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第41話 帰って来たお兄ちゃん(異世界side)

ブックマーク、感想、評価ありがとうございます。


今週の更新はここまでなので、先にメリークリスマス!

 私はサーナ。今年で大人の仲間入りである15歳になりました。

 家族は母のシーナと、お兄ちゃんのザックの3人家族です。

 父は去年、村にやって来たモンスターを退治するために、他の男性達と村に残った後は、消息が不明なのです。

 私達をモンスターから逃がすためだとしても、これで会えないだなんて悲しすぎます。


 そしてまた、心が騒めくことが起きました。


 お兄ちゃんのコップが割れてしまったのです。


 私達はモンスターの大群から、ここ王都まで逃げて来たのですが、今まで農民として生きて来た私達は、王都での仕事や家などありませんでした。

 ところが運良く求人募集をしている宿屋があり、住み込みでの仕事を募集していたので、私達家族はここの宿屋である『黒足亭』でお世話になることになりました。


 宿屋が求める求人内容は、お部屋の掃除と給仕のお仕事だったので、女性である私と母しか適用されませんでした。

 なのでお兄ちゃんは、給仕よりももっと稼ぎが多くなるであろう冒険者の道へと向かいました。


 その冒険者になったお兄ちゃんが、ランクが上がってより危険なクエストに向かった日に、お兄ちゃんのコップが割れてしまったのです。


「お兄ちゃん……まだ帰って来てないよね」


 もう日が暮れて、就寝時間となってしまいましたが、私は眠れずにベッドに腰掛けながら、私は隣に座っているお母さんの手を握りながら聞いてみますが、結果は分かっているのです。


「えぇ。一応明日になったら、冒険者ギルドで確認をしてみましょう」


 母も無事だと信じていたいけれど、父の件もあるので半分諦めた顔になっています。


「さぁ、サーナ。もうこんな時間よ。明日も仕事があるのだから、早く寝ましょう」

「うん」


 お母さんは明るく振舞って自分のベットに向かいましたが、私はどんよりと沈んだ気持ちのまま、自分のベットに入ります。

 寝ようと思い目を閉じて思い浮かぶのは、クエストに出かける前にした、お兄ちゃんとの喧嘩。

 いまにして思えば、小さく何でもないような些細な喧嘩だったのですが、まさかあれが最後だなんて言わないよね? と、目尻に浮かんだ涙を拭うと、毛布を頭まで被って今度こそ寝ました。


 次の日も、起きた時にはお兄ちゃんは帰って来ていないようだったので、給仕のお仕事があるお母さんの代わりに、私が冒険者ギルドに行きました。


「夜明けだからあまり人はいないけれど、受付はちゃんと人が居るんだ」


 閑散としている冒険者ギルドでしたが、受付には女性が1人待機しているのが見えたので、私はそこに向かいました。


「あら、おはようございます。依頼の受付ですか? 冒険者に加入ですか?」


 受付のお姉さんは、私を見てそう言いましたが、私はクエストを依頼するでも、冒険者になるために来たのではありません。


「どちらでもありません。私の兄のザックが帰ってこないので、詳細を聞きたいのです」


 冒険者ギルドでは、クエストに出かけた冒険者の消息が分かる機能があるそうなのです。

 なので、それを使ってお兄ちゃんの無事が確認出来ないかと、ここまで来たのです。


「冒険者のザックですね。ランクと、どのクエストに出かけたか分かりますか?」

「はい。ランクはDで、クエストは分かりませんが、魔の森に行くと言っていました」

「分かりました。少々お待ちくださいね」


 そのまましばらく待っていると、一枚の紙を渡されました。そこには兄の消息の手掛かりがあるはずなのですが、恥ずかしながら、私は文字を読むことが出来ないのです。


 農民だった私は、文字の1つ1つは何となく分かる程度でしか覚えておらず、唯一きちんと覚えているのは、私達家族の名前だけなのです。

 なので、手渡された紙を持ったまま、途方に暮れている私を見かねたお姉さんが、スッと紙を奪ってしまいました。


「あっ」

「字、読めないのでしょう? 私が代わりに読んであげるわ」


 どうやらお姉さんは、私から紙を奪ったのでなく、文字の読めない私の代わりに朗読してくれるみたいです。


「はい。お願いします」

「では、読みますね。今回のクエストは、ザックさんを含めた4人のパーティで、魔の森に生息している魔素草の採取のクエストです。

 ですが、今現在のクエストの状況は、ザックさん以外の3名は離脱扱いになっていますね」


 忘れずにきちんと覚えようと、お姉さんの言葉を聞いていましたが、不穏な状況になっているようです。


「どういうことなのでしょうか?」


 魔の森は大変危険な所であると同時に、実りの良い素材が手に入る場所だと、宿のお客様達は言っていました。

 その時は軽い世間話として話を聞いていたのですが、家族が関わっているのならば、もっと魔の森について詳しく聞いておくんだったと、後悔が押し寄せます。


「うーん。ここから得られる情報は詳しくないので私にも詳細は分からないのですが、とりあえず今のザックさんは、生存しているのは確かですよ」

「……生存。あっ、兄は帰って来れるのでしょうか?」

「……正直に言って、どうなるかは私にも分かりません。特に現在の魔の森は、各勢力が活性化している時ですから、Dランクが1人だけだと、ちょっと厳しいかもしれないですね」


