秘密の共有者(異世界side)
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ちょっと長めです。
《アイリーンside》
「ホー、ホー」と、鳥の鳴き声が聞こえるほどに辺りが静まり返った夜も遅い時間。
娼館【春の訪れ】のとある一室では、アレクサンドロが今日の分の書類を片付けて、凝り固まった体をほぐす様に腕を上げて伸びた。さらについでとばかりに肩も数回回すと、最後に目頭のマッサージを終えて、トントンと机の上にある書類を整えていると、コンコンと躊躇いがちに扉が叩かれた。
「はい。どうぞ」
「失礼します。アイリーンです」
「おや? どうしました? アイリーン」
扉を開いて入って来たのは、昨日からお休みを取っているアイリーンだ。
普段であるならば、体調が著しく悪いために滅多に外に出てこない筈のアイリーンは、何やら覚悟を決めた様な表情でアレクサンドロの前に、机を挟んで立った。
「アレクサンドロ様。大事なお話があります」
アレクサンドロはアイリーンの表情で察し、背筋を伸ばして座りなおすと、アイリーンに続きを促した。
「……君がそこまで顔を固くしているんだ。何か大事になりそうな話なのか?」
「これからお話しするのは、きっとアレクサンドロ様のお役に立つと思うのですが、そのお話をする為には、命の神であるヘルメス様と、誓約と制約の契約をする必要があるのです」
昨日決まった誓約と制約の話聞いたアイリーンは、直ぐにアレクサンドロに話そうと決めていた。
ただ、神々との約束である契約の事を考えると、ただ1人のみで誰彼に話してもいい内容ではないと思えたため、消去法でアイリーンの上司である、アレクサンドロに打ち明けようと考えたのである。
しかし、人気高級娼館でオーナーであるアレクサンドロが1人になる時間を狙うのは難しかった。
仕方が無しに、ベットで様々な不調と戦いながら時間を潰したアイリーンは、アレクサンドロが最も暇になる、夜も静まり返ったこの時間を狙ってやって来たのである。
故に、異世界コンビニから帰って来て直ぐは、誰に聞かれるか、誰に邪魔されるか分からない時間帯であったので、この時間になるまで待っていたのである。
「それはなんと……。ふむ。神との契約は破る事はもちろん重罪で、抜け道も無いと言われているほどだ。そんな契約が必要なほどの何かが、アイリーン周りで起きたのだな?」
「はい。その契約は、1人しか対象にならないそうなので、私はここのオーナーであるアレクサンドロ様を選びました」
娼館のオーナーと言えども、商売の知識無しではここまで大きくする事は出来なかった。
そんなアレクサンドロは、商売の知識はもちろんあるし、その際の契約上の抜け道なども熟知しているが、それは同じ人が相手の場合である。
相手が神であるならば、どんな抜け道も存在しない契約に、おいそれと頷くわけにはいかなかった。
ただ、最近のアイリーンが、今までとは少し違う事に気が付いていたアレクサンドロは、今回、アイリーンが打ち明けようとしている事が関係しているのではないかと、ジッとアイリーンの表情を読みながら考えていた。
そして、悩む事少し。
「分かった。ヘルメス様と契約しようと思う。そうすれば、最近アイリーンの雰囲気が少し変わった理由が分かるだろう」
パッと見では、アイリーンの変化には気がつかないかもしれない。
多少化粧の仕方が変わっただとか、元々上手であった客のあしらいが、更に洗練された様に感じるかもしれない。
しかし、関係上はなんであれ、長い間一緒に過ごしているアレクサンドロには、アイリーンが何やら秘密めいた物を隠している事には気が付いていた。
「……まぁ、そんな風に思っていたのですか?」
「そりゃあな。何年、共にいると思っているんだい?」
「クスクス、確かに。あの出会いから、10年近くになりますものね」
長い年月をかけて築き上げた信頼関係に、アイリーンとアレクサンドロは、出会った頃を思い出して笑みをこぼす。
