第28話 リカルドお菓子のために頑張る!
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台風の影響がヤバイですね。
常連だった王様と、新規のお客様だった教皇様が出禁になって早5日。
それ以外は取り立てて変化の無い日々を過ごしていた。
王様と教皇様が出禁になったことの発端は、泥酔した王様と教皇様が店内で騒ぎ、俺と宰相さんが何度も注意をしても聞かなかった2人に、俺がとうとう我慢できずに出禁と言ってしまったのだが、その後俺の予想の斜め上の展開になってしまった。
俺が出禁と言った瞬間に、2人がその場から消えてしまったのだ。
「うえっ! 消えた!?」
「……大丈夫ですよ。おそらく私達の世界に戻ったのでは無いですか?」
目の前で当然姿が消えたことに動揺した俺であったが、宰相さんは平然とそのように言う。
「ただいまー! って、あれ? コンラートとレイセントは?」
「どうしようアイオーン! 俺が出禁って言ったら突然消えたんだけど……」
王様と教皇様が消えたすぐ後に、リカルドを異世界に送っていたアイオーンが戻って来て、王様と教皇様の姿が消えたことについて聞かれたので、俺がさっき起こった出来事を説明すると、アイオーンも平然と「大丈夫だよ」と言ってくれた。
「もちろん僕は例外だけど、転移のために必要な8-10スライムにとって蒼は絶対君主だからね。たとえ8-10スライムの飼い主が信頼関係や友好関係をどんなに築こうとも、蒼の命令は絶対! なんだよ。
だから蒼がコンラートとレイセントに一週間の出禁を言い渡したのならば、彼等が所持している8-10スライム達はその命令を絶対に守るっていうことさ」
「それで俺が出禁って言ったから消えたのか」
「そゆことー。まぁ僕は8-10スライムがいなくても転移できるから、関係ない話だけどね」
「ね? 私が言った通り大丈夫だったでしょう? だから蒼が気にすることなどありませんよ」
宰相さんにまで安心するように言われて、やっと何かヘマをしたのではないかと緊張していた体から力が抜けた。
それから5日間は、王様と教皇様が抜けたメンバーだけが来店していたのだが、今日は久々に新しい住人がやって来た。
『テロンテロン。テロンテロン』
「いらっしゃいませー」
俺がいつもの様に店内ベルが鳴ったので来店の挨拶である声かけを行うと、そこから一拍遅れて女性の声が聞こえた。
「あらぁ? ここ、どこかしら?」
ちょうどリカルドの会計をしていた俺は、レジに乗り出して入口の方を覗いてみると、そこには何とも言えない色気を醸し出した女性が立っていた。
「アイオーン。出番ですよー」
『テロンテロン。テロンテロン』
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!」
「きゃっ!」
服装から見て異世界の住人だと思った俺は、異世界人の説明係であるアイオーンを呼ぶと、変な台詞と決めポーズと共にアイオーンが来店したのだが、入口でキョロキョロと辺りを見渡していた女性のすぐ後ろにアイオーンは現れた様で、女性は驚きのあまり短い悲鳴をあげた。
「あっ驚かしちゃってごめんね? 僕は創造神のアイオーンだよ。知ってるよね?」
「えっ、えぇ。もちろん知っているけれど……」
「それじゃあ、8-10スライムを入手出来た君にここの説明をするよー」
「え? 何々、どういうこと?」
おそらく混乱の極みに達しているだろう女性には悪いが、しばらくはアイオーンの説明を聞いてもらうことにして、俺はまだかまだかと期待の眼差しで会計が終わるのを待っているリカルドの相手をした。
「お待たせ。それにしても、最近のリカルドは金持ちだな」
先週くらいまでリカルドが買っていた物は、主に10円の駄菓子であったが、今日リカルドが買っている物はいつもの10円の駄菓子の飴玉とカルパスを1つずつと、それ以外にも戦隊系ヒーローのグミや、オレンジジュースの小さい方も買っているのだ。
ちなみにリカルドが買ったオレンジジュースは、野菜ジュース系の所に置いてある。
