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大根と王妃②  作者: 大雪
32/46

第32話

体中が痛い。


落下の時に何処かぶつけたのだろうか?


ぼんやりと意識が戻ってくる中で、果竪はぼんやりとそんな事を思った。


「う…………あ……」


呻き声をあげながら、体を起こそうとして重みを感じてハッとする。

腕の中に蛍花が居た。意識を失っているらしく、身じろぎしないが微かな息遣いから生きている事が分かった。


「良かったぁ……」


ホッと息を吐いた果竪だったが、ふと周囲の様子に気付き目を丸くする。

思わずガバリと勢いよく起き上がってしまい、蛍花を床に落とすところだった。

だが、それすら気付かないほどに果竪は呆然としていた。


「一体……此処はなんなの?」



先程まで居た廊下と同じ場所だという事だけは分かった。


けれど……周囲のこの様子はどうだ?


こんなに錆びついていただろうか?


果竪は蛍花を抱き起こしながら辺りを探る。

相変わらず周囲は暗いが、床も壁も天井も紅い錆びに覆われている。

いや……血も混じっている。


錆びの不快な匂いの中に混じる血の臭いに思わず顔をしかめた。


全体的に紅い視界。


それに、さっきは同じ意識を失う前と同じ造りだと思っていたが……よくよく見れば、全体的にボロくなっている。ってか、あんな所に鎖なんてあっただろうか?


果竪は、近くの扉を見て首を傾げた。

まるで出入りを阻むかのようにドアの前に鎖が幾重にも張られている。


「……ううん、やっぱりなかった」


という事は、此処はさっきまで自分達が居た場所とは違う?

果竪は先程の事を思い出した。突然床が揺れ、周囲が壊れ始めた。

そして、床が消えて落下して――


ここは、落下した先だろうか?

床が消えたという事は、一階まで落ちたのか?


しかしそれとも何か違うような……


「いやいや落ち着け。まずはここがどこかを知る事から始めなきゃ」


その時、果竪の腕の中で蛍花が身じろぎした。

呻き声をあげてゆっくりと瞼を開いていく彼女に、果竪はホッと息をついた。


離ればなれにならなくて良かった――






「………此処にもいない」


最上階の廊下の端から端まで歩き、出入り可能な部屋も探した。

残るは、目の前にある部屋の中だけ。


今まで見た中で一番豪華な扉に、たぶんここが領主の部屋だと当たりを付ける。

しかし、既に蓮璋には警戒する気は全くなかった。


何故なら、ここも他の部屋と同じく誰もいないだろうと予想をつけていたからだ。

そんな蓮璋の予想通り、室内には誰もいなかった。


広い室内。そこは、領主の執務室だった。


「果竪?」


名を呼ぶが、果竪の姿はない。

それでも一通り見回った蓮璋は、続き部屋となっている寝室や書斎にも足を運んだ。

しかしどこにも居なかった。


「一体どこにいってしまったんだ……」


そうして執務室の机によりかかった時だった。

ばさりと、机から何かが落ちる。


「ん?」


床に落ちたのは、一本の鍵だった。


「……鍵?」


紅い色をした一本の鍵。一体どこのものだろうか?


