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第52話 真名

ブックマーク、感想、評価ありがとうございます。

 バックルームでささっと品出しをするお菓子を準備して、俺はバックルームから店内へ戻った。


「来たな」


 ヘルメス様は別れた場所から一歩も動かずに近場の物を興味深そうに見ていたが、俺に気が付くと隣へやって来た。


「お待たせしましたぁー。それじゃあ品出ししながらですみませんけど、呼び名の違いについてお願いします」

「構わない」


 ガラガラと5箱重ねた番重を2つ持っていきながら、俺はお菓子売り場へと行きつつも後ろを振り返り、ヘルメス様が付いて来ている事を確認する。


「では、私とアイオディウスヴァーンの呼び名についての違いだが、私はそれぞれの神を真名で呼び、アイオディウスヴァーンは略称で呼んでいる」


 ヘルメス様達の世界では、神が12柱存在しているらしく、それぞれが独自の呼び名でそれぞれを呼んでいるらしい。

 神々は火、水、風、土、光、闇、時、命、癒、毒、星、冥をそれぞれが司っているそうで、その中の時の神アイオーンだったら略称で呼び、命の神ヘルメス様だったら真名で呼んでいるが、他の神だと「時の、命の」だったり、「あーちゃん、ヘルちゃん」と呼ぶ神もいるそうだ。


「へー。でも、アイオーンもヘルメス様も、元々の名前って長いですよね。ヘルメス様の真名ってーー」

「ヘルメティアロスだ」

「……長いな。途中で噛みそうだ」


 一応聞いてみたけれど、アイオディオスヴァーンも、ヘルメティアロスも名前が長いので、俺は今後も略称で呼らせてもらおう。

 あれ? アイオーンの真名って、アイオディウスヴァーンだっけ? アイオディオスヴァーンだっけ?


「子らにはそうみたいだな。私達の名が長いせいか、一回できちんと言えたのは1人か……2人くらいだったか」


 遠くを見つめながら、ヘルメス様は懐かしそうにそうポツリと零す。


「いや、30だったか、50だったか」

「いや、最初より桁上がっているし」


 ちょっとおっとりと言うか、うっかりな性格のヘルメス様にツッコミを入れながらも、色々と聞きたいことがあったので、会話は続いた。


「えっと、さっきのこらのこって子供の子?」


 番重の1つ目が終わって、2つ目の中身を品出ししながら、ヘルメス様が来てから時々言っていた子らについて聞いてみると、俺の予想通りの答えが返ってきた。


「そうだ。私達神は生物の様に繁殖し、子をなさない。そのかわり、全ての生き物を子の様に思っている」

「ん? 全て?」

「そう全て。人間も獣人も亜人も魔人は勿論。モンスターや怪物と言われるものまで全てだ」


 いや、俺の予想以上の答えが返ってきてしまった。まさかモンスターまでもが、神にとっての子供だとは思わなかった。

 今までのオタク知識として、そういうのは邪神が担当しているのかと思っていたが、意外と王様達の所の神様達は、博愛主義者である様だ。


「元々は私達が暇つぶしで作った生命体が、長年の年月をかけて、成長したり退化したり、繁殖したり絶滅して今があるのだ。

 だから、元を正せば私達が作った生命体の子孫となるわけで、その生命体を作ったのが私達だから、今いる生き物は私達の子となる訳だ」


 ヘルメス様の説明を聞いて、別に博愛主義でも何でもなく、本当に神様の子供達なのだと理解した。

 実際には子孫って言ったほうがいいのかな?


「なるほど。最初にアイオーンが来た時に、8-10スライムを作ってたから、そんな感じか」


 ここに初めて来た時に、アイオーンが8-10スライムを使った事を思い出してヘルメス様に問うと、ヘルメス様は頷く。


「その様なものだ。しかし、今では様々な種族が生活しているのだから、新しい命を作る事はない」


 ヘルメス様の世界で、最初は両手で数える程しか居なかった生き物も、今では様々な種類の生き物や種族が存在しているらしく、自分達が手を出さなくても勝手に新種が生まれているので、今更新しい種族を作ろうとは思わないのだそうだ。


「まぁ、アイオーンは作りましたけどね」

「そうだな。アレは自分の興味がある事ならば全力だからな」

「なるほど、確かに」


 それぞれアイオーンに対して苦労をしている様で、「……ハァ」と、2人で同時にアイオーンについて溜息を吐いた。


「アイオーンって昔からあんな感じなんですか?」

「そうだ。アイオディウスヴァーンは、昔からどうも自分の興味を引く事柄に出会うと、猪突猛進でな。もう私達は慣れたのだが、勝手に名前を教えられる子らにしてみると、溜まったものではないだろうな」

