第45話 ザック回想記。その4
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「こんにちは。今日はどのような案件ですか?」
「えっと、クエストの達成と素材の買取をお願いします」
冒険者ギルドへとやって来たザックは、直ぐに受付へ向かうと、クエストの達成と素材の買取を伝えた。
アイリーンは入り口付近で、ザックのやり取りを見つめている。
「かしこまりました。ギルドカードと素材をお預かりしますね」
ギルドカードを受付嬢に渡し、ギルドカードの更新作業をしている間に、ザックは尻に付けた麻袋の中からモスキィーを10匹と、クエストの魔素草を20束取り出すと、受付台の上に置いた。
「ギルドカードをお返しします。
あら? 1人でこれだけ取れたの? それにモスキィーも綺麗な状態ね」
「あっえっと、偶然魔素草の群生地を見つけて、それとちょうど手持ちで虫が苦手な煙を出す薬剤があったので、それを使いました!」
今回ザックが受注したクエストは、魔の森からポーションなどに使える魔素草の採取であった。
しかし、採取を行おうとする前にあんな事故があったせいで、魔素草は一本も採取出来ていなかった。
しかし、実はこっそりと、ザックが就寝している間にサーナが魔素草を採取しており、さらに帰る前に、ギルドカードに表示されているクエスト内容を見て、自分がクエストの途中であると思い出したザックが、帰り道で採取していたのである。
しかし、実際にはサーナが採取した方が素材は綺麗なので、ほとんどをサーナ任せであった。
「はい。確かにクエストの達成ですね。
こちらは品質の良い魔素草を20束分ですので、小銀貨4枚となります。
それにこちらのモスキィーですが、品質が良かった為高めに買取致しますので、小銀貨3枚と大銅貨を3枚になります。
ですのでクエストの分と合わせますと、小銀貨7枚と大銅貨3枚のお渡しになります。お確かめ下さい」
「ありがとうっす」
昼の冒険者ギルドは比較的空いている。
その理由は、冒険者は朝早く出るクエストを受注して出かけると、日帰りの場合は夕暮れ時に戻ってくる人が多い為、この時間帯はクエストを発注する人の方が多く来店するからだ。
ただ、発注されるクエストも毎日大量に来るわけではないので、この時間帯が受付にとっての休憩時間でもあったりする。
なので、ザックの担当をしている受付嬢以外にも受付達が暇そうにしており、その者達が受付嬢を囲む形でザックを見にどんどんと寄って来ていた。
「うん。全額あったっす」
「ねぇ、あなた。もう担当は決まっているのかしら?」
「えっ?」
これまでの所持金をはるかに上回る現金を手に入れたザックは、枚数を数える時に手が震えていたほどで、数え終わった瞬間に、大金を出しているのが恐ろしいとばかりにサッサとポーチの中にしまうと、いつの間にか目の前には他の受付嬢の増えていた。
そのうちの活発そうな受付嬢がザックに声をかけるが、ザックが返事を返す前に、今回ザックの担当をしている受付嬢が牽制の様に、2人の会話に割り込んだ。
「あら、彼は私が担当しているのだけど」
「だからって、そのまま担当する訳では無いでしょう?」
「そうよそうよ。機会は皆に平等なのよ!」
「まだだったら、私にもチャンスはあるよね?」
「えっ? あの……」
もはやザックを置き去りにして、ザックの担当の座を奪い取ろうとヒートアップしている女性陣達。
別にザックにモテ期が来た訳でなく、実は受付嬢のお給料は、ギルドからの基本給にプラスして、冒険者の担当としての歩合分が加算される。
ただし、これはBランク冒険者から歩合分が加算されるので、今のうちに目ぼしい冒険者の担当を狙う受付嬢が多いのである。
あとは、受付嬢の嫁ぎ先に高ランク冒険者が多いと言うのもある。
高ランクの冒険者は、強くて金持ちであり、二つ名などを所有していれば、それだけで有名人となるので、その有名人の嫁になりたい受付嬢が多いのである。
そんな思惑が渦巻く女の戦いに、オロオロとするだけで何も出来ないザックであったが、すぐに救いの手が差し伸べられた。
「さぁ、ザック。お金が手に入ったのならば、お店に行くわよ」