周囲を見回し、蓮璋は一つの鍵穴を見つけた。


「ここか……」


執務机の下の床に小さな鍵穴がある。

そこに鍵を差し込んだ。


すると、突然部屋の奥にある本棚が横にスライドする。

ギョッとする間もなく、本棚に隠れていた部分の壁が奥に引っ込む。

完全に動きが止まったのを見計らい、蓮璋が駆寄る。

しかし、ただ壁が奥に引っ込んだだけでそこには何も無かった。


「――いや、何かあるぞ」


ふと、床に視線を向け気付いた。

これはまやかしの術だ。


蓮璋は床に手を当て呪を唱える。

術が解除される気配とともに、床に扉が現れる。


「これを隠していたのか……」


蓮璋はその扉の取っ手に手をかけ、一気に開いた。



長い長い階段を下りた後、これまた長い廊下を歩いた。

そうして行き着いた先の扉を開けた先の光景に、蓮璋は呆然とした。


「……これは……」


そこは、悪政の証拠の宝庫だった。


部屋の広さは上の執務室とほぼ同じ広さ。

中央に机と椅子があり、壁が見えないほど置かれている本棚や棚には沢山の書や書類が詰められていた。その一つを取って目を通して驚いた。


なんと、それには今まで行った不正の数々が記載されていた。

闇取引に人身売買、更には他国への武器の原料となる鉱石の不正輸出。

中には、完全には処刑物の不正さえある。


「これは……とんでもないものを見つけてしまったみたいですね」


ここにある一冊だけでも持ち出せば確実に領主の罪を問える。


「本当は全て持ち出したいですが……」


それは無理なことが分かっていた。

だから、中でも領主の不正が一番分かり易いものを数冊取り、更に見つけた不正に偽造した領主の印鑑を持って行く事にした。


その後、更に周囲を探ると領主の日記を見つけた。

その日記には、二十年前に蓮璋達に行った悪行の数々も記されていた。

これは言い逃れの出来ない有力な証拠の一つとなるだろう。

筆跡鑑定も行える。蓮璋はすぐさまそれも証拠として持ち出すことにした。


「後は、現物の鉱石だけなんですが……」


確か、淳飛は地下にあると言っていた。

だが、その地下室がどこにあるのかが分からない。


何かここにヒントとなるものがあればいいのだが……。


「ん?」


机の下に何か落ちている。

床に屈んで確かめると、それは日記帳だった。


「これは……ごく最近のものか?」


日付からして新しいものだった。

ふと、ここにもしかしたら地下室について書かれているかもしれないと考える。

それと、この舘の状況についても。


蓮璋はパラパラと日記帳をめくっていき、一つの頁を見つけた。

それは、今から二ヶ月前のものだった。



○月×日

ふぅ……何度見てもあの鉱石は美しい。あれが私の、いや、我々の野望を叶えてくれるに違いない。しかし、あいつも強欲だ。掘った分の半分は私ものだというのに、最近では更に要求してきた。一体誰が危ない橋を渡っていると思っているのだ?

まあ、いい。既にかなりの数が私のものとなっているのだから。


○月△日

新しい鉱山からの採掘は順調だ。

十年前に新たな鉱山が見つかった時はそれほど埋蔵量はないと思っていたが、以外にも沢山埋まっているらしい。しかも、二十年前に取り尽くしたものよりもかなり良質のものだ。だが、話ではそろそろそこも取り尽くしてしまうようだから、全て取り尽くした後は二十年前と同じように採掘に関わった者達を始末しよう。

何、前と同じ埋めてしまえばいいのだ。民の代わりなどいくらでもいるのだから。


×月×日

何故だ何故だ何故だ?!誰が鉱石を盗んだのだ?!見張りの話を聞きつけて行ってみれば、地下室からごっそりと鉱石が盗まれていた。一体誰がこんな事を――。とりあえず、見張りは職務怠慢という事で処刑した。私の大切な鉱石を盗んだのは誰だ?!

絶対に見つけ出してやる――。


×月○日

そろそろ鉱石がなくなってきた。もうまもなく始末にとりかからなければ。


×月△日

あいつの様子がおかしい。

いや、今までと同じに見せているが俺には分かる。

あいつは俺を元々見下していたが、今ではゴミを見るような目つきをしている。

まさか、採掘量を誤魔化した事がばれたのか?だが、それは鉱石を盗んだ奴が悪いんだ。

盗まれた分を補って何が悪い?しかし、もしこの事がばれれば俺は消されるだろう。

嫌だ――冗談じゃない。俺は世界の王になるのだ。この世の金銀財宝も女も全て俺の物だ。

消されるなんて冗談じゃない。


×月□日

くそっ!もう誰も信用出来ないっ!俺は捕まらないぞ、絶対に捕まらないっ!

