第47話 呼び出し
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「ってな感じで、昨日の夜から妹と距離を取っているっす。今日も気まずい雰囲気の中で朝食を食べたりしてたんで、母さんに不審がられちゃったっす」
「それは……なんと言ったらいいか」
「プププ」
そして先程、ザックの心労の原因を聞かされた俺は、腕を組んで天井を見上げた。
イートインコーナーでは、ザックから右回りに宰相さん、王様、教皇様、アイオーンの順で座っている。
アイオーンは肩を震わせて、テーブルに突っ伏しているので、ザックは後でアイオーンを小突いてもいいと思う。
まぁ仮にもアイオーンは神様だから、やらないと思うが、俺が同じ状態であったなら、頭の両側を拳でグリグリくらいはすると思う。……うん。
「さて、今回の事件ですが、意図的でなくても契約が結べるのが問題なのでは?」
「しかし、それでザックは助かったのだから、安易にそれを無くすのはどうかと思うぞ?」
「それはそうなのですが。例えば、誰かを呼んだ際に、偶然そこに8-10スライムがいた場合は、契約がされてしまうのではないですか?」
宰相さんと王様が、今回の事について話し合うが、2人の意見は平行線を辿っているので、解決するには時間がかかるだろう。
それに、ザック自身が抱えている問題はスルーな辺り、貴族らしいと感じる。
「はぁ、まさかサーナに聞かれていたなんて」
「さな?」
「うん。お前じゃないっす」
コントのようなやり取りをするザックとサーナ。8-10スライムのサーナは通常運転だが、ザックの方の落ち込みがヤバイので、何とか向こうに戻るまでに解決してやりたい。
ただ、生死を彷徨っていたザックが、無事に生還出来たうえに、家族と再会する事が出来たもんだから、気が緩んではっちゃけちゃった場面を、妹に見られしまった今回の事件。
どの様に解決したら良いものか。
「つまりどういう事だ? ザック。貴様の悩みは何だ?」
「教皇様。……僕は、妹との関係を元に戻したいっす。せっかく家族の元へと帰ってきたのに、現状の気まずい状態が嫌なんすよ」
さすが、外見はマッチョでも教皇様だ。
異世界では教会のお偉い様をしているだけあり、悩める子羊であるザックは、スラスラと自身の悩みと改善を望む。
「ようは、その誤解を解ければ良いって事だよね?」
「まぁ、そっすね」
やっと笑いの状態から戻ったアイオーンが、目の端に浮かんでいる涙を拭いながらザックに聞くと、ザックも軽く頷きながら同意する。
ただ、今回のザックの出来事の解決は、8-10スライムの事を話さないと解決出来ない様な気がするのだが、アイオーンはそこの所をどう思っているのだろうか?
うぅん。スライム抜きでの説明では難しいと思うのだが。
「それじゃあ、ちょっと待っていてよ。あっ、その間にアイリーンとリカルドを呼んでおかなくちゃ!」
「あっおい!」
俺が呼び止めるのも虚しく、アイオーンはカタンと椅子から降りるとスタタターと異世界へと帰って行ってしまった。
「あいつ、どこに行くってんだ?」
「さぁ? けど、アイオーン様の事だが、何かしらの形で解決されると思うんすけど」
「うむ。アレでも神であるしな。案ずる事は無いぞ」
俺は何か厄介ごとを持ってくる様な予感がビシバシしているのだが、異世界メンバーであるザックと教皇様の2人には、神であるアイオーンに任せておけば大丈夫と感じている様だった。
「しかし、ここでそうなってくると、こっちの問題が出てくるのでは無いか?」
「確かにこちらの問題も看過出来ませんね。しかし、これを放置しておくのもーー」
王様と宰相さんの口論はまだ続いていたが、俺が止めるのも面倒くさかったし、ザックと教皇様も止めるつもりは無さそうだったので、そのまま2人は放置して仕事に戻った。
そしてアイオーンが出てから5分も経たない内に、アイリーンがやって来た。
「アイオーン様にここに来なさいって言われたのだけれど、何かあったの?」
少し眠そうなアイリーンは、おっとりとそう言うのだが、何かはまだ来ていない。
「いや、まだ起こっていないな。これから何かあると思うんだが、その元凶のアイオーンがまだ戻って来ていないんだ」
「……そうなの。私、今日体調が悪いのよ」
確かに、俺の話を聞いていたアイリーンの顔色が少し青白く感じるし、時折お腹をさすっているのを見た俺は、コソッとアイリーンの耳元で囁いた。
「もしかして、月一のアレか?」
「あら、蒼は知っているのね」
「大丈夫なのか?」
軽く目を見張って俺を見つめるアイリーンは、感心した様に、だか少し辛そうに首を横に振る。
「立っているのがやっと……って所かしら。
毎月の事だとはいえ、辛いわ」
「おいおい。大丈夫じゃ無いじゃないか。ほら、こっちに来て座っておけ。
