第5話 スーとムーの実力。アイオーン初めてのホットスナック
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「やべぇ! こんな呑気に話し込んでいる場合じゃなかった!」
俺は慌ただしく雑誌が入っているダンボールを台車に乗せると、急いで入り口付近の雑誌スペースがある場所に置いておく。
「えっ? えっ? 蒼! 一体どうしたのさ」
いきなり慌てだした俺に驚いたアイオーンが声をかけて来るが、今はそれどころではない。
俺の所では、深夜0時頃になると雑誌やコミックを配達しに来るのだ。だから俺は慌てて、返品予定の雑誌が詰まったダンボールを入り口近くに置いておかなければならない。
じゃないと配達のおっちゃんが待つ羽目になるからだ。それが次の配達の遅延になってしまうのだから。
これが俺が慌てた理由である。
「まだ、トラックは来ていないな。ならその間に廃棄取って……ノートノート」
監視カメラに映っている駐車場には、運送トラックはまだ映っていなかったが、いつもならそろそろ来る時間だ。
時間潰しも兼ねて、待っている間に夕勤の頃から残っているホットスナックを廃棄にするためのノートを探す。
「それどうするんだい?」
俺がノートに廃棄をメモしていると、アイオーンがノートを覗き込みながら聞いて来た。
「ん? これは販売時間が過ぎたから廃棄にするんだよ。あと、そろそろ人が来るからあっちにーー」
「えっ! それ捨てちゃうのかい?」
俺が言った捨てると言う言葉に驚いたアイオーンだったが、これは夕勤の人達が20〜21時までに揚げたのがほとんどで、これから先やって来るお客さんは、せいぜい10人来るか来ないかなのだ。
なので、ずっと置いておく訳にもいかない上に、洗い物もしなきゃいけないのだ。それに節電も込めて、深夜から早朝まではフライヤーは揚げない事になっている。
ここと比較的近い、駅の両入り口にあるコンビニは、深夜になっても賑やかなので揚げ物をずっとやっているそうだが、それは客が定期的に買ってくれるからであって、ここのように置いておいても誰も買わない店は、早々に片付けて洗ってしまう。
それに駅のコンビニはバイトも多いから、洗うのも短時間でやって、直ぐに次の揚げ物を陳列出来ると言っていた。
これはばぁちゃんが井戸端会議で仕入れて来た情報だ。
それとここで働いていて驚いたのが、深夜3〜5時頃に年配の客が結構来る事だ。だから、向こうのコンビニの事も知っているんだろう。
それと、ここは5時頃になるとドンと人数が増えるのだ。それまでに仕事をあらかた完了させておかないと、間に合わない。
「いや、ここに置いておいても客が来なけりゃ誰も買わないだろ? だから廃棄にすんだよ。じゃなきゃ、これ洗えないし」
「えーだったら僕が買うよー!」
いま陳列されているフライヤーは、アメリカンドックと唐揚げスティック、あとはコロッケと揚げチキンの計4つ。合計で509円だ。
「買うっつっても、金はあるのか?」
「それは大丈夫! スー」
そう言ってスーを呼んだアイオーンは、コインを1枚スーの中に入れると、コロンと500円玉が出て来た。
「ほら、これでそれ全部買えるでしょ!」
「……いや、9円足りないんだが」
「なっ……!」
ガーンと、驚愕と絶望が入り混じった顔をして固まったアイオーン。もしや、それしか金を持って来ていないのかと思い、差額分は奢ってやる事にした。
「いいよ。足りない分は俺が出しておいてやる。一応このレジの裏が飲食スペースだから、そっちで食べてくれ」
「そっ……蒼〜!」
商品を個別で紙袋に入れて、手提げ袋に入れて感激しているアイオーンに手渡し、そのままレジを操作して会計を済ませる。足りない分は俺の財布から入れておいた。
「ほら、これがソース。そのままでもコロッケは美味いが、物足りないならコロッケにかけて食べろ。この透明なテープな。
んで、こっちがケチャップとマスタード。このオレンジのテープを貼っているやつにかけて食べろ。もちろん、人によってはかけないで食べる人もいる」
