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第67話 愚痴りグチぐち

ブックマーク、感想、評価ありがとうございます。

 七夕も過ぎ去りしある夜。

 プリン大会が本格化してきたので、普段ならばささっとコンビニで買い物をして、ササっと帰って行く異世界の面々であるが、今日に限って俺の目の前でどんよりとした雰囲気のおっさんが、2人いる。

 王様と教皇様だ。


「2人ともどうした? 何だか心なしか、周りの空気がどんよりとしているけど……」


 普段は溌剌としているのに、どんよりというかぐったりしている2人を心配した俺が声をかけると、王様と教皇様は遠い目をしながら似たようなことを言った。


「もう……儂は疲れた」

「もう……儂は飽きた」


 王様は燃え尽きた様に、教皇様はテーブルに突っ伏しながら言ったその言葉を、俺は反芻する。


「王様の疲れたってのはどうせプリン大会関連の執務がハードだ―ってことだろ? けど、教皇様の飽きたって、何に?」


 すでに数多くの参加者が集っているらしいプリン大会で、主催者の1人である王様は日々積み上がる書類の山に後悔をし始めているらしい。

 日に日にやつれていく王様をここで見ていたから、原因は分かる。


「今考えてみれば儂は甘い物は好きだが、アレほど甘い物には執着はしていないのに、何故この様な大変な事をしでかしてしまったのか。

 誰だ! プリン大会をやろうと言ったのは!?」

「いや、王様でしょ」

「ぐぬぬぬぬぬ」


 王様が言うようにもう1人の主催者でもある宰相さんは、日に日に量が多くなる書類の山を片付けるために、徹夜でもしているのか目が爛々としてきているのが怖い。

 けれど、あの人の場合は有名な料理人が大会に参加すると分かってから、絶対にプリンを食べてやるんだと躍起になっているだけなので、ある意味いつもの宰相さんである。


「王様のは自業自得だとして、教皇様はどうしました?」


 俺は自爆している王様をスルーして、いつも元気溌剌のゴリマッチョであるはずの教皇様が、何故か胸元を握り締めながらテーブルに突っ伏しているこの状態を見て、尋常じゃない事態が起こったのだと悟り声を掛けた。


「うぅえ。2人とも聞いてくれぬか。儂のところのシスターと子供達も、平民枠でプリン大会に参加することになったんだが、その試作として毎日毎日デザートにプリンが出てくる様になってしまったのだ」


 教皇様の所も大会に参加するようで、朝、昼、晩の食事の際、試作と称してデザートにプリンが毎回出るようになったそうだ。

 胸の辺りを抑えているのは、お昼に出たプリンを食べたせいで胸焼けを起こしているからだそうだ。


「最初はまだ良かったのだ。……いや、初めて知った調理法に四苦八苦していた様で、最初のプリンは見た目も美しく無くボソボソしていたりであまり美味くは無かったのだが、初めて作ったのだからと、最初はそんなもんだろうと思っていたので、あまり気にしてはいなかったのだ」

「そう言えば、アイリーンも最初は似た様なこと言っていたな。多分ボソボソしちゃったのは【す】が入っちゃった所為だな」


 今回王様達に教えたプリンのレシピは、異世界の食材や調理器具を考えた結果、蒸しプリンを参考にしている。その蒸しプリンの最大の天敵とも言える【す】の原因は、蒸す前の液体に気泡などが入っている場合と、蒸す時の火加減が強すぎた場合があるようで、助けを求めたアイリーンに対処方法を教えた事がある。


 ……もちろん俺は対処方法を存じていなかったので、休憩時間を使ってググって調べた。


「うむ、儂もそれを聞いていたからな。儂も蒼から聞いた対処方法をシスター達に教えてみたら、だんだんとここでも食べたことのあるプリンの食感になって美味しくはなってきた。

 そう、美味しくなってきたのは良いのだが、良いのだが! こう毎日毎食のデザートがプリンなのはいい加減飽きてしまうだろう!

 儂がデザートにプリン以外を食べたいと言ってもアレは笑顔で却下してくるし、せめてもの償いと言って色んな味のプリンを出してくるが、プリンはプリンだ!

 それも試しに作っているせいか、不味い試作も平然と儂に出してくる始末!

 儂は、もう、プリン、以外が、食べたい!」


 よほど教皇様は鬱憤を溜め込んでいたのか、ここで発散させるかの如く、最後はテーブルを叩きつけながら言い放った。


 ……と言うか会話から察するに、教皇様にも頭が上がらない人が居るんだ。


「ほー。たったそれだけか。良いではないか」


 しかし、教皇様の嘆きを聞いていたはずの王様は、素っ気なくそれがどうしたと言わんばかりの態度で教皇様を見つめているので、流石に教皇様もカチンときた様だ。


「むっ! 何が良いものか! 毎食のデザートがプリンだぞ!

