第7話 俺の家族を紹介しよう
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フード付きパーカーの、フードと首の空いているスペースにスーとムーを貼り付けて、俺はひたすらにママチャリのペダルを漕いで家へと進んで行く。
俺が居候させてもらっている家からコンビニまでは徒歩で30分。自転車で向かえば10分程で着く場所にある。
まぁ信号を使わないで上手く行けば、もう1〜2分ほど時間を縮める事ができる。
そんな訳で春先の冷たい風を浴びながら進んで行けばトドンと大きい、田舎にありがちな爺ちゃん家に着いた。
爺ちゃん家は広い母屋と離れ、それに庭が付いていて池もある。
俺は主に母屋の2階の一部屋を借りていて、離れは長期休みに帰ってくる親戚などが使う場所だ。
この母屋に住んでいるのは俺を含めて5人しかいないから、全員が同じ場所で暮らしていると言う訳だ。
庭は砂利が敷き詰められていて、所々にセンス良く盆栽や桜の樹などが植えられている。ちょうど今の時期は桜が満開なので、砂利の上には桜の花弁が散っている。
「ワンワンワン!」
「へーへー。てれーまーポチー」
「ハッハッハッ!」
この庭の番人である芝犬のポチが俺の元に来ようとしたが首輪が引っかかってしまい、それでもこっちに来ようとして最終的に2本足で立ち上がり、尻尾をブンブン振りながらお出迎えしてきたので、宥めるためにポチに近付いて全身を撫でくり回す。
「お帰り! お帰り! あっお腹撫でるか?」と言いたげに、ゴロンと横になって腹を俺に見せてくるポチの腹を撫でていると、さっきまでグネングネン動いていたポチがピタッと止まる。
何だ? と思って目線を追えば、どうやら俺の両側にいるスーとムーが気になったらしい。
「ポチ。新しい家族のスーとムーだ。よろしくな。スー、ムー。こっちはポチだ。お前達の先輩だぞ」
スーとムーを掌に乗せてポチの面前に出せば、最初はフンフンと匂いを嗅いで確認したのちに、安全と分かったのかペロンペロンと舐める。ついでに俺の手も舐められた。
「両方とも大丈夫か? ポチ。散歩はちょっと待ってな。これ置いてくるから」
「ッ!」
散歩と言う単語にテンションがハイになって、その場でグルグルと回り始めたポチを置いて、一先ず自転車を置きに行くついでに朝食を作り始めたであろう婆ちゃん達に、帰って来たことを知らせるために声を掛ける。
ちょうど台所がある位置が自転車置き場の隣なので、自転車を止めてコンコンと窓を叩けば婆ちゃんが顔を出した。
「お帰り、蒼」
「あら、もう蒼ちゃん帰って来たの?」
お婆ちゃんの後ろから従兄弟の優子も顔を出す。
「ただいま。このままポチの散歩行って来るから紐取ってくんね?」
「はいはい。今日は蒼の好きな白菜のお味噌汁だからね」
「おっ、やっりぃー!」
「はい、散歩紐。帰りにお爺ちゃんと多江婆連れて帰って来て」
「おう! 行ってきまぁーす」
紐と散歩道具を優子から貰った俺は、今か今かと待ち構えていたポチを連れて散歩に出かける。
散歩のコースは決まっていて、いつも家から畑まで向かうのだが、真っ直ぐ向かうと10分程で着いてしまうので、ちょっと遠回りして爺ちゃんの畑の所へと向かう。
爺ちゃんと爺ちゃんの母ちゃんであり、俺の曾祖母であるタエ婆ちゃんは日の出と共に畑仕事をしに行き、俺が仕事を終えてポチの散歩の帰り道で拾うのが、ここ最近の定番となっている。
「おーい! 爺ちゃーん! タエ婆ー!」
視線の先に爺ちゃんの畑を見つけた俺は、都会でやったら近所迷惑になるだろう大声を出して2人を呼ぶと、ぴょこんと2つの人影が畑から出たきた。爺ちゃんとタエ婆だ。
「おーー! ちょっと待ってろ!」
