第49話 誓約と制約
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リカルドがワクワクと買い物を終えて席に戻る頃には、神々の戯れと王様の赤裸々トークは終了していた。
「あっ、戻ってきたね。それじゃあヴォルフから説明を求められたから、誓約と制約についての説明をするよ」
俺達が戻って来たのを見つけたアイオーンが、手を振りながら迎える。
「お兄ちゃん。お椅子に乗せて」
「おう。ほい、リカルド」
リカルドには店内にある椅子は高いので、まだ1人では上手く座ることが出来ない。
なので、毎回大人の誰かに今回の様に座らせて貰っている。
「蒼よ。これから話す内容は、私たちの世界の事なので君には関係の無い話になるが、私達が話す内容を、その子に分かりやすく説明してほしい」
「あっはい。分かりました」
「ありがとう。お兄ちゃん」
リカルドを椅子に座らせるのを手伝っている時に、ヘルメス様からその様に頼まれたので、俺は二つ返事で引き受けた。
いくらリカルドが賢いといえど、まだ5歳児であるリカルドが大人に混じって、神様達の話の内容を全て理解するには難しいだろう。
「では、誓約と制約についてだけど、ここからは僕ではなくて、担当であるヘルメスが説明するよ」
先程まで進行係であったアイオーンは、自分の管轄外だと言う事で、これから先の説明は担当であるヘルメスに任された。
「では先に、誓約について説明をする」
アイオーンとは違い、落ち着きのある低い声で話し始められると、先程よりもピリリとした緊張感が場を支配した。
「先程、このスライムらに私が力を込めた事により、君らがここの事を他人に話す事が出来なくなった」
「あっ、質問です。ヘルメス様」
「何だ?」
話の腰を折るようで悪いけれど、俺は1つ気になった事があったので、それをヘルメス様に確認する。
「この場には居ないスライム達はどうなるのでしょう? アイオーンが前にやらかした時は、100匹の8-10スライムをそちらの世界に放ったと言っていました」
現在この場には6匹の8-10スライムがいるので、異世界にはあと94匹の8-10スライムがいる事になる。
そのスライム達にも同じ機能を付けないと、また同じ事になった時が面倒だ。
『えっ!?』
「えっ?」
俺の発言を聞いた大人達は、初めて聞かされたとばかりに驚きの声を上げて、俺とアイオーンを見つめる。
どうやら、8-10スライムが何匹存在しているのかを、アイオーンは言っていなかったらしい。
「能力からして貴重だとは思っていたが、まさか100とは……」
「特殊なスキルを持っているのでアレですが、平均的なスライムの生息数に比べると、著しく少ないですね」
「ううむ。100と言えば、各龍の眷属数と同等では無いか?」
「まぁ……こんな貴重なスライムだったなんて」
「……うひゃあ。持っているのが怖いっす!」
王様、宰相さん、教皇様、アイリーン、ザックは、それぞれ自分のスライムを見つめながら感想を零すが、貴族のお三方は比較的8-10スライムの貴重性を吟味し、アイリーンやザックの平民の2人は、そんな貴重な8-10スライムを、自分が所持しているのが信じられないと言った顔をしている。
ちなみに子供であるリカルドは、ここまでの会話の内容をあまり深刻に捉えていないので、早く神々の話が終わらないかなと、足をプラプラさせたりして待っている。
「僕はやらかしてないやい! だって10匹だけだったら少な過ぎるだろ? だからと言って1000匹も作ったら多すぎるじゃないか! だけら間を取って100匹にしたんだよ! それに、今は人族しかこの場には居ないけれど、最初に8-10スライムを向こうに飛ばした時は平均的に飛ばしたから、結局は各国で平均した場合は15〜20匹くらいになるようしたんだよ! そう考えたら8-10スライムも貴重だとは思わないかい? だって、王国だけでもう6匹は見つかっているんだから、あと10匹程度しか王国には居ないって事なんだからさ!」
と、ヘルメス様の隣で長々と喚いているアイオーンであったが、ヘルメス様はスルーしてテーブルの上にいるスライムの1匹を撫でながら、何かを確認して頷く。
「ふむ。このスライムには同期というスキルを有しているので、この場に居ない他のスライムにも、私の力は及んでいる」
撫でられてウットリする8-10スライムを見つめながら、ヘルメス様は話を続ける。
「さて、本題に移ろうと思う。ここの事を話す事が出来るようにするには、先に、私に対して相手が誓約を誓った時だけである」