そして、表情を引き締めたアレクサンドロは、アイリーンの指示の元にヘルメスと契約を交わした。
「さて、これでアイリーンの秘密が分かるのかな?」
アレクサンドロの契約は呆気なく終わり、特にこれと言った変化を感じないまま、アレクサンドロはアイリーンを茶目っ気たっぷりに聞いた。
「ええ。本当は、女の秘密は誰にも言わない方が良いのですけれど、今回は事が大き過ぎますもの。アレクサンドロ様。心して聞いてくださいね。私、逃がしませんから」
「……そこまで言われると逃げたくなるのだが」
まるで道連れにしてやる! とでも言いそうな気迫に、思わずアレクサンドロの腰が引けたが、アイリーンの話を聞いているうちに興味が膨らみ、前のめりになって聞いていた。
「ははっ! なんて事だ。何がどうなってそうなったのか、訳が分からないな」
「えぇ。今では恩恵の方が大きいのですけれど、それに付随する厄介ごとも大きいのが難点です」
「しかし、これは店に組み込めるものは組み込んだ方が良いな。プリンの件もあるし、今後も役に立ちそうな事があったら話してくれ」
「もちろんです。その為にアレクサンドロ様にお話ししたのですよ」
最初は客から貰ったスライムが、何故か異世界のコンビニと言う所に繋がっていて、そこには見るもの全てが初めてで、不思議な物しか存在しない。
更に王様、宰相様、教皇様などの貴族の重鎮も存在しており、更に更にアイオーンとヘルメスの神々までいるのだ。
これを商機と思わない商人など存在しない。
そんな場所に、女神と称されるアイリーンが行けるならば、たとえ神との契約があろうとも、アレクサンドロはコンビニで起こる事柄を把握したかった。
「さて、ではアイリーン。今度のプリンの大会の為に、コンビニのプリンを契約の範囲内で買ってきて欲しい」
「……それって、アレクサンドロ様がただ単に、異世界の、本物のプリンを食べたいからではありませんの?」
キリッとした表情で言うアレクサンドロに、アイリーンはニヤニヤと笑いながら聞いた。
「ははっ。何を言っているのかな? 今度のプリン大会の審査員は、異世界コンビニの常連であるアイオーン様、王様、宰相様が出られるのだろう? だったら、少しでも向こうのプリンに並ぶくらいの味にしなければ、舌の肥えたお三方には太刀打ち出来ないではないか」
にっこりと、あくまでも大会の為だと言うアレクサンドロに、アイリーンはため息をこぼした。
「はぁ……。まぁ、そう言う事にしておいておきますね」
○
《ザックside》
アイリーン達から数時間前。
異世界コンビニから戻ってきたザックは、店内でテキパキと働くサーナを呼び止めた。
「サーナ。この後時間あるかな? 大事な話があるんだ」
あの衝撃的な、ただし盛大な勘違いの告白から、何処と無く気まずい雰囲気であったザックからの呼び止めに、サーナはお盆で顔の下半分を隠した。
お盆で顔を隠したのは、見る見ると赤くなる顔をザックに見せるのが恥ずかしかったからなのだが、お盆から出ている上半分と耳や首筋も赤くなっている為、ザックからは勿論、周りにいる客からもサーナが赤くなっているのが丸分かりであった。
「えっと……。この後、夕方になる前だったら時間が取れるから、その時でいい?」
今日のサーナのシフトはお昼から夜までで、客足が遠のいているお昼過ぎから夕方までに、それぞれが休憩を取る事になっている。
「分かった。部屋で待っているから、それまではお仕事頑張るんだぞ?」
「う、うん」
ポフポフとサーナの頭を撫でたザックは自室に向かい、その後ろ姿をサーナは恥ずかしそうに見ていた。
その後、サーナの前の人が休憩から戻って来たので、サーナは軽い昼食と飲み物を手に、ザックが待っている部屋へと向かった。
「お兄ちゃん。入ってもいいですか?」
ちょっとだけ扉を開けて中の様子を探るだけで、部屋に入ってこようとしないサーナに、ベットの上で装備品のチェックをしていたザックは、立ち上がり扉へと向かった。
