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第48話 命の神

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 店内を興味深そうにキョロキョロと見渡している男性は、そのままにしておくとフラフラとどこかへ行ってしまいそうだったからか、アイオーンがローブの端っこを引っ張りながら、異世界に戻るまで自分が座っていた場所に座った。


「あっ……。ここどうぞっす」

「いや、当事者であるザックはそのまま座っていてよ。

 ってな訳だから、レイセント。そこ空けてくれる?」


 ちょうどアイオーンの隣に座っていたザックは、元々自分の隣に座っていたアイオーンと、そのアイオーン(神)が連れて来た人(周りの反応を見るとこの人も神)の為に席を立とうとするが、それをアイオーンが止めて、逆隣にいた教皇様に席を退くように言う。


「はっ。喜んで」


 ここでは見た事は無かったが、教皇様はアイオーンに頭を垂れると、スッと立ち上がって自分が座っていた席を男性に譲る。


「済まぬな」

「いえ」

「では、教皇様。こちらの席が空いてましてよ」


 席に溢れた教皇様をアイリーンが誘って、俺を除いた全員が席に着くと、アイオーンはぐるりとその場にいる全員を見渡して話し始めた。


「では、今回のザックの問題を解決する為に、こちらの命の神こと、ヘルメスに来て頂きました」

「うむ。アイオディウスヴァーンに紹介された私が、命の神ヘルメティアロスである」

「ん? アイオ……。アイオーンってのは、本名じゃないのか?」


 アイオーンと、ヘルメスと呼ばれた人とでは、それぞれの固有名詞の言い方が違っていた。

 アイオーンは俺に教えたような呼びやすそうな名前で、ヘルメスは長ったらしい名前だ。

 確か、アイオディなんとかと、ヘルメティなんとかって言っていた。


「そうだね。その事については後で蒼に教えるから、今はザックの問題を片付けてもいいかな?」

「……あぁ。分かった。ただし、絶対に教えろよな」

「分かってるってば! では蒼以外の皆は、ヘルメスが何の神だかは知っていると思うから、蒼向けにさっくりと説明すると、ヘルメスは命の神で、契約や秩序を司っている神であるんだ」


 異世界についてさっぱり分からない俺の為に、アイオーンがざっくりとヘルメスについての補足説明をする。

 他の皆はヘルメスが誰かを知っているようで、これから何が起こるのだろうと、ジッとアイオーンの言葉を聞いている。


「それでね。今回、僕がヘルメスを呼んだのは、ルールを新しく追加しようと思ったからなんだ」

「なんと!」

「まぁ」


 ルールを新しくすると言う説明に、一瞬その場が騒ついたが、すぐにアイオーンが続きを話すと、静かになった。


「それでね。新しいルールって言うのは、契約者以外に1人。ここの事と8-10スライムについての説明をしても大丈夫ってルールなんだ」


 アイオーンが言った新しいルールは、ここの皆が暗黙の了解となっていた他言無用を、1人だけに教えていい事にしたようだ。


 実はこの他言無用、俺以外の皆が決めたルールで発案者は宰相さんである。

 このルールが出来た原因が実は教皇様で、コンビニに来れる様に手を打った方法が、他の強欲な人に知られた場合に、場合によっては危害や迷惑が出るのでは? と危惧した事により、異世界メンバー限定のルールが出来上がったのだ。

 この他言無用ルール以外にも、ゴミが出たら必ずスライムに食べさせるだとか、スライムの能力を他人に見せないようにするだとかがある。


 実は8-10スライムは、インベントリ機能を持っているので、商人や冒険者などの、移動する時に大量の荷物を持つ人達にとっては、喉から手が出るほど欲しいモンスターになっているのだそうだ。


「ハッ! って事はっすよ。サーナにサーナの事を説明できれば、僕の誤解が消えるって事じゃないっすか!」

「さな?」

「うん。お前じゃないっす!」


 それ、そろそろ持ちネタになるんじゃね? って感じにサーナネタが定着して来そうな展開を披露したザックとサーナのやりとりであったが、確かにこのルールでなら、ザックの妹の方のサーナに8-10スライムの事を教えておけば、今回の問題は解決する。


