表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大根と王妃②  作者: 大雪
15/46

第15話

暫くシリアスシーンが続きます。

ギャグを期待の方はすいません(汗)

最後の魔物の断末魔が辺りに響き渡ったのは、仲間達と分かれてから一刻ほど経った頃だった。


既に予定の行程より大幅に遅れている。

本来ならばすぐに仲間達を追いかけなければならなかったが、蓮璋は予想に反してその場に留まっていた。


「蓮璋……行かないの?」


はぐれたら困るという理由から蓮璋と手を繋いでいた果竪はクイクイとその手をひいた。


しかし、蓮璋は動かない。


「蓮璋?」

「どうして……」


自分が屠った魔物達。

その姿は見えないが、確かに蓮璋は肉の塊と化した魔物達を見ていた。


一体どうして……


「蓮璋」


それまでとは違い、凛とした果竪の声に蓮璋がハッと我に返る。

「果竪……」

「蓮璋の言いたい事は分る。でも、今は一刻も早く証拠を集めに行かなきゃ」

「ですが――いいえ、果竪の言うとおりです。行きましょう」


蓮璋は果竪の手を握りしめると、そのまま二人で仲間達が向かった方へと走り出した。


偽星灯はない。

しかし、まるで見えているように走る蓮璋。

たぶん、それは彼の鍛え上げられた感覚のおかげだろう。


聞こえる自分達の息遣いしかない暗闇の中を手を取り合って走り続けた。


「はぁはぁ……」


蓮璋の走る速度はどんどん増していき、手を繋いでともに走る果竪は息を切らす。

しかし、止まる事は許されない。止まれば放り出されても文句は言えない。

いや、蓮璋ならば放り出しはしないだろう。この人は優しいから。

けれど、もしそうなれば果竪は自分自身を許すことが出来ない。


乱れる息を必死に整えながら果竪は必死に走り続ける。


「くっ……」

「掴まって」

「えっ!」


突如体が浮き上がったかと思えば、温かい感触を感じた。


「ちょ、ちょっと!」

「苦しいんでしょう?無理しないで」

「だって蓮璋がっ」


唯でさえ動きづらいのに、この上自分を抱き抱えて動くとなれば余計に動きにくくなる。

しかし、蓮璋は決して果竪を降ろそうとしない。


「蓮璋ってばっ!」

「大丈夫ですよ、これでも鍛えてますからね」


それはわかる。あの魔物達を一人で仕留めてしまったほどだ。


「けど、そういう問題じゃないって!」

「ああ、余り話さないで下さいね。舌咬みますから」

「え、ぎゃっ!」


移動速度が上がる。また、跳躍して進んでいるのか果竪の体が蓮璋の腕の中で弾んだ。

切って進む風の冷たさが身に染みる。


ああ、今頃何もなければ王宮で大根の栽培でも計画していただろうに。


それよりももっと大切なことがあるだろうに果竪の頭には大根の事しかなかった。


「かなり先に進んでいるようですね………」


突然、蓮璋がそんな事を言いだした。


「先にって……みんなの事?」


先に進ませた仲間達の事を言っているのか。


「ええ、結構進んだと思いますが中々追いつかなくて」


もしかしたら途中で待っているかもしれない。

そんな期待があったのだろう。首を傾げている様子の蓮璋に果竪は明るく言った。


「大丈夫よ、もう少ししたら嫌でも合流するって」

「……そうですね」


しかし、その期待は裏切られた。








「……蓮璋、ごめんね」

「いえ、気にしないで下さい」


長い渓谷は終わり、山道に入ってから暫く。

蓮璋と果竪は目的地まであと一歩の所まで来た。

しかし、彼らはずぶ濡れだった。


というのも、果竪が渓谷を出てすぐの川で流されたからだ。

本当なら蓮璋に抱えられたまま進むはずだったのだが、ちょっとした油断から果竪は一人川に流された。

