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大根と王妃②  作者: 大雪
33/46

第33話

私、戦闘向きじゃないの。


そう笑顔で宣言した筈なのに、自分を守りながら化け物達を葬る姿は正しく勇者。



私、それほど強くないの。


困ったように笑った筈なのに、機転を利かせて化け物達にトドメをさすその技量は弱いという言葉からはほど遠い。



私、落ちこぼれだから――あははははは!


もはやその言葉を蛍花は信用しなかった。



――十分強いですっ!



確かにもともとの容量が少なく、殆ど術は使用出来てないし、使用してもあまり威力はない。

しかし、小刀やら短刀やらを駆使して化け物に立ち向かっていく姿は正しく


「かっこいい……」


今も壁を蹴って高く跳躍し、化け物の脳天へと刀を突き立てた果竪に蛍花は思わず頬を赤く染めた。


きっと、物語に出て来る王子様というものはこういう人を言うのだろう――果竪は女の子だけど。


いや、白馬の王子様に性別は関係なかった。



そんなこんなで、また一人、その男気でもって罪無き少女を虜にした――ある意味罪深い果竪は化け物が完全に動かなくなったのを見計らい蛍花の元へと駆寄った。


「蛍花、行こう」


早くこの場を離れなければと促す果竪に、蛍花は頬を紅く染めたまま頷いた。そうして二人は光の殆どない闇の中を駆けていく。



二人がようやく一息つける場所に辿り着いたのは、それから間もなくの事だった。

廊下の左右の壁にある扉の多くが鎖で戒められていたり、また鍵がかかっていたりした。

そんな中、あと少しで廊下の突き当たりという場所にあった扉は鍵がかかっておらず中に入ることが出来た。

その部屋は、下女や下男の部屋らしく、粗末な寝台が幾つかあった。

他に、机や椅子もあるが、それらは脚の部分が折れていた。


その為、まともな寝台に腰をかけ、ようやく果竪達は安堵の溜息をもらした。


「はぁ……ようやく休める」


果竪がパッタリと寝台に仰向けで横たわる。


本当に大変だった。

果竪が目を覚まし、蛍花が目を覚ました後、お互いの無事を喜び合う間もなく化け物達が襲ってきた。

それは、意識を失う前に自分達を襲ったのと同じ物達だった。


果竪達を獲物と認識し、次々と長い舌やら鋭い爪で攻撃する化け物達に果竪はすぐさま蛍花を連れて逃げ出した。

しかし、すぐに周りを囲まれてしまい、結果応戦するしかなくなった。


襲ってきた化け物達は全部で五匹もいた。

だが、あれで全部ではないだろう。

此処に逃げ込む間にも、化け物の鳴声があちこちから聞こえてきたのだから。


「――果竪、何してるんですか?」


果竪がガリガリと何かを今入ってきた扉に書いている。

手に持っているのは――口紅?