「勝手に名前を教えられる?」


 ヘルメス様の言葉に引っかかりを覚えた俺はおうむ返しで聞き返すと、ヘルメス様は俺の顔をジッと見て、何やら思案顔だったのだがコクリと頷いて俺に確認を取った。


「これは本来子らに教えることではないのだが、ある意味関係者で、ある意味部外者でもある君には教えてもいいだろう。他の子らには他言無用だ。いいな?」

「うっす」


 ヘルメス様に真顔で言われたので、俺は品出しの手を止めて、ヘルメス様の目を見ながら頷いた。

 俺に他言無用を強いるのだ。それなりに他の皆には言えない秘密があるのだろう。


「よろしい」

「……」


 どんな重大な話なのだろうか? ドキドキと高鳴る鼓動を感じながら、ヘルメス様の言葉を待つ。


「……あぁ、仕事を続けながら聞きたまえ」

「あ、ありがとうございます」


 さっきの俺の意気込みは何だったのかと、コケっとコケそうになったのが、品出しをしながらで良いのなら、品出しを続行させてもらいます。

 そんな品出しをしている俺を見ながら、ヘルメス様は語り出した。


「では昔々の話だが、我々の世界には魔力があり魔法を使える。

 魔法を使うには適正が必要で、それは子らが生まれた時に備わっているものだ」


 この適正と言うのは、最初に神が作った属性が元になっており、その後は人間もモンスターも、親から子に引き継がれていくそうだ。

 ただ、人間だけは他のモンスターなどに比べると、種族を超えて繁殖していった為か、複数の属性を持っている者が多い。

 しかし、単一属性持ちに比べると、威力が低い者が多い傾向にあるそうだ。


「ほうほう。単一属性で高威力か、複数の属性で万能型か」

「あぁ、その様な認識で構わないが、適正が無くとも魔法は使える。

 ただ、その適正が無ければ魔法が発動し難かったり、威力が適正有りの子に比べると低くなる。

 しかし、その適正を補強するために、時々私達神に祈りを捧げる者がいた」


 特に、村や街の近い場所で強いモンスターが発生した場合に、その傾向が顕著になっていたとヘルメス様は言う。


「この属性の適正が欲しい、もっと強い威力の魔法を発動したいなど、様々な子らが私達に祈りを捧げた。

 ならばと私達は、力の一部のカケラを名として子らに教えた。

 元々私達の名前には力がある。その名を知り祈る事で、私達の司っている属性の威力を上げる手伝いをしたのだ」


 その時に神様達の略称を人間に教えたそうで、そこから段々と信仰者が増えて、協会が建てられて、硬貨のデザインになって、世界中に神々の存在が広がっていったのだそうだ。


「そんな中に、時たま見所のある子を見かけるとこがあった。この子を自分の所有物にしたいと思った私達は、その子に自分の真名を教えて縛る代わりに、私達と同等の力を貸したのだ」


 名で縛るとは、神に自分のなす事全てを見られる事だそうで、プライバシーのカケラもない事であった。

 いくら強くなろうとも、俺だったら神に四六時中監視される生活なんて、勘弁願いたい。


「それが先程言った通りで、勝手に名前を教えられる子らにとっては、力を得る代わりに神の真名に縛られるという事だ」


 長い、長い神の真名についての話に、俺は品出しの手が止まっていた。そしてハッとする。


「あ、あの! 俺、2人の真名聞いちゃったんですけど」


 ヘルメス様がアイオーンの真名をポロリしただけで、アイオーンから直接聞いたわけではないのだが、俺はアイオーンとヘルメス様の真名を知っていることになる。

 それに、あの場には異世界の全員が集まっていたはずだ。


「あぁ。それは大丈夫だ。世界が違う君は地球神の影響下にある。故に君に私達の真名を教えても、君がどうこうなる訳ではない。

 それに、その地球神の影響下であるここでは、私達が真名を言っても翻訳に阻まれるのだ」

「なんだぁ。それなら良かった」


 あわやヘルメス様とアイオーンに、四六時中監視される生活を送るのかと思っていたが、どうやら地球神のおかげで事なきを得たようだ。

 それに、8-10スライムの翻訳も地球神の手が入っているようで、8-10スライムの翻訳越しに会話をする契約者達も、都合の悪い事にはならずに済んでホッとした。


「ただ、最近は真剣に祈る子らも減っているようでな。魔王クラスまで育ったモンスター達に対して、どう対抗するのやら」

「ん?」

「言い忘れていたが、もう少しでそれぞれが生み出した子らが、魔王として君臨しそうなのだ。

 その魔王を倒せるのは勇者だが、勇者になるには神の真名を教えられた子、だけだ」

「ん?……えぇっ?! それって一大事じゃないですか!」

「んっ?」


 ところがどっこい、ヘルメス様は最後に爆弾を落としやがった。

今回の小話

その頃の風船勝負の行方。

教皇様←膨らませる勢いが強すぎて破裂

アイオーン←膨らむのに興味を示し、指で突っついたので破裂

リカルド←1番無難に完成して待機


結果


ザック「リカルドの勝利っす!」



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