第70話 プリン大会貴族編2
ブックマーク、感想、評価ありがとうございます。
「これは……。何と言うか」
「うぇー、なんだよ」
「ですよね。私も同じ気持ちです」
男爵位最期の参加者で4番目である、シメイズーマ男爵のプリンを食べた私達は、揃ってその味に悶絶しました。
「どうでしょうか? 皆様方! 卵は最も価値の高いと言われているドラゴンの卵、ミルクは最も価値の高いと言われている、北国のレーチェロッホを使用しています。さらに、砂糖は最高級の物をふんだんに使用しているのです!」
使用した材料が如何に高価で最高級の物を使っているのかと、自信満々にこの場にいる全員に語るシメイズーマ男爵。
貴族である私達は、幼少の頃より表情を表に出さない訓練を受けています。故に、アイオーン様以外の我々からは味の判断が出来ないのでしょう。
「確かに、ふんだんに砂糖を使っているのですね。この砂糖菓子の細工の美しさは素晴らしいと思いますわ。シメイズーマ男爵、今度私のお茶会の砂糖菓子を貴方にお願いしようかしら」
「おぉ! エンリステラ様からその様なお言葉を頂けるとは、我が料理人も光栄でしょう!」
私は異世界での甘味に慣れてしまったので忘れていましたが、元々はこの様に甘ったるい菓子が貴族間では優秀とされていました。
理由は簡単で、高価で価値のある砂糖をふんだんに使った方が、お金を沢山かけたから贅沢品ということ、その贅沢品を惜しげも無く食べることができるのは貴族のみ、となるからです。
故にエンリステラ様は、この甘ったるいプリンに対して不満は無い様です。
なにせ、プリン自体は食べ慣れていなくても、この甘さは食べ慣れているのですからね。
……私はこのジャリジャリした甘さが、嫌なんですけどねぇ。
さらに、プリンに施された細工に対しては満足している様子です。
私も見た目は満足しており、シメイズーマ男爵が持ってきたプリンは、丸く平べったい器で作られたプリンで、表面は粉糖で雪が降った様に白く、その上に砂糖で作られた花々が咲き乱れているので、まるで雪の上に花が咲いている様に見えるのです。
「他の皆様方もいかがですかな? 我が家の財を尽くしたプリンの味は!」
さて、会場内に響き渡る声で尋ねたこのシメイズーマ男爵は、彼の父の代で男爵となった人で、元々は一二を争う大商会の1つでありました。
確か資料によると、彼が成人して間もなく貴族位になっていたはずです。
貴族となってからも、父の代では実に上手く商売をなされていた印象がありますが、息子に後を継いだ店は少々経営が難しいと聞いています。
彼の父は実質剛健の様な人で真面目だった印象がありますが、やはり彼の息子はどちらかというと、身に余る権力を持ってしまったかの様に感じるので、もうそろそろこちらも動かなければならない時が来るでしょう。
こっそりと聞いた話によれば、男爵は今回のプリン大会で、かなりの大金を使い果たしたと聞いたからです。
「では、得点に入る」
私がシメイズーマ男爵に対して今後のことを考えていると、隣のコンラート様の声が聞こえたので、頭を切り替えます。
とりあえず、今はプリンの評価ですね。
「ごめんねぇ、4点」
「3点です」
「5点じゃ」
「……8点ですわ」
「7点です」
「……シメイズーマ男爵27点!」
『ーーーーーーーー!?」
男爵の爵位の中で、私達3人が揃って低評価を出したことにエンリステラ様は動揺を隠せなかった様で、発表をする時に間が空いてしまった様に、会場内が騒然となりました。
リニエリクス男爵夫人とシメイズーマ男爵の間で評価した点数は、どれも35〜40点台だったのに対し、ここに来て初めて30点を下回る評価となったからです。
「な、何故です! どこがいけないというのですか! このプリンは我が家で出せる、最大級の食材を利用したプリンですぞ!」
先ほどとは打って変わって、顔面を怒気で赤く染めているシメイズーマ男爵は、1番低評価を出した私を睨みつけながら問いかけます。
ですが貴族たる者、感情が表に出る様では話になりません。
チラリと周りを伺えば、私に怒気を飛ばすシメイズーマ男爵に対し、騎士団長も薄っすらと殺気を纏わせていますし、エンリステラ様の目はとことん冷めているので、シメイズーマ男爵のこの対応に完全に見限ってしまったのでしょう。
コンラート様は私がどう対応するのかニヤニヤしているので、あとでお仕置きと評してお仕事をたっぷりと差し上げなければなりませんね。