「それ――」

「ああ、友人から貰ったの」


友人――明燐からの贈り物である。

果竪が一流の貴婦人になるように贈ったものだったが、本来の使われ方とは違う使われ方をしているのは明燐のせいではないだろう。


「結界張ってるの」

「結界……」


落ちこぼれで力の容量も少なく質も良くないが、一応あの大戦を乗り越えてきた経験を持つ。

また、茨戯や他の知り合いの武官達が術の勉強やら鍛錬を行っているのに乱入していた事もある。

特に、結界学は朱詩が得意としていた事もあり、色々と教えて貰った。


「知識だけはあるのよ」


果竪がぼやく。


知識はあるのだ。

でも、それを行うだけの能力の許容量がない。


それは火の消し方は沢山知っているが、火を消すだけの水が殆どないのと同じ事。

しかし、力が少なければ少ないだけのやりようというものがある。


「さてと、で~きた!」


果竪が扉に陣を書き終える。

紅い口紅で書かれた陣。

見た事もないそれに、蛍花は興味深げに見つめた。


「ふっ!行くわよっ」

「え、ってきゃあっ!」


果竪は蛍花の手を掴み、もう片方の手で陣の中心に手を置く。


「ごめん、使わせてね!」

「うえぇぇ?!」


蛍花が口を開く間もない。

自分の中から溢れる何かが果竪へと流れていくという不思議な感覚を受ける。


「――来た」


そう呟いた瞬間、術が発動される。


キン――と清廉な音が響いた途端、術が完成したのが分った。


「よし!」

「い、一体………」

「ごめんね~、勝手に力を使わせてもらっちゃった」


てへっ、と笑う果竪に蛍花は目を瞬かせたのだった。






「え~とね、簡単に説明するとこの部屋に張った結界に蛍花の力を使わせてもらったの」


そんな言葉から始まった果竪の説明。

部屋に入った後も、外から化け物の鳴き声が聞こえてきており、ここもすぐに安全な場所ではなくなる。

しかし、疲れている事もあり少し休みたいから、安全な場所がないなら作ってしまえと結界を張ろうとした。


――が、果竪にはあの化け物達を全て阻むような結界を張る事が出来ない。


そこで目をつけたのが蛍花の潜在能力で、果竪曰、蛍花の潜在能力はかなり高いという。何故そんな事が分ったのかと聞けば、大戦時代からの経験だと果竪は答えた。

宰相と朱詩が有能な相手をスカウトしたり、集まってきた者達を能力別にそれぞれ適材適所に送り込んでいた際の潜在能力の見極め方法を、果竪は習得していたのだ。

それは言わず、ただ知り合いがそういうのは得意だとだけ告げる。


「でも……私、そこまで力なんて」

「え~~、凄く強いよ」


たぶん、王宮にいる術者達にひけをとらないぐらいには――。


「蛍花の場合は力があっても気付かなくて、更には上手く使えないパターンだね」

「はぁ……」


そういわれても、実感が本当にないのだから仕方が無い。

それに、そもそも自分の家は貧しい下級層の民である。

有力な貴族でも何でもないのに……。


「別に貴族の子供だからっていって、必ずしも力が強いわけじゃないと思うけど……まあ、私は力が弱いけどね」



そう言いながら、果竪は蛍花を見る。

本当に珍しいぐらいの力の強さだ。

もし、王宮にてきちんと訓練をすれば、術者としてかなりの地位を得るだろう。


有能な人材に困っているわけではないから強引に誘うつもりはないが、もしその気があるのなら自分の能力の開花だけでもさせてあげたい。

とはいえ、無事にここを脱出できたらの話だが。


「あの」

「ん?」

「お話はだいたい分りましたが……果竪は先ほど結界を張るのに私の手を掴みましたよね?」

「うん」

「その時、私の中から果竪の方へと流れて」

「蛍花の中にある力で結界を張ったのよ」

「そんな事が可能なんですか?」

「そんな事?」

「だから、私の中の力を果竪が引き出して使用するって事です」


自分の能力を使うならまだしも、相手の、それも眠っている力を引き出しそれを使って結界を張るなんて……。


「ん~~………出来ないかなぁ?」

「普通は難しいと思います」


蛍花の言うとおりだった。

ましてや、相手が協力的に力を差し出そうとするならまだしも、相手の許可を得ずに使用するなんて。


まあ、相手の生命力やら魔力やらと力を吸い取るという類のものはある。

が、それとも何だか違うような気がした。


何故なら、力を取られたはずなのに、蛍花は全く疲れてないからだ。

あの術はかなり高度のものだ。

いくら自分に強い力があっても、あれだけの力を使えば倒れても仕方が無い。

特に、力を使い慣れない自分ならば。


しかし、体力気力ともに漲っている現在。


力を吸い取られるのとも違うようで……。


「こんな事ってあるのかって……その、思ってしまって」

「私も思う」

「へ?」

「私もそこのところが不思議なのよ」


昔、本当に昔の事だ。

一度この力を使ったことがある。父も母も、村の皆も居た時に。

しかし、両親はこの力が分った時に、決してこの力を使わないようにと果竪に約束させた。


その力はとても尊く、それでいて争いを招く諸刃の刃だと。


当時の果竪は幼すぎて何故かは分らなかったが、大好きな両親が言うのだからと素直に頷いた。


その時の母の悲しげな顔が印象的だった。



『貴方は一体誰の【枷】として生きるのかしら………』



「枷………」

「え?」

「あ、ううん。何でもない」


使用を禁じられた力。

能力の低すぎる果竪でも唯一能力に関係なく使用できたそれを封じられれば、他には何も残らなかった。

けれど、使おうとは思わなかった。

大戦の時も、もし必要となれば使う事は厭わなかったが、なにぶん萩波達が強すぎて使う機会は全くといっていいほどなかった。

おかげで、自分がこの能力を持っている事は誰も知らない。



夫の萩波でさえも



「誰も知らない力……」

「そう、蛍花が初めてよ」

「そんな……力をどうして」


どうしてこうも簡単に使ってしまったのか?


