第51話 ガムはガムでも
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(もうちょいで総合が5000になりそう)
「えっ、3人とも結構普通そうな顔をしているけれど、誰がハズレを引いたんだ?」
酸っぱいハズレが入っている、グレープ味のガムで行なっているロシアンルーレットの最中に、アイオーン、リカルド、ヘルメス様の誰がハズレを引いたのか、分からない展開となった。
アイオーンは「変なの、変なの」と、味では無くてガム独特の食感を楽しみ、リカルドは果物の葡萄が好きだった様で、その葡萄味のガムを美味しそうにモグモグしている。
ヘルメス様は特に顔の変化は無いけれど、他の2人に負けないスピードで、モグモグと口を動かしているので、見た目では判断がしにくいのだ。
俺としては、ハズレの酸っぱいのを引いたのがリカルドだったとしたら、すぐにそれなりの反応をすると思うので、アイオーンかヘルメス様がハズレを引いたのではないかと思っている。
「蒼。これっていつ飲み込めばいいの?」
そんな事を考えていたら、ハズレ候補Aのアイオーンが、ガムが入っているであろう少し膨らんでいる右の頬を指差しながら、不可解そうな顔で俺に聞いてきたが、残念ながらガムは飲み込むものではない。
「あぁ、ガムは味がしなくなったら紙に包んで捨てるんだよ」
「えっ? そうなの?」
「そうなの」
キョトンと俺を見上げるアイオーンに、間髪入れずに頷く。
「ほう。不思議な食べ物なのだな」
「向こうでは聞いたことの無い食べ方ですね」
異世界ではガムの様に、味を楽しんだら捨てる食べ物は存在しないのか、質問をしたアイオーンはもちろん、王様と宰相さんも驚いていた。
「なら、そろそろ捨てようかな。最初の頃に比べると、あまり味がしなくなったからね」
「捨てるのか? ならちょっと待ってろ。紙持ってくるから」
ガムを捨てようとしているアイオーンに、レジ内にある紙を取ってくると、アイオーンに差し出した。
紙はわら半紙の様な色をしており、コンビニでは手を拭いたり汚れを拭いたりと、ティッシュの様に使っている紙だ。
だが、ティッシュより固めなので、鼻をかむのはお勧めしない。
「ほい。紙」
「ありがとー!」
紙を受け取ったアイオーンは、ガムを紙で包み込むと、「ちょうだい、ちょうだい」と触手を伸ばしているスライムにポイっと投げた。
「うん。面白い食感だったね。ねぇヘルメス。ハズレってどんな味なの?」
「……酸っぱい。その奥に葡萄の味がする」
「あっ! ハズレを引いたのはヘルメス様だったのか!」
今回のロシアンルーレットでは、ヘルメス様がハズレを引いた様だ。
ただ、これといった顔の変化も無しに噛み続けているヘルメス様なので、見た目だけの判断だけだと相当難しかった。
「私の分も味が薄くなってきたので捨てたいと思う。紙をくれ」
「はい、どうぞ。リカルドはどうする?」
ヘルメス様のガムも味がしなくなった様で、捨てるようの紙を渡すと、未だにモグモグと口を動かしているリカルドに、捨てるかどうかを聞く。
アイオーンとヘルメス様が捨てると言うのだから、もうあまり葡萄の味はしないはずだ。
「えっと、まだね。まだ葡萄の味がするの」
だから、まだ捨てないとばかりに両手で口を押さえるリカルドは、取られないかとばかりにじっとこちらを見つめる。
「分かった。一応ここに紙を置いておくから、要らなくなったらここに捨てるんだぞ」
「うん!」
そう言いながら残った紙をリカルドの目の前に置くと、リカルドは嬉しそうに頷いた。
そして、嬉しそうにモグモグしているリカルドを見て思い出した。
これはガムはガムでも、風船ガムなのである。
「リカルド、そのガムを使って風船が作れるぞ」
「風船?」
俺が突然話しかけたから、リカルドはキョトンと首を傾げておうむ返しで風船と繰り返した。
もしかしたら、リカルドの世界に風船は無いのかもしれないので、スマフォで画像を見せながら簡単な風船の説明と共に、ガムで作る風船の作り方を教えると、これに異世界のメンバーが興味を示した。
「よぉし! リカルド、どっちが大きい風船を作れるか勝負だ!」
「はい、アイオーン様! 絶対に僕の方が大きいの作るれるよ!」
「どれ、リカルドよ。儂も勝負するぞ!」
お子様組と教皇様は、誰が一番大きい風船を作れるかで勝負をし始めた。
