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大根と王妃②  作者: 大雪
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第23話

向けられる何処までもまっすぐな眼差しに、彼はくすりと笑った。


「どうやら全く変わってないようで安心したわ」


茨戯と呼ばれた彼の言葉に、果竪は心底嫌そうな顔をした。


「それって成長がないって事じゃん」

「あら、そんなことは言ってないわよ」

「言ってるじゃない」

「貴方が勝手に思ってるだけよ」


そう言ってケラケラと笑う昔馴染みに果竪は大きな溜息をついた。

姿は未だ麗璃のまま。しかし、正体がばれた瞬間、地を出した茨戯(いばらぎ)によって、姿は同じでも全く違う印象となってしまった麗璃。

もし、麗璃を知るこの集落の者達が今ここに来れば確実に混乱するだろう。


「ふふ、改めて挨拶するわね。お久しぶり、果竪」

「お久しぶりって、あんた」

「二十年ぶりだもの」

「・・・・いい加減、変化を解いたら?」

「あら、この姿の私は嫌い?」


そう言ってくるりとターンする茨戯に果竪は苦笑した。

嫌いだなんてそんな事はない。たぶん普通の思考を持つ者達ならば断然この姿のままを望むだろう。

明燐とは違ったタイプの華やかな美女。けれど、明燐と並んでなんら劣る事のない美貌は正しく大輪の薔薇を思わせる。


明燐と二人で並んで立てば、それはもう見事な絶景と言えよう。


「で、何で此処に居るのか――と聞く方が馬鹿よね」

「流石は果竪ね、察しが良いわ」


察しが良いも何もないだろう。


「でも、まさかこんなにも早く戻って来るとは思わなかったわ」


それは、果竪とて同じ思いだ。

もし、自分と蓮璋だけだったら今も集落へと向けて走り続けていただろう。

そうならなかったのは、全ては淳飛のおかげである。

彼が示してくれた陣によって、果竪と蓮璋はあっと言う間に集落へと戻って


くる事が出来た――かなり、手遅れの感があるが。


「にしても、恐い顔ね?一体どうしたの?」

「どうしたですって?」


果竪の声が固さを帯びる。


「ほらほら、そんな顔してたら余計にブサイクになるわよ」


かなり酷い言いようである。

しかし、果竪は気にしなかった。それよりも言うべき事があるからだ。


「ねぇ、茨戯?私、貴方に明燐を頼むと言ったわよね?」

「ええ、言ったわね」

「それはつまり、明燐をあらゆる危機から守ってと言う事だったんだけど……そう聞こえなかったかしら?」

「聞こえたわよ。だから守ったじゃない。あの変態から」


その瞬間、果竪が切れた。


「ふざけるなっ!」


その怒気に、茨戯は口笛を吹く。

気配を探れば、何人かは気圧されたようだ。


それでこそ、凪国王妃――


何に対して果竪が怒っているのか、何に対して耐え難い怒りを感じているのか全てを分かっている上で、茨戯は問いかけた。


「何をそんなに怒ってるのかしら?」

「分かってるくせに……」


絞り出すような果竪の言葉に、茨戯は笑みを濃くする。


「あんた!よりにもよって老師をおびき寄せる為に明燐を餌に使ったわね!」


膨れあがる怒りに今にも動こうとする部下達を押し止め、茨戯はゆっくりと腕を組む。


「それが何か悪い?」

「誰が餌にしろって言ったのよ!」

「仕方ないじゃない。老師をあぶり出す為には必要だった事よ」

「嘘!そんな事しなくったってあんたの事よ!もうとっくに裏は取ってあるんでしょう?!」


果竪の指摘に、茨戯はクスリと笑った。


「その根拠は?」

「あんたほどの能力者が何もせずのうのうと何日もこの集落にただ居るわけがないからよ。どんな場所でも、すぐにその場所の内情を知る。それが、闇を司る貴方達の仕事だもの」

