第2話 自称神はこう言った。「ここを僕の世界と繋げちゃおっと」
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「それで、栄養ドリンクって何なの?」
自称神様の少年が、俺の顔を円らな瞳で見ながら問いかける。
いまどき栄養ドリンクを知らないガキが居るんだなぁとか、俺も実際には栄養ドリンクの説明が上手く出来るとは思えないが、何となく自分が朧げに分かる範囲で説明する。
「あー。その、なんだ。それぞれに特化した効能を配合した飲み物だな。こっちのは女性用で美容関連の栄養ドリンクで、こっちは眠りたくない時に飲むやつ。そんでこっちは酒を飲んだ次の日も快適に過ごせるやつで、ここら辺はよく分からんが、体に良いやつが入っている。あと、ここら辺は風邪を引いた時に飲むやつで、こっちのは短時間で飯が食えるってタイプのゼリー飲料」
俺が栄養ドリンクスペースの商品を指差しながら説明していけば、こいつは楽しそうにふんふん頷きながら聞き、目を輝かせた。
そのまま、陳列している商品を一つ一つ手に取っては眺める少年。
それに手の届かない場所の商品を、精一杯背伸びをして取ろうとする姿は、見る人によっては母性を擽る姿かもしれない。
そんな中、葡萄のイラストがされたゼリー飲料をムニムニと揉んでいる少年が、ポツリと零す。
「へー。こっちには面白いものがいっぱいあるんだね!」
この少年は何気無く言った言葉だが、俺は不審に思った。
ここは田舎だが、全国チェーンのコンビニとして有名な企業だから、地域限定品以外はどこも大体が同じ品揃えであるはずなのだ。
それなのに、この店の品揃えを初めて見たような言い方をされれば、ピンとくるものがあった。
それに、親も保護者も同伴していない子供が、この時間帯に来るなんておかしいのだ。
「こっちには? あー、日本語上手だけど海外から来たのか? だったら、警察に電話するからちょっと待ってろ。坊主の名前と年齢、あとは住所……は、分からないとしても、電話番号とかは分かるだろ?」
流暢な日本語を話す金髪碧眼の少年だ。もしかしたら様々な事情があって親と離れ離れになった可能性も考えて言ったのだが、どうやら俺の考えは全く見当違いだったようだ。
「僕の名前はアイオーンさ。坊主では無くてそう呼んでくれたまえ! それに僕はさっきも言った通り、こことは違う世界の神様さ! だから、君が勘繰っているような迷子とかではないから安心したまえ!」
その証拠にと、少年ことアイオーンは見事な発光を見せながらそんな事を言ったのだが、
「うおっ。マブッ! アーーー! 目がーー、目がーー!」
近距離での突然の発光に、某有名な悪役のセリフを吐きつつ、俺は床を転げ回った。
○
「君、大丈夫かい?」
「あぁ、お陰様でな。ただ、お前のせいでとんでもない目にあったけどな!」
「にゃはは。ごめんってばぁー!」
突然の発光から暫く経った後、俺はバックヤードに自称神のアイオーンを連れて、自分の目が回復するのを待った。
こいつもバックヤードに連れて来たのは、「ねぇねぇ、あれ何? これ何?」と、店内を物色しては、気になるものを手当たり次第に俺の所に持って来て聞きに来たからであり、正直鬱陶しかったのでここに連れて来たのである。
ただ、バックヤードもアイオーンが気になる物がわんさかとある様で、さっきからキョロキョロと忙しない。
「はぁ。まだ半信半疑だが、大体の事情は分かった。つまり、お前はこことは違う世界の神様で、ちょっとした好奇心から違う世界を見てみようとした先の、最初の一歩がここだったんだな」
お互い椅子に腰掛け対面する形で問いかければ、アイオーンはつま先しか床に届いていない足をプラプラさせながら答えた。
「そうだよ。本当はもっと他の場所も見て回りたかったんだけど、こっちの神様に邪魔しないでって言われちゃった。けど、ここだけだったら良いよって言われたから、ここを僕の世界と繋げちゃおっと!」
「おっ? ちょっと待て? どういう事だ!?」
何やら不穏な事態に向かおうとしている現状を打破するために、アイオーンの両肩を掴んでもっと詳しく説明する様に求めれば、アイオーンはケロッとこう言った。
「てへぺろ? だっけ? さっきここの神様に教えてもらったんだけど、合ってる?」
きちんと、てへぺろポーズ付きで実践してみせたアイオーンは、こんな事態でなければ10人中10人が虜になりそうなほど魅力的だったが、今はそれどころでは無い。
「ちょっと待てっ! 俺の預かり知らぬところでトントンと話が進んでいやがる!」
むしろ、こいつが言うこっちの神様が無茶振りを振ったって内容だったぞ!