審判をするのはザックとスライム達で、勝負が始まる前にハンバーグ弁当を食べ終えねばと、急いで食べている。
あんなに口に頬張ったら、そのうち喉に詰まりそうだ。
「さぁ、皆。自分のガムは持ったかい? それじゃあ、せーの!」
アイオーンの音頭で、3人が同時にガムを口に放り込んだ。
新しいガムにした理由は、リカルドはずっと同じガムを使っているので、公平を期すためにアイオーンの奢りでもう一個酸っぱいガムを買ったのだ。
そして、今度のハズレはアイオーンが引いた様で、あまりの酸っぱさに悶絶している。
「ぐぅ……しゅっぱい」
「ハッハッハ! また神がハズレを引いたでは無いか!」
「アイオーン様大丈夫?」
「……大丈夫」
これはあれだろうか? ヘルメス様にアイオーンと、異世界の神達が連チャンでハズレを引いているので、地球神の悪戯というなの仕返しかもしれない。
そしてもう一方の大人組は、風船自体の機能に興味がある様で、先程から真剣に話し合いをしている。
「なぁ、ヴォルオよ。祝典や祭典の時にこの風船を使うのはどうだろうか?」
「それはいい考えですが、どうやって風船なる物を作ればいいのでしょうか?」
「ねぇ、王様。宰相様。もし風船の作り方を発見できたら、私達平民にもその作り方をお教え頂けないでしょうか? 先程見た風船は、とても素晴らしい物でしたので、私達のお店にも飾りたいと思いましたの」
画像を見せながら風船について説明する時に、祝い事の時に沢山の風船を飛ばすと豪華に見えるだとか、アイリーンのお店だったらパーティの時に、バルーンアートを飾ったら可愛く見えるなんて話してしまってから、風船熱が物凄い事になっている。
「一応、こんなのが出てきたので参考までに」
『今日は、風船がどのようにして作られるのか、その作り方を見たいと思います』
『私達の生活の中に当たり前のようにある風船ですが、どうやって作られているのかなんて、考えたこともありませんでしたよ!』
「…………」
「…………」
「…………」
けれど、異世界で風船を作るのには難儀しそうなので、ネットで作り方を探してみると、材料は出ていないが作り方はあったので、それを3人の前に出した途端に、一斉に黙って画面を凝視する3人。
「ふぅ。まさか、風船でここまで白熱するとは思わなかったな」
風船で異様な盛り上がりを見せるイートインコーナーを後にし、俺は通常の仕事に戻るべく、バックルームに向かおうとした時に、ヘルメス様に呼び止められた。
「蒼。他の子らが私達に興味が無い今がちょうど良いと判断した。どうだろうか?」
「……ん? なんの話ですか?」
さぁ、馬鹿騒ぎは終えて仕事に戻ろうとしている時に、出鼻を挫かれた勢いでヘルメス様に呼び止められてしまったので、ヘルメス様が何に対してちょうどいいと言ったのかが分からずに、俺はポカンとなってしまった。
「ほら、私とアイオディウスヴァーンが、互いに呼ぶ名が違うと言っていたであろう? その時に、アイオディウスヴァーンは後できちんと話すと言っていたのに、今はあの有様だからな。代わりに私が説明しようと思ったのだ」
「あー! あー! 確かにそんな話してましたね」
ヘルメス様の説明で、そう言えばそんなことを話していたと思い出した。
あの時はザックの問題を先に片付けるから、後できちんと教えるとアイオーンは言ったのに、そのアイオーンは、風船ガムを誰が一番大きく作れるかに夢中になっていて、この話をすっかりと忘れている気がする。
「だろう? だから、今説明しても大丈夫だろうか?」
「あぁ、はい。大丈夫ですよ。あっ、でも、仕事をしながらでもいいですか? まさか、ここまで話混むとは思わなかったので、ちょっと仕事が押し気味なんですよね」
ザックの問題から契約の話、ロシアンルーレットから風船になるまで、全く仕事に手をつけられなかったので、更に仕事が出来ないとなると困るのだ。
「それは勿論構わない」
「あっ、そうですか? なら、ちょっとここで待っていてください」
そう言って俺はバックルームへと戻った。
今回の小話
アイオーンがハズレを引いた時
地球神(異世界神のせいで私の業務が増えたのだから、このくらいの悪戯は大丈夫でしょうし、今後もこの様な形でちょくちょく溜飲を下げましょうか)
ア「ウワッ!なんか背筋がゾクってしたよ」辺りをキョロキョロ
へ「……んっ」袖を摩り摩り