「………相変わらずね、果竪。追放されていても全く鈍ってないわ」

「そんな事はどうでもいいわ。それよりも、よくも明燐を餌にしてくれたわねっ!」

「だから助けたって言ってるじゃない」

「明燐のファーストキスが取られたのに?!」

「貞操は守ったわ」

「何言ってるのよ!明燐のキスは、明燐のキスは絶対に好きな人とって私が決めてたのに!」


お前が決めるのかよ


その場に居た全員が心の中で突っ込みを入れた。


「ああもうっ!どうしようっ!明燐がこれでトラウマになっちゃったら!」

「もっと良い男が現れたら大丈夫よ〜」

「良い男……はっ!そうね、蓮璋なら大丈夫よね」


そうだ、明燐には蓮璋がいる。

一緒に居て、蓮璋になら明燐を任せられると確信していた果竪はよしっと力強く拳を握りしめた。


「で、その男は何処に居るの?明燐に告白したくせに、好きな女がピンチな時には駆けつけず、今もほったらかしのままかしら?」

「蓮璋なら他の集落の人達を助けてるわ」


集落に戻って来てすぐに、黒ずくめの男達に襲われている村人達を見つけた。

すぐさま応戦した後、村人達からまだ逃げ遅れている者達の事を聞きつけた。


「で、その男はそっちに行ったと」

「そう」

「ふ〜ん、つまり明燐の事は村人達以下って事ね。その程度で明燐に告白だなんて不相応じゃないかしら」

「そんな事無いわよ。だって私が無理矢理そっちに行かせたんだもの」


果竪の言葉に、茨戯が眉を顰める。


「何ですって?」

「だって、もし蓮璋が明燐を助けに此処に来てたら……茨戯、あんた老師と一緒に始末したでしょう?」

「………………………」


果竪の言葉に、部下達が息を呑む気配を感じる。


「言っとくけど、とぼけようとしてもムダだからね」

「……………アタシってそんなに分かり易いかしら?」

「分かり易いっていうか、少し予想すればすぐ分かるわよ。何せ、兄はあのシスコンだもん」

「シスコンって……まあ、そうね」

「どうせ宰相が言ったんでしょう?妹に近づく男は抹殺しろって。まあ、そうよね?浚われた先で近づく男なんてまともじゃないと思うのは確か。でも、蓮璋が素晴らしい人なのは茨戯も見てて分かったはず」


ただし、と果竪は続ける。


「あんたは蓮璋を抹殺する方を選択した。何故か?そんなの簡単よ。此処の集落の者達を全員抹殺するように命じられてるからでしょう?」


部下達が動揺する気配に、茨戯は舌打ちした。


「何でそう思ったのかしら?」


「見せしめの為。王妃を浚うなんて事をする者達に対して一人も逃がさず抹殺する事で、二度とそんな事が起きないように周囲に知らしめる事が目的ね。大方それを命じたのは、あの人でしょうけど」

「そうね……お察しの通り、陛下よ」


茨戯の言葉に、果竪は目を閉じた。


あの優しい笑顔の裏で、自分に刃向かう者、邪魔な者に対しては一切の存在価値を認めず、他者を利用し切り捨てる事すら躊躇しない冷酷さを持つ夫。

でも、自分にとっては優しい夫でしかなかった。


「所謂政治的戦略ってものかしら?必要悪よ」

「私を浚った人達が本当の悪党ならね」


果竪はきつい眼差しを向けた。


「この集落の人達が今までどんな目に遭わせられてきたのか知らないとは言わせないわ」

「アタシは話に聞いただけ。証拠はないわ。もしかしたら集落ぐるみで優しい王妃様をそそのかしているだけかもしれないし」

「証拠があればいいのね?」

「そうね……あればの話しだけど。でもないんでしょう?あるなら、とっとと出してるものね」

「……壊されたわ」

「……本当に、詰めが甘いわね。っていっても、大方あの男が原因でしょうけど。やっぱり、明燐は任せられないわ」

「だから命を奪うの?」

「このまま生き延びて、妹にちょっかいをかけられたって宰相が自ら手を下すよりはマシじゃないかしら?ああ見えて、結構残忍よ、宰相は」

「私が手を出させるとでも思ってるの?」

「あら、勝てるのかしら?」

「負ける要素がどこにあるの?」


気圧されれば負け


そんな勝負であれば確実に果竪が勝つだろう。

自分の鋭い眼光さえはじき返してしまう王妃に、茨戯は楽しそうに微笑んだ。


確かに、この王妃はやると言ったらやる。

それこそ、誰であろうと大切な者を守る為には全力で立ち向かってくる筈。


しかし――



「良いことを教えてあげましょうか?」


この事を告げたら、一体この王妃様はどんな反応を示すだろうか?