「しかし、話はそれで終わりではありませんね。何せ、命の神であるヘルメス様をここに呼び出したのですから」

「と、言うと?」


 イマイチ事情を読み込めていたない俺の為に、アイリーンが命の神であるヘルメスが、何を司っているのかを、もう一度教えてくれる。


「先程アイオーン様が仰っていたでしょう? 命の神であるヘルメス様は、契約、秩序を司ると」

「つまり、なんらかの契約を儂等に付けると言う事ですかな?」


 最後は王様が、アイオーンとヘルメスを交互に見ながらそう聞くと、2人ともコクリと頷いた。


「今回、私がここに来たのは、アイオディウスヴァーンから、その件についてお願いをされたからである」

「そうだよ! 僕がーー」

「私が行うのは、8-10スライムの契約者が、他の子らにその存在を教える前に、話の内容を胸にしまい、口外しない事を、私の名を出して誓うのだ」

「……」

「……」

「……それはーー」

「ねぇヘルメス! さっき僕の話をぶった切ったでしょう!」

「……? 其方は何の話をしているのだ?」

「ぬぁーーー! ヘルメスーー! そう言うところだよ!」

「?? 其方が何を言いたいのか、訳が分からないぞ?」


 あっうん。

 ドヤ顔のアイオーンが、自分のおかげだからと自慢し損ねた瞬間に、こうなる様な予感はしていました。


 キャンキャンと子犬の様にヘルメスに絡むアイオーンと、そんなアイオーンが何故怒っているのか心底分からないと言いたげな、マイペースなお人柄のヘルメスを放置して、人間同士の話し合いが行われていた。


「ほう。1人だけだが、相手が神に誓いを立てられるのならば、こちらの事を教えるのはいい考えだのう」

「私は特に現状で問題はないのですが、どうしましょうね。こちらにいる時に問題が発生した場合を想定して、信用している者に話を振ってみるか……」


 腕を組み、顎をさすりながら思案する王様に対して、宰相さんも眼鏡をクイッと上げながら考え込んでいるのか、ブツブツと何やら話している。


「儂も今の所は問題は無いし、子飼いの者等が把握しているからな。別にこのままでも問題は無いな!」


 教皇様は8-10スライムを探す為に、最優先事項として自分の部下に8-10スライムを探させた人なので、部下の人達は、この8-10スライムが普通のスライムでは無い事をぼんやりと把握しているっぽい。

 もちろん見つけた後に、関係者全員に対して他言無用を教皇が強いている。


「はぁーー。良かったっすーー。これで誤解が解ければ、今日の夕飯は美味しく食べれそうっす」


 ザックはザックで、昨日からの緊張と言うか疲れと言うか、そんな物から解放されたのか、ダランとテーブルに突っ伏している。


「うぅむ。しかし話すとしたら、誰に話したら良いものか……」

「あら、王様は奥様にお話なさったらよろしいのではなくて?」


 何気なく、本当に何気なくアイリーンが提案した内容に、王様は一瞬動きを止めた後、恐ろしいとばかりに叫んだ。


「はっ……。なっ何を! アイリーン……其方は何と恐ろしい事を言うのだ!」

「えっ? どう言う事ですの? 私、失言してしまったのでしょうか?」


 事情を知らないアイリーンは、そこまでオロオロとはならなかったが、それでも自分が何か失言したのでは無いかと、顔を青ざめながら宰相さんと教皇様に話を振ると、2人は何でも無いと言う様に頭を振るった。


「あぁ、安心してください。アイリーン。下の者には知らされていませんが、ここだけの話、王妃様は王様にとってかなりの鬼嫁なのです」

「確かにさっきの発言は失言だったかもしれないが、あれは奥方に恐れ慄いているだけだ」

「……まぁ! そうなのですか?」


 王宮の事など、平民には中々出回らない情報に、アイリーンはびっくりした様だが、俺はこの話を知っていた。


「俺、この話知ってんな。確か、王様がエロ本を買いに来た時に……」

「そうなのだ! 良いかアイリーン。ここだけの話だぞ! あいつは儂と結婚した時は、まだ可愛げのある美しい公爵令嬢であったのだ。

 だが、結婚して1人目を妊娠した瞬間に豹変したのだ!」


 そこから、王様の赤裸々の独白が始まりそうだったので、俺はこんな話を聞いてはいけないとリカルドを連れ出して、駄菓子売り場まで避難させた。


「とりあえず王様が落ち着くまでは、ここので商品でも見ているか。ほら、これなんか新商品だぞ」

「わぁ! これってどんなお菓子なんだろうーー! でもね、僕ね。今日はあれ買ってみようと思うの!」

「あれってこれか? リカルド大丈夫なのか?」

「うふふ。それでね、ヘルメス様とアイオーン様にも一緒にどうぞってするの!」

「リカルド……お前怖いもの知らずだな」


今回の小話。


王様の鬼嫁暴露話中。

王妃「はくちゅん! ……(風邪かしーー)はくちゅん!」

王子「母様……。大丈夫ですか?」

王妃「えぇ、大丈夫よ。心配は要らないわ。(だってクシャミが二回だもの。誰かが私の悪口を言ったという事)……うふ。うふふ」

王子「大丈夫なら良かったです!」


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