第61話 平凡な日々
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最近の天候の影響で体が既にバテ気味です。
「あれから、パッタリと長居しなくなったな」
誰もいない店内で、俺はカップラーメンの補充をしながら呟いた。
「スー?」
「ムッム! ムッム!」
俺がしょんぼりして見えたのか、スーとムーが「大丈夫?」「僕が付いているよ!」と言っている様に、俺の足に擦り寄って来る。
今日も洗い物や床掃除をしつつ、店内に入って来た名前の知らない虫達を絶対に許さないマンのスーとムーを掬い取って肩に乗せる。
「ス〜〜ス〜スス〜」
「ム〜〜ム〜ムム〜」
するとすぐにご機嫌になり、いつのまにか覚えた店内放送を口遊む。
「俺は大丈夫だよ。皆は忙しくて長居しなくなっただけで、パッタリと来なくなったわけじゃ無いからな」
少し前までならば、まだこの時間には異世界メンバーの誰かしらが店内でのんびりとしていたが、いまは居ないのには理由がある。
先日訪れたエルフのフロスティアと、ドワーフのドルネゴの存在は、すぐに他のメンバーにも知れ渡る事になった。
「アワッあっ、あう……」
「わぁ! お姉さんすんごく綺麗だね! わぁ! おじさんは筋肉モリモリだね! ねぇねぇ、エルフとドワーフって他にも凄いところがあるの?」
「そうかしら? 人間と私達の価値観って違うみたいだから、私は向こうだと平均的な評価なのよ?
凄いところ……。パッとは思い浮かばないけど、皆何かしらの芸に長けているわね」
「ふふん。この筋肉は仕事の賜物だからな。筋肉がなけりゃあ長時間鉄を打てねぇんだぜ。
俺達は持久力が自慢だな。早さは無い分どの分野でも長時間活動が出来るんだ。もちろん、酒も長時間、大量に飲めるぞ!」
初めてエルフを見たザックは赤面硬直状態となり、同じく初めて亜人を見たリカルドは、テンション高く2人に色々と質問攻めをしていた。
2人とも子供好きな様だったので、嫌そうな顔を1つもせずにリカルドの質問に答えていたが、その間ザックは空気であった。
……さすがザック。
「ほう。今の其方の国ではその様になっているのか。まぁ、こちらもそれには苦労しているが、あぁどうもどうも」
「ふむ。これを飲み終わったら今度は儂が酒を奢ろうではないか!」
「ならばその次は、儂がオススメするビールとツマミに続こうぞ」
「ほう、それは楽しみだ! 俺はまだワインを攻略中なんだが、ちょいっと味見程度に1本飲んでみるか!」
「ほう。今は金銭的にも厳しいと、ならばまだこれらを食べた事が無いのではありませんか? これは和菓子と言って私が押している甘味なのですが、程よい甘さなのでパクパクと何個も食べられる上に、お腹に溜まるので小腹が空いた時に重宝しているのですよ」
「へー。宰相様は甘い物が好きなんですね。
私は蒼達に、甘い物を食べている時の顔がとんでもないことになっているって言われているから、ここで食べるのを禁止しているの」
貴族トリオは些細な会話から他国の情報を得ようとしていたが、途中から王様と教皇はドルネゴと酒盛りに発展して、宰相さんとフロスティアで甘味話に花を咲かせていたのが、ついこの前までの話。
ただし、ここ最近はプリン大会が間近に迫って来たという事もあり、普通の買い物客と同じ様に2〜3時間も長居はせずに、買い物を終わらせるとサッサと異世界へ戻る事が多くなった。
特に王様と宰相さんはプリン大会の主催者なので、諸々の、むしろ自分から増やした執務で忙しい。
「はぁ、せっかく新刊のエロ本を買ったというのに、全く見る時間が取れないわ」
「私は逆に、期待している貴族や料理人が参加することが分かったので、今からワクワクが止まりません。
こうなったら、四季折々で他の甘味も向こうで宣伝して大会にしてしまおうかと考えているところですよ」
「ヴォルフよ! 今もこれほど忙しいというのに、さらに仕事を増やそうと言っているのか!」
「そうですが? 何か?」
「マジでやめるんじゃーーー!」
……ただでさえ忙しいと嘆いている王様は、甘味好きな宰相さんの本気を止められるんだろうか?
