第31話 食後のデザート〜プリン編その1〜
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あと少しでブクマ4桁に突入すっぞ!
「蒼〜! ちょっとこっちに来てくれないかしら〜」
フライヤーの廃棄をノートに記入している時に、アイリーンがイートインコーナーから顔を出し、チョイチョイと手招きをして俺を呼ぶ。
「ちょっと待ってくれ」
アイリーンへと片手を上げて、ちょっと待ってて貰う。
その間に、ノートに記入した分を取り敢えずは捨てて、俺はアイリーンの元へと向かった。
「……」
「……」
「……お兄ちゃん」
皆が集まっているテーブルへ向かうと、そこには真剣な表情を浮かべて、お互いに一歩引かないとばかりに顔を逸らさない宰相さんとアイオーン。
そして、そんな二人に挟まれた状態で困った顔をしているリカルドが居た。
アイリーンも睨み合っている二人を見て、困った様な呆れた様な顔をしている。
「これは一体、どうしたんだ?」
「蒼! 僕はクッキー系を押すよ!」
「いいえ。アイオーン様。初回ならば、絶対に和菓子一択です! 蒼。そうは思いませんか?」
「ハハッ。ヴォルフって、和菓子しかお菓子がないと思っているの? 馬鹿なの?」
「いいえ。そんなわけないでしょう? ただ初めて食べる甘味ならば、和菓子は他の甘味に比べると値段も量もお手頃価格なのでおススメしているのですよ? そんな事も分からないのですか?」
「だからって馬鹿の一つ覚えに和菓子って。アイリーンは初めてここに来たんだから、馴染みのある物から試したいはずさ!」
「お兄ちゃ〜ん!」
俺が声を掛けた途端に、アイオーンと宰相さんが一斉に俺の方を見て捲したてて、そのまま口喧嘩を始めてしまった。
普段はここまでピリピリとした雰囲気を出さない二人が、何故かこの時ばかりは譲れない戦いでもしているかのように、お互い一歩も譲らない口撃を展開している。
「良いですか。和菓子の利点は味見サイズで売ってあることと、食べていて胸焼けをしないことです。さらに、腹持ちが良いのでこれ1つで満足感を得ることができます」
「クッキーだって負けてはいないよ! ここには馴染みの商品が無いアイリーンでも、クッキーは向こうでも食べたことがあるはずさ! それにここのクッキーはバターの風味や、チョコやナッツが入った物まであるんだぞ!」
「ハァ、さっきからこんな感じなのよ」
とアイリーンは言うが、お互いにクッキーと和菓子の良い所のプレゼンをしているみたいになって来ている。
「えっ? アイリーンどゆことよ? さっきまでワイワイしてただろ?」
そう、さっきまではワイワイと楽しそうにしていたはずなのだ。俺は成り行きを知らないので、隣にいるアイリーンにこうなった理由を聞いてみると、アイリーンは目を閉じ眉間に皺を寄せながら答える。
「う〜ん。これの発端は私のせいになるのかしら? 私が食後に甘い物も食べたいわねって言ったのが原因だと思うわ」
そう言って、ハァと溜息を吐いたアイリーン。
アイリーンにもう少し詳しく聞いてみると、アイリーンが生姜と具沢山スープを持ってイートインコーナーに向かった時は、宰相さんは次に食べる和菓子を吟味していて、アイオーンはちょうど牛丼を食べ終わった状態で、リカルドはオレンジジュースをチビチビと飲んでいたらしい。
「やぁ、アイリーン。君もここで食べるのかな?」
イートインコーナーにやって来たアイリーンを目敏く見つけたアイオーンは、手を振って歓迎していることを示したので、アイリーンは空いている席へと座った。
その時に、大雑把に言えば接客業に携わっているアイリーンは、隣にいるアイオーンと初対面である宰相さんにニコリと微笑みながら挨拶を交わしたらしい。
「ええ。お隣失礼しますね。アイオーン様。と、素敵な旦那様」
右隣の神であるアイオーンは、肖像や銅像などがあるために彼方此方で見かけるので知ってはいるが、左隣の宰相さんは初対面だったので誰かは知らなかったが、良い服装を着ているなと値踏みしながら挨拶をしたらしい。
「あぁ、初めましてアイリーン。私のことは宰相とでも呼んでください」
「サイショウ様ですか?」
「ヴォルフは王国で宰相を務めているんだよ。だから、向こうで困ったことがあったらヴォルフに言いなよ」
「アイオーン様。何を言っているんですか。できることと、できないことがあります」
ここでやっと、アイリーンは宰相さんが自分の国の宰相様であることに気が付いたらしく、プチパニックに陥った。