ここまでギルドの入り口で、事の成り行きを見ていたアイリーンが、このままだと帰れないかもしれないと思い、ザックの裾を引いて外へと引っ張ったのだ。
「ハイっす!」
これはチャンスとばかりに、今だに牽制の嵐が渦巻く受付嬢達をそのままにして、ザックはそそくさとアイリーンに引かれながらその場を離れ、2人は冒険者ギルドから外に出た。
「うひゃあ。なんか分からないうちに小銀貨が7枚もポーチに入っているっす。
ちょっとした金持ちっすね!」
さっきまでの騒ぎが無かったかの様に、ザックはポーチに入ってチャラチャラとなる硬貨を叩く。
そもそものクエストの報酬が、魔素草5束で小銀貨1枚だった事を忘れていたザックは、アイリーンと外に出た瞬間に、普段持った事の無い大金を手に入れた喜びを零すのだが、アイリーンはきょとんと首を傾げた。
「あら、小銀貨なんて小金じゃない。私だったら白金貨辺りから大金って感じするわね」
「……姐さんはそうかもっすけど。けど、僕はこんな大金持ったの初めてなんすよ」
「あら、そうなの? 私それ以上の金額を常時持っているのだけれど」
「そうっすよね。姐さんに言ったのが馬鹿でした」
気さくな態度で接してくれるので忘れがちだが、アイリーンは平民がおいそれと会う事が出来ない、高級娼婦なのである。
さらに女神と称されるほどのアイリーンなので、所有している全財産は平民が度肝を抜く程あるのである。
普段使いの分でも、小銀貨数枚から小金貨まで自由に使えるのだから、そんな金銭感覚がズレている2人の話が合うわけもなく、早々にこの話は打ち切りとなり、アイリーン御用達のお店へと足を進めた。
「さぁ、ここよ。ザック」
「はぇー。ここって大通りの一等地じゃないっすか。こんな所のお店、恐れ多くて入れーー」
「何ぶつくさ言っているのよ。私と一緒なんだから恐れるものは何も無いわよ」
「心の準備ってものがあるんすよーー!」
一目で場違いと分かるお店に尻込みするザックを、無理やり店内に連れ込んだアイリーンは、そのまま化粧品が置いてある場所の、さらに手荒れクリームが陳列されている場所へとザックを連れてくると、ポイポイと商品をザックに手渡す。
「わっ! わっわっ!」
「私はこれが一番手荒れに効くわ。
ただ、効くは効くのだけれど、塗った後は暫く手がベタつくのが難点なのよね」
「えっ?」
「こっちのピンクのは薔薇の香りが付いているから、一番売れている商品なの。
それで、この容器のがラベンダーの香りが付いているもので、香りにリラックス効果があるから仕事で疲れた時にも良いと思うのよ」
「えっ? えっ?」
「それで、これは最近発売された商品なのだけど、これはポーションの粉末を練りこんであるの。
普通のポーションに比べると効果は格段に落ちるのだけど、あかぎれ程度ならば治るみたいだから、手荒れが酷いならばこれにしておいた方がいいわね」
「えっ? どれ?」
「私のおススメはこんな感じね。
今ザックが手に持っている物全て、小銀貨2枚以内のお値段で買えるから、ザックはどれにするのかしら?」
「えっと……。もう一度最初から説明してもらっても良いっすか?」
化粧品になると、自身が知らぬうちにテンションが上がってマシンガントークになるアイリーンの説明に、全く付いていく事が出来なかったザックは、もう一度アイリーンに説明を求めた。
「あら、私ったら。ごめんなさいね」
「いや、良いっすよ。それで、これが何ですか?」
今度こそ一つ一つ丁寧に商品の説明をするアイリーンの言葉を聞き、ザックは母と妹、ついでにアイリーンの分の手荒れクリームを購入した。
今回の小話
受付嬢A「あぁん。いつの間にかあの子消えてるわ!」
B「あらやだ、本当じゃない。せっかくの若い男が!」
C「しかも、純朴そうで可愛らしい子だったわー」
A「そうよねぇ。しかも防具はボロボロだったけれど、自身は小綺麗にしていたし」
B「そうそう。変に自信を持っているオッサン冒険者達に比べると断然優良物件!」
C「次にあの子が来たら、絶対に落とす!
A〜C「絶対に負けられない!」
沢山の冒険者が来るので、仕事場が男漁りにもなっている冒険者ギルドの受付嬢達。
尻に引かれそうなザックは狙い目です。