分からないと言った様子の蛍花に果竪はあっけらかんと言った。


「死にたくないから」

「死にたくないから?」

「だって、あのままじゃ確実に死んでたもん」


自分だけならまだいい。

しかし、蛍花を守る為には、もはやそんな事は言ってられない。

蓮璋とは違い、蛍花は唯の少女だ。

神族とはいえ、ある程度の鍛錬をしなければあんな化け物に太刀打ちするのは難しい。


「さてと、一息ついたところで聞きたい事があるのですが」

「何ですか?」

「蛍花はどうして此処に連れて来られたの?」


その質問に、蛍花の顔から一切の表情が消える。

が、ほどなくしてその顔は恐怖に彩られる。


「あ……あ…………」


「ごめん、思い出したくないかもしれないけど……」

「い、いえ………」


本当は果竪の言うとおり二度と思い出したくない。

しかし、それでも伝えたいと思った。

この少女にならば伝えてもいいと思った。

何故そんな事を思ったのか分からない。

しかし、蛍花は果竪の中に不思議な安心感を見いだしていた。


きっと、果竪なら何とかしてくれる



そんな希望さえ抱いてしまう



蛍花は自分が此処に連れて来られた経緯を話し出した



「私は……この領主の舘から南西150キロメートルの場所にある村の出身で……」


止まりそうになる言葉を絞り出し、一言一言噛み締めるように蛍花は告げる。


「今から一週間前に……村は領主様によって焼き払われたんです」

「っ?!」


驚き目を見開く果竪に、蛍花は堰を切ったように話し出した。



もともと自分は家の為に村の外に働きに出かけていた事。

たまたま、焼き討ちの前日に村に戻ってきたところ次の日の明け方に村を焼き討ちにされ家族や村の皆を殺された事。

そして、若い女性達だけが生かされ領主の舘に連れて来られた事。


「連れて来られた人達は皆地下牢に入れられたんです」


そこで、何故村が焼き討ちにされたのかを聞いた。

領主は妾として近隣の村々から年頃の娘達を自分の舘へと連れ込んでいたらしい。

しかし、その数があまりにも多く、また妾として連れて行かれた娘達を返して欲しいと頼みに行った者達すらも帰ってこない。

これは何かよからぬ事をしているのではないかと思っていた所に、自分達の村にも妾とするる少女を要求してきた。

それも、年頃の娘達を全員よこせと言ってきたという。

村人達は当然拒否した。相手は領主だったが、従える事とそうでない事がある。

それこそ、鉱山での仕事を失ってでも娘達を守るつもりだった。


その結果が、村の焼き討ちだ。


一度は退いた領主側。

だが、すぐに闇夜に乗じて村に襲いかかったのだ。



「本当に……特に、たまたまその日家に帰っていただけの私には余計に何が起きたのか分からなかった」


突然全てを奪われた。

家族を目の前で殺され、強引に領主の舘へと連れ去られ地下牢へと押し込められた。


「そうして、毎日一人ずつ連れてかれるんです」


毎日、仲間が一人ずつ地下牢から連れ出される。

そしてその仲間は二度と戻って来なかった。


「妾として気に入らないから殺されたんだと思ってました。でも違った」


あの領主は自分達を妾にするつもりなど最初から無かった。


「領主様は……私達を化け物の生け贄にするつもりだったんです」

「生け贄?!」


それは今から三日前の事だ。いつものように仲間が連れてかれた。

しかも、蛍花にとって一番仲の良かった少女だ。

といっても、本来なら彼女の番でなく、他の少女を庇っての事だった。

そうして蛍花の制止を振り切り行ってしまった。


その後に起きたのだ。


「突然凄い地震が起きて……気付いた時には、地下牢が壊れてました。私はすぐに友達を捜しに行ったんです」


場所を知るのは簡単だった。舘の者が逃げるのとは逆の方に行けば良かった。

