第38話 傷だらけの冒険者『ザック』
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「どうだ? アイオーン」
俺、アイオーン、アイリーンの3人は、意識の無い青年を囲むような位置取りで座り、安否をアイオーンに確認してもらっていた。
「ほとんどは擦り傷のようだね。血も止まっているようだし、命に別状はないよ」
倒れている青年は土や血に汚れていて、身体中に何かに引っ掻かれたような小さい傷があり、いまも目を覚ます気配はないがアイオーンが見たところ、幸いにも傷は多いものの、その全ては軽い怪我だけの様だった。
怪我は多くも、そのほとんどが引っ掻き傷のみで、意識が無いのも、疲労が原因という事だった。
「一体向こうで何があったんだ?」
「さぁ、それは僕も分からないかな。取り敢えずは命に別状は無いから、そこら辺に座らせておけばその内目覚めるよ」
「分かった。……くっ、よいしょっと」
アイオーンの指示通りにイートインコーナーへと青年を移動させるが、意識の無い人間は重く、やっとこさテーブルに突っ伏す様に座らせることが出来た。
「はぁ……疲れた。すまんな。名も知らぬ青年よ」
残念なことに、置いてある椅子が肘掛け付きの椅子だったので、連結椅子ベットには出来なかったのだ。
本当だったら横にした方がいいんだろうが、さすがに店内の床で横にする訳にはいかないので、これは苦肉の策で仕方がないことだ。
「スライム達、全員集合ーー!」
青年を移動させた後、俺はこの場にいるスライム達を集合させた。
「アイリーンも、悪いがキッシュを借りるぞ」
「ええ。もちろん大丈夫よ。私はあの子の様子を見ているから、起きたら教えるわ」
この場にいるスライム全員なのでアイリーンのスライムも含まれるが、アイリーンは快くキッシュを貸してくれた。
「じゃあ、僕は飲み物でも買ってきてあげるよ。アイリーンは何飲むー?」
「うーん。それじゃあ、ホットのミルクティーをお願いしますね」
「はーい!」
アイオーンは元気良く返事をして、テテテと店内を移動するのを2人で見届ける。
「じゃあ、アイリーン頼んだ」
「任せて」
パチンとウインクをするアイリーンに青年を任せると、俺は集まったスライム達を両手に持ち、青年が倒れていた床に持って行く。
「それじゃあスー達は、ここら辺の血痕とか土とか、床とマットに付いている汚れを綺麗にしてくれ」
「スッスー」
「ムッムー」
「キッシュー」
「ミナー」
スライム達は手を上げて、「はーい」と返事をする様に触手を上げると、床の掃除を始めた。
「それが終わったらあの青年とテーブル、俺、に分かれて綺麗にしてくれないか」
青年と俺とを指差してスライム達に言うと、スライム達は円形になった。
「スッスー」
「ムッムー」
「キシュー」
「ミナー」
「キシュ!」
「ミッナ!」
血と土で汚れたままの青年をテーブルに持って行ってしまったので、当然そこと俺自身を掃除の範囲に指定すると、スライム達は円になって相談した結果、キッシュと、青年が連れてたスライムが青年周りの掃除担当となり、スーとムーが俺の担当になった様で、二手に分かれて再び掃除を再開する。
「キシュキッシュー」
「サナッナナー」
キッシュ組みが青年の方に向かって掃除を開始し、スーとムーは床とマットを早々に綺麗にすると、俺に付いている汚れを取る為にまとわり付く。
「ススッスー」
「ムッムムー」
「なぁ、その歌なんだ?」
変な歌と共に掃除をするスライム達。
俺、そんな歌教えていませんよ?
「スー」
「ムー」
「……本当にスライム達、マジ万能だわ」
汚れていた床とマットは元に戻るを通り越して、床はツルピカに、マットは溜まっていた汚れが無くなって、新品の様になっている。
俺が着用している制服の、ポケットにあるペン汚れまでもが綺麗に無くなっていた。
「スー達は、この後は好きにしてて良いぞー」
「蒼ーー! レジーー!」
「あいあいっと」
スライム達を自由行動にした俺は、アイオーンに呼ばれて相手をしたり、やり残していた通常業務に戻ってしばらくすると、アイリーンに呼ばれた。
「蒼。あの子、起きたみたいよ」
「無事に起きたか」
アイリーンに呼ばれた先では、スライム達に洗浄されて小綺麗になった青年が、しょんぼりとした感じで座っていた。
「よう。目が覚めたみたいだな」
「あっ。……はぁ」
声をかけてみたものの、事態を飲み込めていない青年は曖昧な返事だけを返すと、キョロキョロと辺りを見渡して、不安げに俺を見つめる。
「あの、ここは……天界でしょうか?」
真っ青な顔で、震える声で言った青年は、両目に薄っすらと涙が浮かんでいたので、俺は殊更明るく話しかけた。
「違う違う。ここはそっちの世界とは違う世界の、コンビニって店舗の中だ」
「コンビニ? てっきりこんなに美しい人がいるのだから、天界かと思ったのですが……」
青年はちらりちらりとアイリーンをチラ見して、アイリーンと目が合いそうになると、バッと顔を下に向ける。
まぁ、アイリーンは2つ名が女神様ですからね。そのアイリーンの隣にいて、強炭酸を飲んでシビビビビと痺れているのは神様ですけどね。
