表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大根と王妃②  作者: 大雪
29/46

第29話

蓮璋が、門番の控え室小屋から外へと繋がる扉を用心深く小さく開ける。

しかし思いのほか大きな音が響き慌てて手を止めた。


「立て付けが悪いわね」


しかも、舘とは違いこちらにはお金をかける気がないのか、扉の留め金は完全に錆びきっていた。


「知ってる?大根って自然の洗剤だって事を」

「へ?」

「そう!大根と檸檬は自然の洗剤なのよ!まず磨き方は」

「すいませんそう言うのは後で御願いします」


今はそんな場合ではないと、蓮璋は果竪の言葉を遮り扉を大きく開いた。


「大根~~」

「はいはい、後できちんと聞きますから」


まるで駄々をこねる妹を宥める兄のような光景だった。


「……やっぱり此処にも誰もいない」


うすうす外には誰もいないことには気付いていた。

扉を完全に開ける前に気配を探り、隙間から周囲を覗き込んだが誰の姿も発見出来なかった。

父が生きていた時の話では、現領主は酷く警戒心が強く、常に屋敷の敷地内には警備兵がうろついていたという。


しかし、警備兵どころか人っ子一人見えない。


「……もしかして、留守?」

「そんなわけはないとは思いますが……」


そうだったらとても嬉しいが、わざと留守を装っているとなれば――


「罠……かもしれません」

「罠って……私達をわざと誘い込んだって事?」

「それは分かりませんが……」

「でも、このままこうしてても仕方ないし、とにかく先に進もうよ」

「ええ、分かってます」


そうして物陰に隠れながら、何とか舘の裏口に辿り着く。

にしても……間近で見るとなんて馬鹿でかい建物なんだ。


しかもとっても悪趣味な外装だ。


「余計な所にお金を使ってるわね」


間近で見れば、それはとっても煌びやかだった。

あらゆる所に宝石が使われ、壁や柱は一部まるまる純金で作られている。

しかも、柱には天使の装飾がいくつもされていた。


黄金の天使――芸術品としては、まあ評価は高いのだろうが……。


「でも、この薔薇のせいでせっかくの純金も輝きを失ってるっていうか……」


舘全体に生えた薔薇。その紅い花と緑の葉っぱが純金や宝石部分を多い、その輝きを隠している。

まあ、そうでなければ幾ら霧が立ちこめているとはいえ、とっても眩しい光景だっただろうが。


「蓮璋はこういう舘建てたら駄目だよ」

「掘っ立て小屋で十分です」


それはそれで結構問題だが、こういう舘を建てられるぐらいなら全然平気だろう。


「しかも、裸婦の黄金像まで沢山あるし」


何であるのかよく分からない。けれど、目視で数えて十数体もそこに建ててあれば感想は異様の一言につきる。

しかも、その裸婦はみんなとってもエロティックなポーズを取ってくれている上に、細部に至るまで本物の女性にそっくりだ。


「うわぁ~~、下半身までばっちりな作り具合~」

「ってどこ見てるんですかっ!」

「下半身~~」

「年頃の女性がそんな所見ないで下さいっ」

「別にいいじゃん」

「よくありませんっ」

「でも此処まで本物そっくりに作れるって凄いね。絶対本物を見ながら作ってたと思うよ」

「んな事どうでも良いですから早く行きますよっ」

「一体ぐらい持ち帰って売り飛ばせば国庫が潤うかも」


ボソっと呟く果竪に蓮璋は本気で危機感を抱いた。


こんなのを売り飛ばしたお金で国が豊かになって欲しくない!!


