第39話 新スキル
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「それで? 蒼が僕達に聞きたいことって何なの?」
ザックを魔の大森林から無事に生還させるためには、俺はそれぞれに聞かなければならないことがあった。
「あぁ。まずはアイオーンに2、3点聞きたいことがあるんだ」
「ふむ?」
アイリーンとザックがアイオーンに視線を移し、当のアイオーンはコテリと頭を傾げて、俺の言葉を待っている。
「まず、ザックは8-10スライムと契約をしたから、そのスライムに防衛を頼めば、取り敢えずはモンスターに殺される運命は消えるはずだよな?」
俺は一先ず、8-10スライムの特性の1つである、絶対防御についてアイオーンに伺った。
「そうだね。ザックが契約しているスライムに頼めば、モンスターからの攻撃は全て防いでくれるはずだよ」
「ええっ! 俺が間違えて契約したスライムって、そんなに強いんですか?」
「ははっ。間違えたって。……うーん。スライムからは攻撃はしないから、そこはちょっと分からないかな?」
「すごいな。えっと……サーナ」
「サナー!」
ザックは顔の高さまで持ち上げたサーナに呼びかけるが、8-10スライムに妹の名前を付けてしまったので、名前を言うのが照れくさそうだ。
それにちょっと間違えれば、ペットに妹の名前を付けたようなもんだから、他人にバレた瞬間にシスコンって引かれる案件ですよこれ。
「名前って、変更はーー」
「うん。無理だね!」
「……ですよね」
意識が戻ったザックにアレコレ説明している時に、スライムの名前が判明したのでザックに教えると、ザックはキュッと眉を寄せて辛そうな顔を見せていたが、8-10スライムに妹の名前を付けたんだと認識すると、サァーと顔を青くしたが後の祭りだ。
ザックは気が付かずに8-10スライムと契約ができていたのだが、アイオーン曰く、ザックが魔の大森林を逃げ回っている時に、偶然鉢合わせたスライムに向かって妹の名前を言ったことで、奇跡的に契約ができたのだろうと、アイオーンが言っていた。
それを聞いたザックはポンっと手を打ったので、何かそれらしいことをしたのだろう。
「さなー。さなー」
「わっ! 服に入ってくるなよ」
そのサーナは、主人が傷だらけの状態で契約したものだから、心配性と言うか、過保護と言うか、まぁザックにべったりなスライムになってしまっている。
「けど、それだけでは魔の大森林からは出られないのではなくて? ザックはマッピングしないで探索していたみたいだし」
「あう」
さすがアイリーンは頭が回るようで、ザックが生還するために解決すべき問題を上げて、それに巻き込まれたザックがダメージを負って俯いたが、それは事実なのだ。ここで改善しなければ、次は本当に死ぬ可能性があるので、甘んじて受けなければならないダメージだ。
「あぁ。これはアイリーンにも聞きたいことなんだが、アイリーンは王都に居るんだよな?」
俯くザックはスルーして、俺はアイリーンが異世界でどこに居るのか確認を取る。
「えぇ。向こうに戻ったら、王都の3番街にある娼館に戻るでしょうね。でも、それが解決に繋がるのかしら?」
アイリーンが『娼館』と言う単語を言ったあと、その単語の意味を理解したザックの顔がジワジワと赤くなるが、言った本人はケロッとしている。
「いや、このままだとダメだろうけれど、ここでアイオーンにお願いがあるんだ」
「うん。何かな」
いまのままの状態だと、ザックは魔の大森林でモンスターから殺されることは無いだろうが、帰り道が分からないまま森の中を手当たり次第に彷徨うのは、それはそれで精神的にクルものがあるだろう。
なのでスライム達の生みの親であるアイオーンに、両手を合わせてお願いをする。
「アイリーンのキッシュの場所を、ザックのサーナが探知できる機能を、8-10スライムにつけて欲しいんだ」
「ほう。なるほど」
「そうね。それなら魔の大森林からは抜け出せるわね。ふふ、けれど私の元まで直線で来ることになるわね」
頭の回転が早い2人は、俺の提案した事が想像出来たのか、納得顔で頷く。
アイリーンに至っては、それで起こるだろう問題点まで言い当ててくれるが、そこはザックが頑張って貰わなければならないので、俺にはどうしようもない。
