第56話 ずんぐりむっくりと高飛車傲慢稚気
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ヘルメス様登場から数日が過ぎて、蝉の大合唱の開幕となる7月に突入した。
昼は30度前後で熱く、夜でも20度近くもあるのでクーラーが付いていても、働いているうちにジンワリと汗が出でくる。
そんな季節に突入したのだ。毎年の事ながら、この時期になると早く冬が来てくれと願ってしまう。
あれからヘルメス様は2〜3日に1回のペースでやって来るようになり、その時々で皆からオススメを聞いては買い物をする様になった。
特にこれと言った嗜好は無いようで、どれも無表情で食べているが、アイオーン曰く、「この前のオススメはヘルメスの好みだったみたいで、いつもより食べるペースが速かったよね!」なんて言われても、俺にはさっぱりとその違いが分からなかった。
「はぁー! すっずしー!」
「そうかしら? 私は少し寒く感じるわ」
今日はアイオーンとアイリーンがイートインコーナーに来ている。
そして、アイオーンはクーラーからの冷風を直で浴びれる所に態々移動して、体を大の字にして風を受けている。
そんなアイオーンを見るアイリーンは、この冷風の設定温度では寒いようで、二の腕をさすっていた。
「アイリーンが寒いなら切っておこうか? それとも温度を上げるか」
ここのコンビニでは、天井にクーラーが付けられているので、アイリーン達がいる方のクーラーだけ電源を切るか、又は冷房の温度を上げるかと提案したのだが、それを聞いていたアイオーンが驚愕の声を出した。
「えぇ! 僕これくらいで丁度いいよ!」
「けど、アイリーンは寒いってーー」
俺、アイオーン、アイリーンしかいないこの場では、寒いと言っているアイリーンに合わせた温度設定が良いだろうと考えたのだ。
少し温度を上げたところで、俺はまだ許容範囲内だからという理由もあったのだが、アイリーンに止められた。
「大丈夫よ。蒼。部屋に戻ってストールでも持ってくるわ。そういう訳だから、キッシュ。部屋に戻るわよ」
「キシュッ!」
アイリーンは俺にそう言いながらヒラヒラと手を振り、キッシュを谷間に乗せて異世界へと戻って行った。
「はひー。良かったー、極楽極楽」
無事にこの温度が保たれると判断したアイオーンは、テテテとテーブルに駆け寄ると、ダランとテーブルに突っ伏した。
「わがまま言いやがって。あとでアイリーンに感謝しろよ」
「はいはーい。それはそうと、蒼。プリン大会の細々とした日程が決まったよ」
「おっ、ついにか」
ひょんな事から決まったプリン大会。
実はプリン大会を開催するのは決まったが、突然の王主催の大会であったため、大雑把な日程しか決まっていなかったのである。
その細々とした日程が決まったようだ。
「まず、予選の開催が来月の終わりの週からになったよ。その前準備として、大会の舞台を作ったり、参加者の締め切りが今月の終わりになったんだ」
「ほー。結構締め切りと大会までの期間が長いんだな」
参加締め切りが今月の終わりにあっても、予選が始まるのが来月の終わりならば、約1月ほど間があく事になる。
「まぁ、そっちはコンラート達の予定の日程や、舞台や作業台の設置に時間を余分に取っているからだよ。なんせ、三部門もあるからね」
今回のプリン大会は、貴族主催の贅沢なプリン部門。プロが作る本格的なプリン部門。平民が作る素朴なプリン部門に分かれているらしい。
「それに、予選も部門毎に色々違っていて、貴族主催は参加人数が少ないだろうし、これは貴族や豪商位しか手が出せないプリンが出来るだろうって事で、王城で予選を開催する予定なんだって。
だから、実際には貴族の予選は少し早めに開始される事になるね」
「なるほど」
「それで、プロと平民のプリンなんだけど、これは予選の日程をずらして、売り上げと満足度の両方で、上位5名を決める予定なんだ」
「あら、プリン大会の話?」
『テロンテロン。テロンテロン』
ストールを取りに行っていたアイリーンが、戻ってきたようだ。
「おう。なんか細々としたのも決まったみたいだな」
「そうなのよ。本格的に祭りの雰囲気になってきたわよ」
細かい刺繍で彩られている、赤を基調としたストールで体を巻いているアイリーンは、席に着くと楽しそうに会話に加わる。
「あっ、アイリーンには僕のわがままを聞いてもらちゃったからね。何か飲み物でも奢るよ。何がいい?」
「まぁ、気にしなくてもよろしいのですよ?」
アイオーンの提案に、ふるふると首を振って辞退しようとしているアイリーンに対して、アイオーンはジトリと俺の方を向いた。
「ごめんアイリーン。僕は蒼から脅されているんだ。だから、ここは素直に頷いてほしい」
「おいこら。脅しているとは何だ? 脅しているとは!」
俺、別に脅してませんけど?
