第16話
今回もシリアス?です。
殺らなきゃ自分の大事な人が殺される
でも、本当はこんな事なんてっ!
その思いが、自分の腕を鈍らせた
そしてもう一つ
あの澄み切った眼差しに宿る悲痛な色が、自分の妹に良く似ていたんだ
蓮璋は果竪の体を強く抱き締める。
体を動かす度に走る痛みも気にならない。
そんな彼の瞳に映るのは、自分達から離れた場所に倒れる存在。
「………お前は……」
「……………………」
体を強かに打ち付けたのだろう。
苦しそうに呻く様子から、その衝撃の強さを予想する。
蓮璋が自分に刀を振り下ろす存在に気付いた時にはもう遅かった。
刀が背中にめり込む衝撃を覚悟しつつ、せめて果竪だけでも逃がそうと考えた。
しかし間に合うはずもない。
だから、せめて自分の体だけで刃の勢いを留めようと力を入れた瞬間、それは起きた。
果竪の絶叫と共に、自分達を中心に巻き起こる突風。
それに、自分に振り下ろされた刀が吹っ飛ぶ。
そして――
次の瞬間、自分を刀で狙ったその存在が地面へと叩付けられ――今に至る。
蓮璋は呆然とその相手を見ていた。
言葉はない。
いや、言いたい事は沢山ある。
しかし出て来なかった。
何故?どうして?
そんな思いすらもわき起こらない。
けれど、しばらくして口は勝手にその名を紡いだ。
淳飛
「何で………お前が……」
許されるならば、全てから逃避したかった。
ただの仲間ではない。
淳飛は、自分にとっては一番の
「――ば良かったのに」
「え?」
いまだ地面に倒れたままの淳飛が呟く。
その瞳に宿る一人は
「魔物襲撃で死んでれば良かったのに」
殺意
「………………どうして」
お前がこんな事を
いや、そんなことを言うんだ
蓮璋は混乱した。
何故?何故?何故?!
「どうして…………どうしてこんな事をっ!」
「黙れ!」
淳飛の叫びに蓮璋が押し黙る。
「お前が……お前が悪いんだっ!」
「淳飛?」
「お前さえ、お前さえ………」
蓮璋からは見えなかった。その時の淳飛の表情を。
ただ、殺意と憎悪に満ちた声音が蓮璋を貫く。
「お前がとっとと死んでいればこんな事にならなかったのにっ!」
素早く淳飛が立ち上がり、そのまま蓮璋の元に突進してくる。
蓮璋は反射的に果竪を突き飛ばすと、淳飛の突進に身構えるがそのまま弾き飛ばされ地面へと叩付けられた。
また、叩付けられた際に脚に突き刺さった槍がより深く刺さり、蓮璋は呻き声を上げた。
既に、かなりの出血量がある。それに加えて体を打ち付けた衝撃に視界が薄れてきた。
このままでは確実に死ぬ。しかし、ここで意識を失うわけにはいかなかった。
「蓮璋ぉっ!」
果竪が上半身を起こしながら叫ぶ。
それに応じようと頭を動かした瞬間、喉元に冷たいものを感じた。
「動いたら落ちるよ」
背後に立つ淳飛に刀を突きつけられている事実に蓮璋は息を呑む。
「お前……」
「動くなよ?動いたら手元が狂うから」
「一体何でこんな事を……」
「説明する義理はない」
「蓮璋!」
「動くなっ!」
果竪が立ち上がり駆寄ろうとするが、淳飛がそれを鋭く制する。
「一歩でも近づいたら蓮璋の命は保証しない」
その言葉に、果竪の目が見開かれる。
緊迫した雰囲気が辺りに漂う。
「何が望みなの?」
「望み?そんな事簡単だ。蓮璋の命だ」
その瞬間、果竪が一歩足を進める。
「近づくなっ!」
「煩いボケェ!」
果竪の怒鳴り声が辺りに響く。
その気迫に、淳飛ばかりか蓮璋も息を呑んだ。
「命を保証しないって言うから言うとおりにしたのに、命が望みってどういう事よ!」
確かにどういう事だ。
