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大根と王妃②  作者: 大雪
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第4話

今から二十数年前。

ある貴族の領地でとても珍しい鉱石が発見された。

不思議な碧光を放つ漆黒色のそれは、これまで国で発見されてきた鉱石とはどれも違う新種のものだった。


貴族は当然その石を欲し、軍を派遣して民達に石を掘り出させた。

休む暇も寝る暇も与えず、まるで奴隷の様な仕打ちだったが、逆らえば殺される。

恐怖に支配された者達はひたすら貴族の為に石を掘り、やがて資源は枯渇した。

すると、貴族は鉱山で働いていた民達、その者達の親戚縁者全てを廃坑となった鉱山へと押し込めその入り口を塞いだ。


石の秘密を知るもの達をこの世から消し去るために


「そうしてオレ達はあの廃坑に閉じ込められたんです。たぶん、世間には鉱山で事故死したという発表になったでしょう」


蓮璋の言葉に明燐は思い出した。

確かに、二十年前とある貴族の領地で多くの民達が亡くなったとされた。

それらは全て鉱山での崩落事故に因るものであり、確か貴族はもう二度とそのような事が起きないようにと尽力を尽くすと言っていたような気が……。


「あれは、まさか・・」

「事故でもなんでもない。あいつの私利私欲が原因です」


太陽の光さえ届かない暗い鉱山の奥深くに閉じ込められた。

そればかりか、不老不死である自分達を殺す為に奴が何処かで飼い慣らしていた魔物を鉱山の中に放ったのだ。


「で、でもあなた達は此処に居ますわ。無事に外に出られたのならばどうして届け出なかったのです?」


あの王が届け出をなかった事にするような、そんな非道な事をするような人ではない。

真剣に訴えれば必ずや動いてくれるだろう。


「訴えはしましたよ。但し、訴えに向かった者達は誰一人として帰ってきませんでしたが」

「え?」

「たぶん・・消されたのでしょうね、あいつに」

「そんな・・」

「そういう奴なんですよ。オレ達を閉じ込めた鉱山の奥深くの区域から出口までも、もう本当に酷かったですよ。万が一もないように、多くの魔物を放ち、沢山の罠を仕掛けた。おかげで、千人近い人々がそこに閉じ込められていましたが、減るに減り続けて地上へと戻ってこられたのは半分程度でした」

「・・・・・・・」

「鉱山内には多くの仲間達が眠っています。けれど、今だに魔物が蔓延っていて弔う事すら出来ない」

「力は」

「無理です。あの鉱山の内部は能力使用禁止区域に引っかかってますから。もし使えるのならば誰一人欠けることなく外に出てましたよ。実際、半分も生き残ったのが奇跡なぐらいです。それも全ては老師のおかげです」

