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大根と王妃②  作者: 大雪
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第27話

風に乗って聞こえてきたのは歌声だった



――あら、あんただったの


――あんたは酷いなぁ~~


そう言いながら、再び歌を口ずさむ



――それ、何て言う歌なの?


――知らない


――知らない?


――気付いたら歌えてた


歌詞はなく、ただその音を口ずさむのみ


けれど、これほど耳に、心に残るのは何故だろうか?


その歌声を聞いているだけで、まで母の腕に抱かれるような安心感が得られる



何時までも聞いていたかった歌声



何時までも聞く事が出来ると思っていたのに






「……この部屋は何も変わらないのね……」


本来は鍵で厳重に封印されているその部屋に茨戯は居た。

王が持つ鍵がなければ誰一人として侵入不可たる場所だが、『海影』の長である茨戯の手にかかればそれも可能だった。


動く度に埃が舞う。


あの日までは毎日のように掃除され、なかなか帰らぬ部屋の主を待ち続けた。


しかし、今はもう掃除どころか誰一人として部屋に入る事が叶わない。


鍵の持ち主である王でさえ――


茨戯はゆっくりと足を進め、天蓋付きの寝台の端に腰を掛ける。



窓は分厚いカーテンに覆われ部屋は暗く、辺りに何があるか判別できるほど。

とはいえ、茨戯にとってはこの程度の暗さはなんという事はない。


大きな溜息をつき、茨戯は寝台に横たわった。

バフッと埃が舞い上がる。

けれどそれを器用に吸い込まず、茨戯は天蓋を見上げた。


『私にはもう必要ないっ』


そう言って王妃の証を投げ渡した王妃様。

王に返せと言い、彼女は蓮璋とかいう男を追って居なくなってしまった。



茨戯はその一部始終を王に伝えた。

彼に王妃の証を手渡して。


王は何も言わなかった。


代わりに、激怒したのは宰相や朱詩という王に近しい上層部の者達。


何が何でも探して連れて来いと彼らは言った。

いつも余裕綽々で高みの見物ばかり決め込む宰相でさえ、それを聞いた瞬間怒りを露わにした。


王ではなく、自分達の知らぬ男を選んだ王妃。


許せるだろうか?


