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第59話 衝撃の事実

ブックマーク、感想、評価ありがとうございます。


今回、人によっては不快になる表現があるかもしれません。

「はい。おつりね」

「えぇ、……ありがとう。ティア、お願いね」


 初めて見る日本の硬貨を興味深く眺めた後、フロスティアはティアにお釣りの管理を任せた。


「ティー」


 任されたティアはフロスティアの手に飛び乗り、そこに置かれていたお釣りを体内に回収すると、床にべちゃりと移動してスルスルと何処かへ消えていった。


 多分、他のスライムの所に行ったのだと思う。


「基本的にコンビニは飲食禁止だけど、アイオーン達がいるイートインコーナーは名前の通り飲食できる場所だから、そっちに移動しようか」

「ええ。分かったわ」


 フロスティアが買ったのは、俺がオススメした食パンとポテトサラダの組み合わせと、板チョコを1枚。後は食パンの所に置いてあったチョコクリームをお買い上げだ。


 チョコクリームは紹介しなかったが、フロスティアがパンを選んでいた時に、蜂蜜や瓶詰めされているジャムが陳列されているのに気が付いて、甘い物も欲しいと散々お財布と相談して悩んだ結果、向こうでは考えられないほどに安いと言うチョコクリームを選んだ


 そして、全部の金額が500円程で収まっているのは、フロスティアが堅実な性格をしているみたいで、「売り切れたりしないならば、明日の楽しみに取っておくわ」と言ったからだ。


「ふふふ」

「ん?」


 唐突に隣で笑うフロスティアに、俺が不思議に思って声をかけると、フロスティアは恥ずかしそうにお腹をさすりながら言った。


「ちょっと遅いけれど、これからお昼だったから、楽しみだなあって」

「……そうか」


 フロスティアは顔の造形が素晴らしいエルフだ。さらにそれにプラスして照れ笑いが加わったので、破壊力が天元突破している。


 咄嗟に顔を晒して返事を返した俺の元に、イートインコーナーの方から唸り声が聞こえてきた。


「ぐむむむむむむむ」


 1人、イートインコーナーで唸っているのはドワーフのドルネゴで、両腕を組んでワインを睨みんでいる最中であった。


「もーー。いつまでも悩んでいないでさぁ。飲みたいならば飲めばいいじゃん」

「しかしだなぁ。ここで飲んだら、向こうに帰った時に飲む分が減るではないか」

「だったら、我慢するしかないよねーー」

「ぐぬぬぬぬ」

「ねぇ、ドルネゴ。お金に余裕があるのでしたら、今飲んでしまっても、帰るときに追加で買えばいいじゃない」


 3人の話を聞いてまさかと思ってドルネゴの前に置いてあるワインを見ると、すでに空き瓶になっていた。


「マジか、嘘だろ。まだ10分くらいしか経ってないのにワインを2本も空けたのか?」

「そうだよー。僕達にもお近づきの印にって少し貰ったけれど、ほとんどはドルネゴの腹の中さ」


 アイオーンが指差すのはドルネゴのお腹で、当のドルネゴは額どころか頭にまでシワを深く刻んでいる。


「本っ当にあなた達ドワーフってお酒が絡むと馬鹿になるわよね。酒馬鹿よ。酒馬鹿」


 テーブルで唯一空いていたドルネゴの正面に座ったフロスティアは、心底呆れたと言いながら、ビニール袋に入れていた商品を取り出す。


「うっせえ。俺達にとって酒ってのは、無くてはならないものなんだよ。そりゃあ命と引き替えにとか、愛する人と引き替えにって時は流石に我慢するが、なんのしがらみも無く目の前に飲める酒があるんなら、迷わず手を出すだろう!?」


 段々と語尾が上がって、最後は力説するドルネゴに対し、とことん冷めた目を向けるフロスティアはキッパリと言った。


「だったら答えは出ているじゃない。ここではお金を払えば沢山の商品が買えて、命の駆け引きも無いんだから、気が済むまで買って飲めばいいのよ」

「まぁ、そう言われるとそうなんだが……」


 言い淀むドルネゴに、今度はアイオーンが追い打ちをかける。


「フロスティアの言う通りだよ。たとえワインを飲み干しても買えばいいんだよ。なんせコンビニにはまだまだお酒はいっぱいあるんだから!」


 アイオーンの言う通り、今回ドルネゴが買ったのはワインだが、選ばれなかったワインは他にもあるし、ワイン以外にも日本酒や洋酒もあるし、ビールやチューハイに至っては、味の種類も豊富である。


「いや、残念ながら手持ちの金は全部ワインに使っちまったから、これ以上は流石に金がねぇんだ」

「あら? だけどここが営業中の間は、ここと向こうとを自由に行き来が出来るのだから、取りに行けばいいのではなくて?」

「だな。俺の交代まで後4時間以上あるから、全部飲んで異世界に戻ってお金調達して他のを買っても、余裕はあると思うぞ?」


 実際にアイリーンも、ついさっき寒いからと言ってストールを取りに戻っていたのだ。

 今ここでワインを全部飲んでしまったとしても、アイリーンの様に異世界に戻ってお金を持って来れば追加でお酒を買えるのだからと説得するのだが、そう簡単にはいかないらしい。


