第3話 ルールを決めようぜ
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「はいはい、アイオーンな。ちなみに確認なんだが、その特典とやらは俺以外だとどの程度の範囲なんだ?」
俺達とは違う世界。つまり異世界の神であるアイオーンの相手をする代わりに、こっちの神様、略して地球神が提示した特典は、俺と、俺に深い繋がりを持った人間に対する特典であるらしく、その範囲がどの程度かを確認したかった。
「えっとねー。蒼と血の繋がりを持った人間……。こっちの言葉だと、にとおしん? って人と、それ以外だと蒼が大切に思うほど特別な人だって」
「にとおしん。……あぁ、二等親か」
二等親と言えば、俺の場合は親父にお袋。両方のジジババと、とっくのとうに嫁いて行った妹くらいか。
三つ違いの妹は大学卒業と共に結婚して、今では立派な二児の母だ。さらに半年前にまた身篭ったって言っていたから、大したもんだ。
あとは特別な人ねぇ。俺次第って事なんだろうが、出会いがねぇよ!
「あと、これからの病気とか厄災は払って上げられるけど、元々持っていた物はダメだって。うっかりもダメなんだってさ」
二等親について考えていたら、アイオーンからそんな事を言われる。
「うっかりってなんだ?」
「さぁ?」
首を傾げたアイオーンだが、そこが一番大事な所じゃないか?
「……なら、俺がこっちの神に何個か質問するから、間に入ってくれ。それで『はい』か『いいえ』かで答えてくれないか?」
「良いよー」
快諾したアイオーンを間に挟み、俺が何個かの質問をした事で、やっと特典の全容を理解出来た。
地球神から貰った特典はさっき確認した通り、俺と俺の二等親内の人間と、あとは俺が大切にしたいと深く思った相手。この場合は人間だったら恋人で、動物だったらペットとかだな。
まぁ、今はどちらも欲しいとは思っていないが。
それで、この特典の範囲内の人間には病やアレルギーには罹らない。
もちろん精神疾患にもならないが、元から持っているものを無くす事は出来ないようだ。
例えるなら、俺はまだ花粉症にはなっていないから、今後一生花粉症にはならないって事だ。その代わりダニアレルギー持ちだから、それは自力でどうにかしろって事だな。
あとは事故や事件、自然災害にもこの特典は有効のようだが、その代わりに虫歯や筋肉痛、捻挫などの自分でうっかり負った物は無理のようだ。
「まぁ大体は理解したし、結構良い特典だな。無駄使いしないで暮らしていく分には充分な特典だ」
それに一生病気にならないのなら、居候させて貰っているジジババの恩返しにも出来るし、妊婦でこれから大変な妹も、無事に出産が出来るだろう。
「やったぁ! なら、これで僕はいつでもここに来て大丈夫って事だね! ついでに、僕の世界の住人もこっちに来れる様にしよっと!」
バンザーイと両手を上げて喜ぶアイオーンだが、喜ぶのはまだ早いとアイアンクローをお見舞いする。
「喜ぶのはまだ早いぞ」
「痛い! 何で!?」
ギリギリと指先に力を込めると、アイオーンは涙目になりながら混乱しているようだ。
「さっきなんて言った? 僕の住人も来れる様に、だと?」
「そうだよ。だって、僕だけ楽しんでも楽しくないもん!」
どうやらこのアイオーンは、自分が感じた事を他人にも共有させたい性格の様だが、自由気ままに異世界の住人がやって来たら困るのだ。
「だから、ルールを決めるぞ」
「ルール?」
アイオーンが来るのは確定事項となってしまったからしょうがないものの、他の人間が来るには決めなくてはならない事がある。
「そうだ。俺達は違う世界の人間だ」
「僕は神だよー!」
「そんな事はどうでもいい」
「ぶーー!」
両腕を振って拗ねるアイオーンを無視して、俺は話を続ける。
「こっちの世界にはこっちの世界のルールがあるんだ。お前達の世界のルールを持って来られても対処出来ん。だからルールを作るんだ」
「なるほど、確かにそうだよね。ごめん。初めて他の世界に来たもんだから、はしゃいでいたよ。それで、ルールはどうするの?」