もし相手をした時に、どれくらい金を落とせる人なのかと値踏みした相手が、まさか宰相だとは思わなかったのだろう。
「えっ! さっ宰相様!? やだっ、私ったら寝起きですっぴんだわ。申し訳ーー」
「あぁ、傅かなくて大丈夫ですよ。アイリーン」
大商会の旦那や貴族も時には相手にしてきたアイリーンであったが、国のトップに君臨する宰相さんがここにいるとは思ってもいなかったようで、平民である自分の見窄らしい姿を晒してしまったことに、慌てて傅いて謝ろうとしたが、宰相さん自らがそれを遮った。
「……ですが」
宰相さんに遮られても、アイリーンは不安に揺れた瞳で宰相さんを見つめる。
貴族と対面したことのあるアイリーンは知っているのだ。
いまの自分に対して貴族階級の人が不快に思ったのならば、たったそれだけで直ぐに首を刎ねられてしまうことを。
だがしかし、宰相さんは軽く手を振りながら言った。
「ここは異世界なので、貴族も平民も関係ありませんよ。現に、ここには王や教皇も来ているのですが、蒼のお怒りを買って一週間の出禁と言われていますから」
「えっ! 王様と教皇様もこちらへいらっしゃるのですか?」
アイリーン本日4度目のビックリである。
1回目は異世界に来た時に、2回目はアイオーンと対面した時に、3回目は隣の人物が宰相さんだったことに、そしてこれが4度目である。
この時ばかりは短時間で驚愕することが多々あったので、寿命が縮んだのではないかと思ったアイリーンだった。
「そうだよー! ただ、この前泥酔して蒼に迷惑を掛けたから、一週間の出禁中だけどね」
「教皇様、蒼お兄ちゃんには悪いことをしたって口癖みたいになってた」
「えぇ。それは王も同じです。早くこちらに来たいと嘆いていましたよ。なので、アイリーン。ここでは王族や貴族である私達よりも、蒼の方が位は上ということになります」
「うふふ。そうなんですかぁ」
微笑んで聞いてはいるが、アイリーンは国のトップである王様と教皇様の失敗話を、聞きたくは無かったわと、一切顔には出さずに内心で愚痴る。
王も教皇も、まさか自分の失態が話題になったなどと微塵も思っていないだろうし、蒼にとっての王様は、ただのエロ本が好きなオッサンという認識の方が強い。
「そうそう。蒼の協力のもと、僕達はここに転移することができるんだからね。蒼にとって迷惑になるような行動をしなければ基本は大丈夫さ」
「ええ。ですから私に傅かなくても大丈夫ですよ。さぁさぁ、せっかく温めたスープが冷めてしまいますよ」
「そうだよ! ここの食べ物はね、すっごくすっごく美味しいんだよ! あっ僕はリカルドだよ。よろしくね。お姉さん」
「えぇ。よろしくね、坊や。私はアイリーンよ」
と言った感じで、アイリーンはこの4人に受け入れられて、異世界で初の食事を楽しんだ。
「ここまでは良い雰囲気だったのだけど」
「だけど?」
アイリーンの説明を聞いた限りでは、和気藹々とした雰囲気だったはずなので、話の続きを促した。
「私が食後に甘いものでも食べたいわねって言っちゃったのよ」
「なるほど、それでこうなったのか」
「えぇ。私が言い出したせいでもあるのだけれど、困ったものだわ。蒼、迷惑をかけてごめんなさいね」
この中で悪い人はいないだろう。
アイリーンは慣れない異世界で、ポツリと自分の願望を言っただけし、アイオーンと宰相さんは言い争いをしているものの、ヒートアップなどせずに淡々とお菓子の魅力について話しているだけだ。
だんだんとアイリーンに勧めるお菓子から、このお菓子のここが素晴らしいって感じの話にずれ込んでいるが……。
だが、ずっとこのままでは埒があかないっぽいので、俺が決めさせてもらう。
「2人とも、そろそろそこら辺でストップだ! 今回は俺が独断で決めるぞ!」
アイリーンと宰相さんに有無を言わせないで、さっさと言ってしまう。
これを言ったら、アイオーンは大喜びのはずだ。
「6月も後半になったから、冷たいデザートを解禁する! よって、今回のデザート第1弾は、俺も大好きプリンだ!」
サブタイにプリン付けたけど、プリンのプの字も出ないんじゃないかと焦った。
今回の小話
宰相が、王と教皇の出禁話中。
それぞれの部屋にて
王「ブエックション! なんだ? 風邪でも引いたのだろうか? それとも誰か儂の噂を……クソッ。最近真面目に仕事しているから癒しが欲しい。そう、新作のエロ本が欲しい!」
教「ハッッックション! ムムッ! 誰か儂の噂をしているな! うぅむ。宰相辺りかの? ….…まぁ、いっか。ハッハッハー! さぁ、仕事の続きをするぞ!」
次回予告
「食後のデザート〜プリン編その2〜」




