第64話 2人のパーティ(side異世界)
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早朝の冒険者ギルドは賑わっている。
ここで朝食を食べる者もいれば、掲示板に張り出されているクエストを吟味している者もいる。
またはクエストを出そうとする者もいるから、朝のこの時間は混んでいるのよね。
「慣れてきたとはいえ、視線が痛いわ」
王都にもエルフがいるのを見かけたけれど、王国の人達はいまだに慣れることが出来ずに、私達エルフがいるとついつい見てしまうみたい。
4人がけのテーブルで1人座りながら、周りから来る視線を無視しつつザックを待っていると、知らない男性が話しかけてきた。
「な、なぁ。もし1人だったら、俺達のパーティに入らないか?」
……その後ろに3人の男性が付いてきているから、4人パーティなんでしょうね。
頬を赤く染めて話しかけた男性と、その後ろで彼と同じようにポヤーとわたしを見つめているパーティメンバーをチラリと見た私は、パーティへの勧誘を当然断った。
「残念だけれど、すでに私はパーティに入っているの。誘うのなら、私以外の他の人にして」
「あっ、そうなんだ。残念だ」
チラチラと私達の成り行きを見ていた人達にも聞こえるように、ちょっと声を大きくしながら素気無く言うと、男性達はスゴスゴと去って行った。
今回もあっさりと引いてくれたからよかったけれど、もう! これで3回目よ。
……ザックめ。早く来ないかしら。
そんなことを思いつつ、モヤモヤとした気持ちでザックを待っていると、やっと本人がやって来た。
「遅くなって悪いッス!」
「もう! もう、もう! ザックが来ないから、3回もパーティに入らないかって声をかけられたじゃない!」
にへらっと笑うザックに、こっちは大変だった苛立ちから、脇腹にツンツン攻撃をお見舞いしてやる!
「ちょっ、脇腹を突くのは止めるっスよ。こっちもサーナがちゃんと出来るか話してたんすから、しょうがないっすよ」
私も昨日の話合いの場にいたから分かるけれど、一芝居を任されてしまったサーナの顔色はちょっと白くなっていたわね。
「それに、昨日泊まらずに帰るって言ったのは、フロスティアじゃないっすか!」
さらに悪いのは自分では無く、私だと言うようにザックは言うけれど、これには私も反論する。
「だって、ザックの所はちょっと高いんだもん。それに、今泊まっている所は連泊で前払いしちゃったから、あと3日は移動出来ないよ」
「まぁうちの所は、店員も料理も品質を売りにしている宿っすからね。お値段もそれなりっすね」
「でしょう?」
ザックの家族が住み込みをしている宿である【黒足亭】は、他の宿に比べるとお値段が高く設定されている。
けれど、ただ値段だけが高いと言うわけではなく、ふかふかのベッドに美味しいご飯もセットにされているからこそのお値段となっているから、結構リピーターが多い宿と評判みたい。
「それに、前払いした分をキャンセルした場合って、半分くらい持っていかれちゃうじゃない」
連泊前払いした時のキャンセル料が発生することが、もう1つの理由。
宿を数日連泊したい時は、予め前払いが基本中の基本で、もしその後に宿をキャンセルしなければならない時は、キャンセル料が発生してしまう。
この金額は宿によって違うのだけど、私が止まっている所だと、残りの金額の半分はキャンセル料で取られてしまうから、前払いした分は移動したく無い。
「それはうちの宿の所も一緒っすね。おやっさん曰く、部屋代に朝食と夕飯の材料費分ってことらしいっすよ」
ザックが言うには、元々冒険者だったおやっさんにピヨっ子のザックが色々と指導をしてもらっていた時に、世間話の1つとして話題に上がったみたい。
色々と勉強になったんだと笑うザックは、他にこんなことも教えてもらえたと、指折り数えながら話す。
そのおやっさんって人は確か、昨日私がお店に行った時に、店の奥から出てきた迫力のある人だったみたいで、私も見覚えがある。
そのおやっさんから店内事情を聞ける間柄なんだから、おやっさんとザックとの仲はいいみたいね。
「ザックは住み込みだものね。色々と羨ましいわ」
楽しそうにおやっさんから教えられたことを話すザックを見て、私は羨ましいと思った。
それと言うのも私達エルフは、大人の仲間入りを果たすために、体の成長が止まる15歳から100年間は外の世界を旅しなければならないから。
エルフからしてみれば100年なんて、長い人生の10分の1でしかないけれど、その長い間を家族と離れ離れにならなきゃいけないのは少し寂しい。
私もあと30年は残っているから、その間は故郷に帰れない。
その愚痴を家族と一緒に暮らせて、周りの人との交友も順調なザックにこぼしてしまった。
「いや、住み込みって言っても、母さんとサーナの給金の半分以上を部屋代や食事代で天引きにされてるっすから、あんまり手元には残らないっすよ?」
ちょっと嫉妬のような思いを抱いた私だったけれど、ザックの言葉にそんなものは吹っ飛んでいった。
「……えっ、ザックの分は? お母さんとサーナに払わせっぱなし?」
「まぁ、現状はそうっすね」
呆気からんと言い切ったザックに、ポカーンと無様な顔を晒してしてしまった。
(えっ、何こいつ。家族のヒモなの?)と内心で思っていたのがバレたのか、ザックが慌てて弁明する。
「違うっすよ? 別に僕が払っていないわけじゃないっすよ?