「はーい!」
袋に入っている商品を説明して、レジの壁を隔てた隣にある飲食スペースに案内すると、アイオーンはいそいそと袋から商品を取り出して食べ始め、ちょうどそのタイミングで配達のおっちゃんが来た。
「お疲れっす」
「ウス、お疲れ様っす」
返品のダンボールを乗せたカートを持って行き、新しい雑誌を乗せて戻って来たおっちゃんと受け渡し作業が終わると、俺は納品作業に入る。
ただ、その前にアイオーンに確認しておく事があった。
「なぁ、アイオーー」
「蒼! これすっごく美味しいよ! この棒に刺した肉はザクザクで美味しいし、こっちの棒も甘くてパンみたいで美味しいんだ! それに、このお肉も肉汁がブワッてなって、こっちの変な形のはサクサクでホクホクなんだよ!」
どれも一口ずつ齧った後に俺が声を掛けたもんだから、アイオーンからの怒涛の食レポを披露された。だが、それは後で聞いてやろう。今はスーとムーについてだ。
「アイオーン。その感想は後で聞くから、今は全部食べろ。冷めて不味くなるぞ。
それと聞きたい事があるんだが、あのスーとムーは何が出来るんだ?」
せっかく貰ったものだ。有効活用しないと勿体ないが、いまいち俺が有効に使える機能を聞いていなかったので、確認を取りたかった。
「えっふぉえ。んくっ、スライムだから何でも溶かせちゃうよ。だからゴミや汚れを指示すれば、それを溶かして綺麗にするのさ」
「それって何でも可?」
「何でも可!」
何と言う便利な機能! これさえあれば俺が掃除をしなくていいのだ! それに、
「生き物もいけるのか?」
「えっ? そりゃあいけるでしょ。だってスライムだよ?」
これはなんて朗報なんだーー! 今は4月だが、もうハエや小虫なんかは店内に入り込んでいるのだ! 別に虫は苦手ではないが、だからと言って好きでもない訳で、出来るなら触らずに処分出来る事に感激する。
「よし! ならスー、ムー。2人はこの中を綺麗にしてくれ。これらとこの入れ物は店のだから壊すなよ。こっちがスーで、こっちがムーな」
俺は早速、縦半分に区切ってスーとムーにフライヤーが入っていたケースと容器を、掃除させてみる事にした。
電源はすでに切ってあるので、照明が落とされたケースの上段に2匹を入れて、その間に俺は雑誌の納品を済ませておく。
今日の納品分は付録が付いているものが無いので、すぐに終わりそうだ。
ちなみに、俺的に付録付き雑誌で一番大変なのは、あの分厚い結婚用雑誌である。なんせあの重さなので、雑誌が折れないように注意しながら付録を挟むのが大変なのである。マジで知っている人は知っているだろう、あの重量感だ。
「どうだ? 終わった?」
納品が終わり、ついでにカートを片付ける途中でフライヤーケースを見てみれば、ピカピカと綺麗に汚れが取れていた。
しかも、側面とかに付いていた油汚れも綺麗に取れている。
「……!」
「……!」
「おぉ! これは!」
フライヤーケースの上で、うにょんうにょんと交互に上下運動をしていたスーとムーを掴み、良くやったと撫でる。
これは他の掃除でも期待が出来る!
「終わったばっかで悪いんだが、このゴミも食べれるか?」
俺は雑誌の納品の際に出たゴミも、スーとムーに聞いてみると2匹はみょんと飛び移り次々に取り込んで溶かしていく。
「おおー! これなら向こうでゴミの心配も無いな」
全て溶かし切ったスーとムーは再び上下運動をしたので、これが終わったという合図なのだろう。
「スーとムー! お前達、最高だな」
「……スゥ〜!」
「……ムゥ〜!」
そんな2匹を両手に乗せて顔の近くまで運び褒め称えると、驚いた事に鳴いたのである!
最近の付録って凄いですよね。
バックが多いですけど、たまに化粧品類も見かけます。
フライヤーの中で、個人的に好きなのは辛い鳥が好きです。
ただ、揚げたては肉汁注意報です!←実際にこぼした事有り。
次回予告
「神は異世界に帰り、俺は家に帰る」