第34話 解禁!
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深夜0時頃。
店内ベルが鳴り響くと、静かだった店内が騒がしくなる。
『テロンテロン。テロンテロン』
「……やっと、やっと解禁じゃぁぁぁぁぁ!」
「ちょっ、コンラート邪魔〜」
「アイオーン様。あの馬鹿は放っておきましょう」
自動ドアに入って直ぐ、敷物の上で目に涙を浮かべ、手を握り締めながら両手を上げて感涙しているのは、1週間の間、出禁を言い渡されていた王様である。
王様は入り口を塞ぐ様に立っていて、その場から一歩も退かないので、アイオーンと宰相さんが王様を邪魔そうに避けながらも、入店する。
「よう。この前は、その……悪かったな」
当然の事ながら、同日に出禁を言い渡されていた教皇様も一緒に来ていて、片手を上げて挨拶を交わす。
その後、眉尻を下げて申し訳無さそうな表情で、この前の事について謝罪された。
決まりが悪そうに頭を掻いている教皇様が気にしない様に、俺は少しおちょくった感じで軽く注意しておく。
「あはは。次からは気をつけて下さいよ〜」
「あぁ。あの時はちと気が緩んでいたせいで、お主に迷惑をかけてしまったな。だが、もう大丈夫だ!」
俺の態度を見て察した教皇様は、厚い胸板をドンと叩いて自信満々に言うので、今後は大丈夫だろう。
なんでもあの時は、王様と宰相さんに久しぶりに会った事でテンションが上がり、さらに異世界のコンビニという未知の場所でテンションが上がり、さらにさらに、始めて食べたり飲んだりしたつまみやお酒類にテンションがどエライ事になって、歯止めがきかない状態だったらしい。
ついでに、普段はきちんとアルコール類はセーブして飲んでいたが、初めて飲んだ日本酒や焼酎では普段の感覚が分からずに飲んでしまい、その所為もあると言う。
結果、アルコール度数20以上の物をパカパカと開けてしまい、自分でもビックリする程の泥酔状態になってしまったらしい。
しかも出禁を言い渡された次の日に、宰相さんから事の顛末を聞いて教皇様は、自分の失態を重く受け止めていたらしい。
王様はほんのりと顔が赤くなっていたけれど、教皇様には顔の変化が無かったから、そこまで酔っているとは思わなかったな。
普通に騒々しい人かと思っていたが、どうやら違った様だ。
「フォッフォッフォッ。蒼。早速これらを買うぞ」
「王様、揺るがねぇー」
教皇様と別れた後、王様が持って来たのは、1週間の出禁の間に発売された数冊のエロ本で、店内に入って感涙した王様は、すぐにエロ本コーナーへ立ち寄っていたのだ。
久しぶりにエロ本を購入する所為か、鼻息を荒くして、若干興奮している様に見えるので、少し気持ちが悪い。
数冊のエロ本だけを持ってレジへとやって来たのでお会計を済ませると、ニンマリとした顔でクラスティーナの中に取り込んで貰う。
「フホホ」
「何鼻の下伸ばしているんですか気色悪い。ほら、会計が終わったのならばさっさと退いて下さい」
何冊ものエロ本が収まっているクラスティーナを撫でていた王様の後ろには、買い物中の定番スタイルとなった、軽く腕を曲げた肘の部分に買い物カゴを置く、主婦やおかんっぽい持ち方をした宰相さんがいた。
どうやら今日が出禁の解禁日なので、3人は事前に示し合わせて、同じ時間にここに来る約束をしていた様だ。
なんだかんだ言っても、宰相さんは王様と教皇様と仲が良い。
そんな宰相さんが持っているカゴの中には、たくさんの甘い食べ物がゴロゴロと入っていて、重そうにしている。
「気色悪いとはなんだ! 気色悪いとは! 仮にも儂は王だぞ!」
「だから何です? ここではそんなの関係ありませんよ。と言うよりも、荷物が重いのでさっさと退いて下さい」
食ってかかった王様をスルーして、淡々と自分の説明をした宰相さんのカゴの中を見て見ると、宰相さんの初めての果物であるバナナが入っていて、その上に甘栗の大袋や、カリカリとした食感が特徴の、梅の加工品が入っていた。
