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緑野さんと僕の関係性

ここは俗に言う放課後の文芸部の部室、文芸部の部室と言えば、西日が差し込み、壁には本が並んでいるのを想像するだろう、しかし、ここにはその日当たりの悪さから柔らかな日差しが差し込むこともなく、厳しい校則の為に私物の本を置くことも出来ず、さらに言えば各教室の予備の机と椅子が部室の半分を占領しており、僕達に許された空間はこの部室の半分程しかない。

それでも僕は幸せだと思う、なぜなら彼女と同じ空間にいるから。それは僕の憧れの人、緑野遠香(みどりのとおか)、肩まで伸びた髪、多分ミディアムっていうやつだろう、髪の色は黒、性格に関して明るくはないと言う人が多いがそれは間違っていると思う、よく喋るし笑う、だけども普段は大人しく友人も少ない方らしい、かく言う僕もそうなんだけどね。大半の人は彼女を地味だとか真面目ちゃんだとか言っている、ごもっともだろう僕もそう思う、けれどそこも含めて彼女魅力であるのではないかな。と誰に向けたわけでもない自分語りを脳内でしていると彼女が話しかけてくる


「ねぇねぇ、何か本貸してよ。」


またか…と僕は思った、こうやって楽しげに話しかけられる時はだいたい良くない事の前触れなのだ、いや別に良くないって言っても本気で嫌がってるわけじゃないさ、僕としてはほら、毅然とした態度で接しないと、僕のプライドに関わるっていうか、なんというか…。などと頭の中でツンデレまがいの言い訳を考えていると、緑野は無視されているのか思ったのか、より大きな声でこちらに身を乗り出して声をかけてきた。


「おーい、聞いてますかー! 無視ですかそうですか、君はそんなにも私の事が嫌いなのかね、そうかいそうかい分かった、現時点をもって今後一切君との···」


緑野さんの声を遮るように僕はやれやれといった雰囲気を醸し出して答える。


「はいはい、聞いてますよ。緑野さん、今度はなんですか?世界征服かなんか企んでるんですかい」


僕が質問に答えると、緑野はちょっと不満そうに、けど安堵した顔で話を続ける。


「いいかい、今私は世界征服の話なんてしてないの、君はいつも何を聞いているかね、今後少しで君との関係が無くなる所だったんだよ?」


「それは誠に申し訳ないです、ごめんなさい。これでいいですか」


ぶっきらぼうにあくまで興味はないような棒読みの謝りをする。こうしないと僕が心で負けてしまう気がするからだ。


「まぁ、よろしい。今後はもう少し身の振り方を考えるんだね。」


緑野さんは椅子に座り直しながら満足そうに答えこう付け加える。


「それと!緑野さんじゃなくて遠香って呼んでっていつも言ってるでしょ!」


「分かりましたよ、遠香さん。で何をどうしたいんだって?」


僕は極めて冷静に声を出したと思う。緑野さんを下の名前で呼ぶのはとても緊張する。正直な所を言えば僕だっていつでも「遠香」と呼びたい、呼びたいけど恥ずかしい…。情けないやつだと思うなら思っているがいいさ!でもこれが僕という生き物なのだ。子難しく言えば「(さが)」ってやつなのさ!

そんな自分の不甲斐なさを一人で恨んでいる中、緑野さんは話を続ける。


「君は本をたくさん持ってるよね?」


「うん、ある。でも遠香さんも結構持ってたよね?で、それがどうしたの?」


二人ともそれなりに本は読む。ほら、一応文芸部だし、僕は読書家というのはしのびないけど、その辺の同級生よりは本を読むと胸を張れる。と言っても僕は緑野さんと話をしたくて本を読み始めたくちだ。でも読んでるうちに本を読むことが面白くなってきて今ではもう本の虜だ、しかし、緑野さんは僕と違って生まれながらの読書家だ、不純な理由で本を読み始めた僕では遠く及ばない。

そんな緑野さんが僕から本を借りたい?なんでだ?


「い、いやたまにはジャンルの違う本も読みたいなぁって、ほ、ほら君の読んでる本は私があまり詳しくない種類の本ばかりじゃないか!」


「あぁー、そういうことね。いいよいよ、何か読みたいものでも目星ついてるの?」


やはり緑野さんはすごい、普段読まないジャンルの本まで開拓しようとするとは、僕には到底かなわないと再確認させられたよ。


「いや、目星はついてないよ。」


「ん?」


「今回、私は君のオススメの本を読むことにします!」


「え?」


いやいやいやいや、無理だって。だってあの緑野さんだよ?僕ごときが選んだものじゃ満足できないに違いないよ。いや待てよもしかしてこれは緑野さんに僕がどれだけ本を読んでいて、どれだけの男かアピール出来るチャンスなのではないか。千載一遇のチャンス逃すわけには行かない。落ち着くんだ自分、あくまで冷静に冷静に事を運べ。


「分かった。じゃあ、明日に何冊か持ってくるよ。明日は金曜日だし土日休みでゆっくり読めていいんじゃない?」


よし、これは完璧。緑野さんの要求に対して迅速に対応出来ますよという出来る男のアピール、さらに土日休みでゆっくり読めていいんじゃない?と計画的なプランニング、どう転んでも彼女の答えは肯定よりの返事になるはず、自分の才能が恐ろしくなってきたよ…。


「いや、ダメだよ。」


え?今なんて言った?


「明日は開校記念日で休みじゃないか。」


あ、そう言えばそうだ。うわ、なんか、カッコつけた発言が猛烈に恥ずかしくなってきた!穴があったら入りたい!てかさっきの記憶を緑野さんから抹消して、僕の存在を消したい!


「てことで土曜日に会いましょう。その時に君から本を借ります。では、詳しいことは後ほどメールにて。

今日は部活終了!私は用あるから鍵は返しといてね!

じゃあね!」


え?なんて?土曜日に会いましょう?どうして?休日に二人で会う?それってつまり…

その日はいつもより部屋の中が明るかったような気がした。

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