第71話 プリン大会貴族編3
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「では、全ての審査が終了した。参加者全員をここに」
公爵家最期の参加者の審査を終えて、コンラート様は立ち上がり階段下へと向かいました。
私たちもそれに従い、コンラート様の後に続きます。
しばらくすると、別室で待機していた参加者たち全員がこの場に集まり、階級順に5列に並び傅いたのを、私たちは見下ろしました。
今回の参加者は12名で、各々が別室で他人に話さなければ、自分の結果のみを知っているだけなのですが、審査の結果に満足そうに笑みを浮かべているのは、40点台を出した高評価を得た者たち。
審査の結果に満足せずに、もっと研究しようとメラメラと闘志を燃やしている者も数名います。
さらに不出来な者を出してしまったと、意気消沈してしまっている者もいた。
そんな様々な感情が読み取れる者の中から、今回のプリン大会の上位3名の名前が呼ばれました。
「此度のプリン大会の、上位3名の名を呼び上げる。名を呼ばれた者は前へ来るように。
では、第3位は……リニエリクス男爵夫人!」
「まぁ! 私ですか?」
名を呼ばれたリニエリクス男爵夫人は、まさか自分が呼ばれるとは思っていなかったのか、おっとりと驚いた声を上げましたか、直ぐに立ち上がりコンラート様の前へと出てきます。
「リニエリクス男爵夫人のプリンは、自身の土地の名産である南瓜をふんだんに使っており、その南瓜の甘みを生かした優しい仕上がりが高評価となった。
ただ、我々に出すには見た目が地味であったので、その点で点数が引かれてしまったので3位となってしまったが、味は申し分なかったぞ」
「まぁ。私には勿体無きお言葉です。ですが、今回の結果は領民の皆の努力があってこそだと思うので、領地へと戻ったならば、共にこの結果を喜びたいと思います」
「うむ。そうするが良い。では、第2位はーー」
ほっこりと頬を染めたリニエリクス男爵夫人の隣に、公爵家の者が並びます。
彼が提出したプリンはやや平たい形状で生クリームが塗られており、その上に色とりどりのフルーツを花のように飾り立てていました。
そのため、プリンと生クリーム自体はかなり甘めの仕上がりでしたが、酸味の強いフルーツを使っていたため、他のプリンに比べるとバランスが取れていたように思えます。
「では、第1位を発表する。今回のプリン大会で唯一、我々が満点を出して堂々の1位を取ったのは、クラウス子爵である!」
会場は割れんばかりの歓声と拍手が鳴り響く中、クラウス子爵が前へと出てきてコンラート様の傅きました。
クラウス子爵が提出したプリンは、味、見た目共に私たちを満足させる仕上がりだったので、得点を発表した時は会場が騒然となりました。
何故なら全員が10点満点の、50点満点となったからです。
まず、見た目が素晴らしかったのです。
まるで皿を含めて、小さな箱庭がここにあるのかと思ってしまうほどに目を奪われてしまいました。
「これは、見事ですわね」
プリンが出された時、思わずと言った感じでエンリステラ様がポツリとこぼしてしまうほどなので、それが如何に素晴らしいかが伺えます。
クラウス子爵が持って来たプリンは、薔薇の細工が縁に施された平皿で、縁には掛からないように粉糖で一面が白く飾られたいたのです。
その中心には真っ白の薔薇の砂糖菓子が大輪の花を咲かせており、その下にちょこんとプリンが顔をのぞかせています。
その周りには、赤いベリーソースが点々と円を描くように点在しているのが美しかったです。
「わぁー! こんな砂糖菓子見たことないよ! これはどうやって作ったんだい?」
「そうですわね。私の専属料理人にも学んでほしいわ」
アイオーン様は目をキラキラとさせてプリンを見ており、エンリステラ様も見事な砂糖菓子にウットリとしています。
けれどクラウス子爵は、苦笑しながら首を横に振りました。
「残念ながら、それは私の専属料理人たちが頭を悩ませながら作ったものですので、彼等の了承が無いまま、私が作り方を話すわけにはいきません。
むしろ、私は彼等に任せっぱなしだったので、私でさえも知らないのです。なので申し訳ありませんがお答えできません」
