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大根と王妃②  作者: 大雪
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第2話

美しく壮麗なる凪国王宮。

繊細且つ緻密な装飾が至る所に施され、芸術品としてもその価値は高い。

しかし本当の価値は、攻め込まれても中々落ちないとされるその頑丈さ。

建国当初に起きた大災害時には、その広大な敷地に民達を避難させ守りきった歴史を持つ。

そんな有事の時には最も頼りになる巨大で頑強な王宮だが、平時は何時も穏やかな時が流れていた。



しかし、今日だけは違った。


慌しく走る兵士が、王以下重臣達によって現在会議中の謁見の間へと飛び込んだ。



「申し訳ありませんっ!!」


王妃が賊に襲われ連れ浚われた


その報せに謁見の間に居た誰もが言葉を失った。

唯一人、玉座に居た王だけが冷静に口を開く。


「状況は?」

「護衛は全滅。生きてはいますが数日は動けないでしょう。王妃様の他、明燐様の姿も無く一緒に連れ浚われたかと」


明燐の兄である宰相の笑みが増す。

これが怒りを堪えているものだと分るのは、王の他古参の家臣ぐらいだろう。

続きを促す王に兵士は更に言った。


「現場は酷い有様で・・馬車は破壊され荷物も散乱しています。また、大量の血痕があり、これらは襲ってきた賊や護衛のものかと思われますが、中にこれが」


兵士が持ってきたのは布の切れ端。


「護衛に確認を取った所、同じ布地の衣装を王妃様がお召しになられていたという事です」


その切れ端にはべったりと血がついていた。

つまり、王妃の血という事だ。


これには、家臣達も驚きを隠せずどよめきが起きた。


王妃が出血している。怪我はどの程度か、どのぐらい出血したのか。

それは命に関わるものなのか。


いや、王妃は今何処にいるのか。



そして、何故王妃が襲われたのか。


今回王妃が帰郷する為に通るルートは一番安全な場所だった。

賊が出るような話はなく、順調に行けば3日前には着いていたはず。

しかし、到着予定の3日前の昼には馬車は着かず、夜になっても到着しない事から数人の兵士が迎えに出された。



そしてその兵士の一人から齎されたのが王妃の連れ去られという最悪の報せだった



これは国を揺るがす事態



「い、一刻も早く軍を向かわせて王妃を救出しなくてはっ!!」

「馬鹿!!軍を動かすなどすれば向こうに気付かれてしまうではないかっ」

「そうだ!!精鋭を数人送り込めばっ」

「送り込むにも居場所が分らないだろうが」

「だが、こうしている間にも王妃様は危険な目に遭い続けているんだぞ?すぐにでも助け出さなくては」

「それは勿論だが、まず賊の正体が全く分らん。それに、相手が王妃様の素性を分っていて襲ったのかそうでないのか。もし分っていたとしたら話も変わってくる」

「そうだな。王妃様の素性を知ってるとすれば、何か国に対して要求があるのだろう。身代金にしろ、権利にしろ」

「それじゃなければ王妃様の体が目的とか」


その瞬間、その場に居た約7割の人間が失言した官吏を押さえつけた。

なんて事を言うんだ殺されたいのか!!


しかし、恐る恐る視線を向けた先の王は表情を崩すことなく冷静なままだった。


もしかして聞こえなかった?


「大丈夫ですよ、陛下!!まっ平らで色気もそっけもない幼児体型の王妃様を性欲の対象としてみる相手はそうそう居ませんから。そんなのよっぽどのロリコンです!!」

「誰かこの馬鹿外にたたき出せっ!!」


それだったらそんな王妃を妻としている王は真性の変態と言ってるのと同じだろうがっ!!

押え付けられながらも更に暴言を吐く新人重臣官吏に重鎮の一人がたたき出せと絶叫する。

これ以上この馬鹿をここにおいておけばブラッディーカーニバルが始まってしまう。

すぐさま武官達が簀巻きにしてその官吏を外へと連れ出す。


王妃の連れ去りを聞いた時よりも疲れているのは一体何故だろう。

約7割がゼェゼェと荒い息を吐きながら席に戻った。


ようやく平穏が戻ろうとしたその時


「ふむ、私はロリコンなんですね」

「いやいやいやいやいやいやいや!!全く違います!!」


実は聞いてたし陛下!!


「言っときますが、確かに王妃は貧乳ですが、床を共にするたびに私は揉んでましたが」


はい?