「勿論っすよ。サーナだけに話したい、大事な話があるんだ」
本人にその気は無くとも、勘違いをさせそうなザックの言葉に、サーナは薄っすらと頬を赤く染める。
そんなサーナを部屋に招き入れたザックは、自分のベットにサーナを座らせると、部屋の隅に置いてある椅子を持って来て、サーナの前に座った。
「けれどその前に、命の神であるヘルメス様に誓いを立てて欲しいんだ」
「えっ? どう言う事?」
サーナは突然の神への誓いに驚いた。
命の神ヘルメスは、契約の神として有名である。
そんな神に誓わせるのだから、それほど私の事を好きなのね。なんて思ってしまうサーナ。
「実は、今から僕が言う話を、誰にも言わないとヘルメス様に誓って欲しいんだ。それくらい、今から話そうと思っている事は誰にも知られたくない。勿論、母さんにもっす」
「そ、そうよね。誰にも知られたくはない事よね。だって、私達兄妹だもの。こんな事、他の人に知れたら大変な事になるものね。分かったわ。私、ヘルメス様に誓う!」
ザックは妹のサーナに8-10スライムがバレたと思い込み、妹のサーナは兄が自分にいけない感情を宿していると思い込んで、お互いがお互いに盛大な勘違いをしたまま、神への誓いが終わった。
「さぁ、お兄ちゃん。私はいつでもバッチコイです!」
神への誓いで気が晴れたのか、もはやどうにでもしてくれといった感情なのか、サーナは覚悟を決めてザックを見つめた。
「よし。それじゃあ、僕がサーナと出会った時から話すぞ!」
「ん?」
首を傾げるサーナに気が付かないまま、ザックは8-10スライムのサーナとの馴れ初めから話し、異世界コンビニの事や、そこで出会った人達によって、自分が無事に魔の森から帰って来た事を話した。
「つまり兄ちゃんは、偶然のタイミングで私と同じ名前をスライムに付けて、生還して感情が高ぶった時に愛の言葉を言ったって訳」
「そうなんだよー。ちょうどその時にサーナが部屋に入って来ちゃったから、サーナの事がバレたんじゃないかとヒヤヒヤしたんだよ!」
やっと荷が降りたと言わんばかりに、明るく話すザックとは対照的に、サーナはプルプルと震えていた。
「つまり、サーナはサーナでも、私に愛の言葉を言ったのでは無くて、スライムのサーナに愛していると言ったのですね」
下を向き表情は伺えないが、未だにプルプルと震えているサーナの問いかけに、ザックは何も気が付かないまま地雷を踏んだ。
「その通りだ! そもそも、妹に恋愛感情だなんて抱かないだろう? サーナの早とちりだよ。それで、これが8-10スライムのサーナーー」
「お兄ちゃんのバカーーー!」
「フゴッ!?」
サーナはベットに備えてある枕で、ザックの顔面に渾身の一撃を打った。
「ちょっ! 何すんだよ!」
「お兄ちゃんのバカバカバカ!」
「わっ、わっ! やめるっす!」
その後、ザックの愛の言葉事件の誤解は解けたけど、サーナとの修復はもう少し時間が必要となった。
今回の小話
お互いにプリンを貰った時の反応
アイ「はい、アレクサンドロ様。これが異世界のプリンですわ」
アレク「……こんなにあるのか」←実食
アレク「ふむ。同じプリンだが、味や食感に違いがあるのか。これまででは大会で入賞を目指すのは難しかったが、アイリーンのお陰で良いところまでいけそうだな」
アイ「ではアレクサンドロ様。プリンにかかるお金。経費で落としてくださいませ」
アレク「……入賞をしたら考えよう」
ザ「これが今王都で有名な、異世界のプリンっすよ」←某大手の小さいプリンをテーブルに出す。
サ「ツーン!」←とするが、一度は食べてみたいと思っていたので実食
サ「ふぁっ……。とろとろでつるんと私の中に入っちゃう」
ザ「どうっすか? ビックリするくらい美味いっしょ?」
サ「はいっ!……はっ! こ、こんな事で絆されないですよ!」
ザ「実は、ここに他のプリンがあるんすけど」
サ「お兄ちゃん大好きです!」
無事に両方での契約が終了。
そして、サーナとの仲も回復しました。