「あははー! これからよろしくねー!」
「よろしくじゃねぇよ!」
「ちなみに君の名前は何君なんだい?」
「東蒼だよ! って、こんな会話している場合じゃないんだよ! もっと詳しく説明しやがれ!」
なんだか漫才のようなやり取りのあと、「んっんー!」と咳払いをして、アイオーンは言い始めた。
「だから、僕の世界はここの神様が言うには、剣と魔法のファンダシー? な世界なんだって」
「ファンダシーじゃなくて、ファンタジーな」
微妙に間違っている単語を訂正すれば、パァっと顔を輝かせて、ウンウンと頷くアイオーンは、そのまま語る。
「あぁ。そうそう、それそれ。それでね、僕はその世界の神様で、色々と作ったりしてはそれがどうなって行くのかを、見たり感じたり遊んだりしていたんだけど、ふと思ったのさ! ここ以外の世界はどんな感じなのかなって」
それで白羽の矢が立ったのがこの地球だったのだが、実際にこの世界に足を踏み入れた瞬間に、こっちの神様に文句を言われたという事らしい。
ただ、このコンビニ内限定の話ならば目を瞑ると言われて、このコンビニと向こうの世界を繋げたと言う話であった。
「それにしてもビックリしたよ! こっちの神様に見せて貰った君達が作ったアニメ? や漫画? って言うのを見せて貰ったんだけど、僕の世界と瓜二つの世界がゴロゴロあるんだもん! どうして僕の世界の事を知っているんだろうって、ビックリしちゃったよ」
初めてアニメを見た子供の様に興奮して、身振り手振りで説明して来るアイオーンに対して、気になった事を一つ。
「ってか、いつそんなの見たんだよ」
「えっと。こっちの言葉だと、神様ネットワーク? ってのをこっちの神様が作ってくれて、そこで見てた!」
どうやら神様ネットワークなるものは次元が異なる所にあるらしく、俺達が一瞬に感じる時間であっても、神様ネットワーク内に入れば時間と言う概念が存在しないらしい。
故に、俺の感覚で短時間のうちにアニメや漫画を見る事が出来たのだとか。
時間の概念が無いとか、雑食のオタクには欲しいネットワークだな。
俺の友人の一人が、漫画や小説にアニメ、少女系や少年系に青年系、スポーツや恋愛にバトル系、さらにはファンタジーにサスペンスにホラーと、気になった作品はお金と時間と体力が許す限り、全力で片っ端からやっちまう奴だったからな。
そんな奴の口癖が「あぁ、一日三十時間あれば良いのに」だ。
「んで。その、こっちの神様は俺に対してなんか無いんですかね?」
こっちとしては、俺に面倒事を擦り付けて来た神様に、一言文句を言ってやりたいのだ。
「無茶振りしてごめんねーって言ってた。あと、僕みたいに姿形が固定している訳じゃあないから、蒼の前に直接出て謝れないんだって。その代わりに、蒼と、蒼に深い繋がりがある人達に色々な特典付けておいたってさ!」
「えっ、何それ。その特典怖いんだけど」
無茶振りかまして来る神様の特典とか、何が起こるか分かったもんじゃない。
「えっとね。衰老以外で死なないのと、如何なる厄災も払い除ける特典だって!」
アイオーンが言った特典を聞いて、俺の考えは180度変わった。
「よし、分かった。俺はお前を受け入れよう」
「むぅ。だから、僕はアイオーンだってば!」
まだまだ二人の絡みが続きます。
次回予告
「ルールを決めようぜ」
ついでに、栄養ドリンク付近では、映画記念に子供の高校生と3つの仮面を持ったイケメンのキャンペーンをやってますね。
見かけるたびに、ニヤニヤしてしまいます。