第57話 エルフのフロスティアとドワーフのドルネゴ
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店内でキャンキャン、やいのやいのと騒がしいので、何だ何だと思いながら向かった先には、小柄で小太りなおっさんと、スラっと背の高い女性が口喧嘩をしていた。
「けっ! これだからエルフは嫌なんだ。自分達の価値観が1番偉いとでも思っていやがる。その高慢稚気な態度が俺は嫌いだ!」
「それは私の台詞だわ! 貴方達ドワーフはいつも酒、酒、酒じゃない! しかもその薄汚れた格好で出歩くなんて、信じられない!」
店先で喧嘩をしている二人の会話から判断すると、右にいる小太りなおっさんがドワーフで、左の背の高い女性がエルフの様である。
言われるまでは気付かなかったが、確かにドワーフの方は薄着のせいか、その下の体躯がよく分かり、小太りではなくてガッチリとした筋肉質な体型をしていた。
それに胸元や腰回りには、ドワーフの職業と言ったら大半の人が答えるだろう、鍛治に使うと思われる道具がベルトで固定されている。
ただ少し謎なのが、ドワーフの象徴であるはずのモジャモジャの髭がない。むしろ髪の毛も無いのある。
つまり目の前のドワーフは、小麦色の肌でやや薄汚い、スキンヘッドで筋骨隆々なおっさんと言うわけである。
それに反対してエルフの女性はと言うと、こちらもエルフの特徴であるサラリと長いストレートヘアに、耳の先が尖っているエルフ耳が髪の隙間から見えている。
そして物凄く美人さんである。
やはりエルフであるからか、顔の造形が素晴らしいのである。
収めるべき所に完璧な形の顔のパーツが収まっているとしか、言い様がないほどに整った顔をしているのである。
ただし、こちらのエルフもドワーフと同じ様に、若干こちらの常識とは違う所がある。
それは、胸がまな板ではないことだ。
俺の観察眼がどれほどの物かは分からないが、取り敢えずCカップくらいはありそうだ。
俺のどストライクゾーンである。
ちなみに王様は胸に対して博愛主義者なので、板からメロンまでどんと来い! って言っていた。
「俺の想像しているドワーフとエルフと、ちょっとだけ違うな。向こうだとこれが標準的なドワーフとエルフなのか?」
ドワーフと言ったらモジャモジャの髭が特徴だったり、エルフだったらスレンダーな体型が特徴的であるはずなのだが、この2人はそれに該当しない。
この2人が該当しないだけなのか、こちらと異世界の常識が違うだけなのか、後で必ず聞いてみようと思う。
俺、こう言うの気になります。
って、さっきからそんな事はどうでもいいのだ。
今は目の前の2人をどうにかしなければ!
「あー、お二人さん。店内での口論は、他のお客の迷惑になるから、お止め下さい。警察……は呼べないから、神様を呼ぶぞ!」
普通の店内の揉め事だったら警察を呼べば万事解決なのだが、明らかに異世界人相手に警察を呼んでも混乱が生じるだけなので、店内で争い事が起きた時に呼べないのだが、その代わりに呼べば必ず来てくれる神が、こちらには2柱いるのである。
取り敢えず、ここでは警察と同じくらいの抑止力がある事を期待をしよう。
「そうだぞー。蒼を怒らすと怖いんだぞー!
」
「……えっ、そのネタまだ引っ張んの?」
いつのまにか俺の隣に来ていたアイオーンが、仁王立ちで先ほどのネタで目の前の2人に脅しをかけるが、当然その時に居なかった2人には分からないだそうし、むしろ俺が怖い人だって思われないか?
と言うか、いつまでそのネタを引っ張っているんだよ!