さっきまでの拗ねた態度を改めると、アイオーンは真面目な顔で話の続きを促す。
「そうだな。取り敢えずは、日本語が話せるのと、日本の紙幣か硬貨を持ってなきゃ話にならないな」
俺も軽くだがオタク趣味が入っているから分かるが、日本人が異世界に行った時の言語の場合、何故か日本語で会話が可能(ただし、文字は別言語)か、翻訳機能が付いている。または、どちらも無く必死に覚えるの3つだったはずだ。
例外的に、乗り移った先の自分が覚えているってのもあるが、あれは転生しないとダメだからな。
こっちに来るにも、同じ事が起こるはずだ。
金はただ単に、こっちの紙幣や硬貨を用意してくれないと、物が売れないってだけだ。
「って訳なんだが、どうする? 何か策はあるのか?」
「うーん。元々こっちに転移出来る人間には、何かそれっぽいアイテムでも持たせようと思っていたんだ。それにそう言う機能を付けてみるよ」
「なるほど。ってか、アイオーンは日本語ペラペラなんだな」
自然に会話が出来ていたから忘れていた。
「まぁね! なんて言ったって僕はーー」
「はいはい。神様神様」
「もーー!」
○
「っと、蒼が言ったルールはこんな感じ?」
「そうだな。あとは問題が出た時に対処すればいいだろ」
俺とアイオーンが決めたルールは以下の通りだ。
ルール1
アイオーンが作ったアイテムを持っている奴だけが、このコンビニに転移出来る。
そのアイテムは持ち主固定機能が付いており、持ち主以外が持っていてもこちらの世界に来ることは出来ない。
さらに、このアイテムで翻訳機能と換金機能も併用させる。
これはアイオーンに頑張って作ってもらうしかない。
ルール2
このコンビニに来れる時間は、俺が働いている間のみ。故に22時から6時の間に限定されるのだが、向こうの世界だとちょうど良い感じに時差があるらしく、向こうの世界では10時から夕方の18時になるらしい。
アイオーンの世界には魔法の電気はあるが、こっちで言う所の蛍光灯とかは無いらしいので、基本夜になったら全員寝ているのだそうだ。だから「お買い物するには、ちょうどいい時間帯だよね」と、アイオーンはニコニコ顔で言っていた。
ルール3
持ち帰った商品から出たゴミは、何らかの方法で必ず消す事。これを破ると、二度とこちらに来れなくなるようにさせた。
こっちの世界でもゴミ問題が酷いのに、異世界でもゴミ問題が起こってほしく無いからだ。
ルール4
面倒、又は迷惑な客は、俺の権限で出禁にする事が可能。
これが一番大事だ。
なんて言ったって、アイオーンの世界は剣と魔法の世界なのだ。向こうの一般市民でも軽い魔法なら使えると言うのである。
もしもの時に、俺の身に危険が起きては堪らないので、これは厳守させた。
あとは、例外ルール1
認識阻害を付ける。
これは配達の人が来た時にパニックにならないようにする為と、コンビニには監視カメラがあるのだ。
必ず姿が映るので、これをどうかにかして異世界人を地球人っぽく見えるようにしてもらわなければならないのだが、これは地球神がやってくれるとの事。
「あとは何人くらい連れて来るかだな。10人くらいならどうにかなるが、毎日大量に来られてもこっちには他に仕事があるし」
実際に、客が少ない分どうにか仕事が回せている状態なのだ。これ以上客に時間を取られると、他の業務に支障が出てくる。
「ふむふむ。ねえ、蒼。ここのお仕事で、これが無くなればどうにかなるかなって思うのは何だい?」
いきなり言われた素っ頓狂な質問だったが、一応考えてみる。
「あぁー。掃除とか洗い物かぁ? 他は俺がどうにかしないとダメな事が多いからな」
「よし分かった! なら、転移と翻訳と換金と、蒼のお手伝い要員として、これにしよう!」
そう言ったアイオーンは左右の手の平をグッと握ると、指の間から光が溢れ出す。
だんだんと光が収まった手の平を開くと、それぞれの手の中にはプルルンと震える透明な物体。
「ジャジャーン! ス〜ラ〜イ〜ム〜」
と、某青狸の声真似で言った。
「ドザエもんかよ」
次回予告
「スーとムー」