いや、許せるはずがない。


そんな彼らの怒りは王妃ではなく、王妃が追いかける相手へと向けられた。

王妃が自分達を拒絶した原因をその相手へと被せたのだ。

理不尽――という言葉が一番相応しいだろう。


どんな手段を用いてでもいいから、王妃様を探して連れて来い


そう告げる上層部に、茨戯は王に伺いを立てた。


その際、自分と果竪の約束をつげ、もし無理だった場合でも果竪は王宮に連れ帰ってくると。

それに対して、好きにしろとだけ告げた王。愛妾を大切そうに抱きながら……。



「分かってるわ……それが、貴方にとって出来る唯一の答え」



貴方も貴方で戦ってるものね



この王宮では一部を除けば全員が戦っている



自分達を狂わす者達から



けれど、それでもまだ自分達は大丈夫だ


全てを肩代わりして貰っているから


それでも……逃げる事は出来ない



打ち込まれた魂への楔


魂を絡み取る邪悪な鎖



それに、誰一人として王を見捨てる事は出来ない



それ故に、この場に留まり続け……そして少しずつ浸食されていく



「一大事が起きているのに、普通に暮らさなければならないなんてね……」



口惜しいが、それでもそうするしかない。

下手に行動を起こせば国が荒れるだけではない。もはや行動し対抗するだけの力がないほど、自分達は支配されている。



自分達に出来るのは、このままゆるゆると呑まれていくだけ



だからこそ、皆どこかで期待していたのかもしれない


おかしくなっていく自分達を


壊れていく自分達を



王妃が帰ってくる事でどうにかしてくれるのではないかと



そう思わせるだけの光をあの子は持っていた



だからこそあの人もあの時狂わずにすんだ――



「ええ……分かってるわ」



茨戯は呟いた。



「本当は誰よりも貴方が迎えに行きたかったものね――」



その言葉は誰にも聞かれることなく消えた







チチチと小鳥の囀りが聞こえる。

続いて、たき火のパチパチという音が耳に入り、果竪は目を覚ました。


「ふぁ~~あ……眠い」


重たい眼をごしごしこすりながら、果竪はふらふらと起き上がった。

と、身体のあちこちが痛い。やっぱり地面で眠ると身体を痛めるようだ。


「大根食べなきゃ……」


そうすればこんな痛みすぐになくなるのに――



と、そこで果竪はハッと隣を見た。

そこで寝ている筈の蓮璋の姿がない――


「れ、蓮璋?!」


慌てて辺りを探すが見あたらない。

もしや、何かあったのかと慌てて洞窟の外へと走り出た果竪は向こうからやってくる相手と正面衝突した。

が、後ろから倒れて地面と背中合わせになる寸前、力強い腕に支えられた。


「だ、大丈夫ですか?」

「あ、ありがとう」


自分を支える蓮璋に果竪は素直にお礼を言った。


「って、どこにいたの?!」

「どこって……外ですけど。顔を洗いに」

「そ、そっか……」

「心配させたようですね……すいません」

「い、いいのよ。それより、私も顔を洗ってくるね」

「では、朝食の準備をしておきます。色々と拾ってきましたから」


そう言う蓮璋が中ぐらいの袋を持ち上げる。


「茸とか魚とか色々取ってきました」

「うわっ!大漁だねっ!」


それじゃあすぐに顔を洗って戻って来ると言って走り出した果竪だったが、ふと思い立ったように立ち止まり振り返った。


「身体は……もう大丈夫?」

「――ええ、ばっちりですよ」


痛みもなく、身体は完全に回復している。

笑顔で応える蓮璋に、果竪はようやく心から微笑んだ。


「じゃあ、行ってくるね!」


そう言うと、果竪は近くの水場へと走っていった。





辺りはまだ薄暗く、薄藍色の空が広がっていた。

どうやら早朝――それもようやく夜明けという所だ。


果竪は昨日自分達が流されてきた川へとやってきた。

何気にこの川は水質が良く水が綺麗だった事を覚えて居たからだ。


しかし――


「……あれれ?」


何だか今日は水が汚い。


「う~ん……流石にこれで顔を洗うのはきついな」


となると、別の水場を探さなければならない。


「何処か別の所はないかな……」


一度戻って蓮璋に聞いてもいいが、今は朝食の準備で忙しいに違いない。

果竪は自分で探す事にした。




が――





昨日食料を探した森に入ってみたものの、周囲は見渡す限り木、木、木という深い森の中。

水場は一向に見つからなかった。


「うぅ~~見つからないよぉ~」


行けども行けどもわき水一つ見つからない。

というか、どんどん森は深くなり、このまま進めば遭難は必死だ。


「でも、あの川で顔を洗いたくないし……」