どうやら今日買う物は、こっち原産の果物や木の実縛りらしいが、バナナは3本で1セットを3つ、甘栗は小袋が4つ入っているのを5つ、カリカリ梅も甘栗と一緒で5つと、カゴの中がいっぱいのラインナップで、それを持っている宰相さんは、ちょっと重そうにカゴを持ち直したりしている。
「ヴォルフ。……お主、前より酷くないか?」
俺と同じ様に、宰相さんが持っているカゴの中を見た王様は、マジマジとした顔で宰相さんに告げた。
「それ、エロ本を前に、ニヤニヤとした気色悪い笑みを浮かべていたコンラートには、言われたくない言葉ですね」
「むっ」
「まぁ、出禁の間ここに来る事を我慢していたので、入店早々に見苦しい姿をしていたのには許しますが、その後、蒼に謝罪の言葉無くエロ本を買いに行きましたよね?」
「……あっ」
今思い出したとばかりにハッとした王様は、こちらを気まずそうに見ると、少し眉尻を下げつつ、頭を軽く下げて謝る。
「この前は無様な姿を晒し、蒼に迷惑をかけた事。申し訳無く思っている。すまなかった」
「えぇっと、王様の威厳は、エロ本を前に霧散しているので今更感が……。なので、今後店内で騒がなければ、俺としては特に問題は無いので、存分にエロ本を楽しんでください」
「むっ、それはそれで複雑だが、まぁ仕方がない事か。……フホホ」
俺の言葉を聞いて、最初はムッとした顔をした王様であったが、今までの自分がしてきた痴態を認識しているのか、それ以上を考えるのを諦めて、ついさっき買ったばかりのエロ本を思い出したのか、段々と鼻の下を伸ばしたデレデレの顔になる。
「コンラート、早く退かんか。儂は腹ペコなんだが?」
「そうだそうだぁ! レイセントの言う通りだぁ! 会計が終わったら直ぐに退けぇい!」
パスタを下にして、その上に惣菜でおつまみシリーズの、三角の形をした入れ物に入っている物を数個と、焼酎の度数が低い方を乗せている。
その隣にはアイオーンが居るので、教皇様のおつまみシリーズはアイオーンが教えたのだろう。
そのアイオーンは、カレーうどんを手に持っている。
一応神様なので大丈夫だとは思うのだが、見た目が子供のアイオーンなので、カレーうどんを食べる時には注意しながら食べないと、服にカレーが飛び散って大変な事になると注意をしておこう。
えぇ、もちろん俺の実体験です。
「ほら、王様も何かビールかつまみでも買ってきたらどうだ? この後どうせ3人で呑むんだろう?」
「そうだな。そうしようか」
王様を促して商品を買いに行かせると、宰相さん達の会計を手早く済ませている間には、王様も選び終わった様で教皇様の後ろに並んでいた。
「では、2人の解禁に乾杯!」
『乾杯!』
王様はビールを、宰相さんはホットのほうじ茶を、アイオーンは紙パックの烏龍茶を、教皇様は焼酎を片手に乾杯をする。
何故か俺が乾杯の音頭を取れと言われたので、俺もアイオーンと同じ様に、紙パックの麦茶で乾杯をするという、なんとも締まらない音頭を取る事になったが、久しぶりにコンビニに来た王様は嬉しそうに、まだ日が浅い教皇様は楽しそうにしているので、取り敢えずは良しとしておこう。
乾杯が終わった後、俺は仕事に戻るためにその場を去ったが、イートインコーナーでは出禁の間が辛かっただの、新しい住民がこっちに来たのだので話が盛り上がり、楽しそうな声が聞こえてくる。
「今日からまた、騒がしい日々が始まりそうだな」
もう既に、王様達が来店する事を当たり前だと感じている俺は、久しぶりの日常に笑みを浮かべた。
今回の小話
11:50頃。
王様、宰相、教皇のそれぞれの自室にて。
王「これさえ……。この書類さえ片付けられたらヌホホホホ」
宰「今日は、いつもとは違う所を攻めて見るのもいいかもしれませんね」
教「悩める子羊よ。準備はいいか? では、心して受けたまえ。気合いの一発じゃぁぁぁ」