「さあ、行くわよ!」

「って何持ってく気満々なんですかっ!」


どこからともなく取り出した風呂敷にニ体ほど包み背負う果竪に蓮璋は全力で叫んだ。


「勿論、他のも後できちんと回収するわ」

「他って何ですか!他って!!」

「ふふ、二,三体は国庫用として、残りは純金大根を作るのに使って~」


ウキウキ、ルンルン、ランラン。

そんな様子で踊り狂う果竪(推定一体六十キロ二つぶんを背負った状態で)


蓮璋はグッと拳を握りしめた。


やるなら今しかない。

そうして彼は目にも止まらぬ速さで果竪が背負う荷物を足下に転がっていた樹の枝で弾き飛ばした。

大きく弧を描く純金裸婦像。そのまま落下したらそれはそれは凄い音が響いて侵入がばれそうだったが、その前に蓮璋は術を使いその像を粉々に砕いた。それこそ、砂塵レベルまで。


「あぁぁぁっ!私の大根がっ!」


正確には、純金大根の材料が。

しかし蓮璋は悲鳴をあげる果竪を引き摺り他の純金像から引きはがす。


「うわぁぁぁんっ!夢の純金大根がっ!こんな時じゃなかったら絶対作れない純金大根を作る夢がっ!」

「こんな明かな違法物で作らないで下さいっ!」


ジタバタと鰻が手から逃げるように暴れまくる果竪を何とか全力で押さえつけ、蓮璋は裏口へと進む。

こんな目に毒なところからはさっさと退散するのが一番だ。

そのままバンっと扉を開けて中に入る。既に相手に見つからないように、なんて考えは蓮璋の中にはなかった。


館の中は、外と同じく不気味なまでに静まりかえっていた。


「行きますよ」

「うぅ……さよなら私の純金大根」


ハンカチをヒラヒラと振る果竪を抱えながら、蓮璋は先を進む。

人気のない廊下。壁に等間隔の照明はあるが、そこに灯りはなく、舘が霧に包まれている為に太陽の光も差し込まない。

廊下の先は闇に包まれており、奥に何があるか全く見えない状態だった。



「………蓮璋、やっぱり」

「さあ行きましょう、とっとと行きましょう」


あの純金を灯り代わりにすればいいんじゃ――と続けようとした果竪の言葉を遮り蓮璋は奥に向かって歩き出す。


「ってか降ろせ~~」

「降ろしたら純金取りに帰りませんか?」

「帰らないって。どうせ証拠を手に入れた後に取りに行けるし」


グッと親指を立てる果竪。

別に果竪は純金に目が眩んだわけではない。

ただ、大根をいかに美しくするかの研究で、純金という新たな素材を使って大根の美を完成させたいだけなのだ。

はっきりいって、金銀財宝に目が眩んだ女性よりも厄介なタイプだ。


「うふふふふ、私の純金大根」


不気味な笑みを浮かべて呟くその顔はまるで初恋の人への告白を決意した乙女の如く。

絶対浮かべる場所と時間を間違えている。


「果竪、もし王妃辞めたら何の仕事をしますか?」

「勿論大根学者っ!」


静かに畑で大根育てるんじゃないのか?


「大根育てるのも良いけど、いかにして貧しい土地でも白くほっそりとした豊満な肢体を持つ妖艶な大根を作れるかの研究もしたいのっ!そう、世界一の大根研究所ア~ンド大農場を建てるのよっ!」