彼は甘い物が苦手だったはずなので、もしかしたら味見もしていないのかもしれませんが、それでもクラウス子爵に恥をかかせてはいけないと、きっとクラウス子爵の料理人たちは頑張ったのでしょう。
「まぁ、それは残念だわ。けれど、料理人たちの了承が得られたのならば、きちんとした報酬で作り方を学ばせたいと思っております。
その時はお力をお貸しくださいな」
「ええ。それはもちろんです」
「ふふ。ではその時を待ちますわ。けれど、このざわめきを見るに、この後に審査される人が可哀想ね」
エンリステラ様が言うように、私たちを含めて会場にいた全員が、それがプリンだとはぱっと見では分からなかったです。
何故ならプリンよりも先に、砂糖菓子で作られた見事な薔薇が咲いていたからですが、そのせいで会場のざわめきがなかなか引かず、さらにクラウス子爵の後に来る参加者の評価にも響いた程でした。
しかし彼のプリンは見た目だけではなく、味の方も見事としか言いようがない美味しさで、甘さ、酸味、苦味がちょうど良いバランスでした。
さすが、使用人たちに絶大な信頼をされていると評判のクラウス子爵だと、実食の際は思いましたね。
「クラウス子爵のプリンは、見た目、味、共に文句も付けようが無いほどの品であった。特に薔薇の砂糖菓子が見事とした言いようがなく、エンリステラでさえも魅了された程だ」
「有難いお言葉、勿体無き幸せでございます。今回の評価は使用人も含めた、我が家全員の誇りとなるでしょう」
クラウス子爵は自分だけの評価ではなく、クラウス家に仕えている全員の評価であると、誇らしげです。
「では、第一回のプリン大会の上位参加者はこの3名である。皆、拍手で讃えよ!」
コンラート様の言葉に、会場が再び割れんばかりの拍手で埋め尽くされます。
「3人ともおめでとー! 3人のプリンはね、すっごくすっごく美味しかったよ!」
私のそばを離れ、クラウス子爵たちの方へ駆けて行ったアイオーン様は、如何に美味しかったかを話していますが、神から声を掛けられたことが無い3人は、ちょっと顔を引きつらせています。
……しょうがありませんね。助け舟を出しますか。
「アイオーン様。あなたは一応神なのですから、あまり彼等を困らせないように」
「えぇー。けれど美味しかったから……」
「それはわたしも同意します。なのでこの後、あなた達はお時間はありますか? 少し話したいことがあります」
私の私による私のためのお話合いを、この3人としなければなりませんからね。
絶対にイエスと言うまでは逃がしませんよ。
「えぇ? まぁ、はい。私は大丈夫ですわ」
「私も大丈夫ですが……」
「ははっ。君はあいかわらずだねぇ」
2位の公爵家の方はコンラート様の傍系に当たる方で、もちろん私とも何かしらの血縁者であると言うわけです。
なので、私が甘党だと言うことも認識しており、甘さ100の甘味に私が辟易しているのを知っているアドバンテージがあるので、彼が提出したプリンは他の参加者に比べると、月とスッポンの差がありましたね。
「これにて第1回、プリン大会を終了する!」
こうして初めてのプリン大会は、若干のアレはありましたが大成功を収めました。
パラパラと会場から人が帰りますが、私にはまだやるべきことがあります。
むしろ、私的にはここからがプリン大会の第2ステージなので、負けるわけにはいきません。
異世界コンビニに、いつまでも任せるわけにはいきませんからね。
こっちでも私好みの甘味を作るためならば、少々の無茶ならばやってみせましょう!
今回の小話
会場から審査員以外がいなくなった時。
王「うぇっぷ。やっぱりプリン12個はやり過ぎたな。胸焼けが……」
妃「あら、大丈夫ですか? ……年かしら?」
王「……エンリステラは平気なのか?」
妃「えぇ、もちろん。むしろ、貴方以外は全員平気ですわよ?」
騎「はい。鍛えているからですかね? アレくらいならペロリでしたよ」
神「僕もーー!」
宰「そうですね。私はまだまだ足りないくらいですが? おっと、私はこれから用事があるので失礼します」
王(……え?儂だけ?儂だけなのか?……儂以外、みんな変)