「私がここに来る前に王から受けた命は二つあるの」


訝しげな様子の果竪に聞かせるように、茨戯は口を開いた。


「一つは王妃を浚った者達の皆殺し」


そして――


「もう一つは宰相閣下の妹姫である明燐を保護する事よ」


ただそれだけ


「貴方の事は一切言われてないの」


この意味分る?


その暗黙の質問に、果竪は静かに頷いた。


つまり、助けろとも守れとも言われなかった果竪の身柄がどうなろうと構わない。

保護するのは明燐だけでいい。必ず守らなければならないのは明燐の身だけであって、その途中で果竪がどうなろうと構わないし、もしもの時は見捨てても構わないという事だ。

というか、それ以外の答えを絞り出す方が難しいだろう。


別に必ずしも連れて戻らなくてもいい。

いや、連れて戻れと言わない時点で戻らなくても良い、失われても良いという事になったのだろう。


ああ、本当に夫にとって私はどうでもいい存在になったんだ


目を背けてきたわけではない。

けれど、心の何処かで数少ない希望を信じていた自分に果竪は自嘲の笑みを浮かべた。


そして、呆れるほどあっけらかんとした口調で呟く。


「ま、半分は予想していた事だけどね」

「強がりかしら?」

「強がりっていうか、事実確認。でも、そうか――つまり、私の事はどうでもいいってね」

「そうね。此処で貴方を見捨てようとどうしようと良いって事よ」

「だろうね」

「でも・・・場合によっては一緒に連れて行ってあげても良いわよ」

「は?」

「だから、私の言うことを聞けば連れ帰ってあげる」

「・・・・・・・・・」

「ふふ、そんなに難しい事ではないわ。貴方にとっては寧ろいい」



突然、茨戯の言葉を遮るような破壊音が聞こえてきた。


その音に、果竪が轟音の響く背後を振り返る。


「い、一体――」

「あらあら、とうとう始まっちゃったみたいね」

「始まる?」

「そう、全ての証拠を消すお祭りが始まったのよ」


茨戯の言葉に、果竪は呆然とそれを見守った。




「きゃぁぁぁっ!」

「うわぁっ!」

「速く逃げろっ!飲み込まれるぞっ」


満身創痍の村人達が悲鳴をあげて逃げ惑うが上手く行くはずもなかった。


立て続けに起きる大きな地震。

立つ事すら難しい中、それは起きた。

足場がどんどん崩れだしたのだ。


何とか動ける者が立てない者を安全な場所まで引き摺るが、すぐにその場所も崩れ出す。

それだけではない。まるで行く手を阻むように、地面が突き出し突風が吹き荒れる。


それが術によって起こされていると知ったのは、黒ずくめの男達の姿が見えないことに気付いた時だった。


「お頭っ!」


切羽詰まった様子で自分を呼ぶ仲間に、蓮璋は舌打ちをした。

あれほど居た黒ずくめの男達はこの異変が起きる寸前、あっと言う間に姿を消した。

何か問題でも起きたのかと思いつつ、これで集落の者達の危機が一時的にでも去ったと安堵した。


が、どうやら先程まで以上の危機的状況に陥らされたらしい。


「くそっ!」


集落の外に逃げ延びた者達はごくわずか。まだ多くの者達が集落内に残っている。

この揺れと異変は集落全土に及んでいる。何とかして集落の外に逃げなければ。


それに……


「果竪……明燐……」


明燐を探しに行った果竪。

二人は無事だろうか?

それに明燐……本当なら自分が探しに行きたかった。

果竪に止められ、また集落の者達を見捨てる事が出来ず諦めたが……無事でいて欲しい。

蓮璋は心の底から願った。


その時だ。蓮璋の足下が大きくゆらぐ。

今までとは違う不気味な揺れに、蓮璋の勘が警告する。


気付けば叫んでいた。



「逃げろぉぉっ!」



次の瞬間、それは起きた。


え〜〜、再び危機的状況に陥った蓮璋達。

合流した筈の茨戯には今の所全く協力する意思はなさそうです。


続きもだいたい書き上がっているので、早めに更新したいと思います♪


感想何時もどうもありがとうございますvv

そしてメッセージをくれた方も、温かいお言葉ありがとうございますvvこうやって頻回の更新も皆様のおかげですvv

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