先程と言っている事がまるで違う。
「う、煩いっ」
矛盾を指摘された淳飛が果竪を威嚇しながら叫ぶ。
しかし果竪は怯むどころか一歩ずつ距離を縮めていく。
「ち、近づくと殺すぞっ!」
果竪の怒りに気圧された淳飛が、蓮璋の首筋に押し当てた刀に力を込める。
細い血の筋が蓮璋の白い喉元を流れ落ちた。
「―――っ!」
それを認めると同時に、果竪は自分が握りしめていたものを投げつけた。
「がっ!」
それは淳飛の額に当たり傷を作る。
流れ出る血が地面へと落ちた。
それに気を取られて視線をずらした次の瞬間、果竪が目前に迫っていた。
「蓮璋を離しなさいよっ!」
淳飛の手に縋り付き、刀を奪おうとする。
「なっ?!離せっ!」
「煩い煩い!蓮璋を離してっ!離せってばぁ!」
淳飛の腕に噛み付く。その瞬間、淳飛は悲鳴をあげて果竪を振り払った。
「きゃっ!」
「果竪っ!」
蓮璋が果竪の名を叫ぶ。
側に駆寄ろうと身をよじるが、すぐに喉元に刀を当てられ動きを封じられる。
「動くなっ!」
淳飛の怒声が辺りに響く。
それは蓮璋だけではなく、果竪に対しての警告でもあった。
蓮璋が視線をずらせば、既に果竪は立ち上がり今にも飛びかかる寸前の様子をしている。
「い、良いか?!変なことしたら蓮璋の命はないからなっ!」
そう言いながらも淳飛が蓮璋を引き摺ったまま後ろに下がる。
喉元にあてた刀が僅かに震えていた。
「蓮璋を離して」
「離せと言われて離したらよっぽどの馬鹿だ」
「大丈夫よ。貴方は私の中でよっぽどの馬鹿ランキング1位になってるから」
何気に失礼だこいつ
と、思ったのは何も淳飛だけではない。
確か馬鹿な事はしてますが……と蓮璋は心の中で涙した。
しかし次の瞬間、淳飛と蓮璋は全身が総毛立つような怒りに身を震わせた。
その発信源は………
「蓮璋を離しなさい」
果竪の声が静かに響く。
余りにも静かすぎて………蓮璋でさえ背筋がゾッとした。
「果竪……」
「う、煩い……煩い煩い煩い」
「淳飛、もうやめろ……そして教えてくれ。一体何故こんな事を……他のみんなはどうしたんだ?」
仲間達のうち一番の年長者の末路は見た。
他の者達はどうしたのか?
自分達と離れた後に何が起きたのか?
何故仲間の一人がバラバラとなって死んでいるのか?
どうして淳飛がこんな事をするのか?
何故?何故?何故?!
その時、小さな小さな呟きが蓮璋の耳に届いた。
「…………ないさ……」
「え?」
「俺だって本当は………」
「淳飛」
「けど、あんた方を殺さないと俺の妹が殺されるんだっ!」
「い、妹?」
妹って……
蓮璋が問質そうと口を開く――
「おっと、そこまでだ」
「きゃっ!」
鈍い音と果竪の悲鳴に意識を前に戻した蓮璋は驚愕に目を見開いた。
「………お前は……」
「数時間ぶりですかねぇ?蓮璋様………いや、蓮璋」
そう言って、自分が殴り倒した果竪の髪を掴み引き摺り起こすのは
「………影時」
行方不明の仲間の一人――影時。
首筋で一本に結んだ髪を揺らしながら、彼は果竪を乱暴に引き起こす。
「淳飛、余計な事を言うなって言ってただろう?」
「あ………ご、ごめん」
「ごめんか……下界でこんな言葉があったな。ごめんですめば警察はいらねぇよ――ってな」
吐き捨てるように言う様に、普段の優しげな様子はない。
呆然とする蓮璋を視界に入れると楽しそうにクツクツと笑った。
「どうして?って顔をしてるな」
「……当たり前だ」
「だろうな。にしても言い様だな」
「……全員グルなのか?」
今回つれて来た仲間達が全員で自分を裏切ったのだろうか?