 そりゃあ、プリン自体は美味しいと儂も思っているが、儂は甘い物はそれほど好いておらんし、どちらかといえば歯応えのある方が好きだ」

「フン! それがどうした! 儂なんて日に日に増えていく書類と格闘して、1枚減ったら2枚増える様な日々を過ごしているんだぞ! しかも儂からしてみれば普段以上に執務をしていると言うのに、ヴォルフからは仕事が遅い、早くしろ、これ、今日中のノルマですからって、書類を山の様に渡されるのだぞ!

 エロ本を見る時間が無いこんな生活は、もう嫌ダァァァー!」

「そんなもん、貴様が言い出したからではないか! 自分の責任は自分でどうにかするのが当たり前だろう! 儂はその流れ弾に当たった被害者ではないか! 何故非難されるのか、儂には理解出来ぬぞ!」


 段々とお互いの愚痴がヒートアップして行く2人を見て、理由を知った俺はしょうがないとばかりに溜息を吐いた。

 けれど、このままだと延々と言い争うだろうと簡単に予想が付いたので、王様と教皇様を宥めなければならない。


「2人ともそろそろ落ち着かないと、また出禁と言わないといけないんだけど?」


 出禁と言う単語を聞いた2人は、ハッとした様に背筋を正し、身嗜みを整えて座り直した。


「もう出禁は懲り懲りなので、止めにしようじゃないか」

「そうだな。お互いに熱くなってしまったが、結局はプリン大会が終わるまでの辛抱だ」

「うむ。それに、ここに来て息抜きが出来るのだから、ビールでも飲もうかの」

「なら、儂は前に買ったやつでも飲むか。あれに氷を入れて飲むのが美味かったのだ」


 そう言うと王様はビールと枝豆を買い、教皇様は日本酒とコップはスライムのメリルの中にあるので、ロックアイスと歯応え抜群の砂肝のおつまみを買った。


「かぁぁぁぁー! 美味い! 夏場の冷えたビールは美味い!」

「ぬおおおおー! これよこれ! この歯応えが堪らん!」

「どれ、もう1本飲もうかの」

「えっ? そっちだとまだ昼過ぎだろ? 王様はこの後も仕事じゃないのか?」


 2人は楽しそうに酒宴をしているが、向こうの世界ではまだ昼過ぎだったはずなので、まだ仕事が残っているはずだ。

 王様達はアルコールに強いから1本くらい飲んだだけでは酔わないけれど、流石にこの後のことを考えると止めた方がいいように思う。

 現に、2人はピクリと反応した後にスーーと俺から視線を逸らした。


『テロンテロン。テロンテロン』


「あは、あはは。あ、あれじゃよ。アレ。息抜きと言うやつじゃ」

「そうですか。なら、それ1本で終わりにしましょう。まだ仕事が起こっているんですからね」


 店内ベルに振り向くと、そこにはにっこり笑顔の宰相さんがいた。


「さぁ、飲み終わったのですから帰りますよ! 大会は待ってくれないんですからね!」

「いや、せめてもう1本ーー」

「何を馬鹿なことを言っているんですか? そんな時間無いでしょうに! さぁ、帰りますよ!」

「待つんじゃ! まだ枝豆が残っておるぞ!」


 ゴクゴクと豪快にビールを飲んでいたので、王様が手に持つビールはもう空だ。

 だが、ツマミの枝豆はまだ残っている。


「はぁ、分かりました。それを食べたら帰りますよ」

「うむ。……いや、見つめられながらだと食べづらいのだが」

「なら早く食べてしまってください。こうしている時間さえも惜しいのですよ」

「ぬぅ……。これからがお楽しみなのにのう」


 結局、チビチビと枝豆を食べ終えた王様は、宰相さんに引き摺られるように帰っていった。


「四六時中ヴォルフに責められるよりかは、まだ儂の方がマシだな」


 教皇様も何かに納得すると、その後もプリンの反動か歯応えのある食べ物をツマミに、日本酒を飲み続けた。

今回の小話


書類の山を手に、王の執務室へ向かった宰相さん。


宰相「おや?コンラート様はどうしました?」

文官「コンラート様ですか?コンラート様でしたら、休憩をしたいから少し1人にさせてくれと言って、自室へと戻られましたが」

宰相「……そうですか。(これはもしや?ちょっと確認だけでもしておきますか)では、この書類は置いておきますので、出来る範囲の物は初めていて下さい」

文官「畏まりました」

宰相「さて、向こうにいるのなら絶対に連れ戻さなければ長引きそうですからね」


こうして王様の逃避行はすぐにバレたのである。

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