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大根と王妃②  作者: 大雪
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第18話


蓮璋が印をくむに従い、周囲に風が吹き始める。


何処かで歯車が回り出す音が聞こえる。


一つずつ封印が開封されていく。


無言で封印を解き続ける蓮璋に影時は果竪を踏みつけながら嘲笑した。


「にしても、お前も災難だよな?この女さえ連れて来なければ、こうして言いなりにならずにすんだのに」

「……………………………」

「髪まで切って反撃したのにこのざまだ。っていうか、普通の女が髪を切るか?長髪は美人の秘訣だぜ?」


影時が短くなった果竪の髪を見て嘲笑う。

他の国では知らないが、凪国の建国前にここに存在した国では、もともと高貴な者達が長髪だった時代が長い為か、髪が長い事が美人の秘訣の一つとされている。

その上、罪人は髪を短くするという決まりがあり、短い髪は忌むべきものとされていた。

現在の凪国ではそういった決まりはないが、それでも凪国の国民の大半はもともとここにあった国の者達である。産まれた時からそう決まっていた事をそう簡単には覆せない。



短い髪は恥ずべきもの



それは、この国が成り立つ前の国で産まれ育った果竪にとっても同じ事



そして、蓮璋にとっても



「見ろよ!このみっともない頭をさっ」


果竪の身体を踏み飽きたのか、影時は果竪の上から足を降ろす。

かと思えば、頭を掴み此方に背を向けたまま封印を解き続ける蓮璋へと見せつける。


「もともとブスなくせに、こんな頭にまでなって………こんなんだから王妃に相応しくないって言われるんだよ」

「っ!!」


余りの言い草に、思わず淳飛は影時を咎める言葉を叫ぼうとして飲み込む。

今の影時に下手な事を言えば、自分の母親達だけではなく、果竪の命も危険となる。


影時は狂っている。

それが、淳飛の影時に対する感想だ。


下手に刺激すれば、容赦なく果竪の命を奪いかねない。


どうする事も出来ず、淳飛は前で静かに封印を解く蓮璋を見た。

蓮璋は動かない。いや、淡々と封印を解き続けている。ただそれだけ。


どうして?どうして怒らない?


あの少女をあんな目にあわせられているというのにっ!


もどかしさが淳飛を襲う。

自分にこんな思いを抱く権利はないというのに、それでも蓮璋に対して腹立たしさがつのる。


「蓮璋………蓮璋っ」


影時に聞かれれば命取りにもかかわらず、淳飛は蓮璋の名を呼ぶ。

一体あんたは何をしてるんだ。あの少女が痛めつけられているんだぞ。


とはいえ、蓮璋が現在行っている事は果竪を救う為の一番最短の方法である。

だが、それまでに果竪が無事であるという保証はどこにもない。


淳飛は再度蓮璋の名を呼ぼうとした。


その時だ。


「父上――オレはあなたを尊敬しますよ」

「え?」


突如聞こえてきた蓮璋の言葉に淳飛はあっけにとられた。

しかし次の瞬間、驚愕に目を見張った。




「さあ、早く解いて鉱石を渡せ。でないと王妃様を殺してしまうよ」


楽しげに、まるで歌うように話す影時。

そして再度見せしめのように果竪の背中を踏みつけようと足を上げたその時だ。


影時の足を何かが掴む。


「え?!」


影時が悲鳴をあげて足をふるがそれは離れない。


「は、離せよっ!」


影時の足を掴んでいた存在――それは果竪だった。

いつの間にかくるりと仰向けになり、影時の足をしっかりと両腕で掴んでいた。

その瞳はしっかりと影時を捕らえている。

何か言うわけでもない。影時の事を罵る言葉一つ出て来るわけでもない。

しかし、無言で自分を見るその瞳が影時には何よりも恐ろしかった。


何故?


何故この自分がこれほどまでこんな奴を恐ろしく思う?!


そしてその恐怖が影時にとって最大にして最悪の隙を作る。


「手を離して果竪」


耳元で囁かれる声に影時が顔を上げるやいなや、凄まじい衝撃に身体が後ろに吹っ飛んだ。


「がっ!」


地面に叩付けられた衝撃に息が詰まる。

いったい何が起きたのかと視線をめぐらせば、そこには――


「蓮……璋……貴様……」


そこに居たのは、封印を解いている筈の蓮璋。

しかし、先程までのボロボロな姿ではない。

確かに衣服はボロボロだが、流れ出ていた血は見えず、傷も見あたらない。


何故?


しかし、その問いに答える事なく蓮璋は興味を無くしたようにさっさと影時から視線を背けた。


「……果竪、よく頑張りましたね」

「……蓮璋?」


優しい笑みを浮かべて自分を抱き起こす蓮璋に、果竪は目を丸くした。


「……怪我…」


ポツリと呟いたのはその一言。

先程まで大怪我を負っていた筈なのに、まるで全てが夢だったとでも言わんばかりに無傷の蓮璋がそこにいる。


一体……どうして?