「あっ、ついでに8-10スライムと契約した時にヘルメスに縛られるようにしてよ」
「…………?」
「…………」
「…………」
「…………あっ、今日のところはここの何かを奢ってあげるよ!」
「……分かった」
「えへへー。ありがとう。ヘルメス!」
アイオーンの無茶振りに、長々と無言で2人は見つめ合っていたが、アイオーンの奢る発言で結局ヘルメス様が折れた。
「ん? そこはアイオーンじゃあダメなのか? スライムを作ったのはアイオーンだろ?」
アイオーンがヘルメス様にお願いしたのは、8-10スライムと契約する時に、今まで出ていた内容を契約者に付けるためのものだとしたら、8-10スライムの制作者であるアイオーンの方が相応しいのではないかと思ったのだ。
と言うか、ヘルメス様に面倒ごとを押し付けたのではないかと、俺の中に疑問が出てきている。
しかし、異世界には異世界のルールがあるようだった。
「蒼。残念ながら、アイオーン様は時の神です。時間に関係する事はアイオーン様の管轄ですが、契約は命の神、ヘルメス様の管轄になります。
契約で名前を縛る事が出来るのは、ヘルメス様だけなのです」
「他の神もそうだ。自分の管轄内では縛れるが、それ以外は手出ししない」
「まぁ、儂の様な例外もあるがな!」
宰相さん、王様、教皇様が神々についての話をしてくれた。
教皇様の例外は、騎士団長になる予定だったのに、神々からの祝福で教皇様になった人だからで、本来ならば自分の管轄外で動くのはレアな事だそうだ。
「へー。神って万能じゃあないんだな。すみません、話の腰を折って」
「いや、構わない。では、先ほどの続きをするぞ」
「はい。お願いします」
ヘルメス様に頭を下げて、話の続きをお願いした。
「アイオディウスヴァーンに願われたので、君達も今この時から、私に縛らせたと認識する様に」
『はい』
ヘルメス様は有無を言わさないでそう言うと、全員が同意して頷く。
難しかったが、リカルドにも理解できる様に説明して同意してもらった。
「次に制約の話に移る。
この制約の対象者は、私の名に縛られた者達である。
制約が発動するのは、意識しても無意識であったとしても、ここに関連のある事を話そうとした瞬間に言葉に詰まるか、声が出せなくなる制約を付けた。
以上が、今回アイオーンにより喚き散らされて願われたーー」
「ちょっと、ちょっとちょっと! 僕喚いてないよ!」
「……いや、私の所に来た時も、今の様に喚いていたではないか」
「ぐぬぬぬぬぬ」
ぐうの音もでないで悔しそうなアイオーンと、それを無表情に見下ろしているヘルメス様を見ていたら、クイクイッと裾を引かれた。
「ねぇお兄ちゃん。もう難しいお話は終わった?」
こてんと首を傾げたリカルドが、俺を見上げてそう言った。
心なしかウキウキしている様に見えるのは、気のせいではないはずだ。
だって、アレを握りしめている。
「……あぁ。もう大丈夫だと思うぞ」
ちらりと隣を見ると、不動のヘルメス様に対してアイオーンがちょっかいをかけているが、諸々の話し合いは終わったので、リカルドが神々をお誘いしても大丈夫だろう。
「わぁ! ねぇねぇ、アイオーン様。ヘルメス様! これ一緒に食べよう!」
ぴょこんと椅子から降りたリカルドは、アイオーンとヘルメス様の間に立つと、テーブルに1つのお菓子を置いた。
「リカルド、それ何?」
アイオーンが不思議そうに、テーブルに置かれたお菓子を突き、そのお菓子を、この場にいる全員が興味深そうに見つめる。
ここに来て1月ほどの月日は過ぎているのだが、宰相さんとリカルド以外は、あまりお菓子に興味がないのかスルーしているし、甘いものは好きだからお菓子も買う宰相さんでも、安さが売りの駄菓子はノータッチだったので、この場にはいる全員にとってほぼ初見のお菓子である。
そのテーブルに置かれたお菓子。
それはグレープ味の駄菓子で、三個入りのガムの中に1つだけ、酸っぱいハズレが入っている例のアレである。
ついに、神と人間のドキドキロシアンルーレットが始まろうとしていた。
今回の小話
ア「あっ、ヘルメスーー!ねぇ、今すぐにヘルメスの力を貸して欲しいから、僕について来て欲しいんだよ!」
へ「自分でどうにかしたらどうだ?」
ア「そこをなんとか頼むよーー!命の神であるヘルメスに頼みたいんだよーー。ねぇねぇお願いだからさぁー」
へ「……うるさい」
ア「ねぇねぇ、ヘルメスーー」
10分後。
へ「それでどこに行けば良いんだ?」
ア「ヤッタァー!こっちこっちー」