手を振っている爺ちゃんに俺も振り返して、2人が来るまでの待っている間に、ポチにお座り、お手、お代わり、バーンからの死んだフリのコンボで遊んで待っていると、2人が乗った軽トラが来た。
「蒼ちゃん。おはよう」
「おはよう。タエ婆」
「よし。後ろに乗ってけ!」
「ういー。よし、ポチ乗るぞ!」
軽トラの空いた窓から顔を出した2人と軽く言葉を交わしたら、収穫された野菜が置いてある荷台のスペースにポチを乗せてやり、空いているスペースに俺も座って運転席から見えるように手を振ると、軽トラは家に向かって出発した。
「いただきます」
『いただきます』
家に帰って来たら既に朝食が用意されていて、帰って来た俺達3人は手を洗い食前の挨拶を交わして食べ始めた。
今日の朝飯は玄米入りご飯に、婆ちゃんが言っていた白菜たっぷりの味噌汁。それに胡瓜の糠漬けと白菜の浅漬け。
出汁をたっぷり含んだ出し巻き卵に、パリッと焼けた塩鯖。あとは畑で採れたトマトが1人1個ずつ小鉢に入っている。
「うむ。今日のトマトも美味いな!」
塩も何も付けずに、くし切りにされたトマトを食べて感想を述べたのが、俺の爺ちゃんである哲治74歳。
白髪8割、黒髪2割の割合だが、俺とは違ってフッサフッサの毛髪を誇るジジイ様である。
趣味は畑仕事と晩酌で、婆ちゃんに叱られながら「もう一杯。あともう一杯だけぇ〜」と、毎晩同じ事を繰り返している。
「蒼。お味噌汁いっぱい作ったからお代わりしても大丈夫よ」
俺の対面に座り、そう言ってくれたのが爺ちゃんの奥さんである美千代68歳。
爺ちゃんとは幼馴染の恋愛結婚で、爺ちゃんが押して押して婆ちゃんが16の時に結婚。そのまま次の年には俺の親父を産んで、その後も3人も産んだお婆様である。
ややぽっちゃりしているが、同年代の婆さん達に比べたら断然若く見えるタイプで、そんな婆ちゃんに爺ちゃんは今でもメロメロであるので、この家で1番発言権が強いお人である。
「ちょっと前失礼ー」
俺の隣に座り、反対側に置いてあった塩を取ったのは従兄弟の優子23歳。
化粧っ気は無く、キチンとしたらモテそうな外見をしているものの、そのせいで色々面倒ごとに巻き込まれた所為で、人間関係が面倒になりこっちで暮らしている。
と言うよりも、元々コイツは化粧やファッション、恋愛話などの女が好きそうなことよりも、ミミズやカエルの方が好きな変わった女だった。
子供の頃やっていた毎年恒例の、蝉の抜け殻取り競争でいつも1位を取っていたので、今の生活の方が生き生きとしている。
「蒼ちゃん。明日、和菓子買って来てくれるかい?」
「いいよ。何にすんの?」
「何にしようねぇ? 蒼ちゃんが選んでおくれ」
「分かった。取り敢えずタエ婆が好きな餡子が入ってるやつ買ってくるわ」
そう言って100円を出したのが、この家の最長老であるタエ婆90歳である。
90歳と侮るなかれ! 俺より量は少ないものの、出された飯はペロンと平らげてしまうし、平気で何時間も畑仕事をこなしてしまう曾祖母ちゃんである。
そんなタエ婆に長寿の秘訣を聞いてみたところ、
「好きな物を食べ、好きなことをし、好きな様に生きる」
と言う名言を言っていた。
以上がこの家で暮らす全員である。
あとは、この家のどっかにいる猫2匹と池にいる金魚数匹だ。
猫は両方とも雑種で、捨てられていたのを爺ちゃんが拾って来たメスのミケと、オスの黒白である。
金魚は祭りで取ってきたのを池に放置していたら、だんだんとデカくなって生き残った奴らだ。暫く振りに見た時には、あまりの巨大さにビックリした。
「なら、私ダッツの新商品で。お金は後で払うわ」
「あいよ」
優子からもおつかいを頼まれたので、忘れないうちにスマホのメモに記入しておくために、ポケットに入れてあるスマホを取り出そうとしたら、ふにゅんとした感触に当たった。
あっそうだった。
ポチと挨拶した後に、ポケットに入れたこいつらのこと忘れていたわ。