「老師って」

「今王妃様を治療している方ですよ。あの方がいなければ」

「ワシの力ではない」

「老師!」


いつの間にか果竪の運び込まれた部屋の扉が開き、老師と呼ばれる老人が立っていた。


「老師、果竪は」

「あの方なら無事じゃよ。傷も塞がったしのう」

「良かった・・」

「流石は老師ですね」

「何を言う。ワシの力など微々たるものじゃ。勿論、あの鉱山の時ものう」

「老師?」

老師と呼ばれる老人が微笑んだ。

「そう・・・ワシの力ではないのじゃ」

「それは、どういう事ですか?確かに鉱山から出られたのは老師の」

しかし、老師はゆっくりと首を振った。

「本当に違うのじゃよ。お主には・・いや、誰にも話さなかったからのう。あの日の話は」


老師は静かに語り始めた。

深く暗い鉱山の奥深くに閉じ込められた村人達。

このままでは全滅してしまう、ならば少しでも可能性をかけて脱出をはかろうと決意した。しかし、既に鉱山は魔物の巣窟。入り口もふさがれ、罠も沢山ある。

それでも彼らは進んだ。途中、魔物に襲われ罠にかかり、それでも進み続けた。


だが、最後の最後で巨大な魔物にぶちあたった。

あれを倒さなければ外には出られない。


いや、倒さずとも何とか出口さえ開ければ


そうこうする内に、数人の村人達が自分達が囮になると言い出した。

時間がかかれば死んでしまう作戦に他の者達は反対したが、彼らはこのままでは全滅する、それでは今まで犠牲になった者達は浮かばれないと叫ぶ。


その叫びに、終には他の村人達も頷いた。

そうして、特にこの鉱山を知る古参である老師が先頭に立って出口へと向かった。

しかし、途中魔物に気づかれ老師と彼の孫だけが何とか逃れて出口へと辿り着いた。


予想通り、大きな岩に塞がれ、しかも結界まで張られている。

これをどうにかしなければ自分達は助からない。


老師は岩の周囲を探った。

どこか地盤が軟らかい所から掘り進められないかと考えた。

しかし、何処も固く掘れる場所は何処にもなかった。

そうしている間にも刻一刻と時間は進んだ。


その時だ。


突然出口を塞ぐ岩に亀裂が入り粉々に砕け散った。


驚く老師と孫。

そんな彼らの前に、粉塵の中から一人の少女が現れた。


「それが、王妃様じゃ」


とはいえ、当時は王妃だとは知らなかった老師達は貴族の刺客かと考えた。

貴族が自分達を滅ぼすべく、もし逃げ出した時の刺客として彼女を使わしたのかと。

しかし、警戒する彼らの背後に魔物が現れた瞬間、少女は動いた。

『何でこんな所に魔物が居るのっ?!』

それに答える事は出来なかった。

その前に少女が印を組終わったからだ。

眩い閃光が魔物を襲ったかと思うと、あっという間に魔物は消滅していった。


『ったく、此処の鉱山の責任者は、領主は何してるのよ!』


魔物を葬った後、少女はそう言って怒った。

そうして呆然とする領主に少女は笑いかけた。


『大丈夫?』

『あ・・』

『もしかして何処か怪我してる?』

『い、いや・・わしは・・仲間が』

『仲間?仲間の人達が居るの?』

『あ、ああ』

『なら、すぐに』


その時、鉱山の入り口から魔物が一体飛び出してきた。

それはあっという間に鉱山の前にある森の奥に消え去る。


『なっ?!あいつっ!!仕方ない。おじいさん、これっ!!』


少女が投げ渡したものを受取った老師は驚いた。

それは、治癒石だった。それもとびっきり高純度のもの。


『それあげる。私は魔物を追いかけるからおじいさんは怪我した人達を治療してあげてっ!!』


そう言うと少女は魔物を追いかけその場から姿を消したのだった。


「そうして、わしは鉱山の中に戻り治癒石によって負傷者を癒して回った。幸運なことに重傷者は居ても死者は居なかった。また、重傷者も石の力によって治すことが出来た。それも、あの治癒石があれほどまでに高純度だったからこそ」


あれ一つあれば数十年は遊び暮らせるほどの価値がある。

それを惜しげもなく自分に渡した少女。


「まさか会えるとは思っていなかった。それも、今度はワシが治療する側として」

「そんな事が・・・初めて知ったわ」


「仲間達を治療した後、ワシらはすぐさま鉱山を離れた。ワシらが脱出した事は入り口を見ればすぐに分るじゃろう。一刻の猶予もなかった。とはいえ、王妃様の事も心配じゃった。もしワシらを心配して戻ってきた時に貴族と鉢合わせでもしたらと。ワシらのように口封じをされるかもしれない。じゃが、ワシらも待つことは出来ずその場から離れたのじゃ。そうしてようやく見つけたのがこの渓谷じゃ」