 私は目の前が真っ暗になりました。


「あぁ、サーナ。お帰りなさい。朝食がちょうど出来た頃よ。朝食を食べながら話を聞かせてちょうだい」


 私はいつのまにか、宿に帰ってきていました。どうやって冒険者ギルドから帰ってきたのか記憶に無いのですが、ギルドのお姉さんに言われた言葉はちゃんと覚えています。


 テーブルに朝食の配膳を終えたお母さんは、私の顔色を見て状況を理解したのか、薄っすらと目に涙を浮かべながら席に着きます。

 私もお母さんの隣に座り、受付で聞いた事をお母さんに説明しながら、味のしない朝食を食べました。


「そう。あの子が帰って来るかどうかは分からないのね」

「うん」

「けれど、まだ生きてはいるのよね?」

「うん。受付の人はそう言っていたよ」


 全てを話し終えた後、お母さんはしんみりとそう言うと、両手を握りしめて神と精霊に祈り始めました。


「この世におわす12の神々よ。この世におわす数多の精霊達よ。どうか私の願いを聞き届け、ザックが無事に、私の元に帰って来ますように」


 手が白くなるほど強く握りしめながら、神々と精霊達に祈るお母さんを見て、私も神々と精霊達に祈りを捧げます。


「この世におわす12の神々よ。この世におわす数多の精霊達よ。どうか私の願いを聞き届け、お兄ちゃんが無事に帰って来れますように」


 そのあとは通常業務に戻りました。

 神と精霊に祈ったことで、少し私の中にあった不安は軽くなったように思えます。


「おう、そこのお姉ちゃん! 肉煮込みとパンを頼む」

「はーい! ただいま」

「よう、サーナ。今日の昼を頼むぜ」

「はーい。ちょっと待っててね。ユート」


 お昼になって、店内が混雑し始めました。

 私とお母さん、それにもう2人の店員で、お店の中をクルクル回りながら、お客さんの注文を取っていきます。

 この『黒足亭』は宿屋なのですが、料理の評判がとても良いお店なので、お昼と夜はこんな風に、毎日お客さんが満員でてんてこ舞いになります。

 始めの頃は、慣れない仕事に色々なミスをしまったわたしですが、今ではこの『黒足亭』の看板娘なんて言われています。


 そんな忙しいお昼の時間、いつものように店内ベルが鳴ったので、私はお客さんを出迎えるためにそちらへと向かったら、そこに立っていたのは、ボロボロになった防具を身に纏っている、私のお兄ちゃんです。


「お、兄ちゃ……」

「へへ。ただいま、サーナ」

「お兄ちゃん!」


 私は周りの目も気にせずに、お兄ちゃんに飛びつきました。

 生きて帰って来るか分からないと言われたお兄ちゃんが、今目の前にいるのです。

 ぎゅうぎゅうと、もう離さないとばかりに力一杯抱きしめていると、お母さんも私ごとお兄ちゃんに抱きついて、わんわんと2人で泣いてしまいました。

 それにつられたお兄ちゃんも、「怖かった。もう2度と会えないんじゃないかと思って怖かったんだ」と泣き出してしまい、私達家族3人は、周りの目も気にせずにしばらく泣いてしまいました。


 その後、状況を知っている店主がキッチンから出てきて、「そろそろ店の邪魔だから、仕事に戻ってくれ」と言われた私達は、ぎゅうっと抱きしめていた状態から離れました。


 そのまま上を向いて、お兄ちゃんの顔を1日ぶりに見た私は、笑顔でお兄ちゃんに言いました。


「お帰り。お兄ちゃん!」


今回の小話


ザ(無事に帰って来れてよかったー。それに、魔素草もクエストの分はちゃんと取って来れたし、虫の素材もたんまりとあるから、これをお金にすれば、少しは母さんとサーナに肉を食わせてやれる。これも全部)

「お前と出会ったおかげだな。大好きっす! ずっと離さないっすよ、サーナ」

サ「サナー!」

妹「えっ……お兄ちゃん」←頬を染める

ザ「あっ……」


来週分の更新が未定となっております。

更新出来たらラッキー程度に思ってください。


次回予告

「速攻でバレたそうな」

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