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大根と王妃②  作者: 大雪
35/46

第35話

異変が起きたのは、しばらくしての事だった。



――花


――花っ



「っ?!」


体を揺さぶられる感覚と自分の名を呼ぶ声に目を覚ませば、そこには真剣な表情をした果竪が居た。


一体どうしたのだろうか?


ぼんやりと考えながら果竪の顔を見て、ふと違和感を覚える。


あれ?何かさっきと違うような……


「果竪?」

「ごめん、起きれる?」


その言葉に頷き体を起こすと火の付いたままの洋燈とマッチを渡された。


「これは……」

「持ってて」


そう告げると、果竪は注意深く周囲を探る。


「どうかしたんですか?」

「――外の様子がおかしいわ」


果竪の言葉に、蛍花は体を硬くする。


「……果竪……」

「大丈夫」


そう言うと、果竪はそっと蛍花の頬に触れた。


「何があっても私が守るから――」


思わず見惚れてしまう優しい笑み。

蛍花は頬を紅くしながらほうっと息を吐く。

が、すぐにハッと我に返った。


果竪は女の子。果竪は女の子。


そこらの男よりも凛々しく勇敢な果竪は、これまたそこらの男よりもよほど男気に溢れていた。


けど悲しいかな。果竪は女の子だ。そう、どんなにその体型が女性美から懸け離れたドラム缶のようにストンとしていようと、色気が皆無だろうと、果竪は女の子。紛れもない女性である。



それが蛍花にはとっても残念だった。


きっと、女子校であれば果竪は全校生徒の王子様になっているに違いない。


「果竪は女の子、果竪は女の子」

「はい?」


ボソボソと呟く蛍花に果竪は首を傾げた。

そんな分かりきっている事を呟くなんて、蛍花はよっぽど恐ろしさを覚えて居るのだろう。


それもこれも私がふがいないからっ!!



果竪は激しく自己嫌悪に陥った。


一方、果竪を自己嫌悪に陥らせているとは知らない蛍花はひたすらぶつぶつ呟き続ける。


果竪は女の子で自分と同じ。

どんなにかっこよくたって、ちゃんとした女の子で――


蛍花は自分を落ち着かせようと大きく深呼吸し、改めて果竪へと向き直った。


――そこで、再び違和感を感じた。


やっぱり、眠る前の果竪と何かが違う。

蛍花は無意識に洋燈で果竪を照らした。


…………………?!


「か、果竪?」

「ん?」


震える声で自分を呼ぶ蛍花に果竪は聞き返す。


見れば、自分を指す指も震え顔は青ざめている。


「ど、どうしたの?」

「ど、どうしたって――その髪っ!」


蛍花は叫んだ。


「何で眠る前よりも短くなってるんですか?!」


今では完全なショートカットとなってしまった髪に蛍花は呆然とした。

この国では、髪を短くするという事は忌むべきものとされている。



なのに――



「長さがバラバラだったから揃えただけ」

「そ、揃えただけって!!」

「って、それよりも今はこの状況よ!」


このままではらちがあかないと踏んだ果竪は強い口調で話題を変えた。


「蛍花、気配は消せる?」

「無理です」


即答だった。


「――だよね」


よほど鍛錬された軍人でもなければ普通は無理だ。

因みに、果竪もあまり得意ではない。


「はぁ~~……こういう時に朱詩がいればいいのに」


大小様々な結界を張り巡らせても全く疲れない。

時と場合に応じて臨機応変に色々な結界を造り出せる朱詩は、結界学でも名が知られた存在である。



なのに――何故か、力が弱すぎて満足に結界一つ張ることの出来ない果竪の側にちょこまか現れては、人の結界のなれの果てにいちゃもんつけてきた。



いつか潰す――



結界を造りながらパイプ椅子片手によくそう思ったものだ



と、そこまで考えて果竪はフッと笑った。

私も若かったものだ――。


っていっても、実年齢はとっくに数百歳を超えているが、それは神で言うところの十七歳でしかない。

そもそも神族は寿命があって無きに等しく、成人するまでの成長が酷く遅かった。

果竪でさえも実年齢はとんでもなく年を取っているのに、実際は人間で言うところの十七歳程度の成長である。つまり、実年齢と外見年齢、更には中身の成長が一致しないのである。


しかも、不老のおかげで殆どが外見年齢自体は十代後半から二十代後半頃で神族は外見の成長を止めてしまう。それ以上年を取った外見の者も居るがそれは自己責任。自分で外見年齢を操作しているにしか過ぎない。