当然追いかけた蓮璋に助けられた時には、既に本来の山道の入り口からかなり離れてしまっていた。


今から元の場所に戻るのは大幅な時間の無駄という事で、本来ならばあり得ないような獣道を進んできた彼ら。

結果として、それが功を奏して時間の短縮に繋がったが、ずぶ濡れというオプションがついてしまった。

今が真冬なら絶対に凍死してる筈。


「いや、凍死はしないでしょう」


一応、神族だし。ってか、仮にも神だし。


「着換えを持って来れば良かったですね」

「だね……」


火をおこそうにしても、この真っ暗闇では危険すぎる。

まだ夜明けまでには時間がある。せめて夜が明けてからでないと。


「にしても……結局、みんなに会えなかったね」

「そうですね……本来通る道とは違いますから当然といえば当然ですが」


上手く行けば山道途中で追いつけたかもしれない。

しかし、その山道に入る前に川に流されて別の道――いや、別の道とも言えない獣道を進んできた。

こうなれば、もう目的地に辿り着くまで合流するのは無理だろう。


「なんかもうこの勢いだと、証拠を手に入れて待ってるかもね」


果竪がそう言うと、蓮璋は苦笑しながら首を横に振った。


「それはないですね。もしもの時はオレ達がいくまで待つように言ってますし……目的地に辿り着いても、結界を解かなければ証拠を手に入れられませんから」

「結界?」

「はい」

「どんなものなの?他の人じゃ解けないの?」

「ええ。オレの父親がかけたものらしいですが、どうやら血縁者にしか解けないものらしいです」

「って事は、今此処に居る人達では蓮璋しか解けないって事ね」

「今では……ってか、オレ以外はもう誰もいません」


家族を皆殺しにされた蓮璋にとってもはや他に身内はいない。

その事に気付き、果竪はしまったと口を手で覆う。


「気にしないで下さい」

「ご、ごめん……」

「別に構いませんよ」


優しい声に、蓮璋と繋ぐ手に果竪は力を込める。


「ああ、もうすぐ着きますよ」


蓮璋の言葉に、果竪は前を見た。

といっても、まだまだ真っ暗闇で何も見えないが――。


その時だ。


ふと、視界の闇が薄まったような気がした。


「え?」

「おや、ようやく夜が明け始めましたか」


真っ黒い闇。それは、次第に色を薄めて藍色に、そして薄藍色へと変わっていく。


急激な変化に、果竪は目を瞬いた。


「これは……」

「闇月の夜の終わりです」


その言葉に、果竪は持ってきた時計を見る。

現在の時刻――5時


夜明けには遅い時間だが、早朝という言葉には相応しい時刻。

全く何も見えなかった周囲が再び姿を現し、光がその力を取り戻していく。


「間に合いましたね」


蓮璋が歩みを止めた。


「蓮璋?」

「目的地ですよ」


蓮璋が指さす方。少し離れた所に立派な大樹があった。

しめ縄を飾られた、山の中に忘れられてしまったかのような立派な大樹。

その周囲はまるでくりぬかれたかのように何も無かった。

背丈の短い草で覆われた、不思議な雰囲気の漂う場所だった。


「綺麗………」


自然とそんな言葉が出た。

無意識に前に一歩、また一歩と足を進める。

まるで吸い寄せられるかのようだった。


「これは……きゃっ!」


何かにつまずき果竪の体が草むらに倒れ込む。


「果竪?!大丈夫ですか?」

「う、うん大丈……あ、有り難う」


俯せに転んだ果竪の目の前に手が差伸べられている。

蓮璋って優しいなと思い、果竪はその手をとった。


後ろにいる筈の蓮璋が前から手を差伸べることなど無理だという事実に気付かずに


「ってか、転び癖をどうにかしなきゃね。あ、それで――」


果竪が手をとったまま起き上がった時だった。

ガクンと体勢を崩す。


あれ?


「え、何これ」


繋ぐ手が簡単に持ち上がる――え、持ち上がる?