「ん〜〜、簡単に説明すると父のおかげです」

「父?」

「ええ。たぶん父は全て分かっていたんでしょうね……」


封印を解いた瞬間、温かい光に包まれた。

あれは癒しの術の発動を示すもの。


何故――と思った。


だが、すぐに悟った。

父は全て分かっていたのだ。

自分がここに来ること。そしてこの現実を。


だから、もしもの時の為に父は癒しの術を仕込んでいた。

封印を解いたと同時に、封印を解く相手に対して術がかかるように。


そして自分の怪我は完治した。

身体から大量に流れ出た血液も、術によって補充されている。

怪我をする前、最高潮の体調に戻った己の身体は今、溢れんばかりの力にみなぎっていた。


そんな自分にとって今行う事は



「駄目――力、使うのは」


果竪は自分を癒そうとする蓮璋を止める。

ここで力を使えば全て無駄になってしまう。

領主達の目を潜り抜けるために、魔物に襲われても力を使わなかったというのに。


しかし、蓮璋は優しく微笑んだ。


「もう後の祭りです」

「え?」

「封印解くのに力を使いましたからね。きっと既に領主には感知されています」

「あ――」


封印を解かせる原因を作ったのは自分。

泣きそうになる果竪の頭を蓮璋は優しく撫でる。


「違いますよ。果竪のせいじゃない」


果竪の短くなった髪に触れ、蓮璋は治癒の術を発動させた。


あっと言う間に傷が癒えていく。

全てが怪我を負う前に戻っていく。



ただ一つ



短くなった髪を残して



その髪を撫でながら、蓮璋は己の中で何かが音を立てて崩れるのを感じた。

代わりに、残忍な感情が浮かんでくる。


「許さない……」


蓮璋の冷たい声音に、影時が小さく悲鳴をあげる。


「くっ……淳飛っ!」


影時は痛む体を必死に起こしながら淳飛の名を叫ぶ。


「淳飛!こいつを、蓮璋達を殺せっ!」


しかし、淳飛からの返事はない。


「淳飛っ!」

「もう嫌だ」


影時の前に、淳飛が現れる。

しかし、それは影時が今まで見てきた淳飛とは違った。


「お前……」

「もう……お前等の言いなりになんてならない」


強い眼差しが影時を射抜く。


「そ、そんな事言っていいのか?!お前の大事な奴らは」

「それでもっ!」


淳飛の叫びに、影時が黙る。

いや、黙らされた。


「もう嫌だ!仲間達を手に掛けた俺が言える事じゃない。けど、もうこれ以上は出来ない。

蓮璋達を殺すなんて出来る筈がないっ」


「淳飛……」

「蓮璋………裏切ってごめん」


淳飛が泣きそうな顔で言う。


「もう謝っても遅いけど、でも……言いたかったんだ」


そう言うと、淳飛は刀を構える。


「お、お前……何をっ」

「俺は許されない事をした。自分の罪は自分で贖うよ。お前も連れて」

「な、何言ってるんだよっ」

「もともとこうする気だったんだ。全てが終った後にさ。のうのうと生きる気なんてなかった。母さんとあいつを無事に保護した後はもう終らせるつもりだった」

「淳飛っ」


蓮璋が淳飛の名を呼ぶ。

しかし、淳飛は振り向かなかった。

背中からわき出る悲痛な覚悟に、蓮璋は言葉を詰まらせる。


ああ、そうだ。


淳飛はこういう奴だった。


「罪は贖うべきだ」

「ま、待てっ!落ち着け、そう落ち着けよっ!こんな事したら、母親達は」

「どうせとっくに殺してるんだろ?」

「っ?!」

「お前、さっき言ってただろ?『母親も死ぬぞっ!』って……って事は、あいつの方はもうすでに死んでるって事だろ」

「そ、それは……け、けど母親はまだ生きてる!そう、まだ生きてお前の助けを待ってるっ!」

「だからって、俺がここでお前を見逃しても、母さんが無事だという確証はどこにもない。既に約束を裏切ってるお前達の言葉なんてもう信用できないっ」


そう言うと、影時に刀を突きつける。

鼻先に突きつけられた刀に影時は悲鳴をあげた。


「さあ、共に地獄に堕ちよう」

「や、やめろっ」


影時の絶叫が辺りに響く。


その時だ。


果竪の身体に異変が起きたのは。


「あ――」

「果竪?」


蓮璋が訝しげに声を掛ける。

しかし、果竪は答えなかった。

ただ、自分の身体を守るように抱き締める。


「あ……あ……」


「果竪?どうしたんですか?!」


蓮璋の必死な様子に果竪は宥めようと言葉をかけるが無理だった。

ドクンドクンと強い拍動、そして灼熱のマグマの如き熱がその部分を襲う。

果竪が左手を右肩に当てたかと思うと、必死に押さえつける。


右肩――


それに、蓮璋は軽く目を見開いた。


確か、その場所は


「果竪――」


しかし、それ以上は言葉にならなかった。

果竪が蓮璋を突き飛ばし叫ぶ。


「に、逃げてっ」


その悲鳴とも言うべき叫びが響き渡った瞬間、柔らかな肉を切り裂きそれは現れた。




ようやく形勢逆転――でしたが、またまた問題が勃発。

今度は果竪がピンチ。果たして、蓮璋は果竪を助けられるのか。そして、淳飛の決着はどうなるのか……。


一応、(帰郷編)は30話以内で終らせるつもりですが、上手く行くか今から心配です(汗)

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