「一応、全部のスライムに適用するんじゃなくて、ここで会ったことのあるスライム同士限定にしておこうか。そうすれば、宰相さんも少しは報われるはずだ」
「よく分かんないっすけど、そのスキルがあれば、王都の方向が分かるってことですよね?」
「おう、そうだぞ! あとはザックが解決するしかないがな」
今回の機能を思いついた背景として、最近スマートフォンのアップデートをした際に、スマフォを探す機能がアップグレードしました。って説明書きがあったのが一点。
もう一点は宰相さんが、時たま「ここに王は来ていませんか!?」って、コンビニに駆け込んで来ることがあったから。
ーーこれで宰相さんが、王様を探す苦労が減るだろう。
「それで大体のことを解決できるのは分かったけど、僕のメリットは?」
「……」
普段の態度から忘れがちであるが、アイオーンは神なのだ。
そのアイオーンの一言で、さっきまでの浮かれ上がっていた雰囲気も、一瞬で無くなってしまった。
だがしかし、俺はアイオーンの性格を心得ている。
「それはもちろん。助けてもらうザックが、ここの新商品が出る毎に奢ってくれるさ」
「ええっ! それは本当かい?! ならば張り切っちゃうよ」
「えぇ? ええええええええ?!」
俺が言ったメリットにアイオーンは大喜びで、ザックが困惑している最中に、アイオーンはサッサと8-10スライム達に新スキルを追加したようで、この場にいるスライム達が一斉に光った。これでザックはアイオーンから、逃げられなくなったな。
「ちょっと、ちょっと待ってくださいよ。僕はそんなにお金持ってないんですよ! いまも必要最低限の小銀貨1枚しか無いんだぞ!」
ザックは慌てふためくが、俺はそこまで慌てることではないと、ザックに説明をする。
「大丈夫だ、ザック。アイオーン、今回の報酬は、ザックが無事に王都へ戻ってから、そこから1月の間だけだからな」
「はーい。それでいいよー! ふっふふーん。新商品ー! 新商品ー!」
「でだ。ザックは今持っている手持ちのお金を、全部こっちのお金に換金しろ」
「へわっ! 何で!」
再び慌てふためくザック。
そうだよな。ザックにとっては手持ちの全財産を、そこでしか使えない海外のお金に換金しろって言われているようなもんだから、慌てるのも分かるっちゃあ分かる。
「まぁまぁ、待て。話は最後まで聞けよ。いいか? ここでこっちのお金に換金できるのは、そっちの世界の硬貨と宝石、それに鉱石だけなんだ。だから、数日森の中を彷徨ってもいいように、こっちの食べ物や飲み物を買える状態にしておくのが1つ」
俺はザックの両肩を掴んで、真正面からザックの目を見つめながら真剣に話す。
ザックも俺の説明に、自分の状態を思い出したのか、頷きながら聞くのでそのまま説明を続ける。
「2つ目は、虫を殺す殺虫剤が今月から売りに出されているから、それを使って虫を倒してお金になる素材を集めるためだ。
幸い、8-10スライムにはインベントリって機能が付いていて、これはアイテムを収納することができて、さらにアイテムの一覧表として、契約者が把握できる機能だ」
インベントリは、王様がよく使っている機能です。
約2ヶ月の間、王様はエロ本が出たらすぐに買っていたので、冊数が30冊以上になっているだはずだ。
そのことを知らないのはザックだけで、事情を知っているアイオーンとアイリーンは顔を伏せて肩を震わせている。
「つまりザックがこれからすることは、ここで銀貨を換金してお金に変えて、殺虫剤を購入。余ったお金で飲み物と食べ物を買って向こうに戻り、虫を退治しながら王都を目指すんだ」
「大丈夫よ、ザック。いまここで銀貨を使っても、虫系素材が高騰しているいまなら元は十分に取れるもの」
「それに、ここの食べ物は全部美味しいんだよー! たった小銅貨2枚の値段でも、金貨に匹敵する味だから、食べ物は断然こっちの方がいいよ!」
俺、アイリーン、アイオーンの言葉を受けて、ザックは決心がついたようだ。
今回の小話
ザ「しょうがないっすけど、アイオーン様に奢ることになっちゃったから、お金集めないと」
ア「ゴチになりまぁーす!」
蒼「同じの2個目からは自腹な」
ア「ふぁっ!? 何それ聞いてないよ」
蒼「いま言ったからな。それにこれくらいの制限かけないと、がっつりザックにタカリそうじゃん」
ア「そんな! 僕はヴォルフみたいにがめつくないよ!」