「ですからありますよ、胸。小さくても揉めるほどには」

「おおおおおおおお王!!それよりも王妃様救出の件ですがっ!!」


これ以上王に口を開かせたら桃色卑猥話が始まってしまう。

官吏の一人が話を区切るように叫んだ。


ってか、もし王妃が帰ってきた後にこんな会話が会議で繰り広げられていたなんて知ったらショックで屋敷に戻ってしまうかも知れない。


寧ろ怒り狂って血祭り第二段が開催されるだろう。


「まずは居場所の特定をしましょう」

「そうだな。それに、賊から何かコンタクトがあるかもしれない」

「王、それでいいですか?」

「いいも何もそうするしかないでしょう?ならばやって下さい」


まるで投げやりのような感じで王はひらひらと手を振った。

そんな王に、一部の者達がため息をついた。


そして一部の者達がほくそえんだ。


昨年の春に愛妾を囲ってから王はこんな感じで、前よりも怠惰的になった。

きっと、愛妾との生活に酔いしれているのだろう。

昔では考えられない事だ。



そして、愛妾を囲いその生活に満足しているという事は、自分達にもチャンスがあるという事。

何とかして自分達の娘を側室として差出し気に入られれば王妃にのし上がれるかもしれない。

いや、もし王妃になれずとも跡継ぎの母として国母になれるかも。

そうなれば権力は思いのまま。凪国は炎水家の直属の大国であり、その国王は限られた者しか達いる事の出来ない炎水家の宮殿に殿上する事が出来る。

その仲間入りが出来れば自分の一族の繁栄は思いのまま。


「それでは、王妃様の事はまず賊の居場所特定から始めます」


官吏の一人がため息をつき、そう告げた。


「皆もそれでいいですね?」

「ああ、それしかないだろう」

「そうだな」

「とはいえ、果たして本当に生きておられるのか疑問だが」

「おいっ!!」


重臣の一人の言葉に傍に居た別の重臣が声を上げた。

しかし、その重臣はあざ笑うように言った。


「本当の事だろう?王妃様は出血しておられる。もし大怪我ならば今頃という事は否めない。

それに、もし生きていたとしても、無事でいられるかがな。まあ色々な意味で」


それに同調するように数人の重臣が口を開き始める。

それらは、先ほどロリコン発言した重臣を押さえ込まなかった残りの3割の者達だった。

そして、王妃が本当に生きているのかと発言したのも、またその3割の重臣の一人。


「何が言いたい?」

「だから、そんな賊の中に居ては王妃様がどうなっているかという事だ。賊というからにはそれこそ獣のような輩だろう。村を襲い金銭を奪い女を奪う。そして奪った女は売るか、自分達で楽しむ慰み者として扱う。もしかしたら王妃様もそうされているかもしれないという事だ」

「貴様っ!!」

「言って言い事と悪い事があるぞっ!!」

「ああ、慰み者の危険性ならば王妃様よりも明燐殿の方があるか。あの方はとても美しい方だからな。いやはや、賊に穢されるならば一度私がお相手願いたかった」


宰相の笑顔が更に強まる。

妹を穢されるに彼の中に渦巻く怒りは更に濃さを増した。


「ふむ、それならば私も」

「いいですな。王妃様よりもよっぽど楽しめるでしょう」


仮にも宰相の妹に対しての暴言。

この事からしても、宰相が軽んじられている事が分る。

普通ならば極刑ものだ。


「まあ、楽しんだ後は息子の嫁にでもしてあげましょうか」

「といっても、側女が適当ですね」

「ああ、妾ですか。ふふ、それはとても楽しめるでしょうね。息子から感謝の言葉が聞こえてきそうですよ」


心ある官吏達が拳を振るわせる。

年頃の女性に対して妾なんてふざけているにもほどがある。

どこの世界に自分の娘や姉妹を日陰の身に、妾として差し出す馬鹿がいるというのだっ!!