ただ、この前までは低ランクだったせいで、あまりクエストでの稼ぎが少なかったし、今もクエストをクリアできるか分からない状態だから、おやっさんから代替案として、一先ず安定した給金を貰える母さんとサーナの分から、住み込みとかの諸々のお金を天引きして、僕がある程度のランクになって安定した稼ぎを得るまでは、そうするって店主と家族と相談して決まったんすよ。
それに僕が稼いだ分は、宿じゃなく母さんとサーナに渡しているっすから!」
「なんだ。それを聞いて安心したし、その提案をした店主には感謝しときなさいよ」
元冒険者だった店主だったからこそ出せた、代替案だったのでしょうね。
冒険者を始めた頃は、弱いから頻繁に武器や防具を壊してしまうし、怪我も多いから薬代もバカにならない。
さらに受注できるクエストの報酬って、安全な分安く設定されているから、最初の頃は本当に大変なのよね。
まあ、私は魔法も使えたからそこまで大変じゃなかったけど、やっぱりこれからは1人だと色々と不便だからね。
同じ境遇となったザックと知り合えたのは、良かったのかもしれないわね。
「そうっすよねー。あぁ、おやっさんで思い出したんっすけど、今日のクエストは魔の大森林の獣の方に向かっても良いっすか?」
ここから1番近いのは魔の大森林・蟲なのだけれど、ザックは獣の方に行きたいと言う。
理由を聞かない限り、賛成はできない。
「その理由は?」
「いや、おやっさんから獣の肉を持ってきたら、量によっては夕飯と次の日の朝飯をタダにしてやるって言われたんすよ」
「……そう言えば、最近お肉の値段が上がってたわね」
「そうなんすよ。それにこの時期は、肉の品質がどうしても落ちるっておやっさんが言っていたっすからね」
私が泊まっている宿屋から、冒険者ギルドまでの行く途中で市場があるけれど、最近お肉の値段が上がっていることに気が付いていた。
おそらく今は夏場になっていて、肉が腐り易くなっているからだと思う。
水と風の混合魔法である氷魔法を使えれば、お肉の品質を保てるだろうけれど、その氷魔法を使える人って少ないのよね。
後は時を止める機能付きのアイテムポーチや、それより大容量の魔法鞄があると便利だけど、いかんせん目が飛び出るほどに高値なのよね。
だからこの時期はどうしても、お肉が高騰してしまうわけね。
腐りかけの肉はどうしても安くなってしまうから、貧民街とかに売るか捨てるしか無いもの。
「それにそれ以上持って来られるんなら、宿代も値引きするぜって言っていたっすから、フロスティアがこっちに移り住む事を考えるならどうかなって」
「まぁ。それはちょっと魅力的ね。なら、今回は獣へと行ってみる?」
「うっす! ちゃんとそこも勉強したっすから大丈夫っすよ」
そう言って胸を張るザックと共に、クエストが貼ってある掲示板を確認して、クエストを受注するとすぐに魔の大森林へと向かう。
「今日は記念すべき、僕達2人の初パーティっすね!」
「そうね、ザック。けれど私達2人では無いわ」
おおっぴらに存在を言えない存在だけれども、壁役と荷物持ちの担当として外せないメンバーがいる。
「ん? あっ、サーナとティアがいたっすね!」
今は見えない場所にお互いしまっているけれど、森に入ってしまえば存分に活躍してもらうのだから、8-10スライム達も立派なパーティメンバーよね。
「さぁ、プリン大会のためにガンガン稼ぐわよ!」
「おっしゃあっす!」
さぁ、待っていなさい。
お金達!
今回の小話
ザックが来るちょっと前の話。
冒険者A「よっしゃ!今日もいっぱい稼ぐ……うおっ!エッエルフだ」
B「えっ!エルフいんの?男?女?」
A「女!めっちゃ美人な女」
C「マジか!早くどけって!」
D「マジだ。マジで本物のエルフだ。うわっ、めっちゃ美しい。あそこだけ光輝いて見える」
A「あれって、最近ソロでクエストしているエルフじゃね?」
B「マジかよ。1人じゃん!声かけようぜ!」
C〜D「賛成賛成!」
その会話を聞いていた他の冒険者達は、彼らのパーティにフロスティアが入るか、賭けをしたとかしないとか。




