第53話 ダンボール怖い
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ヘルメス様の爆弾発言から数日後の、6月の中旬を過ぎた今日この頃。
俺はガンガンにクーラーが入っているウォークインでの品出しに精を出していた。
「ふぃー。あとはこの一段やればで終わりだぜ」
俺の胸元近くにある、24本入りのダンボールが5〜6個重なっているダンボールをポンポンと叩くと、銘柄を確認して補充していく。
ザックからの要望でヘルメス様を巻き込んでのひと騒動の後、異世界のメンバーのうちザックとアイリーンが誓約と制約を行なったそうで、ザックはもちろん妹に打ち明けて、アイリーンは店のオーナーに打ち明けたのだそうだ。
王様、宰相さん、教皇様は、今現在は人に教えなくても特に問題が無いという理由と、これを人に教えた時のメリットが無い事を考えて、今の所は誰にも教えていないそうだ。
特に王様は嫁関連で色々と問題を抱えているので、絶対に嫁にだけはここの事を話すもんか! と言っている。
むしろ、嫁バレしてエロ本がバレた時が怖いのだと思う。
万が一エロ本を集めている事がバレたら、せっかく集めたエロ本コレクションが、嫁の逆鱗に触れて消し炭に成り果てる未来しか見えないからな。
なので、この3人は今後も問題が起こらなければ、保留の状態だと言っていた。
それと、あの中では1番年少のリカルドは、いくら頭が良くて利発的でもリカルド自身が幼いと言うこともあり、もう少し大きくなって色々と自分で判断が出来るようになってから、自分の信頼出来る人に教える事にしようと言うのが、あの場の大人達の総意見だったので、リカルドにそれを説明して約束を交わした。
「はぁーー! やっと終わったーー! もう腰痛ぇー!」
品出しをやり始めてから30分後、やっと重たいクールドリンクとビール類の補充を終えた俺は、ウォークインからレジへと戻り、手を洗おうと蛇口から水を出していつものように手を洗おうとした瞬間に、手に痛みが走った。
「イテッ。えっ? 何処だ?」
手を洗おうと流水に手を突っ込んだ瞬間に、ピリッと指先に痛みを感じて、その痛みを感じた場所が何処なのかと探すと、左手親指の先端付近に、薄っすらと切り傷が出来ていた。
血は出てはいないが、押すと血が出るくらいの傷だったため、今まで気が付かなかったみたいだ。
「あぁーまたかぁー」
「何がまたなんだい?」
傷と睨めっこをする俺の呟きを拾ったアイオーンが、レジ台に上半身を乗せながら聞いて来たので、アイオーンにも見えるように傷口を開きつつ、いかに品出し中のダンボールが怖いかを、盛大に愚痴ろうではないか!
「ここを見てくれよ。アイオーン」
「んう?」
アイオーンの目の前に怪我をした親指を差し出すが、血が流れていないので怪我があるのが分からなかったのか、アイオーンは首を傾げた。
「ほれ、ここ。ここに小さい傷があるだろ?」
「うーん。あぁ、あるねぇ」
アイオーンは俺が何を伝えたいのか分からなかったみたいで、最初は首を捻ったが、傷が付いた指先を押して血を滲ませながら言うと、さほど興味はなさそうに頷く。
これから先は愚痴ばっかり言う予定なので、アイオーンに興味が無くてもそのまま続けた。
「俺、さっきまでウォークインでドリンクとかの品出しをしていたんだけどさ」
「いつもあの中で、1時間くらいゴソゴソしているやつでしょ?」
あそこと言いながら、ウォークインを指差したアイオーンに頷いて、話を進める。
「そうそれ。それでさ、その品出し中にダンボールで指切ったみたいなんだよー。これで8回目だわ。
ほら、ここはこの前付けた傷だろ? それでこれはいつだったかな? でも、これとここもこっちで働いてから出来た傷だから、俺どんだけダンボールで手を切っているんだろう」
「ありゃりゃ、大変だねぇ」
俺がこのコンビニで働き出して、もう3ヶ月くらいが過ぎようとしているが、今日の様にダンボールで指を切ったりする事があるせいで、俺の両手は傷がいつもある状態になっている。