アイリーンと教皇様達は、そのプリン大会に参加するので、その試作作りに空いた時間を使って試行錯誤を繰り返している。
「うぅむ。口の中がずっと甘い」
「まぁ、私の上司も同じ事を言っていましたわ。やはり殿方には毎日三食甘い物をずっと食べるのは辛いのかしら?」
「……出来るなら辞めたいところなんだがな。こう、子供達がキラキラした笑顔でプリンを差し出されたらな、断ることも出来ん」
「ふふ。シスターは確信犯ですわね」
「……はぁ。全くだ」
むしろ教皇様は毎日甘いプリンの試食を迫られている様で、ふらりとここに来ては塩っぱいツマミを買って帰っていく事が増えた。
俺が「大丈夫か?」と心配して聞けば、ポツリと教皇様は「女のこういう時は、男は黙って従わないと後々面倒だからな」と言っていた。
俺もそのうち見習うと思う。
アイリーンはそんな教皇様を見てから、何やらぶつくさと呟いている姿を見かける事が多くなった。
ザックとリカルド、それにちょうど王都に来ていたフロスティア達は、プロと平民のプリン大会を見にいく予定だそうで、今から資金集めに毎日朝から晩まで稼ぐ予定だそうだ。
「貴族のプリンは無理でも、プロの人が作るプリンは食べてみたいの」
「そうね。私も向こうでここのプリンを食べたけれど、もうすっごく美味しかったわ! 早く大会が来ないか楽しみよ!」
「よっしゃ、ならこの3人で一緒に大会に行かないか? それにフロスティアは魔の森にいるんだろう? だったら8-10仲間って事で一緒に金稼ぎしないか?」
「そうね。私は遠距離、ザックが近距離だからパーティの構成は良いかもしれないわね。それに、私達には最強の防衛があるもの。乗ったわ!」
「わぁーい! 皆でお出かけだー!」
「それで物のついでで相談なんだが、僕の妹も参加していいか?」
結局ザック達は、妹のサーナも入れて4人で大会に行く事が決まったが、その為の下準備としてつい先日に、ザックとリカルドが偶然友達になりましたって演技をアイリーン監修の元、行ったそうだ。
一応冒険者であるザックとフロスティア、この2人はクエストの途中で知り合いましたって話せば、周りの人は納得する。
それにザックの妹であるサーナも、ザックの紹介があったと話を通せばすんなりと周りの人も信じるはずだ。
ただ、このメンバーならリカルドだけ、ザック達とは何の接点も無かったから、辻褄合わせが必要だった訳だ。
そんな中、異世界メンバーの中で唯一、王都ではなくドワーフ国にいるドルネゴは、今から王都に向かえば何とか大会に間に合うという程に遠い場所にいる。
奥さん達を連れて行くか否かでも、王都に行くまでにかかる金額が跳ね上がるので、色々と判断した結果行かないことになった。
それにプリンよりも酒派のドルネゴは、一先ずはコンビニにある酒をコンプリートする為に、奥さんから貰うお小遣いを増やすべく仕事に明け暮れている。
「いやぁ。やっと自由に使える金額が増えたからよ、酒のコンプリートも早まるぜ」
今日もワインをコンプリートしたドルネゴは、今度は日本酒や焼酎の棚を攻略する為に、有り金を殆ど酒に費やしている。
しかし店内で1人で寂しく飲むのは趣味では無いらしく、自分の家でチビチビと飲んでいるらしいが、そのチビチビが俺の想像している量からかけ離れていると思う。
……だってさ、この数日でワインを全部コンプリートしている上に、焼酎や日本酒も半分くらいはコンプリートしているんだから、絶対にチビチビでは無い。
「さてはて。今頃向こうでは皆は何をしているのやら」
異世界にいる皆の事を思い出しつつ、カップラーメンの補充の最後の仕上げとして、商品名が前にくるように調節すると、スーとムーは床掃除を、俺は次の補充の仕事に取り掛かった。
今回の小話。
作者「そんな訳で、次の分から異世界メンバーの内容になるから、しばらく蒼は本編に出ないよ」
蒼「マジか。まぁ、皆買ったら直ぐに帰るから、話のネタないもんな」
作者「イエス!」
という事で、次回から異世界メインです。




