明燐の目が見開かれる。


「居たんでしょうね――そんな馬鹿な判断をした相手が」

「そんな・・」

「そして虐殺を黙認した馬鹿が」

「っ?!」

「考えても見て?あそこは鉱山よ?中から邪気がするなら当然中に入るわ。にも関わらず、調査官はその件について何も触れずに領主の望むままに禁区域指定と判断した」

「分らないように隠したのでは」

「どうやって?力を使って?無理よ。あそこは能力使用禁止区域よ。ならば力を使わずに隠したのか?これもあり得ない。たかだか一週間で五百名あまりの遺体をどうにかするには時間が短すぎる」


それに、ただの遺体ではない。

鉱山内のあちこちに大量の血と肉塊が飛び散っているだろう。

沢山の魔物も居ただろう。罠だってあった筈だ。

それらを短期間で全て回収出来るわけがない。

特に、さっさと鉱山という証拠を隠そうとしている領主だ。


「では、やはり・・・」

「領主側に着いたわね」


その時の調査官が誰かまでは知らないが、とにかくそいつが領主側に着いているのは間違いない。

領主の悪行を隠し、蓮璋達の身に起きた悲劇すらも握りつぶした調査官。


その行いは許されるものではない。


「問題は、その調査官が誰なのかと言うことよ」

「そうですわね・・」

「調査官が下手に国王に近しい場所に居れば引き離さなければならない。でないと色々吹き込まれるからね。それに、下手に権力を持たれていれば王宮内、もしくは王宮内に入る前に蓮璋達を消されかねない」

「果竪・・・」

「消させるつもりはないわよ。もしやるのなら、私も全力で相手をするし」


果竪はゆっくりと目を瞑った。


穏やかでゆったりとした空気の流れていた王宮。

けれど、その裏では権謀術数渦巻く権力争いが行なわれていた。

王に誠心誠意仕える者達も多く居た。

しかし、それでもまだかなりの者達が権力争いに明けくれていた。

そしてそのやり玉にあげられたのが果竪だ。

てっとり早く権力を握る為には、自分の娘を王妃にして跡継ぎを産ませればいい。

そうれすば、自分は未来の国王の祖父として権力を握れる。


そうした者達が張り巡らせる罠に果竪は何度も絡み取られかけた。


疲れた


疲れすぎた


反対に恵まれ楽しかった屋敷での生活は正しく自分の望む理想だった


もう、二度と権謀術数渦巻く王宮には戻らない


でも・・・もはやそうも言ってられない


「王妃なんてなりたくなかった」

「果竪」

「王妃なんて辞めたかった。ううん、やめるために私は王宮に向かう」


でも


「今の私は王妃。私はまだ王妃なの。だから、王妃である限りは王妃として出来る事をするわ」


この手にある王妃として許される全ての力を尽くそう


この身に許された全ての努力をしよう


もう二度と後悔しない為に


「だから・・力を貸してね、明燐」


微笑む果竪に明燐は微笑み


そして頭を下げた


それは臣下の礼


「私の持てる全ての力を貴方に捧げましょう――我が君」


とはいえ――


どうして果竪がこんなにやる気になっているのだろう。

それが、明燐の中で疑問だった。



ようやく更新できました♪

これも、皆様のおかげです!有り難うございます!!

また、感想や評価を下さった皆様、まだ返信出来ておりませんが本当に貴重なコメントどうも有り難うございますvv


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