こうなったら自分を守れるのは俺だけだっ!絶対に逃げ切ってやるっ!


×月●日

鉱山の奥から不思議な物が発掘された。

報告を受けて屋敷に運び調査した結果、俺は歓喜に打ち震えた!

やった、これがあれば俺は絶対に安全だっ!

最強と名高い国軍にさえ打ち勝てるに違いないっ!しかし、調査した奴の話では、これを動かすには沢山の生け贄が必要になるらしい。それも、若い生娘の。ならば集めればいい。


×月◇日

最初の生け贄達が来た。どれも美しい娘達だった。

本当ならすぐさま味見をしたかったが、あれを動かすには生娘ではないというからには惜しい。

全く――生娘でいいのなら、しょんべんくさいガキでも与えればいいものを、年齢制限があるからめんどくさい。

初潮が既に来ている娘でないと駄目だなんてあいつも案外美食家という事か?

名残惜しさを消すためにさっさとあいつの餌として与えた。恐怖に満ちた顔がとても愉快だった。




――それから、日記には毎日のように何人の少女を連れてきては与えたのかが記載され続ける。


そして今から一週間前の日記では


△月○日

そろそろ娘を連れてくるのも大変になってきた。

特に今回娘を連れて行こうとした村は噂を聞いていたのか村人揃って抵抗してきた。

腹が立ったから焼き討ちにした。しかしそれが効を奏した。

村としては比較的大きめだった事もあり、生娘が二十人も手に入った。

これだとしばらくは持つ。それにしても、嘘だとはいえ、領主の妾になれるのだからもっと喜んで娘を差し出すべきだろう?

それを拒んだからこういう事になるのだ。まあ、ずっと同じ明目で娘を連れて来たせいもあるだろうが。

今回連れて来た娘達は今までで一番恐怖に怯えている。

まあ、村を引き払い他は全て皆殺しにしたから仕方がないが。

それに、娘達を待つのは妾ではなく、生け贄という運命だ。

さて、誰を一番最初に捧げてみようか。



そして、今から三日前の日記に移る――


△月△日

一体何が起きたんだ?!今日も同じように娘を捧げた。

それだけだった筈なのに、あいつは暴走した。

一体何故?!

生け贄は抵抗出来ないように地下を封印していた筈。

それに、ボリボリとあいつに喰われた。

それなのに、それなのに――っ!どうしてあの娘が生きている?!くそ、くそ、くそっ!


△月□日

応戦もむなしくどんどん殺されていく。

何故だ?何故………いや、落ち着け。ここで俺が死ぬはずがない。

何としてでも逃げ出してやる。くそっ!返り討ちにしてやるっ!


△月×日

あいつがくる、あいつがくる、あいつがくる、あいつがくる、あいつがくる、あいつがくる、あいつがくる、あいつがくる、あいつがくる、あいつがくる、あいつがくる、あいつがくる、あいつがくる、あいつがくる、あいつがくる、あいつがくる、あいつがくる、あいつがくる、あいつがくる、あいつがくる、あいつがくる、あいつがくる、あいつがくる、あいつがくる………



そこで日記は終っていた。

たぶん、この後に何かがあったのだろう。


蓮璋は静かに日記を閉じた。



あと残す証拠は鉱石だけ。

果たして、蓮璋は証拠を全て集められるのか?


と、蛍花の話については次回となります。

もし期待されていた方がいましたらすいませんっ!

まあ、今回の日記であらかた予想がつくとは思いますが……。


そして感想どうもありがとうございますvv

いまだ返信は出来ませんが、更新への活力剤として読ませて頂いていますvv

ご指摘の方もありがとうございます!!


今回の更新が出来たのも、皆様のおかげですvv


皆様、本当にありがとうございます!!


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