表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大根と王妃②  作者: 大雪
45/46

第45話

今回で(帰郷編)は完結です♪

「長、そろそろ約束の時間です」


部下の言葉に、茨戯は月の輝く夜空を眺めた。


「私の見込み違いだったのかしらね」

「長………」



時間までに戻ってこなければ皆殺し



けれど、果竪達は戻ってこない。



茨戯は瞳を閉じた。



やはり、無理だったのだろうか



あの時、強引にでも連れ戻すべきだったか



というか



――あの男と一緒というところが何よりもムカついてならない。



果竪一人ならばまだしも、あの男と一緒。

しかも、果竪はあの男を追いかけて一緒に行ってしまった。



どうして?



あの男の何が良いの?



あんな奴、国王に比べれば美貌も才能も劣るではないか。



茨戯は、心底敬愛している国王よりもそこらのポッと出の男を選ばれた事実に、苛立ちを募らせる。

しかも、選んだ当の本人は心底敬愛している国王の正妃。



酷い、酷すぎる



やはり、あの時あの男を始末しておけば良かった。



果竪さえ邪魔しなければ上手くいったというのに



「ふっ……これが妹を持つ姉の心境というものかしら」


「長、普通の姉は妹の彼氏を抹殺しません」


というか、姉なのか。兄じゃなくて。


だが、現実問題――茨戯は姉、女性にしか見えない。

それもとびっきりの美女。


「血縁関係疑われかねませんね」


「ちょっと!それどういう意味?!」


どういうもこういうも、茨戯はそれこそ大輪の薔薇の如き美女(でも男)。

果竪は百億万歩×一京譲ってとっても可愛らしく愛らしい、でも本音を言えば十人並みの少女。


どう考えても、どう甘く見ても、どう好意的に見ても絶対全く姉妹には見えない。

しかもそれは果竪本人がしっかりと認識している。


過去に、誰かがお世辞で茨戯と果竪が一緒に居るところを姉妹みたいと称した時




『いえ、まったくこれっぽちも全然ちっとも似てません』



と言い切った事がある。



あの後、茨戯は荒れた。


いくら何でもそこまでの全否定は酷いと。

しかし部下達は思う。果竪は何も間違った事は言ってない。



いつも果竪の事をおちょくりからかう茨戯だが、果竪が相手をしてくれないと不機嫌になる傾向がある。

これを『果竪欠乏症』といい、王に近しい側近及び上層部がよく陥る現象である。

治療法はとりあえず果竪を与えておけばいい。



ああ、でも王妃様は優しかったなぁ~~



部下達は遠い目をした。



辛い任務に当たった自分達にお手製の大根料理を振舞ってくれた。

よく差し入れもしてくれて、愚痴とかも聞いてくれた。

それを恋情と勘違いして消された奴は何人もいるけれど、それでもあの大根料理は美味しかった。


『これ、少しだけど……』と言って持たしてくれた大根の漬け物の美味しさはまさに神だった。


そして『俺のために毎日大根の漬け物を漬けてくれ!!』と告白しかけた馬鹿が文字通り抹殺されたが。


「ってか、私と果竪が似てたら問題でもあるの?!」

「問題以前に似てないので大丈夫です。そして今後も似ることは永久にございません」


流暢にペラペラと話す影A。


凪国国王お抱えの暗殺集団『海影』に所属する者は、それこそ寡黙にして多くを語らず怜悧冷徹に仕事を遂行するとして名高い。

というか、暗殺集団と銘打っているのだからペチャクチャ喋られたら困る。


なのに何でお前はそんなに多弁なんだ。


同僚たる影Aの適性試験はきちんと行われていたのか


同僚達は本気で試験の不正を疑った。


「長」

「何よ!あんたも私が果竪に似てないって言うの?!」


そしてどうしてそこに拘る、長。


「いえ……それよりも時間の方が」


その言葉に、茨戯がハッと冷静さを取り戻す。


「ゴホン!……そ、そうだったわね」


すっかり忘れてたわ……と呟く茨戯に全員がこの人大丈夫か?と本気で心配した。

仕事は有能で才気に満ち溢れ、普段はとても冷静沈着怜悧冷徹なのに、何故か時々こうやって暴走する。



そろそろ長の代替え時期か?



といっても、自分達は茨戯を心から尊敬している忠誠も捧げている。

彼以外の主君に仕えようとは思わない。なので、暴走したら自分達が止めようと思う。




大丈夫、果竪の大根の漬け物があればきっと頑張れる!!




