第6話 神は異世界に帰り、俺は家に帰る
更新日を決めました。
2作品やっているので、月初めの週に投稿します。
今月のように、予定があってずれる可能性あり。
今月は3つ分で、明日も投下します。
「うわっ! おい、アイオーン。スーとムーが喋ったぞ!」
「ムーー」
「スーー」
今だに鳴き声を出しているスーとムーを掴み、俺はアイオーンの元へと走って持っていけば、作った本人はあっけからんとしているばかりか、ムシャムシャとコロッケを両手で掴み食べていた。
「……んくっ。えっとね、どうせ新しく作るんだから面白いのにしようと思ってね。向こうのスライムじゃ出来ないような、学習能力や感情を『8-10スライム』に付けたんだよ」
コロッケを飲み込んだアイオーン曰く、向こうの世界でのスライムは無言で、戦闘中であってもほとんど殺気を感じないくらいに感情の表現が乏しいらしい。
むしろ「無」と証言しても良いほどに無いのだとか。
それで地球での基礎知識を学習している際に、喋るスライムが載った小説をいくつか見つけたアイオーンは、これは面白いと『8-10スライム』であるスーとムーに付けたのだと言う。
『8-10スライム』とは、スライム、ビックスライム、ポイズンスライムなどの名称のようなもので、ここに転送出来る機能を持ったスライムの名前のようだ。
もちろんスーとムーも『8-10スライム』と言う訳だ。
「蒼がスーとムーに色々教えたら、自分で掃除とかするようになるはずっ! あと、独り身で寂しい時の癒しにねっ!」
って、アイオーンはビシッと俺を指差しながら言ったが、ソースが口の端っこに付いているので残念な子みたいになっている。
「独り身で寂しいとかほっとけ。……まぁ、仕事が終わった時に鳴いて知らせてくれた方が確かに便利だな」
独り身云々は置いておいて、実際にスーとムーが与えた仕事を終えたら呼んでくれるのであれば、俺は離れた場所で仕事が出来るのでそっちの方が便利だ。
それと、ソースのことも言っておくか。
「あと、アイオーン」
「ん? 何だい蒼」
「口の端にソース付いてるぞ」
「むむっ!」
キョトン顔でこっちを見ているアイオーンに、分かりやすく俺の顔でソースが付いている場所をトントンと指差せば、ペロンと自分の口周りのソースを舐め取った。
「取れた?」
「取れた。それじゃあ、俺は仕事の続きするから、何かあったら呼んでくれ」
「はーい!」
ソースが取れたことを確認したアイオーンは、再びコロッケを美味しそうに食べ始めたのを見て、俺も残っている仕事をやりにスーとムーを引き連れて戻った。
○
「それじゃあ、僕そろそろ帰るよー!」
「お前、結構居残ったな」
ホットスナックを食べ終えたアイオーンは、仕事中の俺の後を雛鳥の様に付いてきたり、店内の商品を手に取っては眺めたりして、俺の勤務時間終了間近まで居残っていた。
「ふぅー。やっと仕事が終わる。にしても、5時間近くウロウロしていたが、飽きないか?」
休憩時間を入れていても、さすがに5時間も働いていれば俺は疲労困憊状態だが、アイオーンは最初に会った時よりも元気そうだ。
「全然! どれもこれも目新しい物ばっかりだったから、時間なんてあっという間だったよ!」
「さいで」
「蒼は逆に元気無いね?」
レジを挟んで俺の顔を心配そうに覗き込むアイオーンだが、その原因を作った奴に言われたくは無いな。
「そりゃあ、誰かさんが仕事中の俺に『これ何?』『これどうやって使うの?』って、事あるごとに聞くからだろうが!」
「あはは。だって、どれも見たことのない物なんだもん。気になっちゃうってば」
「お前っ……。はぁ、まぁいいや。んで、そっちの世界の住人はどうやって選ぶつもりなんだ?」
ケラケラと悪気無く笑うアイオーンに、一瞬殺意が湧いてしまったがそれを引っ込めて、異世界の住人がどうやって来るのかを聞いてみる。
地球と異世界を繋ぐスライムは作ってしまったので、あとはどうやって地球に来る向こうの住人を選定するのか。