そうして辿り着いたのは、舘の最深部の地下堂。そこで、蛍花は知ってしまった。


「そこは……すごく空間が不安定で……だから、たぶん私にも見えてしまったんです」


過去視というものだろうか。

奔流のような力の渦が発生し不安定となった空間で、友人が殺された場所で蛍花は見てしまった。


力を封印されたまま、化け物に生きながら喰われていった友人を。

その苦痛、無念、怒り、憎悪。

そして村を襲われ全てを奪われ仲間達を同じように殺された怒り、憎悪、怨嗟、無念。

それらの負の感情が爆発した瞬間を。


自分とは違い、優秀な能力者でもあった友人。

その能力は具現化。主に自分の書いた絵を具現化させる方法で使っていたが、その他にも頭の中でイメージしたものを具現化させる事が出来た。


その力が最悪な方向で働いたのだ


全てを奪われ、生きながら喰われた際に爆発した負の感情が、友人の力によって怪物として具現化されてしまったのだ。

それだけではない。

あまりにも大きすぎた負の感情は、友人と同じく喰われて無念の死を遂げその場に留まっていた娘達の魂とも同調し、瞬時に舘全体を覆い尽くした。


圧倒的な負の力は一つの狂った世界をつくり出し、舘をそこに閉じ込めた。


誰一人として逃がさない


そう知らしめているかのようだった


舘は沢山の化け物で溢れた。

それだけじゃない。

誰一人として舘の外に出る事は出来ず、更には空間の歪みによって次々と舘の構造が変わる。

どれだけ歩いても先の見えない廊下や、どれだけ上り下りしても元の場所に戻ってしまう階段。

壁が動き、床には穴が空き、舘の者達は恐怖に震えながら化け物達に喰われていった。


その上、あいつもいた。


友人を喰らった化け物は、友人の能力に完全に支配されていた。

そして、友人は最強の死霊として蘇っていた。

しかも、自分を不幸のどん底に叩き落とし殺した相手だけではなく、全てを殺し尽くす最恐の存在として。


友人は既に狂っていた。

殺した相手だけに報復するのではなく、全てを破壊しつくそうとしていた。


目につくもの全てを殺し尽くす。


蛍花は物陰から死霊となった友人を見て、心臓が凍り付くような恐怖を覚えた。


ケラケラと笑いながら共に育った友人達まで殺すその様に蛍花は何も出来なかった。


いや、最初は助けようとした。

しかし、いつしか恐怖が勝り、逃げ遅れた仲間が殺されていく時にも立ち止まることはなかった。


「私は……卑怯者なの。みんなが殺されてく時に見捨てて逃げたのっ!」


涙をボロボロと流しながら泣き崩れる蛍花を果竪は抱き締めた。


「違うよ……卑怯じゃないよ」


だって、最初は助けようとしたんでしょう?と優しく声を掛ける果竪に、蛍花は激しく首を横に振った。


助けようとしたって、結局最後は見捨てて逃げた。

我が身可愛さに逃げてしまったのだ。


「私が……私が……」


自己嫌悪に苛まれながら、蛍花は激しく自分を罵った。

卑怯者で最低な自分。

本当なら自分が友人の代わりに死んでいれば良かったと。




嘆いて、悔やんで、思いの長けを泣きわめくように叫ぶ。




そんな蛍花を果竪は静かに抱き締め、背中をなで続けた。




蛍花が落ち着くまで






ずっと








ずっと――









何故なら………







そんな事ぐらいしか今の果竪には出来なかったから――


はい、昨日に引き続き連日の更新が出来ました♪


これも、皆様の感想、およびアンケートのおかげです!

本当にどうもありがとうございます!!


続きも頑張って書いていきますので、これからもよろしくお願いします(礼)

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