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(・ω・U)フユ・フラベルと魔の料理  作者: 乙羽
(U ̄~ ̄)禍福倚伏
6/18

本編

庭にある藤棚の下で、私は ぼんやりと空を見つめていました。

疲れすぎてぐったりです。

お兄様も昼から自室に籠って出てきません。


理由は言うまでもないと思いますが、お姉様の料理です。

いえ、あれは料理とは呼べません。

じゃあ、何か?と問われたら答えられませんが……。

あんなものをお姉様が作ったなんて……。


ま、まあ……お姉様にも弱点はあると言うことなのでしょう。

いつも完璧なお姉様が料理苦手だなんて、むしろ親しみやすいというものです。


それにしても、困ったことになりました。

お姉様は照れながら「いつかツキ様に食べていただくんです」と言っていました。

ツキ様というのはこの国の第二王子でお姉様の婚約者のことです。

お姉様のことを溺愛していらっしゃるので食べてくださるとは思いますが……。

あんなものツキ様に食べさせて大丈夫なんでしょうか?


最悪、お姉様は王子を狙ったテロリストとして捕まってしまうのでは?

そうなると私たちフラベル家も何らかの罪に問われるでしょう。


いえ、それは良いのです。

お父様が何とかしてくれます。

問題は、お姉様が捕まってしまうことです。

こればっかりはお父様でもどうにもできません。

恐らくお姉様の婚約者であるツキ様が、これ幸いとばかりに連れ去ってしまうでしょう。

二度とお姉様に会えなくなるかもしれません。


それだけではありません。

もしかしたらお姉様はツキ様から……エ、エッチなこと……されてしまうのかも……。


きっと毎日のようにキスや添い寝や膝枕を強要されるんです!

私のお姉様なのにツキ様ばかりズルい……ではなく、セクハラは最低です!

私がお姉様を守らなくては!


「こんなところで何をしているんですか?」


決意を固める私の耳に双子の妹、アキの声が届きました。

お姉様のことを考えていたのでアキが近付いてきていたことに気が付きませんでした。

私としたことがアキを見逃すなんて。

双子の姉失格です。


そんなことを考える私をアキは不思議そうに首をかしげて見ていました。

お姉様と同じ銀の髪とうさ耳が太陽に照らされキラキラと輝いています。

宝石のような紫の目には私の姿が写り込んでいました。


我が妹ながら、なんて愛らしいんでしょう。

きっと大人になったらお姉様のような綺麗な女性になるのでしょうね。

将来が楽しみです。

しかし、同じ顔の私が口にするとおかしいので、言うのはやめておきました。


……私はナルシストではありませんよ。

アキは中身も可愛らしいのです。

ひょっとしたら天使かもしれません。

となるとお姉様は女神ですね。

お兄様は美少年です。


「何かありましたか?」


アキは私の隣にちょこんと腰掛けながら尋ねました。

はわわ……天使が私の隣に!?


「お姉様のことを考えていたんです」


私は平静を装ってアキにそう答えます。


「まあ!お姉様のことを!」


するとアキは目を輝かせました。

アキはお姉様が大好きなのです。

私も大好きです。

お揃いですね!


「実は昨日、お姉様が……料理?……を作られまして」

「まあ!お姉様が料理を!」


私は急に元気が無くなりましたが、アキの目は相変わらず輝いています。

むしろ、輝きが増したと言えましょう。

お姉様の料理に期待しているのです。

過去の私を見ているようで胸が苦しくなりました。


ああ、知らないということは幸せなことなのですね……。


「ぜひ、私も食べてみたいです!」

「やめた方がいいです!!!」


アキの期待する言葉を全力で否定しました。


「な、何故ですか?」


驚くアキに私は考え込みます。

アキにあんなもの見せたくありません。

ですが、お姉様が料理下手だと伝えるのは憚られます。

慎重に言葉を選ばなくては……。


「その……す、すごく……個性的でした……」


頑張って言葉を選びました。


「個性的?」


私の言葉にアキが首をかしげます。

まるで花の精霊を見ているような幻想的な気持ちになりました。

話している内容がお姉様の料理でなければ素晴らしい空間だったでしょう。


これほどの幸せ空間をぶち壊すお姉様の料理……。

やはり私のお姉様は多方面で凄い方ですね。

いつか、お姉様のような素敵な女性になりたいものです。(料理除く)


「………」

「ハル?どうしたんですか?」


考え込む私をアキが心配そうに覗き込んでいました。

ああ、妹に心配を掛けてしまいました。

姉として良くないことです。

しかし、話の内容を考えると……。


「お姉様の料理はそんなに凄かったんですか?」


アキが期待に満ちた目で言います。

私はその期待に満ちた目を裏切らねばならないことを申し訳なく思いました。


しかし、言わねばなりません。

本物を目にした時にアキがガッカリしないようにしなければ。


「その……凄かったです……アキが想像してるのとは正反対の意味で」

「正反対の意味?……まさか、美味しくなかったのですか?お姉様の料理なのに?」


信じがたい、と言うように目を見開くアキ。


「ええ……信じられないと思いますが」


アキは「信じられませんが、ハルがお姉様の悪口を言うわけありませんし……」と呟いていました。

そうとう困惑しているようです。

それも当然です。

私がハルの立場なら、同じように戸惑ったことでしょう。


だって私たちのお姉様は完璧なのですから!


可愛くて

綺麗で

優しくて

思いやりがあって

幅広い知識と見識を持ち

それを活かす明晰な頭脳もあり

剣も魔法も上手く

格好良さも持ち合わせています。


そして、王子様の婚約者。


まるで物語から飛び出したお姫様のようではありませんか。

完璧すぎて怖いくらいです。


出会った全ての人に自慢して回りたいです。

迷惑なのでやりませんが。


「ちなみに、どんな料理だったんですか?」


アキの言葉に私は考え込みます。

悪口にならない言葉でお姉様の料理を的確に表現する言葉……


「……マグマ」


私には、これしか思い付きませんでした。

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