ここまでくれば、蓮璋とて自分が裏切られた事を認めるしかなかった。
しかし、理性では納得できても感情の方は悲鳴をあげていた。
一体どうして………
今まで苦楽を共にしてきた仲間達の仕打ちに蓮璋の心はズタボロだった。
しかし、それを救ったのは意外にも影時の言葉だった。
「いや、裏切ったのは俺と淳飛の二人だけ。他の仲間達は心底お前の為に働いてたよ」
その言葉に、蓮璋の心から吹き出た血が少しだけ勢いを弱める。
が、それを見計らい影時はニタリと笑った。
「そのせいで俺達に殺されちまったんだけどな」
「――っ?!」
「それってどういうきゃぁっ!」
「煩いな黙ってろよ」
影時が果竪の髪を勢いよく引っ張る。その痛みに果竪が悲鳴をあげた。
「やめろっ!果竪に手を出すなっ!」
「へぇ?こういう時にも騎士気取りか?愛しい王妃様の為に……泣かせるねぇ」
そう言いながら影時はケラケラと嘲笑する。
「愛しいって、蓮璋が好きなのは明燐なんですからね」
「か、果竪っ」
こんな時に何を言うのかという思いと、自分の意中の相手を公然とバラされた気恥ずかしさが蓮璋の頬を赤く染める。
「ああ、そういえばそうだったなぁ。でも、残念だけどあの美人さんはあの方のものだ」
「は?」
「あの方が望んでいるんだよ。あの美人さんを。凄い執着でね」
そう言うと、影時は蓮璋に凄絶な笑みを向けた。
「今頃、犯られてるんじゃないかなぁ?」
あの方は力ずくででも手に入れようとしていたから
その言葉に、蓮璋の怒りが突き抜ける。
「明燐に……何をした」
「俺は何もしてないさ。するとすればあの方だ。それこそどんな手段を使ってでも自分のものにされるだろう。是非とも花嫁にと望んでいるからな」
「……誰だ」
誰が明燐を狙っている。
蓮璋の体からわき上がる怒りに影時はクスクスと笑った。
「さあ?」
「影時っ!」
「煩いなぁ!自分であてて」
「老師」
「え?」
「あの馬鹿爺の事でしょう?」
影時に掴まれていた果竪が淡々と答えた。
それに、影時だけではなく蓮璋、そして淳飛すらも目を見開く。
「……果竪?」
「お前、何で」
「何で?」
果竪は楽しそうにクスクスと笑った。
「あの爺の様子を見てたら一発で丸わかりじゃない」
あいつの明燐を見る目つきは到底健全なものではなかったと告げる果竪。
「まあ、あれで隠しているようだったみたいだけどね」
そしてゆっくりと影時を見た。
「でしょう?」
誤魔化しは決して許さないという眼差しが影時を射抜く。
その眼差しの前にはどんな嘘も通用しない。
「――いい勘……してるね、王妃様」
影時が見直したように呟く。
あの方の予想は外れてしまったらしい。
唯のお飾りの王妃様。
夫が王になったから王妃になっただけの取るに足らない存在。
夫は優秀だが、妻である王妃は唯の庶民出身の無能者。
頭はそこそこ回るようだが、所詮はただの小娘。
小賢しいだけの分際だと言っていた。しかし、影時は見てしまった。
果竪の美しい瞳が宿すその光を認めた瞬間、果竪が全てを理解してしまった事を。
「唯のお飾りの王妃様じゃなかったってことかな」
「そうね」
果竪は静かに微笑んだ。
「唯のお飾りであれば………あんな伏魔殿で生きれるはずがなかった」
唯の飾りであれば
「とっくの昔に私は王妃の地位を狙う者達に殺されてたわ」
だから……生きるためには闘うしかなかった
なんだか、蓮璋が囚われのお姫様で果竪がそれを助けようとする王子様的な感じに(汗)
さて、果竪はお姫様を助け出せるのでしょうか?!
感想の方どうも有り難うございますvv少しずつですが、返信させて頂きますね♪