これは俺にはどうする事も出来ない上に、アイオーンの匙加減で決まってしまう。
「全員で、あっ僕を入れて全員ね。全員で最初は100人をこっちの世界に行けるようにするつもりだよ」
「ひ、100人! ちょっ待て待て。さすがに100人来られても困るぞ!」
100人って言えば、俺の夜勤時3〜4日分くらいの人数だ。そんな人数がいっぺんに来られても対処が出来ないと、俺はアイオーンに詰め寄って無理だと言うが、アイオーンは両手を俺の前に出して宥めた。
「まぁまぁまぁ、最後まで話を聞いてよ。100人って言っても、僕が実際に『8-10スライム』をあげるのは1人だけだ」
「1人?」
「そう。それ以外のスライムは世界中の適当な場所に撒いて、それを見つける事から始めなくちゃいけないから、よほどの事がない限り100人が一斉にここへ来るなんて事は起こらないよ」
「なっ、なるほど。それなら確かにしばらくは大丈夫だな」
「うんうん。それにスライムだからね。同じ場所にジッとなんてしないから、余計に見つかるのが大変だと思うよ」
アイオーンの言う言葉を聞きながら、俺はふと思い出したのだが、スライムってモンスターじゃね? と、それでモンスターって討伐されるんじゃね? と。
「なぁ、そっちのスライムって討伐対象じゃないのか? やられたりしないか?」
「それは大丈夫! 襲われなければ雑魚だけど、襲われたら物理、全属性、全異常状態、完全無効のスキルが付くから、無敵にはなるよ!」
「……いや、それって最強じゃねぇーか」
物理も魔法も状態異常でさえも効かない敵とか、これがゲームならばバグってるか、クソゲー認定されてもおかしくない敵だ。
「ただ溶かす以外の攻撃方法がないから、本当に襲わなければ雑魚中の雑魚なんだよねぇ」
「まぁ、襲われないんだったらいいや。いや実際には襲われるかもしれないんだが、死なないんならいいや」
スーとムーに、愛着がちょっぴりと湧いてしまった俺としては、違う個体だとしても同じ見た目のスライムが討伐されるかもしれない状況は、あまり嬉しくない。
「あとは、何かあったら追い追い追加していてばいいだろ。どうせキャンセルも出来ないんだからな」
何かが起こってからでは遅いと言うが、その何かが何であるのかが分からなければ対策のしようもないと言う訳で、突拍子も無い出来事だが、今はこのまま進めるしかない。
「それじゃあ今度こそ僕帰るね。んーと、あっちっだと夕方の5時ごろかな? あいつ今風呂に入っている頃かな?」
「何ぶつくさ言ってんだ?」
「んーん。何でもないよ! それじゃあ蒼。またねー」
「はいはい。ありがとうございましたー」
『テロンテロン。テロンテロン』
手を振りながら自動ドアを通っていったアイオーンの姿は、忽然と何処かへと消えてしまっていた。
そのまま閉じた自動ドアの先には、いつもの見慣れた風景が広がっているが、そこにはアイオーンの姿は何処にもない。
しばらくそのままドアの先の駐車場を眺めていれば、交代の早朝の人がやって来た。
『テロンテロン。テロンテロン』
「ふぃー。4月でも朝は寒いねぇ」
「田辺さん、おはようございます」
この人は田辺さん。爺さんの知り合いでバイクで通勤している60過ぎだが元気な老人である。
趣味はバイクで、ここで得たお金もバイクでの旅行に使うほどのバイク好きだ。
最近の悩みはヘルメットを着用の為、元々薄かった頭髪がさらに薄くなって来たこと。
『テロンテロン。テロンテロン』
「蒼ちゃん、田辺さんおはよう!」
「はい。美影さんおはよう」
「おはようございます」
元気に挨拶してバックルームへと颯爽と向かったのは、美影さん。40代のパートの人で、男子4人を育てている肝っ玉母ちゃんである。
ちなみにその男子達は高2、高1、中2、小5で、上の2人はここの夕勤で働いていたりする。
「よし、俺もぼちぼち家に帰るか」
交代の人も来たので6時ピッタリに退勤し、俺はチャリに跨り家へと帰宅した。
次回予告
「俺の家族を紹介する」