深い深い渓谷。途中何度も倒れそうになりながらようやくこの場に辿り着いた。


「何も無い場所じゃった。しかし、水は豊富で自然の実りも意外に豊かだった為、時間はかかったがこうして集落を構える事が出来たのじゃ」

「そうだったんですか・・・大変・・いえ、そんな言葉では言い表せませんね」


それこそ、どれだけの苦汁を舐めさせられ続けて来たか。

想像することすら難しい。


「いやなに。ワシらよりも蓮璋の方が苦労した筈じゃ。蓮璋は元々はワシらとは違って地位も身分もある存在じゃからのう」

「え?」

「ワシらを鉱山に閉じ込める際、とある家族だけが反対してくれた。それが蓮璋の家――青家じゃ」


この土地を治める領主に継ぐ地位と身分を持つ名家。

領主とは違い心ある当主は、村人達に対する仕打ちに声を上げた。


「しかし、そんな当主をあの非道極まりない領主は殺したのじゃ」


一息に切り捨て、更には当主の妻、そしてその幼い妹弟も切り捨てた。

丁度仕事で領地を見回っていた?璋だけが生き残ったが、すぐに捕らえられ同じようにして鉱山へと放り込まれた。


「家族を奪われ鉱山に閉じ込められ・・・けれど、蓮璋はワシ等を勇気づけてくれた」


今自分達がこうしていられるのは蓮璋のおかげだという。


「ワシ等は考えた。蓮璋こそ領主に相応しいと。じゃから、なんとしてでも領主を打ち倒し、蓮璋を領主にしたのじゃ」

「領主に・・」

「それに、未だ鉱山で野ざらしになっている村人達を葬り、また蓮璋の家族も手厚く葬ってやりたい。それに、あのまま領主を野放しにしておけばいつワシ等のように被害を受ける村人達が現れるか」


老師は言った。自分の息子夫婦も孫を守る為に殺されたと。


もう二度とそんな目にあう者達を出したくないと。



「凪国国王になんとしても直訴したい。国王はあの大暗黒時代に天帝陛下達に追従し功績を挙げ、

この国を建国された。戦火で行き場を失ったワシ等を掬い上げ、平和な暮らしをもたらしてくれた。あの方ならば、この惨状をどうにかするべく力を貸してくれる!!ワシ等はそう思って耐えてきたのじゃ」

「けれど、領主達も悪賢くて、オレ達の王への直訴を阻もうとやっきになっている。これ以上仲間は失えない。そんな時に、王妃が都に帰還する事を聞いたんだ」


それも、自分達の居る場所の近くを通る。



もし、王妃を捕らえられれば



王妃が捕らえられれば王が自ら此方に来てくれるかも知れない




いや、王が来なくともどうにかしてコンタクトを取る手段が見つかるかも知れない




それか、王妃に懇願して王に話をして貰えるかもしれない




そう考えて今回の襲撃事件を計画した




誤算だったのは、王妃である少女を間違えたことと



「王妃が銃撃された事です」



とはいえ、何とか王妃は手に入った


そして、王妃ではないが、こうして王妃付きの侍女に話をする事が出来た



「どうか、御願いします。あの領主を倒す為に力を貸して下さい」


蓮璋、そして老人が頭を下げる。


今まで聞かされた話の数々。

それが本当ならばすぐさま領主は罰せられるべきだ。

いや、彼らが嘘をついているとは思えない。きっと、全て本当の事だろう。


それに、彼らは果竪の治療までしてくれた。

もし、単なる人質として考えているのならば此処まではしないだろう。

ようは生きていればいいと考える奴らだっているのだ。


それに比べればずっと良心的であり、礼節をわきまえている。


だが、それ以上に彼らが受けた仕打ちの数々。

どれほど悔しかったか、憎かったか。


住む場所も家族も全て奪われたばかりの昔の自分の記憶が蘇る。


「沢山の話を聞いて混乱していると思う。時間は余りないが、ゆっくりと考えて貰いたい。

そして、どうか力を貸して頂きたい」


老人が再度頭を下げる。


「出来る事ならこのままこうして隠れ住み、穏やかに暮らしたかった。じゃが、それでは駄目なのじゃ」


老人は言う。


「それに、あの領主の手にはあの鉱石がある」


とんでもない力を持った鉱石。

それがある限り、領地に住まう者達、いや、国の者達に平穏は訪れない。


「その鉱石はどんな力を宿しているんですか?」


明燐の言葉に、老師は俯いた。



そして


「そなたが知る必要はない」

「なぜ」

「知れば求めてしまうから」


この国の誰もが持つ心の傷



それにあの石は付け入る



正しく魔の石



「今度こそあの石を地中深くに・・・いや、必要ならば天帝陛下に差し出さなくては」


きっと、天帝陛下ならばあの石をきちんと封じてくれるはず。

それが、石を掘出してしまった自分達に出来る事。


老師の言葉に、明燐はそれ以上問うことを辞めた。


聞いてはもう後戻りできなくなる


そんな気がしたから


「あの、果竪に会ってもいいですか?」

「おお!!そうじゃった。ああ、会ってあげたらいい」


話を変えるべく、またずっと気になっていた果竪の話題を持ち出すと、その場の重たい空気が一掃された。



はい、二十年前の出来事でした。

続きます♪


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