「いや、それもダメなんだ」

「……まさか、向こうでも酒に全部使っちゃって無いとかか?」


 俺が思わず想像上のドワーフを思い浮かべて、酒に散財してお金がすっからかんなのかと思い、ギャンブルや依存系並みにヤベェと引いてしまったのだが、違った理由でダメだった。


「まぁ、その、なんだ。恥ずかしい話なんだが、カミさんから今日の小遣いを貰ってるんだが、それ以上はどう頼み込んでも貰えねぇんだわ。

 いやぁ、俺が所構わず酒と仕事道具ばっかに散財していたのが悪かったんだけどよ。結婚したらいつのまにか金の管理はカミさんになっちまってたんだわ。

 だから、家の金がどのくらい今あんのかとかも、全く分からねぇんだよ」


 なんと言うことでしょう。

 目の前のスキンヘッドでチビでマッチョなおっさんが、照れた顔で結婚していると言うのだ。

 そんなのを見せられた俺なんて、俺なんて結婚の前に、恋人のこの字も見当たりませんが、何か?


「あっ、ちなみにこれが俺のカミさん達だ」


 そう言ってドルネゴがポケットから取り出したのは1枚の絵で、そこにはドルネゴを中心に両隣で2人の女性が寄り添っている絵だった。


「あらあら、まぁまぁ。見事にタイプが違う奥さん達ね」


 アイリーンが言うように、ドルネゴの左には同年代で年齢の割には綺麗目だけど、肝っ玉母ちゃんって感じの女性が描かれていて、反対側には、まるで娘と言われても違和感が無いほど、年の離れた可愛らしい女性が描かれている。


「へー。ドルネゴの奥さん達は母ちゃん! って感じと可愛い系かぁ」

「えっ? こちらもあなたの奥さんなんですか? 随分と年の離れた……」


 フロスティアは俺が思っていた事を言葉にすると、ドルネゴは照れる事も無くサラッと話し始める。


「あぁ。こっちの左の方は俺の幼馴染で、俺が親方の元で修行していた時から結婚しているから、もうかれこれ30年は経ってんな」

「きゃーー! 素敵だわぁ。私こんな商売でしょう? だから、絶対に縁が無いって分かっていても、ドルネゴの様な結婚に憧れを持っているのよ〜」

「ははっ。あんがとよ」

「それで、こちらの女性とは?」


 両頬を赤らめて、1人恋バナを楽しんでいるアイリーンは、さっきまでとは打って変わってグイグイとドルネゴに迫る。


「あぁ。こっちの若い方の嫁さんは、元々俺の弟子の許嫁だったんだがよ。その弟子が真実の愛だなんて言葉を言い残して、まだ14の許嫁を置いてトンズラをかましやがったんだ。

 んで、何だかんだあったんだが、元々器量も良いし、カミさんとも仲が良かったんでな。そのカミさんに一芝居打たれた15の誕生日の後に、しょうがねぇから俺が貰った」

「クゥーーーー!」

「えっ、蒼。どうしたのさ」


 思わず漏れ出た俺の奇声に、アイオーンを含め、他の皆もキョトンと俺を見上げる。


「こっ、こっちは重婚は法律違反だし、15歳は未成年だから結婚も法律違反で決められているから、別に羨ましいだなんて思っていないですよ。これっぽっちも」


 だなんて虚勢を張ってみたものの、ものの見事にバレバレだったわけで。


「……あぁ、羨ましいんだね」

「蒼。結婚を前提に考える女性はいないんですか?」

「フロスティア、それは聞いてはダメよ。昼夜逆転している生活だもの。中々女性に出会えないし、恋人が仮に居ても中々会えないでしょうよ」

「まぁ、その、なんだ。兄ちゃんもドンマイだな」

「クソーー! 皆のバカーーー!」


 慰めにもならない追撃を食らった俺は、テーブルに突っ伏して深夜だろうと御構い無しに思いっきり叫んだ。

今回の小話


ア→アイリーン、神→アイオーン、フ→フロスティア、ド→ドルネゴ


蒼が叫んでしばらくした後。


蒼「……ずっと気になっていたんだが、何でドルネゴはスキンヘッドなんだ? ドワーフって言ったらモジャモジャだろ?」

ド「ああ? あぁ、確かにドワーフは豊かな髭や髪が自慢だけどな。だから、俺も前は確かにモジャモジャだったけどよ。剣を作っている最中に、火花がこう、毛について燃えちまったんだわ。んで、ざんばらになっちまったから、いっそ丸坊主にした方が便利なんじゃね?ってカミさんが言うからよ。そっからはこれのままだな」

ア「まぁまぁ。それじゃあ、そのスタイルは奥さんの希望って訳なのね」

フ「へー。単に、また伸ばすのが面倒くさいのではと思いました」

ド「確かにそれもあった」

神「あっ、あるんだ」


蒼「また惚気られた」




ちなみに、ドルネゴは結婚などについては照れてませんが、お金を奥さん達に牛耳られている事には照れています。

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