第26話 反省中(異世界side)
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「くっ……。昨日から1週間。あと6日の辛抱か」
「はぁ。久しぶりにやっちまったな」
王であるコンラートは頭を抱えて言い、教皇であるレイセントは頭を掻きながらそれぞれの自室でそう呟いた。
ことの発端は昨日のことで、異世界コンビニでドンチャン騒ぎを起こしたこの2人に、蒼から1週間の出禁を言い渡された。
だが昨日の時点では、コンラートとレイセントはそのことをハッキリと覚えてはおらず、2人が酔いから覚めた時は酔っ払いがよく言うような、『気が付いたら自分の家で寝ていた』の状態だった。
この2人が自分の世界へと戻って来た時、酒が入って良い気分になっていたところで急に転移してしまい、気が付いたらさっきまでいたコンビニではなく、自分達の世界に戻って来ていたので、この時は当然酔っ払いだ。
「はれ? ここは儂の部屋?」
「おん? 何故儂は執務室に?」
この様に、異世界メンバーが蒼のいるコンビニへと転移した時、転移する前にいた場所へと戻るので、コンラートは自分の部屋に、レイセントは教会の執務室へと戻っていた。
この時は酔いが回っていて、いつ戻って来たのか分からないけど、いつのまにか自分の世界に帰って来たのだろうくらいに思い、良い気分のまま睡眠欲に負けてベットへと向かった。
そして次の日。
久しぶりに泥酔してしまったと軽く反省した2人は、泥酔したせいで滞ってしまった昨日の分の仕事を片付けて、いつもの様に異世界コンビニへと移動しようとスライムに願い出たところで問題が発生した。
「どうしたのだ? クラスティーナ。何故うんともすんとも言わぬ」
「ん? メリルよ。お主どうしたのだ?」
この時になってようやく8-10スライムの異常に気が付いた2人は、これはどうにかせねばと、すぐさま宰相であるヴォルフの元へと駆け出した。
最初にヴォルフの元に到着したのは同じ城内にいたコンラートで、その次にレイセントがヴォルフの元へと辿り着いた時には、コンラートが床に崩れ落ちている珍しい場面に遭遇した。
レイセントはその珍しい場面が何故起こったのかと思いはしたが、それよりもまずは8-10スライムとばかりにヴォルフにコンラートと同じ質問をした。
「ヴォルフよ。儂のメリルが何をしても動かぬのだ。……もしや病気だろうか?」
「あぁ……。貴方もそれが要件ですか。そのことでしたら来週まで出禁にすると蒼が言ってましたから、それが原因でしょう」
「で、出禁だと! 何故だ! 何故儂が出禁にーー」
「それはここで崩れているコンラートと一緒になって、私や蒼が注意したにも関わらず店内で騒いでいたせいでしょう。何度も注意したのに大人しくならなかった貴方達に蒼が怒って、1週間出禁だーーーーって言ってましたよ」
昨日の出来事をヴォルフから聞かされたレイセントは、異世界転移をした日が浅いので、コンラートの様に床に崩れ落ちたりはしなかったものの、己の失態を聞き頭を抱えた。
「それは儂の失態だ。ヴォルフ、昨日は迷惑をかけてすまなかった。蒼にも謝っておいてくれないか?」
切り替えの早いレイセントは、すぐさま昨日迷惑をかけたヴォルフに謝ると、本当は自分自身が直接謝りたいが1週間の出禁をくらっているので、自分が反省していることを蒼に伝えて欲しいと、そんな伝言をヴォルフに頼んだ。
「ええ。分かりました。それにしても、レイセントはここのバカとは違って真面目なので安心しましたよ」
レイセントの伝言を快く受けたヴォルフは、冷めた目でいまだに床に崩れているコンラートを見下ろす。
「そう言えば入った時から気になってはいたが、此奴は何故に這い蹲っているのだ?」
やっと部屋に入って来た時からの疑問をヴォルフにぶつければ、ヴォルフは呆れた口調でこの疑問に答える。
「コンラートも貴方と同じく出禁を言い渡されたのですよ。それで反省すれば良いものを、この人は何て言ったと思います?」
「さあ?」
「ヴォルフ。べ、別にレイセントに言わなくてもーー」
疑問に疑問を返されて、ヴォルフの質問の意図に心底訳が分からないとレイセントが肩をすくめて答えると、この話が聞こえていたコンラートが制止しようとするも、それを無視してヴォルフは続けた。
「私に、エロ本の新作を代わりに買って来てくれと言ったのですよ、この人は。あり得ますか?」
「あ、あぁーー。成る程。そうだな。儂はヴォルフの方が正しいと思うぞ。コンラートも儂と共に出禁中は自粛すべきだろう」
苛立った口調で話すヴォルフの話を聞き、レイセントも残念な物を見る目でコンラートを見つめつつ、諦めろと言う様に肩に手を掛けて説得した。
「クッ……それでは新作が。ハッ!」
「ん?」
「何です? 下らないことでも考えつきましたか?」
心底残念そうに呟いたコンラートであったが、何かに気が付いた様にパッと顔を上げると、それを見たレイセントは首を傾げ、ヴォルフは怪訝な顔で辛辣なことを言ったが、コンラートはそんなことは気にせずに自身の考えが名案とばかりに言った。
「まだ手はあるぞ! アイオーンに頼めばーー」
「ごめーーん! それはお断りーー」
何処から聞いていたのか、何処で聞いていたのか分からないが、コンラートが全てを言い終わる前に3人の目の前に姿を現したアイオーンは、自分の目の前に腕でバッテン印を作ると、コンラートが言い終わる前に断った。
「何故だ!」
「えっ? だって普通に蒼に怒られそうだからヤダ。それに、僕は神だよ? 僕が全く興味ないことで人間の願いを叶える訳が無いじゃん?