ってか、そんな状態なんだったら、無理に来なくても良かったんじゃないのか?」
立っているのでさえ辛そうなアイリーンを、イートインコーナーへ連れて座らせながらそう聞くと、アイリーンらしくない、へにゃりとした笑みを浮かべると、それは出来ないと首を横に軽く振る。
「だって神様に呼ばれてしまったのよ。相手が神であるのならば、私達は従わなくてはならないの。
それは貴族でさえも……よ」
異世界では当たり前で、貴族でさえ従わせる神の言う事を、平民である自分が破る訳にはいかないらしい。
「それにしても、蒼は女性の事について詳しいのね」
女性の事と言うのはアレのことだろうが、知っているのは当たり前だ。
「まぁな。何せ3個下に妹がいたからさ。一緒に居た頃は、毎月の地獄の様な責め苦を見ていたからな。
何かと対処方には慣れているんだ。
ってなわけで、それを軽減する飲み物が数種類あるんだが、買ってこようか?」
そうです。
俺には三つ下に妹がいて、俺が社会人になるまでは一緒の家にいたおかげで、何かとお世話をしていたことがあった。
お世話と言っても、腰をさすっていてほしいだとか、夜用が無くなっていたから買って来てだの、カイロ切れていたから買って来てだの、豆乳か甘酒かココアを買って来いだったので、基本的にはお世話ではなくて、買い出しが多かったからパシリだったな。
「そうね……お願いしようかしら」
「なら、ちょっと待ってろよ」
アイリーンからお金を預かると、紙コップとココアのスティックタイプと、ついでに残り少ない貼るようカイロを買うと、アイリーンに使い方を説明して渡した。
「はぁ…….。少し楽になった気がするわ」
紙パックを両手に持ち、ちびりちびりと飲みながらアイリーンはホッとした様に呟いた。
先ほどよりも顔色は良くなっている。
「それにしても、お湯を入れるだけで飲み物が出来るとは、不思議だのう」
「そうですね。これは軍事的にも利用出来るのではないですか?」
「はっはっは! そうならば荷物がぐんと減るぞ!」
「その甘い匂いがこっちまで来ているっす」
アイリーンにカイロの貼り方とココアの飲み方を説明していた時に、ココアの甘い匂いに気が付いた男性メンバーが、アイリーンが入れたココアを見ながらそんな事を言う。
「俺は作り方は知らないぞ?」
「ですが、大まかには知っているのでは?」
俺は知らないと言っているにもかかわらず、宰相さんは諦めずに俺に問いかける。
これは逃してもらえないかもしれない。
「本当に詳しくはないから、俺が言ったことが正しいとはーー」
「構いません」
「あ、そう」
間髪入れずに聞く程に興味があるようなので、俺は2つの方法を教える。
むしろ、それ以外に考え付かなかった。
「まず1つ目は、お茶とかの茶葉をカラカラに乾燥させた後、粉々にすり潰す。
もう1つは、出来上がった物の水分を無くす」
「なるほど。ちなみにこちらの世界では、どの様にして作っているのですか?」
「うぅーん……。残念ながら、あのコーヒーマシンやあっちの自動ドアみたいに、こっちの世界での魔法的な力で作った道具で作っているから、そっちでも同じ様には出来ないと思う」
「なるほど。それは残念ですね」
こっちの世界であるならば、フードプロセッサーやフリーズドライが出来る機械があれば出来るのだが、異世界には科学が発展していないようなので、向こうは向こうで魔法とかでどうにかして頑張ってほしい。
俺にはこれ以上どうしようもないです。
あっ、ちなみにアイリーンは、貼るカイロをお腹側に貼ってしばらくしたあと、その実力に感銘を受けたのか、店に置いてあったカイロを全部買っていった。
全部は全部で、貼るも貼らないも、大きいのも小さいのも、バラでも10個入りでもだ。
まあ、向こうは日本の様な気温ではなく、夏でも朝方は20度を下回るそうなので、寝ている時にカイロを使いたいから、もっと欲しいとまで言われてしまったが、残念ながら発注は俺の仕事でない。
それから5分後にリカルドがやって来て、更に10分後。
やっと、アイオーンが戻って来た。
「ただいまー!」
「ふむ。ここがアイオディウスヴァーンが言っていた、異世界のコンビニか」
「へ? どなたです?」
アイオーンの後ろには、ロープ姿で銀髪の長い髪を片側に結んでいる、見目麗しい男性がいた。
え? 本当にこの人誰?
今回の小話
キッシュ、アインが平べったくなって、そこに文字が浮かぶ。そこには、
『今すぐにコンビニへ集合!アイオーンより♪』の文字が。
ア「うぅ……。私、体調が悪いのだけれど、神様からの呼び出したもの。行かないとダメよね」
キ「きしゅ〜」←うぉぉぉとオロオロ。
リ「わぁ!アイン。これって何て書いてあるの?」
ア「あい〜」←どうしようとこっちもオロオロ。