しかし、叱責を求めて王を見れば彼は興味なさげに頬杖を着きながら机の上の書類に目を落としていた。



その時、謁見の間に一つだけある時計の鐘が鳴響き、正午の時間を知らせる。

と、王が立ち上がった。


「さてと、そろそろ時間ですし私は帰ります」

「王」

「後の事は頼みますよ。それでは」


立ち去る王にそれぞれ思うところはあっても一斉に頭を下げた。


こんな風に怠惰となった王だが、それでも政治の腕は確かであり今も善政を敷き続けている。

また、自分の欲望のままに財政を圧迫する事無く国に力を尽くしている白き王に誰もが心からの忠誠を捧げていたのだった。









ふっくらとした紅い唇がまるで誘うように動く。

しかし、そこから発せられる声音は何処までも冷たいものだった。


「謁見の間ではどうでもいい様に言ってたくせにいい度胸ねあんた」


たった今聞かされた王の言葉にケラケラと笑うのは女性――ではなく、男。

見た目からすれば絶対美女にしか見えないが正真正銘のそれは所謂オカマと呼ばれる種類の人物。

着る物も女性のものを選び、話し方も女性の口調を好む彼はそれこそ服でもひんむかなければ絶対

男だと気付かれないだろう。

しかし、服をひんむこうとした者達は彼に指一本触れる事なく命を絶たれるに違いない。


王お抱えの凶者集団『海影』の長はそれほど甘くない。

そんな彼に唯一打ち勝ち、炎水家の者以外で数少ない長と配下の忠誠を物にした凪国国王は正しく歴史の一ページを飾るだろう。


が、そんな事はどうでもいいと言わんばかりに国王――萩波は先を続けた。


「全員殺して来なさい」


私室であるこの部屋に居るのは自分と長だけ。

先ほど謁見室ではあれだけ王妃の事などどうでもいいという感じだった王の言葉に長は笑った。


「ふふ、アタシの予想では影武者を置いて自分で行くと思ったのに」

「良いですよ、自分で行っても。とても楽しい事になりそうですね」


優艶な美貌にあった柔らかい口調。しかし、言ってることはぶっそう極まりない。


「あんたね・・・綺麗な顔して本当に怖いわね〜〜、でもそういう所好きよvvそういうギャップのある男ってゾクゾクするもの」


クスリと長が流し目をくれれば王は冷ややかに微笑んだ。


「どうぞ、お好きな方を抱いてください。いえ、貴方の場合でしたら抱かれるといった方がビジュアル的にもお似合いですかね?」

「あはははははははvv他の奴だったら即瞬殺ものの台詞よそれ」

「お褒めに預かり光栄ですよ。で、殺って頂けますか?」

「はいはい、素晴らしい報告を聞かせて上げるわね」


そう言うと、長の姿はあっという間にその場から消えた。


「話は済んだんですか?」


音も無く現れたのは宰相だった。


「ええ、済みましたよ」

「すいませんね、明燐がついていながら」

「別に構いません。それよりも心配ですね、愛するたった一人の妹が行方知れずとは」

「あの子の事ですから大丈夫ですよ。それより心配なのは貴方だ」

「私?」

「ええ、何時も冷静な貴方だというのに、今回の失策」

「失策・・ですか」

「失策ですよ。いくら焦ったからといって、影からの護衛を置かずに王妃を帰らせたんですから。

『海影』の長も配下も出払っている時だったんですから、帰るまで待てばよかったのに」

「待てば・・・ですかね。私は十分に待ちましたよ」

「確かに・・・ですが、それでももう少し慎重になるべきでしたね」

「貴方にそう言われるとはね」

「そうですよ。それでなくても、今の貴方は愛妾を囲っている身なのですから」


昨年の春に国王が囲った愛妾。

美しく清らかでとても愛らしい少女。

男性ならば誰もが守ってやりたいという思いにかられるだろう。

自分の色で染め上げたいと望むだろう。



「ふふ、王妃が退位したらその愛妾を代わりに王妃に据えますか?」



まあ、煩いごく一部の者達は王妃なんてとんでもない、愛妾のままで十分だと騒ぐだろう。



とはいえ、そんな彼らも今は愛妾である少女にとても優しい。

沢山の贈り物をし、口利きを頼んでくる。

魂胆はみえみえ。王が王妃以外に女性を囲ったという事実に付け込み自分の娘を差し出すつもりなのだろう。王が愛妾を持ったという事は、つまり別の女性にも目が向く可能性があるという事。

それは彼らにとって絶好のチャンス以外の何者でもないはずだから。

だから、別の女性に目を向かせ愛妾を囲わせたとして、愛妾となった少女に彼らは優しくする。


自分達の娘が召抱えられるまでの間ではあるが。



「とても可愛らしく愛らしい女性です。きっと素晴らしい王妃になるでしょう」

「素晴らしい――ですか」

「国王の訪れは毎日毎夜。その寵愛を一身に受けている身ですし、跡継ぎの問題もすぐに解決してくださるでしょう。20年も王をほったらかしにしている王妃とは違って」

「ふふ・・言いますね」


国王の浮かべた笑みを受け、宰相も笑い返した。


「さてと、それではわたしは戻りますね。まだ仕事が残ってますから」

「仕事熱心ですね。まあ私の代わりに頑張ってください。私はあの子の所でゆっくりと休んでいますよ」


愛妾の所でね


そう告げる国王に宰相はもう一度笑って部屋から退出した。


「ああ、居たんですか朱詩」

「うん、居たよ〜〜結構前から」


そこには一等書記官であり、昔なじみでもある朱詩しゅしが居た。

のんびり口調が特徴、けれどその実腹の中は真っ黒。見た目だけは天使のように清らかな美貌を持つ彼は宰相の隣に立って歩き出した。


「中々面白い話をしてたね」

「また立ち聞きですか?」

「まあね。ああ大丈夫。ボク以外には聞こえてないから」


それもそうだ。結界が張られているあの部屋の会話を聞き取れるのは、朱詩以外にはいないだろう。


「愛妾を王妃にすればいいとか言ってたよね」

「ええ。現在国王の寵愛を一身に受ける愛らしく可愛らしいあの子が王妃になればそれこそあっという間に跡継ぎ問題も解決ですよ」

「そして優秀なる宰相様は新しい王妃を影から操るんだよね?」


クスリと笑った国王に宰相は微笑んだ。


「操るなんてとんでもない。十二分に利用はさせていただきますが」

「あははははvv宰相らしいよ。笑顔で嘘をつき人を騙くら化す事も厭わず必要ならば味方すら罠に嵌める極悪非道。利用価値のない人はさっさと切ってすてる冷酷さ!!」

「お褒めに預かり光栄です」



美しい笑みを浮かべて微笑む宰相に朱詩は楽しそうに笑い返したのだった。



とうとう王様が出ました♪

現在は周囲から怠惰と思われていますがその腹の中は・・。

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