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第36話 虫が出る季節になりました

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 6月も中旬となり、ついにアイツらがやって来る季節になった。


「あっ、また消えた。くそっ」


 ぶ〜ん、ぶ〜んと耳元で聞こえる羽音。

 気が付いた時には、腕や足が刺されて痒くなる皮膚。

 見つけて叩き殺そうとしても、ひらりひらりと平手打ちを避けて、消えて見えなくなる憎い奴。

 そう、『蚊』である。


「うわっ! ……シッシッ。うっとおしいな」


 他にも蚊と同じように、ぶ〜ん、ぶ〜んと飛び回り、叩き殺そうとしても中々捕まえる事が出来ず、こっちをバカにしたように目の前を飛ぶ『蝿』。


 あとは名前もわからない、得体の知れない虫が至る所に点在する季節になってしまった。


「あっ、また蚊に刺されてやがる。……痒」


 蚊に刺されて、腕の一部がぷっくりと膨らんだところを、ぽりぽりと掻きながらパンの品出しを続けていると、俺の隣にアイリーンがやって来た。


「こんにちは。今日、正式に大会の発表があったわ」

「そっか。それでアイリーンは大会に出るのか?」


 1週間ほど前に知らされた、プリンをメインに1番美味しいプリンを競う大会は、いままでに無かったデザートが新たに出来たという事もあり、目新しい物好きの貴族や、平民も安価で手軽に大量生産出来るので、分け隔てなく人気の品になっている。


「ええ。私達はプロでも貴族でも無いから、平民枠で出る予定よ」


 アイリーンが言う平民枠とは、一般人が競う枠組みの事で、今回の大会には3つの枠組みがある。


 1つ目は貴族が、高級な素材で作る贅沢なプリン。

 2つ目はプロが、決めされた金額と決められた材料を必ず使ったプリン。

 3つ目はアイリーンが出場する予定の平民枠で、1番低く決められた金額で作るプリンだ。


 これを提案したのがアイリーンで、アイリーンは平民としてはお金持ちではあるが、貴族の様に高級な食材を使用する事は出来ない。

 さらにプロで有名な料理人ではないので、そこでも天と地の差があるはずだからと、貴族の豪華なプリン対決、プロが作った本格的なプリン対決、そのどちらでも無い平民が作る、素朴なプリン対決にしたらどうかと王様達に進言していた。


 その提案が通った形となり、アイリーンは同僚と共に平民枠で参加するそうだ。


 そして今回のプリン対決の審査員は、主催者である王様、今回のレシピの考案者としてアイオーン。甘いもの大好きな宰相さんと、俺はまだ会った事の無い騎士団長と、鬼嫁と噂がある王妃様の全部で5人。


「なんか、錚々たるメンバーが審査員なんだな。大丈夫か、アイリーン」

「ええ。私は大丈夫よ。だって、そのメンバーの3人は、もう既に顔見知りだもの。今更緊張も何も無いと思うの。それに、私には参考に出来る……プリンが、ある、もの……えいっ!」


 言葉の最後の方で、何かに気付いて視線を彷徨わせたアイリーンは、掛け声と共に空中を両手で叩く。

 その時にはアイリーンが何をしたいのか、俺にもわかった。


「蚊か?」

「それって目の前にいた虫の名前?」

「あっそうそう。これが蚊。よく捕まえられたな」

「えっ! これが蚊なの!?」


 合わせていた手を開いたアイリーンの右手に、血と共に叩き潰された蚊がいた。

 おそらく一緒に付着している血は、さっき腕を刺された俺のだろうな。


「ちょっと待っててくれ。紙持ってくるから」


 レジ内に入り、流しの上の壁に備え付けられている紙を一枚取ると、それをアイリーンに手渡そうとしたのだが、当のアイリーンは自分の手についた虫をジッと見つめていた。


「何じっくり見ているんだ?」


 俺が紙を手渡しながらそういうと、アイリーンは顔を上げて羨ましそうに俺を見つめる。


「だって、これって蚊なんでしょう? こっちの蚊ってこんなに小さいのね」


 アイリーンの手についていたのは、黒と白が特徴の普通の蚊だ。


「小さいか? こっちだと普通だと思うぞ? まぁ体格は小さい方の虫だと思うが」

「そうなの? 向こうの蚊は……。いいえ。虫全体がこれよりも何倍も大きいのよ。現に向こうの蚊は手の平サイズはあるもの」

「うえっ! 何それ怖っ!」


 アイリーンは手の汚れを取り除きながら、向こうの生き物のほとんどが、魔石を宿したモンスターである事、その中でも虫でこんなに小さいのはいない事、小さくても親指の第一関節くらいの大きさで、群れで行動をしている事、大きい虫などは、アイリーンの背丈を簡単に追い越す事などを話す。


