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大根と王妃②  作者: 大雪
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第39話

産まれは広大な領地を所有する領主の家。

産まれながらにして自分は全てを持っていた。

地位も身分も家柄も。名誉も教養も財産も。


自分は選ばれた存在だった。


下々の存在とは違う。

何をやっても許される特別な存在なのだ。



なのに――あの忌々しい親父はいつも口うるさかった。

口を開けば民のために。民など上の者達の生活を支えるための存在でしかない。


だから――殺してやったのだ。

ざまあ見ろ!俺のやることに口出しするからだっ!

一番の忠臣とその一家も後を追わせてやったのだから寧ろ感謝して貰いたい。

まあ、長男――蓮璋とかいう男には逃げられたが。


だが、それもあと少しの事だ。

すぐに後を追わせてやる。

自分に勝てる相手などいないのだから。


そう――自分は選ばれた存在


だから、死霊達が襲ってきても自分は生き延びた。

他の下等な者達とは違って助かったのだ。



領主を襲った奴らを死刑にして何が悪い?


この領主を襲ったのだ。

それは死を、魂を持って償うべき罪だ。



なのに――



「この俺に……刃向かうなんて」


領主は憎悪に染まった瞳で果竪を睨付ける。



この女は俺に刃向かった。術をはなった。

選ばれた高貴なこの俺を傷つけようとするなんてっ!!



許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない、許さない





コロシテヤル!!






「果竪っ!」


蛍花の悲鳴にハッとすれば、既に眼前に迫っていた。

逃げる暇もなく、果竪と蛍花が吹っ飛ばされた。


「がっ!」


床にたたきつけられた果竪。一方、蛍花は更に吹っ飛び離れた壁へと叩付けられていた。


「け、蛍――」


体を起こし名を呼ぼうとしたその時、重たい何かがのしかかってくる。

その勢いに一瞬息を呑んだ。

続いて、自分に馬乗りになる相手の形相に恐怖を覚える。


「ちょ、ちょっとどい」


ガッと勢いよく首を両手で掴まれる。

かと思えば、一気に首が絞まった。



「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してヤル殺してヤル殺しテヤル殺しテヤル殺シテヤル殺シテヤルコロシテヤルコロシテヤル!!!!!」


「がっはっ――」


酸素を求めてがむしゃらに抵抗するが、狂ったように笑う領主には全く効かなかった。

果竪の顔からどんどん血の気がひいていく。


「果竪っ!」


蛍花が果竪を助けようと駆寄るが領主によって殴り飛ばされた。


「そこで黙って見てろ!」

「――――っ」


床を滑っていく蛍花の姿に果竪は声を上げようとした。

しかし、すぐにまた首を締められそれも叶わない。


「果竪っ!やめて、果竪を離してっ!」


体の痛みを覚えながらも再度領主の元へと向かい、その度に殴り飛ばされる。

そうするうちに、果竪の抵抗が弱くなっていく。


「や、いやっ!果竪っ」


蛍花は悲鳴を上げる。

一方、芸蛾達も何とかして果竪を助けようと試みるが、領主への恐怖が勝り動く事が出来なかった。

生前領主にされた仕打ちは、その魂に深々と刻み込まれていたのだった。


「が……あ……」


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」


領主の腕を引きはがそうとする果竪の腕から少しずつ力が抜けていく。


このままでは果竪が死んでしまう。

そう思った時、蛍花の視界にそれは映った。


それは――果竪が使っていた短刀。

どうやら、領主に襲われた際に落としたらしい。


蛍花はそれを拾い上げる。


重い――


草刈りに使う鎌や畑仕事に使う鍬、それに料理に使う包丁ぐらいしか刃物を使った事がない。


こんな、戦う為の武器は一度も――


蛍花の瞳にその鈍い輝きが飛び込む。


これは料理をする為でも畑を耕すためでも草を刈る為の道具でもない。


他人を傷つける為の武器だ。


「………………………」


死霊となった友人に見せられた幻覚では刀を振るった。

けれど、それは所詮夢の中だ。


しかし今度は違う。


紛れもない現実。



肉を切り裂き血が飛び散るその感触を


他者を傷つける感触をこの手に感じるのだ



そう――自分は他人を傷つけようとしている



本来であれば、絶対にしたくない行為



けれど



蛍花はそれをしっかりと握りしめると、領主へ向かって走り出す。



もう、そんな事を言っていられない



このままでは大切な人が殺されてしまう



大切な者を守る為に、蛍花はその手を血にまみれさせる事を受け入れた





ドン――と、その刃は領主の体へと吸い込まれていった





え――?





蛍花は目を見開いた。


手に感じられる感触。


それは……


「このっ!クソアマがぁぁぁ!」


領主が大きく腕を振りかぶる。

それが自分に振り下ろされるも蛍花は呆然としたままだった。



だって



今自分が感じたのは本当のものなのだろうか?



後ろから強い力で引っ張られた事で、領主からの攻撃を避けられたがそのまま床へと転がった。



「ちっ!運の良い女だっ!」


――大丈夫?


蛍花を助けたのは芸蛾だった。


「あ……あ……」


――蛍花?



「……一緒」


――え?



「あの人……あの人………」



――蛍花?



震える蛍花に芸蛾が声を掛ける。

その友人の顔を青ざめたまま見つめた後、蛍花は領主へと向き直った。


「あなたは……あなたは――」



蛍花は震える声でそれを告げた。






この気持ちをどう表わせばいいだろうか?