あそこで顔を洗う気はなかった。

けれど、このまま進んで遭難となれば洒落にならない。


仕方ない、戻ろう。

そう思った時だ。



果竪の身体が森から抜ける。


「ふぇ?」


突然木々が開けた場所に出た。


しかも――


「あ、湖だっ!」


そこには湖があった。

湖上には霧が発生しているようだが、別に構わない。

湖を渡るのではなく、水で顔を洗いたいのだから。


大喜びで駆寄り顔を洗う果竪。

そうしてようやく一息ついて周囲を見渡した果竪は、霧の合間から垣間見えるあり得ないものを発見した。


「な、何……あれ」








昔から自分で出来る事は自分でという教育を受けてきた為、大抵の事は一人で出来る。

朝食を手際よく作り終え、後は食べるだけとなり果竪を待っていた蓮璋だが、その帰りの遅さに心配を募らせていた。

が、そこに果竪が猛スピードで戻って来た。


「蓮璋ぉぉぉぉぉぉっ!」

「あ、果竪、朝食が出来まどわぁっ!」


果竪に思いきり突っ込まれスライディングする。


「蓮璋、大変、大変なのっ」

「はい?」

「変なものがあるのっ!」

「変なもの?」

「と、とにかくすぐ来――」


そこで果竪は離れた場所に用意された朝食を見つけた。

キュルルルとなるお腹。


「と、とりあえず食事にしますか?」


申し訳なさそうな蓮璋の言葉に、果竪は素直に頷いたのだった。



それから何時もの五倍の速さで食事を平らげ出発の準備を整え洞窟を出発した果竪達。

果竪の案内で蓮璋はその湖へと案内された。


しかし、案内される中、蓮璋は不思議な既視感を覚えて居た。

というか、前にも何度か来た事があるような……。


そうして湖に辿り着いた時、蓮璋がハッと目を見開いた。


「もしかして此処は・・」

「蓮璋、あれあれっ!」


果竪の声に、蓮璋は果竪が指さす方向を見た。

白い霧が発生している湖上。しかし、ふと霧が動き薄くなった部分からぼんやりとそれが姿を現した。


それは、舘


湖の中央部分に舘が見えたのだ


「ね?凄いでしょう?湖の上に舘が立ってるなんて」


あんなものが立つという事は、あの場所に島でもあるのだろうか?

そう独り言を呟く果竪は別に答えを期待していわけではなかったのだが――


「ええ、あるんですよ、島が」

「え?!」


驚く果竪に向きなおった蓮璋の顔が強ばる。


「たぶん、オレの記憶違いでなければ此処がどこだか分ります」

「え?」


それ本当?!と叫ぶ果竪に蓮璋が頷いた。


「ええ。しかも、もしかしたらオレ達はとてもついているかもしれません」

「それって……どういう事?」

「つまり、あの舘が――ここら辺一体を統治する者の居城――領主の舘だという事ですよ」

「え?!」

「どうやら、あの集落下の地下水脈が思いも掛けず領主の舘の近くまで繋がっていたようです」


その言葉に、蓮璋が先程ついてるという言葉の意味が分った。

つまり、自分達は今回の事件の黒幕の本拠地のすぐ近くに居たという事である。


「此処が・・・」


掌握の根源たる領主の舘――


「――じゃあ、あの舘の中に上手く侵入出来れば証拠の鉱石が得られるのねっ!」


蓮璋は懐から一枚のカードキーを取り出した。

淳飛が命を賭けて自分に託してくれたもの。

淳飛の言うとおりならば、きっと証拠の鉱石がある筈。


「ええ、そうですね。それに上手く行けばその他の資料も探せるかもしれません」


新種の鉱石を自分のものにしようとして村人達を鉱山に閉じ込め皆殺しにしようとしたぐらいなのだ。

きっと、それ以外にも沢山の余罪はあるだろう。

そしてそれらを証拠の鉱石とともに王に提示すれば――領主は完全に逃げ道を失う。


「災い転じて福となす――か」


最悪の事態はどうやら最大のチャンスへと変わったようだ。


「一刻も早く証拠を探して集落に戻ろうっ!」

「ええ」


果竪の言葉に蓮璋も力強く頷いたのだった。


はい、今回はようやく領主の舘を見つけました♪

次は潜入編です。続きは出来れば今日中に書き上げたいと思います。


感想を下さった皆様、どうもありがとうございますvv

もはや感想が更新の活力となってます。

返信が出来ない状態ですが、もう少しで(帰郷編)が完結しますので、その後に一気に返信を行いたいと思います。


その後は(王宮編)です。

ようやく、王宮の人達を沢山出せる~と今からウキウキ気分となっております♪

果たして、そこで起死回生となるのか、王宮の人達!!


という事で、早めに続きを書き上げられるように頑張ります!!

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