「うわー。俺そっちの世界に行きたくないわぁ」


 アイリーンの説明を聞いて想像してみたが、万が一俺が遭遇しても、殺される未来しか見えなかった。

 何せ俺は平和ボケしている日本人ですから。

 喧嘩しても手は出ずに、口合戦で主に戦っていますから。

 俺の戦闘力などは、ゲーム的に言えば最初の武器である、木の棍棒以下の威力ですから!


「でしょうねぇ。戦う術が無いと、向こうでの生活はキツイと思うもの」

「と言うことは、アイリーンは戦えるのか?」

「まぁ人並みには、かしら? 私は短剣術と水魔法を少しだけど使えるわ」


 なんでもアイリーンのお店では、娼婦と言う仕事柄、下に見る男や色欲に溺れた男から、攫われそうになったり襲われそうになった時に、自己防衛程度は出来るようにと、教養として叩き込まれるそうだ。


「だから、ここの虫がこんなにもひ弱だなんて、羨ましいかぎりだわ」

「そうだなぁ。そっちに比べるとこっちの虫の方がーー」

「ムッムッー!」


「まだマシだ」と、そう言おうとした俺を遮って、レジの方からムーが俺を呼んだ。


「何かあったのかしら?」

「そうだな。どうしたんだムー。って……」

「ムッム。ムッムッ」


 呼ばれた俺はムーの所へと向かうが、レジ台の上にいたムーは、4本の触手の先に蝿を捕まえていて、蝿はジタバタともがいていた。


「スッスッ。スッスッ」


 そしてムーの隣にはスーもいて、スーは3本の触手で小蝿や蚊などを捕まえていた。


「おぉー。スーとムーは凄いなぁ。虫を捕まえてくれたのかぁ。2人とも偉いぞー」

「ムッムッー!」

「スッスッー!」


 褒めて褒めてと言う様に俺を見つめるので、虫に当たらない様に頭? を撫でると、シュッと触手をしまい、捉えた虫を体内に取り込んで溶かし始めた。


 これはあれか? 猫が獲物を見せに来る的なアレか?

 今日みたいな虫はまだいいが、黒い流星やネズミを見せに来られても困るぞ。


「まぁ。8-10スライムはこんな事も出来るのね。確かどんな攻撃も通さないから、防衛に便利だよってアイオーン様は言ってたわね」

「それに見た目も可愛いし、お手伝いも出来るし、インベントリの機能もあるし、それに虫の捕獲も追加したからな。まさに万能すぎーー」


『テロンテロン。テロンテロン』


 またアイリーンと話していると、話を遮られてしまった。

 今度は店内ベルなので、誰が来たのかと俺はそちらを見ると、アイオーンや王様達では無い見知らぬ人が、入り口で傷だらけになって、うつ伏せに倒れているのが目に入った。

 その隣には、オロオロとしているスライム。


「キャーーーー!」

「おいっ! 大丈夫か!」


 俺は急いで倒れている人の共へ向かうと、仰向けにして頬を叩く。


「うぅっ」

「よし、まだ生きているな。おいっアイオーン! 助けてくれ!」


 入り口で倒れていたのは、まだ10代後半か20歳くらいの男性で、頬を数回叩けば苦しそうに呻く。

 ゲームやアニメで見たような皮の防具、それにこの男の側には異世界人である証の8-10スライムがいるので、俺は緊急事態だとアイオーンを呼んだ。


「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃーー」

「アイオーン! バカな事をやっている暇は無いんだ。怪我人がやって来た。助けてくれ!」

「ムムッ! これはなんと一大事!」


今回の小話

蒼「虫を捕まえられるんだよな。おーいスライム達ー!」

ス達「?」←何だ何だとやってくる。

蒼「パンパカパーン。第1回、スライムの虫取り競争ー! 1番多く虫を捕まえたら、ご褒美にこちらのアイスを付けます」

ス達「!?」←やる気みなぎる

蒼「よーい、スタート」

10分後

蒼「ひぇ、先端に虫が付いたウニみたいな見た目になってる」

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