それじゃあ、そろそろ時間だから蒼のところに行ってくるねー」
鬼気迫る勢いで何故ダメなのかをアイオーンに聞いたコンラートに対して、当のアイオーンはアイオーンらしい答えと、神らしい答えをあっけからんとばかりに答えると、恨めしそうに見つめるコンラートを無視して蒼がいる異世界コンビニへと転移した。
「まだだ! まだリカルドがいるではーーグッフゥー」
諦めの悪いコンラートは藁にもすがる思いで、最後の頼みの綱であるリカルドに頼もうとした瞬間、頭上に鉄拳が振り落とされた。
「馬鹿かお前は! あの様に純粋無垢な子供に如何わしい物を買わせようとするな!」
当然のことながら、鉄拳を振り落としたのはリカルドの面倒を見ている教会のトップであるレイセントである。
王からの命令であれば、平民であるリカルドは断ることが出来ないので、これは何が何でも阻止しなければならないと、鼻息を荒くしながらレイセントはコンラートを見下ろす。
諦めが悪かったらもう一発、今度は顔面に当てる気満々である。
「イッタァーーー! お主、いま全力で儂を殴っただろう! 馬鹿なのかお主は、お主の馬鹿力で殴られたら死ぬぞ儂は!」
「馬鹿はお前であろう! たった1週間我慢すれば良いだけの話なのに、お前が駄々を捏ねるのが悪いのではないか!」
「いや、元はと言えばお主がこの酒が美味いと儂にも勧めたからだろう! そのせいで儂も泥酔してしまったのだから、今回儂が出禁になった原因はレイセント、お主の所為だ!」
ビシッとレイセントを指差すコンラート。
それに対してヴォルフは、至極面倒くさそうに反論する。
「泥酔する前に飲むのを止めればよかったんですよ。
それに、いい加減諦めて下さい。ここは私の部屋で仕事部屋なのですよ? いい迷惑です。
では、糖分補給に向こうに出向くので、私が向こうから帰って来るまでに反省していて下さい。
さぁ、リチャード。私を向こうへ転移して下さい」
「リッリー!」
そう言ってヴォルフの8-10スライムであるリチャードと共に、転移ゲートの中へと入って行ってしまった。
「それじゃあメリルの謎も解けたし、儂も帰るわ」
それを見ていたレイセントは、これ以上ここにいる意味は無いとコンラートに片手を上げて、サッサと部屋から出て行ったしまった。
そして、1人残された王はーー。
「あぁーーー。新作のエロ本がーーー! ……はぁ、儂も戻るか」
慟哭の様な激しさで堂々とエロ本への思いを叫ぶと、しょんぼりと脱力しながら自分の執務室へと戻って行った。
そして一週間後。
「最近のコンラート様は、益々仕事に精が出ておりますな」
「ええ、昨日などもかなり遅い時間まで仕事をしておりましたぞ」
「王子達も素晴らしい父を持って自慢だと、そう零しておられましたな」
コンラートはこの1週間の不満をぶつける様に仕事に励んでいたので、事情を知らない者達からの評判は上がっていたりする。
今回のこぼれ話
1日目
王「異世界に行きたいのだが」
ク「クウッ!」←プルプルと拒否
6日目
王「異世界ーー」
ク「クゥーーー!」←ほぼ毎日行きたい行きたい言われていたクラスティーナ渾身の一撃。
王「イッダァイ! まだ何も言ってないではないか! 儂はただ、何作新作が出たかと思っただけ」
ク「クゥゥーー!」←低音触手うねうね
王「クラスティーナ……すまぬが触手で叩くのは勘弁してくれ」
男性諸君お待たせ!
次回予告
「高級娼婦のアイリーン」