期待して期待して期待しまくった挙句のこの様。

裏切られたという気持ちは通り込し、拍子抜けという思いすら抱けない。


「……………はは……なんだよ、これは……」


ふらふらと後ろにふらつき、そのまま壁へとぶつかった。

そのままずるずると床へと座り込む。


「こんな……ここまで来て」


そこには何も無かった


鉱石が貯蔵されている筈のこの部屋には鉱石が一つも残っていなかった。

欠片さえ見つからない。


蓮璋はそれを呆然と見つめた。


「なんですか……これは……ここまで……ここに来てこれですか?!」


ここまで来たのに、目的の鉱石はなかった。


「これでは……一体何の為に」


何の為に自分達はここまで……



蓮璋は両手で顔を覆った。

もう、悲しいのか腹立たしいのか分からない。

ただ何とも言えない笑いが込み上げてくる。


もうこれは笑うしかない。

笑うしかないだろう。


「く……あははははは!」


気付けば涙がこぼれていた。

両手を外し、片手を額へとあてる。


「一体……オレ達は……」


その時、ふと視界の端に何かが映った。


「――ん?」


手に入れた洋燈で照らすが、そこは何の変哲もない壁だった。



しかし――何かひっかかる。


蓮璋は立ち上がった。

どうせ、これ以上状況が悪くなる事もないだろう。

半分破れかぶれな気持ちでその壁へと近づいていった。



そして――



崩れ落ちた壁からそれは現れた。



「………これは……」



半分以上腐り果てた男の死体が出てきた。

ゴロリと地面に転がったその死体は顔の判別は殆ど不可能だった。

着衣も数カ所に千切れた布がひっかかっている程度。


これは誰だ?


何故こんな所に埋め込まれていた?


蓮璋は死体を見下ろしながらそんな疑問を抱いた。


そして――気付いた。


その腕につけられていた腕輪に。


「これは………」


昔その腕輪を見た事がある。


そう、父に連れられて前領主の元へ向かった時に見た。

父が心から尊敬していた前領主の手首に光っていたもの。


前領主が亡くなった後、これを継承したのは


「まさか、これは領主なのか?!」


領主の腕輪をした死体――それは紛れもない領主の死体だった。






あなたは本当に生きているの?


蛍花の言葉は、領主だけではなくその場の全ての時を止めた。


「なん……だと?」


領主が訝しげな顔をする。

突然突拍子もない事を言われたせいだろう。

果竪の首から手を離してしまっていた。

ゴホゴホと果竪が激しく咳き込む。


しかし、それに気遣う言葉をかける事が出来ないほど蛍花はうろたえていた。


「女、この俺に向かって何を言うつもりだ?」

「で、ですから……あなたは本当に」

「ふざけた事を抜かすとゆるさんぞっ!」

「だ、だって!刺したのに、刀で刺したのに――」



蛍花は叫んだ。



刺した感触が全くしなかったと。



それだけではない。

蛍花は領主の心臓部分を刺した。

しっかりと、深く突き刺さった筈だ。


なのに――



「苦しむそぶりも痛がる様子もない……しかも血も流れない!そんなの、おかしいわ」

「……何が言いたい」


ここまで来ると、領主の様子も変わり出す。

冷や汗を垂らし、聞きたくない真実を拒絶するかのように過剰なまでに蛍花を威嚇する。

領主も気付いたのだろう。

蛍花に刺されたにも関わらず、痛みも何も感じなかった事を。


「あなたは……あなたはもしや」

「黙れ」

「生きてはいな」

「黙れぇぇ!!」


領主が蛍花へと飛びかかる。


芸蛾が蛍花を引っ張りすんでの所で領主から身をかわした。


「黙れ黙れ黙れっ!」


――蛍花っ!


「この俺が生きていない?ならば死んでいるとでも言うのかっ!」

「だ、だって!」

「この俺がそこの死に損ないと同じとでも言うのかっ!」


領主が芸蛾達を指さして言う。

憎しみから解放されたが、芸蛾に融合したまま。

芸蛾の体のあちこちに現れる少女達の顔が傷ついたように歪む。


「酷い、そんな言い方っ」

「煩いっ!先にお前をコロシテヤルっ!」


領主が蛍花を手にかけようと追いかけてくる。


「や、いやぁ!」


蛍花は逃げ回った。

芸蛾が助けてくれたが、次々と繰り出される術にとうとう蛍花から引き離される。

果竪は首を絞められた事で息も絶え絶えとなっており、すぐには動けそうになかった。


そうしてとうとう追い詰められた。


「あ……い、いや……」


ボロボロと涙をこぼしながら蛍花は迫ってくる領主に恐怖した。

が、その歩みがふと止まる。


「……な……そんな………」


領主の視線は蛍花の後ろに注がれていた。



蛍花の後ろにあるのは壁一面の鏡だった。



その鏡に



「どうして俺が映ってないんだ!」



そこには、蛍花の姿しか映っていなかった。




はい、第39話を更新しました♪


え~~、領主様の暴走もあと少しとなりました。

たぶん、あと1話ぐらいで終るかと。

但し、舘編はもう少しだけ続きますのでご了承下さいませ。


うん、このまま順調に行けばたぶん50話以内には絶対終る筈!!


あ、皆様感想やアンケートどうもありがとうございますvv

更新する度に色々とコメントを頂き、もうそれによって近頃の頻回の更新が成り立っているといっても寡言ではありません!


この調子で帰郷編の終わりまで頑張っていきますので、今後とも宜しく御願いしますvv

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