それも、前の傷が治りそうな時に新しい傷が付くものだから、ここで働いている限り、俺の両手は傷だらけのままになりそうだ。
「ダンボールって言うと、蒼がお菓子の品出しをしている時に見かける、厚紙で出来た箱の事だよね?」
「そうそう。見た事なかったか? ちょくちょく品出しとかで売り場に出てたと思うが」
コンビニは毎日、何かしらの納品があるので、空きのダンボールが量産される。
だからアイオーンも見た事があるはずだと思い込んでいたが、そうでもないようだった。
「そりゃあ見たことはあるけど、僕達がイートインコーナーでワイワイしている時に、蒼がササッと品出しを終えちゃっているから、じっくりとは見た事無いよ。
チラッと見かけた位だよ」
「そか。ならちょっと待ってて」
アイオーンをその場に待たせて、俺はバックヤードに置かれているダンボールを取りに向かった。
ダンボールは品出しや捨てる時以外では、通行の邪魔になるので店内に出しっぱなしにはしない。
なのでアイオーンもじっくりと実物は見た事が無いと言うので、バックヤードに置いてある大きいダンボールの中に、畳まれて入れているダンボールの中から小さめの物を一枚取り出して、アイオーンの元へと戻った。
「これがそのダンボールな。多分だけど、これのここの部分を、横にスってやると切れるんだよ。しかも気を付けてはいるけど、急いでいる時はそんなの気にしていられないからな」
ダンボールをアイオーンに手渡して、どうやって怪我をしたのかを実際にダンボールの畳める部分の上に指を置き、横にスライドしながらアイオーンに説明をすると、アイオーンはジッと俺の顔を見て、ウンウンと1人、納得顔で言った。
「結構蒼って大胆って言うか、大雑把な所あるよね」
「うるせぇ。……それはそうと、本当にそっちの心配はしなくてもいいのか?」
ダンボールの話はこれでお終いにして、アイオーン以外がいないこの瞬間を狙って、ヘルメス様からこの前聞いた、他の皆には話せない勇者の件について、アイオーンに話を振った。
アイオーン達がいる異世界では、時たま魔王クラスのモンスターが誕生するのだが、それを討伐するには勇者の存在が必要不可欠なのだそうだ。
ただ、そろそろ魔王が出そうなこのタイミングで、その勇者があまり居ない状態なのだと言う。
「少なくとも、今日明日で魔王クラスのモンスターが人里に下りる訳ではないし、少なくとも四元素と癒しの勇者は存在しているからね。何とかなるんじゃないかな?」
あっさりと心配は不要だと言うアイオーンの言葉に、蟠っていた気持ちが少し晴れたような気がしたが、直ぐに撤回する羽目になる。
「それに、これで戦いが起こって戦争なんかになっても、僕達からしてみたら子供達の成長を見ているようなものだから、あまり手出しはしないんだよ。
流石に子供達が全滅するようじゃあ困るから、その時は適当に勇者を作ってどうにかするさ」
「おおう。神様の考えを聞かされる俺。そして、生贄とばかりに勇者にされる一般人さん。頑張れ」
こっちの神と向こうの神とで違いがあるかは分からないが、人と神様の考え方は違うようで、神にとっては魔王が誕生して人がどれだけ苦しんで亡くなろうとも、それが自然の摂理だと言わんばかりである。
「うーん。ただ勇者を作るのも面白くないし、どうせだったらこっちの人間を向こうに召喚なんてーー」
「いやいやいや。俺は嫌だからな!」
ヘルメス様に続いて、アイオーンも爆弾発言をしやがった。
しかも、チラッとこっちを見ながら言うもんだから、俺は巻き込まれては堪らないと言わんばかりに慌てて行きたくないと否定した。
普通の元リーマンの、現フリーターである俺が異世界で勇者となり、魔王と戦うとか無理無理! それって、どんなラノベだよ!
今回の小話
コンビニで必ず一回はするであろう、地味に痛い怪我トップ3
・ダンボールで手を切る
・テープの金具の所にぶつけて怪我をする
・のぼり旗の入れ替え時、何かが手に刺さる