うーん。ある意味この2人がいるならば、天界であっているかもしれんな。
「あら、美しいだなんて。お上手ね」
「あっえっと、あの……その」
容姿を褒められ慣れているアイリーンは、さらりと青年の言葉を受け流してウインクをすると、青年は慌てふためく。
ただ、さっきまでのしょんぼり感が無くなったので、ここは同じ異世界人のアイリーン達に、任せることにした。
「ははっ。それじゃあここの事は、ここの常連であるアイリーンやアイオーンに聞いてくれ。
君と同じ世界の住人だから、俺が説明するよりも分かりやすい筈だ」
「私はアイリーンよ。よろしくね。こちらはアイオーン様よ」
「……うえぇっ! アイオーンって神様じゃないですか!」
「それで、貴方は何処のどなたなのかしら?」
「あっはい。俺、あっ僕はザックです。Dランク冒険者になったばかりで、初めて魔の大森林に行ったんですけど、そこでちょっと問題が起きまして……」
俺からアイリーンに話の主導権を渡し、アイリーンが青年にあれこれ質問し、逆に青年からここの事を質問されたりしているうちに、段々と青年も落ち着きを取り戻したみたいで、ほんのりと顔色が良くなった。
「そっか、僕はまだ死んでないんですね。でも、向こうに帰ったら元の場所に戻るんですよね?」
「えぇ。そこが問題になるわね」
「うーん。虫かぁ」
傷だらけの青年はザックと名乗り、職業はDランク冒険者との話で手持ちはあまり豊かではないこと。
このままでは、向こうに戻っても確実に死ぬ運命が待ちわびている。
「僕、クエストは失敗してもいいんです。……けど、どうしても家族の元に帰りたい」
「……そうだな。ザックを無事に帰す方法を考えないといけないな」
俺は何か方法がないかと考える。このままでは、あまりにもザックが可哀想だからだ。
ザックは元々4人家族の農民であったが、去年の秋。作物の収穫を終えた時期にモンスターの大群に襲われてしまい、村がモンスターに襲われているなか、父親から母親と妹を頼むと言われて王都にまで逃げてきたそうだ。
父親はその場に留まり、他の住民と共にモンスターと交戦して、父親のその後のことは分からないそうだ。
王都まで逃げてきた理由は、家や畑をモンスターの大群に壊されてしまい、一からやり直すのは大変なこと。
騎士や冒険者達が、モンスターを完全に駆除するまでは、そこに村を作ることが出来ないことなどを理由に、村を捨てて王都まで来たそうだ。
それに王都でなら家や職は探せばあるだろうとの理由で、冬になる前に親子3人で急いで王都へと来たのだそうだ。
その後王都へと辿り着いたザック達は、住む場所を探していた時に、ちょうど求人募集をしていた宿屋があり、そこは家族全員での住み込みが可能とのことだったので、そこに住み母と妹が給餌として働いている。
しかし、給餌の仕事では家族3人で住むにはギリギリの給金しか出ないので、ザックは家族のために、上に行けば行くほど給金が増えていく冒険者となった。
そして、ザックは初めてDランクのクエストに行った先でトラブルが発生し、ザックは幸か不幸かコンビニへとやって来たと言うわけであった。
「そういや。その魔の大森林・蟲にいたのは、モスキィーって名前の、こっちだと蚊に似たやつなんだよな?」
俺はザックから聞いたことを、確認のためにザックとアイリーンに聞き、2人はコクリと頷く。
「そうです。そのモスキィーの大群に追われているうちに、ここに来たみたいです」
「ハァ、ザック。そのモスキィーって魔物はね。今が幼虫から成虫になって増える時期だから、モスキィーの嫌がる臭いを放つ松明を持って行くものなの。これは常識中の常識なのよ」
最後は俺にも言うように、アイリーンはモスキィーのことについて説明してくれた。
そして、そんな初歩的なミスをしたのだと知ったザックは、悔しそうな顔で膝の上に置いている両手を握り締める。
「くそっ。クエストに行く前にちゃんと準備していればーー」
「そうね。少なくても、モスキィーの大群にに襲われることは無かったかもしれないわね」
ザックは吐き捨てるように、自身の未熟さを悔やむ言葉を言い、その続きをアイリーンが繋ぐ。
「けど、まだ何とかなるかもしれないぞ」
俺は落ち込んでいるザックの肩を、元気つけるように少し強めに叩きながら言う。
「おや? 蒼は何か良い案でも浮かんだのかな?」
アイオーンはテーブルに両肘をつき、両手を組んで台にした上に顔を乗せて、ニヤリと笑う。
「まぁな。その為には、ザック、アイオーン、アイリーンに、それぞれ聞きたいことがある」
ザックを生かすには、皆の協力が必要だ。
今回の小話
イメージはちょっと音痴なインコ
蒼が口ずさんでいた曲を覚えた?スーとムー。
ス「すっすすすっすー⤵︎」
ム「ムッムムムームー⤴︎」
キ「キシュ?」(何してんの?)
ス「スッスー!」(蒼が口ずさんた!)
ム「ムムー!」(僕も覚えた!)
キ「キッシュー!」(わぁ、僕もやるー)
その後
蒼「……最近スライム達が変なリズム取ってる。しかも微妙にヘタ」