果竪はゆっくりと自分が掴む腕の先を見た。


「…………………嘘」


自分が掴む腕


それは肘までしか――――


「………………………」

「果竪っ!」


蓮璋の言葉に果竪ははっと我に返った。

次の瞬間、喉からほとばしる悲鳴が空に木霊した。


「果竪っ!落ち着いてっ!」


肘までしかない腕を掴んだまま果竪はパニックになった。

今すぐ腕を放したいのに、自分の手はぴったりとそれにくっついたかのように離れない。


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「果竪っ!」


蓮璋が果竪を抱きよせる。

と、果竪の手から肘までの腕が離れた。


それは、ドサっと重い音を立てて地面へと落ちる。

既に、辺りはかなり明るくなってきた為、その様子はしっかりと蓮璋の目に映った。


「いや、いや、いやぁ!」

「果竪、大丈夫ですからっ」


泣き叫ぶ果竪を蓮璋は落ち着かせるように抱き締める。

華奢な体がガタガタと痛々しいほど震えるのを感じた。

そこで気付く。どれほど強く振舞っていても、本当の果竪は年齢相応の少女なのだ。


「果竪、果竪落ち着いてっ」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


喉からほとばしる悲鳴はもはや果竪の意思に関係なく発せられる。

そんな果竪を抱き締めながら蓮璋は果竪の手から離れ地面に転がる腕に視線を向けた。

一体何だってこんなものがこんな所に・・・。

指の先から始まり、掌、手首と視線をずらしていく――


「・・・・・・・あ」


手首のすぐ下に視線を降ろし――気付く。

そこにある、短い筋。それが古い刀傷だと分かったのは、やはり武官としての観察眼か――いや違う。


「あ・・あ・・」


何故なら、それは今まで自分がよく見てきたものだからだ。

あの集落に落ち延びて以来、ずっと見てきた――


「ま・・さか・・・」


蓮璋は果竪の体を抱いたまま、ゆっくりとその腕に近づく。

その時、足下に何かが転がってきた。

反射的に果竪の目を覆う。


それと目が合い、蓮璋の頭は真っ白になった。


「嘘だろう?」


共に集落を出た仲間



魔物達の襲撃にあい、またの再会を誓い合った仲間



そのうちの一人――仲間達の中で一番年上の男



の頭部が蓮璋の脚に当たって止まった



喉から、仲間の名前が絞り出された瞬間ハッとした。

腕の中で果竪の体が震える。

しまったと思った時にはもう遅い。声の調子から、果竪は気がついてしまった。


「あ・・あぁ・・・あぁ!」


誤魔化すには遅すぎる。いや、誤魔化しなどこの聡明な王妃の前には無意味だ。


果竪の脚から力が抜ける。

今にも崩れ落ちそうな果竪を支えようとした時だ。


果竪の瞳が極限まで見開かれる。


「いやぁ!お父さん、お母さんっ!」

「え?」


果竪の口から漏れた叫びに蓮璋が動きを止める。

次の瞬間、蓮璋のすぐ横を風が切る。地面に重たい何かが突き刺さる音が聞こえた。


「果竪っ!」


果竪の体を抱き抱え、蓮璋は素早く後ろに飛び退く。

と同時に、先程と同じく今まで居た場所に何かが突き刺さった。


「くっ!」


何度目かの跳躍の後、今度は自分めがけて飛んできたそれを弾き飛ばし地面に降り立つ。

チラリと弾き飛ばしたものを確認し、それがようやく大きな槍だと気付いた。


「これは……」


ついそれに目を奪われ立ち止まったのが運の尽き。

蓮璋の脚を一本の大きな槍が貫いた。


「がっ!」


灼熱の熱さを感じた後、思わず叫び出したくなるような鋭い痛みが蓮璋の太股を襲う。

ザックリと深く突き刺さったそれは、下手に抜けば出血多量を引き起こすだろう。


「く、くそっ!」


瞬時に槍に手を当てたものの、それ以上動かす事は出来ない。

それがまた蓮璋を危機に陥らせる。


今度は肩に強い衝撃を受けた。

抗う術もなく地面に全身を打ち付けた蓮璋に、腕に抱かれたままの果竪が悲鳴をあげた。


「蓮璋っ!」


恐怖に彩られたその瞳で蓮璋は己の身に起きた事を悟った。


肩からも襲いかかる鋭い痛み。そして、何かが突き刺さる感触と重み。


「二本も受けるなんて……」


太股と同じく、肩にも槍が突き刺さってるのだろう。

視覚で確認する必要もなかった。


「蓮璋……」


果竪が必死に自分の下から腕をだし、肩の方へと手を伸ばす。


「果竪、危ないからジッとして下さいっ」

「で、でも怪我を――」


その時、果竪は見た。

蓮璋の背後に立つその存在を。

顔を隠し、大きく刀を振り上げ今にも振り下ろそうとしているその姿を。



『果竪!危ないっ!』



父と母の声が聞こえる。



炎がすべてを包み込む



あの時と同じ



『果竪、あなただけは――』



お母さんっ!




刀が蓮璋めがけて振り下ろされる。



「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



果竪の絶叫が辺りに木霊した。




色々と動き出してきました。

ああ、上手い伏線の張り方を勉強しなくては……。

感想を下さった皆様、有り難うございます。今はちょっと色々と忙しくすぐに返事が出来ませんが、時間を見つけて必ず!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