アイオーンも軽いノリで返した癖に!
「うふふ。では、お言葉に甘えさせていただきますね。蒼を怒らせたら大変だもの」
「あっ、アイリーンまで!」
「ふふっ、冗談よ。冗談!」
「アハハ! ついでに蒼の分も買ってあげるから、そんなに睨むなよぉ〜」
からかいは成功したと言うように、アイオーンとアイリーンがクスクスと笑い合う中、俺はコーヒー、アイオーンはアイスコーヒーのラージ、アイリーンがホットのカフェラテのラージをそれぞれを手に持ち、プリン大会の話の続きとなった。
ちなみに、ここぞとばかりにアイリーンは2番目に高いコーヒーを選んでいる。
1番高いのはアイスのカフェラテのラージなのだが、ただでさてクーラーで冷えている体にアイスは無理だったようで、無難にホットを選んでいる。
「で、貴族の予選は聞いたが、プロと平民はどうなったんだ?」
話の途中でアイリーンが戻って来たので、その続きから再開だ。
「アイリーンも言っていたように、城下町ではお祭りって事で賑わっているんだ。だから、この前蒼が零していたフェアって言うのを参考にしたんだ」
「あぁ、あれか!」
俺が零したフェアとは、○○フェアとか、○○展とか言われているやつで、ちょうどその時はニュースで特番になっていたやつだ。
俺が美味そう美味そうとここで愚痴っていたのを、宰相さんが事細かに質問していたが、まさか今回のプリン大会の参考にするとは思わなかった。
「それで、どうやって審査するんだ?」
「えっとね。まずは出場参加者は、応募順に決められた場所で、決められた数のプリンを売るんだ」
「値段や量はそれぞれの采配に任せられているのよ。だから、小さいけれど濃厚で滑らかな、ちょっと高めのプリンで売ってもいいし、大きいけれど、安価で大量に作れるプリンを作ってもいいみたいなの。その逆も有りだから、だからこそ、難しいのよ」
アイオーンの続きをアイリーンが言うが、アイリーンは難しい顔をしている。
「ただし、かならず黒字になる様に値段設定されていないと失格にする事にしたんだ。じゃないと、値段の安さに勝敗が決まってしまうからね」
「そうなのよ。プリンの材料費は完全にこっち持ちだから、金持ちが名誉や知名度目的でそんな事をされたら、たまったものじゃないわ」
それはそうだろう。
ただでさえ美味いプリンが、安く手に入ると分かれば、そりゃあ満足度も高くなる。
「あとは満足度の方はね。これもちょっと悩んだんだけど、最終的には参加者全員にプリン大会限定のコインを3個渡して、気に入ったお店のプリンに投票する形にしたよ」
「そう言えば、広場には沢山の箱が設置されていたわね。あれが投票箱なのかしら?」
アイリーンは思い当たる節があるのか、ポンと手を叩きながらアイオーンに尋ねる。
「そうだよ。お店にも番号を振る予定だし、箱にも番号を振っておけば、どれがどのお店か分かるだろう?」
「そうですわね。はぁ、プリン大会が待ち遠しいですわ」
俺は実際に見に行くことは出来ないが、各上位5位までのプリンは持って来てもらえるそうなので、密かにプリン好きな俺としては、プリン大会が待ち遠しい。
その後も取り留めの無い話を3人でしていると、入店音が店内に響き渡った。
『テロンテロン。テロンテロン』
そしてその後すぐに、店内に響く絶叫。
「きゃーーー! ずんぐりむっくり!」
「ぬおおおおお! 高飛車高慢稚気!」
おいおい。今度は何なんだ?
今回の小話
ちょうど同じ頃。
宰相の執務室にて。
宰(おや?あの子爵家もプリン大会に参加するのですか。あそこは使用人達にも存分に仕事が出来るようにと、お金を惜しまない人ですからね。
その分、その恩を返そうと一丸となって主人を引き立てている印象がありましたから、今回のプリン大会でも上位に食い込むかもしれませんね。
……まぁ、当の主人が甘いものを苦手としているので、この期間は地獄かもしれませんが。
おっと、今度はあの男爵の所ですか。この人は己の顕示欲の強い見栄っ張りの人だったはず。
と言うことは、今回のプリン大会で名前を売ろうとしているのかもしれないですね。
まぁこれで不味いものでも出したら、逆の意味で名前が売れてしまうかもしれません……)
「ひひゃあ!こ、この人は!?かの有名なパティシエではありませんか!?私でさえも月に1回買えるかどうかと言うほどの人気のあの人が今回のプリン大会に参戦するのですか!なっなんて素晴らしい。これはプリン大会にまで押し上げた蒼とアイオーン様に祈らねばなりませんね」
↑素で王様を忘れている。