「ア、アイオーン様?」
「何だと! おぉ、確かにアイオーン様だ。しかし、一体先ほどから何が起こっているんだ!」
「そうですわ! アイオーン様、私に一体何を課そうと言うのですか?」
口喧嘩をしていたドワーフとエルフのお2人も、流石に神であるアイオーンの登場とあってか、静かになった。
しかし、喧嘩を止めた所為で冷静になれたのか、現状を思い出した様で慌ててアイオーンに詰め寄るドワーフとエルフ。
まぁ今まで来た異世界人は、皆肝が座っていたと言うか何と言うか、ここまで慌てた様子を見せていなかったから、この2人の慌て具合が逆に新鮮に感じてしまう。
しかし、本来ならばこの2人の様に、いきなり異世界に連れてこられたのならば、この様な反応が正しいのだろう。
「さぁここからは、恒例の、アイオーンのお仕事ですよ」
「もちのろんだよ。任せたまえ!」
いまだに俺を無視してアイオーンに詰め寄る2人に対し、俺は何も出来ないのでアイオーンに対応を丸投げした。
「おう、任せた。終わったら呼んでくれ」
「りょうかーい!」
そのままアイオーンに2人の対応を任せると、俺はアイリーンの元へと戻った。
「お帰りなさい。蒼。ここまで騒ぎが聞こえてきたのだけど、まさか麗しのエルフと鍛治のドワーフもやって来ただなんて……ちょっとビックリしちゃったわ」
イートインコーナーから入り口まではやや距離があるものの、店内にはBGMが流れているので普通の話し声ならば気にならないのだが、流石にさっきの2人の言い争いの声は聞こえていたらしく、そこでエルフとドワーフが来たことを知れたらしい。
「やっぱりそっちでもエルフとドワーフって有名なのか?」
席に座り、やや冷えてしまっているコーヒーを飲み干しながらアイリーンに聞くと、アイリーンは「もちろん」と答えた。
「王国でもエルフとドワーフはそれなりにいるから、私も何度か見かける事はあるわよ。
それに、エルフは美貌やスタイルの他にも、魔術や弓の名手だったり、ドワーフも鍛治以外には、酒を飲ませると店が潰れるって言われているくらいだもの。
その2つの種族が共通しているって言えば、精霊に好かれやすいって事だけど、エルフは風と水の精霊に好かれやすくて、ドワーフは火と土の精霊に好かれやすいって特徴があるわね」
「なぁ。つかぬ事を聞くが、いいか?」
アイリーンの説明にフンフン頷きながら聞いていた俺は、ちょうどここだと思って質問をしていいか聞いた。
「ええ、いいわよ。私に答えられるものならね」
ねの部分でウインクをするアイリーンに、こちらで常識となっているエルフとドワーフを例に出して、異世界での違いを聞いてみた。
「そっちではエルフとドワーフって種族が知られていないだなんて驚いたけれど、実際には妄想の産物なのね。
確かに類似する部分は多いと思ったけれど、こちらの世界のエルフはスタイルは良いけれど、別に全員がスレンダーって言う訳ではないし、ドワーフも全員がもじゃもじゃヒゲ頭では無いわね」
「そうか。あの2人が特別かと思ったが、そっちだと標準なんだな」
スレンダーでは無いエルフも、もじゃもじゃヒゲ頭では無いドワーフも、異世界では普通だと言われて、俺のモヤモヤはスッキリした。
「蒼ー。説明が終わったよー」
ちょうどこちらの話がひと段落した辺りで、アイオーン達の説明も終わった様で、エルフとドワーフを引き連れたアイオーンがやって来た。
そして、エルフが一歩前に出ると名乗り出した。
「先程は取り乱したりしてごめんなさいね。私はエルフのフロスティア。こちらは私が契約した8-10スライムのティア」
「ティッティー」
フロスティアの肩に乗っているティアは、紹介されるとぴょこぴょこ上下運動をしながら鳴いた。
「成人の儀式で冒険者をし始めたのだけど、その道中でこの子に出会ったから、試しに従魔契約をしてみたの。
そうしたらいきなりここに連れてこられたってわけ。よろしくね」
「あぁ、よろしく」
握手を求められたので応じ、それを見届けたドワーフの男も前に出て名乗り出た。
「次は俺だな。俺はドワーフのドルネゴってもんだ。
こいつはドゥーって名付けた」
「ドゥッドゥー」
ドルネゴの所のドゥーは、溶けたハムスターの様にドルネゴの頭の上に乗っている。
ツルツルだから乗せやすいのかな?
「俺は鍛治屋を営んでいるんだが、そこで出る諸々のゴミを処分できる様にと時々スライムと契約するんだ。
だが、普通のスライムじゃあ鍛治仕事で出たゴミは有害だったり高温に耐えられなかったみたいでな。数ヶ月もすれば死んでしまう消耗品だったんだ。
そんで、新しいスライムと契約したらこのザマだ。
まぁ、ここで会ったのも何かの縁だ。よろしくな」
「あぁ、こちらこそよろしく。俺は東蒼。神々の悪戯で迷惑を被っているものだ」
こうして8-10に、異世界からの客人であるエルフのフロスティアと、ドワーフのドルネゴがやって来た。
今回の小話
ア「ここは僕達がいる世界とは次元が違う世界なんだ。その中のコンビニって商店に僕達はいるよ。
それでこのコンビニでは、僕達が使っているコインを契約したスライムでこちらの世界の硬貨に変換して買い物が出来るんだけど、ここの商品は見たことも食べたことも聞いたこともない商品が目白押しでね、特に僕が最近ーー」
フ(……いつまで続くのかしら)←そろそろ苦行
ド(……ざっと見たところ食品も置いてあるようだが、もしや酒も置いてあるのではないだろうか?)←ソワソワ
ア「でね、他にも最近は食パンの違いも分かるようになってきたんだ。
君たち知っているかい?ここでは食パンでも数種類もあるんだよ!」
ド「アイオーン様よ。済まないが簡潔に頼むぜ」
ア「あっはい」