俺の所ではオレンジジュースを含む野菜ジュース系は上段に陳列されているため、子供であるリカルドでは取ることが出来ない高さなのだが、そこは万能スライムの出番であり、リカルド専用の8-10スライムであるアインが触手をミョンと動かしてリカルドにジュースを手渡す。
うん。8-10スライムは万能ですわ。
「うん! あのね、この前宰相様と計算遊びした後にね、宰相様のところで計算のお仕事手伝っているの!」
「あぁー。あれか? 確かにリカルド計算速いよな」
「えへへー」
王様達が居なくなった後に発見したのだが、リカルドは意外な才能を持っていた。
それは計算能力の高さで、気付いたきっかけは宰相さんがポツリと呟いた一言。
「これ、便利ですね」
そう言って、店内の備品である電卓をぽちぽちと操作する宰相さん。
宰相さんの所には算盤の様な道具はあるものの、電卓は存在していない様で、俺が電卓を使っていると興味を持たれたので宰相さんに貸して、使い方を教えていたらリカルドも興味を持った様で覗き混む。
軽く一桁からの足し算や引き算を教えている時からリカルドは答えを連発していたのだが、そこから四桁の計算になってもリカルドは間違えずに正解を答えた。
「ごーきゅーろくにー」
「……イコール。おぉ、リカルド合ってるぞ」
「えへへ〜」
「まだ幼いのに凄いですね」
まだ千とか百とかは言えなかったみたいで数字だけを言ったのだが、見事正解したのだ。
その後色々と試してみた結果、四則演算だけであるが、5桁以上の足し算や引き算はもちろんのこと、3桁以上の掛け算や割り算も即座に回答してみせたのだ。
どこでこんなに覚えたのか聞いてみると、リカルドの家族は皆商人で、リカルドはその中の末っ子に当たる。
それで今後の役に立てるようにと親はもちろん、兄や姉までもがリカルドに算数を教えていたと言うのだ。
なので、リカルドが最初に喋った言葉は「銅貨」だったらしい。
何故数字では無く銅貨なのかと言えば、「ここに三枚の小銅貨と二枚の小銅貨があります。合計で何銅貨になるでしょう?」みたいな問題を出していたらしい。
ちなみにこれの正解は小銅貨五枚と中銅貨一枚で、両方答えられなければ不正解になり、夕飯に出るお肉の量が少なくなるようだったので、リカルドはお肉の為に一生懸命勉強したのだとか。
これには宰相さんも驚き、即座に勧誘した。
「リカルド。私の元でお手伝いして下さい!」
「お手伝い? ぼく、教会でお手伝いしているよ?」
「構いません。こちらにいる時に私の手伝いをしてくれれば大丈夫です」
「わかったー! 僕、宰相様にいっぱいおかしもらったから、お礼に宰相様のお手伝いするね!」
という経緯からリカルドはコンビニにいる間に、書類の計算間違いがないかの確認作業を宰相さんから任されている。
異世界の文字と数字なので、何の書類なのかは俺にはサッパリと分からないけどさ。
「はい。20円のお釣りね」
「わーい! アイン一緒に食べよー」
「アイー」
商品が入った手提げ袋とお釣りをリカルドに渡せば、早速リカルドは宰相さんがいるテーブルに行く。
「さて、アイオーンの所へ行くか」
新規の異世界人をアイオーンに任せっぱなしだったので、会計が終わった俺はアイオーンの所に向かう。
「……でね、食品はもちろんのこと雑貨もたくさん扱っているから、お姉さんも欲しいものがきっとあると思うんだ! それに僕もほぼ毎日来ているんだけどね、中々全商品制覇には程遠いくてね」
「うふふ。そうなの?」
「そうなんだよ! だって毎週新商品がーー」
「お待たせ、アイオーン。ちゃんと説明したのか?」
「ギクッ!」
楽しそうに会話をしていたアイオーンを遮って声を掛けると、そんな事をすっかりと忘れていたと言わんばかりな顔をしているアイオーン。
「アイオーン。まさかまたーー」
「うふふ。そんな顔しなくても大丈夫よ。アイオーン様はここの説明はキチンと教えてくれたわ。初めまして蒼。私はアイリーンよ」
両端のスカートを持ち上げて、華麗なカーテシーで挨拶をするアイリーン。
異世界から、初めて女性の客人が来店した。
今回の小話
リ「宰相様。これ終わったよ」
宰「では、次はこれをお願いしますね」
リ「はーい!」
宰「……まさか、文官がやる3日分の仕事を終わらせるとは、リカルド恐ろしい子」
次回予告
「女の嗜み」