という事で、十七歳の果竪は、はっきりいって天界では新参者といえよう。



だが、今はそれらを全て棚の上に置いて考えを巡らせた。



その時――




ガシャンと、陶器が砕け散るような音と共に結界が崩れる音が辺りに木霊する。



「っ?!」



悲鳴をあげる蛍花を抱き寄せた果竪の目の前で扉が勢いよく開く。



二人の間に緊張が走る。



「…………………」

「…………………」



「誰も……いない?」



しばらく待って見ても誰も入って来ない。

ホッと息を吐いた――



絹を切り裂くような蛍花の悲鳴が木霊する。



反対に果竪は驚きすぎた為か言葉が出なかった。



自分達の足下――地面から、女の頭が生えていた。

それは、鼻の部分までだったが、ギロリと血走った眼をこちらに向けている。

その目は果竪と蛍花をしっかりと睨付けていた。



死霊――



憎悪と怨嗟に凝り固まった瞳に蛍花は思わず意識が遠くなりかけた。


それを阻止したのは果竪だった。



「蛍花っ!」



強い声が自分を現実世界へと引き留める。

次の瞬間、強く腕をひっぱられ開いたままの扉へと突っ込んでいく。



転がり出るように廊下へと出ると、果竪は蛍花の手を掴んだまま走り出した。



後ろから凄まじい絶叫が聞こえてくる。

それは地獄の底から這いずり上がってくるような恐ろしい声音だった。

今にもパニックになりそうな蛍花を宥めながら果竪は廊下を走り続ける。


だが、そんな二人を阻むようにそれらは現れた。



「化け物――っなんでこんな時にっ!!」



廊下の奥から化け物達が現れた。

その数は十体はいるだろう。


それぞれ咆哮をあげて果竪達に向かってくる。


喜々とした不気味な声も後ろから聞こえてきた。



挟み撃ちにする気だ――



「くっ!頭がいいわねっ」

「いやぁぁぁぁぁっ!」


恐怖に泣き叫ぶ蛍花が果竪の手を振り払い、その場にしゃがみ込む。

急いで宥めるが完全にパニックになってしまっている。


そうこうしているうちに、果竪達は化け物達に囲まれてしまった。


自分一人であれば逃げる事は出来るだろうが――


「んな事するわけないでしょうっ!」


蛍花と一緒に逃げるのだ。

果竪は短刀を片手に化け物達へと突っ込んだ。


化け物達は今までの物とは比べものにならないほど動きが良かった。

瞬発力、そして攻撃力も増しており果竪の攻撃は殆ど当たらなかった。


そればかりか、その鋭い爪が果竪の腕を傷つける。


「きゃっ!」


床へと叩付けられ目の前に火花が散った。


打ち付けた部分が熱を持ち痛みが走る。

しかしゆっくりと床に倒れている暇もなく、強引に体を起こした。


「きゃぁぁぁぁぁっ!」


化け物の一体が蛍花に襲いかかる。


「蛍花っ!」


ゴリラのような化け物を後ろから短刀でもって斬りつける。

だが、まるで後ろに目がついているかのように鮮やかによけ、逆に果竪へと攻撃を喰らわした。


避けたが、その風圧で後ろに飛ばされる。



カハッ――


壁へと叩付けられた衝撃で口から少量の血を吐く。

今のは内蔵にも影響を与えたのだろう。


思わずその場にうずくまる果竪に化け物達が襲いかかる。


「っ!!」


それらを寸での所で回避し、果竪は蛍花の所へとかけつける。


「ごめんっ!また力を貸してっ」


ガタガタと震える蛍花が拒絶するように頭を横に振る。

余りにも痛々しい姿だが、思いやっている暇はない。

果竪は強引に蛍花の中に宿る力を引き出し自分へと流し込んだ。




「雷火招来っ」


果竪の声と共に激しい稲妻と燃えさかる紅い炎が現れた。

それらを、化け物達へと降り注がせる。


半分ほどが餌食となった。

残りが果竪達に襲いかかる。


果竪は再び同じ術を放つ。

しかし、今度は炎は紅から更に強力な蒼へと変貌する。



炎は化け物達へと襲いかかりその動きを止める。

そこに、稲妻が襲った。


視界が真っ白になるほどの閃光が辺りを支配する。


ドォォンという爆発音の後、ようやく辺りが元の暗さを取り戻すと、化け物達の姿はそこにはなかった。



焦げ臭い匂いがする以外は肉の欠片すら見あたらない。


どうやら全部仕留められたようだ――



ホッと息を吐いた時だった。



果竪の目の前にそれは居た。


壁から体の上半身部分だけを生えさせた死霊。

不気味に微笑む顔は、果竪の顔から指一本も離れていない距離にある。

しっかりと対面してしまった果竪。


恐怖どころか、驚きすら感じられないほどの驚愕は果竪から一切の思考を奪った。


その顔が、ゆっくりと果竪から視線をずらし、果竪の後ろにいた蛍花へと向けられる。





形良い唇が、突如口が顔の端から端まで切り裂かれる。

そこから除く無数の牙。




そして



クワッと限界まで見開かれた血走る眼が蛍花を捉える。






イッショニシニマショウ





「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」




絶叫と共に蛍花は後ろの壁へとぶつかったかと思うと、そのまま走り出してしまった。

果竪が気付いた時にはもうその姿は見えなかった。



「蛍花っ!」



慌てて追いかけようとした果竪だったが、その腕を死霊が捉える。



「は、離し――」



死霊を振り払おうとした時だった。



フーフーという荒い息遣いが聞こえ、鼻の曲がるような腐臭がすぐ近くから漂ってきた。



果竪はゆっくりと振り返り――




恐怖に目を見開いた。




そして次の瞬間、全身に激痛を感じる。



最後に頭を過ぎったのは誰だっただろう




果竪の意識は遠のき、暗闇へと消えていった。




まずは、皆様、感想の方どうもありがとうございます!

おかげで、こうして続きを書き上げることが出来ました!


そして、(帰郷編)ですが、一応この先の話の展開を考えてみたところ、確実に40話は超えてしまう事が判明しました。――45話で終れば良い方というか……。なので、もう少しお付合い下さいませ。


今回ピンチに陥った果竪。果たして、果竪の運命はどうなるのか?!


続きも頑張って書き上げますので宜しく御願いします♪

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