時計の針が約束の時刻を指す。

茨戯は懐中時計の蓋をパチンと音を立てて閉じた。


「時間ね」


その言葉に、部下達の空気が一斉に変わる。


「……任務を遂行するわ」

「では」

「あんた達は手を出さないで。これは私がするわ」


その時だった。



「待って!!」



聞こえてきた声に茨戯はハッと目を開けた。


「お、長!」


普段は焦ることなど滅多にない部下が驚きを露わにした。


視線の先に居るのは



「か、果竪っ!」



待ち望んでいた果竪がそこに居た。文字通り満身創痍。

その隣には、同じく満身創痍の蓮璋と――見知らぬ少女。


また誰か拾ってきたのだろうか?


少し気になったが、それよりも今は果竪だ。

服は更にボロボロとなり、あちこち傷だらけ。


だが、それ以上に問題なのは


「あの子……また短くしやがった」


三日前よりも更に短くなった。


おい、どうしてくれるんだ。

そこまで短くしたらせっかく選んだ付け毛が使えなくなるだろう。

また一から付け毛を選び直さなければならない事実に茨戯は溜息をついた。


「茨戯!」

「ん?」

「すぐに部下をこれから言う所に向かわせて!」


果竪はある場所の名を言う。


「そこが何よ」

「新しい鉱山のある場所!時間がなかったから閉じ込められた人達を助けるだけしか出来なかったけど」


それ以外の保護を要請する果竪に茨戯は指を鳴らす。

スッと数人の部下の気配が消えた。


「にしても、よく帰って来れたわね――とっくに死んだかと思ってたけど」

「そんなに簡単にくたばるほど弱くはないわよ。私の生命力はゴキブリ並みだし」

「いやぁぁぁぁぁ!そんなものを表現対象にしないでしよ!!」


ゴキブリの触覚がウネウネと動く姿を想像し悲鳴をあげる茨戯。

反対に果竪はカラカラと笑った。


そういえば、昔ゴキブリが出て女性陣がパニックになった時にいち早く新聞を丸めて仕留めていたのは果竪だった。


『はっ!虫なんて畑仕事してたらわんさか出て来るのよ!っていうか、虫がつくのは作物が美味しい証拠!!むしろ虫万歳よっ!!』


と言いつつゴキブリ仕留めていたじゃん――とは誰も言わなかったが。


茨戯はそんな過去を思い出し、疲れたように溜息をついた。

だが、すぐに微笑を浮かべ果竪を見つめる。


「時間ピッタリとはやってくれるじゃない」

「長――」


部下はそれ以上は言わなかった。

そして持っていた時計を懐にしまう。

長が時間通りと言うならば、それで間違いないのだ。


「でも……本当に凄い有様ね」

「煩いって!」


頬を膨らませる果竪だったが、すぐに忘れてたというように懐からそれを取り出した。


「はい、これ」


それは、証拠となる鉱石だった。

全ての闇を明らかにする光。


「後は、これらね」

「…………これ……どこから」

「領主の屋敷に忍び込んだ際に取ってきたの」


領主の不正が記された資料の数々。

それらはどれも領主を追求するのにこれ以上ない代物だった。


「但し、領主は死んでるけどね」

「はい?」

「領主の舘にも調査を。詳しい事はあとで話すわ」

「全く……あんたって子は……」

「で、これでいいのよね?」

「ん?」

「これで、集落の人達は罪に問われないわね?」

「とりあえずわね」


茨戯の言葉に、蓮璋と蛍花は不安そうな表情を浮かべる。

一方、果竪は深い溜息をついた。


茨戯の言わんとしている事



それは果竪も承知していた。



「これからが勝負って事ね」

「分かってるわ――負ける気はないけどね」



王宮での証言に全てはかかっている。

だが、それはかなり難しいだろう。


全ての官吏達の前での証言するのだ。

もしこの件を良く思わない者がいれば即座に粗を探して突きにくるだろう。

また、単に意地悪く唯面白いという理由だけで叩きに来る馬鹿もいるかもしれない。


全員が全員この件について好意的とは限らない。

様々な思惑の者達が集う中で、この件の真相を明らかにする必要がある。



それこそ、百戦錬磨の狸達のもとで――




公私をきちんと分けている上層部も、今回の件には厳しい追及をするのは間近いない。



それは歪むことのない真実を明らかにする上で重要な事。



だからこそ、揺らぐことのない証拠と証言が必要なのである




そしてそのどちらも既に揃っている。

証言は更に増えた。



「って事で、絶対に勝ち取るわよ!」



勝利、自由




そして



「この件で被害を受けた全ての者達の権利を――」



それは、希望に満ちた言葉だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