果竪なら出来る。


蓮璋は本気で思った。

命をかけてもおつりが出るだろう。

いや、お金でもかけたら絶対に億万長者になれる。


「妖艶なボンッキュッボンッ大根作ったら蓮璋にも一本あげるからね」


いや貰っても困る――とは心優しい蓮璋は言わなかった。

例えよく分からない未知なる、それこそ未確認物体の如き代物といえど、果竪がくれるものならば喜んで貰う。

そしてそのまま鉛の箱に封印しよう。


「ボンッキュッボンッ大根~」


果たしてボンッキュッボンッ大根が市場に出回るのは何時のことか……。

気付けば大根の歌まで歌い出す果竪に、蓮璋は苦笑しながら足を進めていく。

緊張もどこにいったのやら。


けれど、過度の緊張が抜けた事により、頭もより冷静になってきた。

周囲に気を配りながら、蓮璋は素早く辺りに視線を巡らせる。



――と、どうやら廊下の最奥に行き着いたらしい。階段が見えてきた。


「上への階段か……」


しかし、目的地は地下への階段――つまり下りの階段だ。

淳飛は鉱石は地下室にあると話していた。

とはいえ、ただ単純に下り階段を探して下りれば良いと言うものではないだろう。


「さて、どうするか……」

「蓮璋降ろしてってばぁ」

「はいはい」


蓮璋はようやく果竪を床に降ろした。


「気をつけて下さいね」

「大丈夫大丈夫。それより、これあげる」

「え?」


果竪が手渡したものに蓮璋は凝視した。


「……大根?」


それは掌サイズの白い大根――の人形。

でも――


「足がある?」


イヤン、バカン。

そんな声が聞こえてきそうな内股っぷりだ。


「この前作るの失敗した大根のヌイグルミ」

「失敗作ですかっ」

「でも、込められてる力は他のよりも大きいから大丈夫」

「込められてる力って……」

「ロシアンルーレットだからよくわかんない」

「危険じゃないですかっ!しかもロシアンルーレットって何ですかっ!」


ガクガクと肩を揺らされる果竪は揺れながら説明した。


昔王宮にいた頃に自分の持つ能力を結晶化して宝石を作る勉強をしたが上手くいかず拗ねてたら、それを見かねた王や側近達が自分達の作った宝石をくれたという。

それを今まで大切に持っていて、屋敷に追放された後にヌイグルミに埋め込んだという。


「他にも色々と作ったんだよ~~」

「でも、何の力かは分からないんですか」

「大丈夫だよ。呪いとかはかかってないから」


唯の何の力か分からないだけ。

って、それが一番恐いんだって!!


「いつも頑張り屋さんな蓮璋にプレゼントです!」

「……ありがとうございます」


そうまで言われれば貰わずにはいられないだろう。


「で、ここを上るの?別の場所行くの?」

「地下室という事ですから、上りではないと思うんですが……」

「そうだよね~~……地下室っていうか……ってか、この屋敷の見取り図もないから全然内部が分からない」


せめて見取り図でもあればとも思うが、そんなものが壁にかかっているわけもない。

城攻めなどでは見取り図の入手の有無が生死に繋がるぐらいだ。

それこそ壁にでもかかっていれば馬鹿としか言いようがない。いくらここの領主が馬鹿でもそこまで馬鹿ではないだろう。


「ってか、そもそも萩波は見る目がないよ」


幾ら人手不足だからといっても、そもそも前領主が死んだ時にもっと息子を調査しておけば良かったのだ。

それをして置かないからこういうとんでもない事が起きてしまったと言っても良い。


というか、ちょっと調べれば色々と罪状がボロボロ出てきた筈!!


「ははは……確かにそうですが、今更言っても仕方ないですよ。というか、オレ達もまさかここまで領主が馬鹿だとは思ってませんでしたから」

「でも……何……この匂い!」


果竪が思わず鼻を手で塞ぐ。

まるで汚水と腐った臓腑をあわせたような腐臭が背後――先程自分達が通ってきた場所から漂ってくる。


「き、気持ち悪い……」

「果竪、しっかりして下さい」


そこに、ドサっという音と共に何かが落ちてくる。


「「え?」」


同時に床を見る。



そこに落ちていたのは




体の半分以上を喰われた血まみれの男



「っ!!!!!」



次の瞬間、果竪の悲鳴が屋敷一杯に木霊した。




予告通り、今日中の更新となりました。


続きはまた後日更新したいと思います。

二話は無理でした(汗)


純金大根を作るという野望を抱きながらも叶わなかった果竪。

昔からその夢は持ち続けていましたが、旦那が国王にもかかわらず自分で材料を手に入れることに生き甲斐を感じている果竪は健気にも夫の力を借りず、今回絶好の機会にも巡り会えたものの泣く泣く諦めるという結果に……。


さあ、果竪は純金大根を作ることが出来るのか?!(←違う)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