あとはアイオーン様ですが、アイオーン様はニコニコしています。
憶測ですが僅かに頬が膨らんでいるので、口直しで食べたであろう飴玉の美味しさに、ニコニコしているのでしょう。
と言うことは、異世界コンビニの飴玉に違いありませね。私も持って来ればよかったです。
さて、会場中の貴族が黙っている私に注目しているのが分かるので、そろそろ黙っているわけにもいかなくなったので、私はつらつらとこのプリンに対する味の感想を伝えました。
「私は常々思っていたのです。今の砂糖を使い過ぎたデザートは、あまりにやり過ぎで不味いと言うことに」
「しかし、貴族のデザートといえば、砂糖をどれだけ使ったかのーー」
「ええ。もちろん知っていますよ。しかし、貴方が持ってきたプリンはあまりにも不味かった」
「な、なななっ!」
私の言葉を最後まで聞かずに、反論するシメイズーマ男爵の言葉を遮って肯定するとともに、決定打を言いはなった。
不味いと言われたシメイズーマ男爵は、ぷるぷると震えて二の句が告げないみたいですが、私はさらに味の評価を続けます。
「仮にこれが砂糖菓子の大会であるのならば、貴方は上位に食い込めるのかもしれません。
それエンリステラ様が、お茶会で使いたいと言うほどの細工だったことからも、ここにいる皆さんが証人となるでしょうし、皆さんもその造形には感嘆したと思います。
私も見た目だけの審査ならば、シメイズーマ男爵のプリンに高得点を付けただろうと思います。
しかし、今回はプリン大会です。
評価のつけ方は美味しいか不味いかの、この2つにひとつなのです。
もちろん見た目の評価も加算対象となるのは当然ですが、貴方のプリンは味の部分で台無しでした。
まず1つに、ドラゴンの卵は確かに高価で貴重ですが、プリンにするにはいささか味がくどいです。
濃厚とは紙一重ですが、ドラゴンの卵で作るならばミルクはアッサリした物で作る方が、味は喧嘩しなかったと思いますよ。
それかミルクのレーチェロッホを使うのならば、卵は普通のにしてミルクプリンとした方が、味のバランスは取れていたと思います。
さらにこれが一番の減点対象なのですが、貴方は砂糖を使い過ぎてプリンを台無しにしています」
「……台無し?」
私の解説を聞いて、肩を落とし始めたシメイズーマ男爵は、ふらふらと立っているのがやっとの様子です。
反論することもせずに、ただおうむ返しで聞き返すだけでした。
「ええ。プリンは元々、ぷるん、つるん、とろんとした食感が大事なのです。
しかし貴方が持ってきたこのプリンは、砂糖を入れ過ぎたせいでしょう。砂糖が溶け切らずにザラザラ、ジャリジャリとした食感がします。
それが私にとっては不快感となり、低評価に繋がったという訳です。
仮にですが、出来るだけ甘いプリンを作りたいのであれば、このカラメルの部分を苦めに作ったりした方が、味のメリハリが出で美味しく最後まで食べることが出来たと思うのですが、貴方のは最初から最後まで、口の中が痛くなる様な甘さのプリンでは最初の2、3口食べただけで要らない甘さだったのです。
以上が、私がシメイズーマ男爵のプリンに低評価を下した説明です」
途中から、異世界コンビニで食べたプリンの味を思い出しつつ、改良点に付いても述べてみたのですが、シメイズーマ男爵には聞こえたのでしょうか? 今は俯きピクリとも動きません。
「ふむ。ヴォルフの評価は儂も概ね同意見だ。其方は価値の高い食材に、目を向けただけだった様じゃな。
では、次が待っているので退出せよ!」
コンラート様の一声により、騎士に連行されて行くように去ったシメイズーマ男爵。
少し大会が騒がしくなってしまいましたが、このまま続行するようで、次の参加者がやって来ました。
今回の小話
王「では男爵位全て終了したので、小休止を取る!」
その一言で、味についての感想に盛り上がる会場。そんな中、
宰「アイオーン様。1つお願いがあるのですが」
ア「何かな?」
宰「いえ、口直しに飴を1つ頂けたらと」
ア「あぁ、さっきのは不味かったもんねぇ。良いよ。何味がいい?」
と言って、布袋の中を見せるアイオーン。
宰「これまた随分と……え? もしや、あの店の飴全部入ってませんか?」
パンパンの布袋を見て、ちょっと引いてる宰相。
ア「うん、まぁ君に言われたくはないよね」




