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第24話 ワンカップとイカとイカとイカ

ブックマーク、感想、ありがとうございます。

「それで、お前らが食べている物は何なのだ?」


 軽く言い争っていた3人に、俺が言い争うなと言いながら両手でシッシッと払うと、王様と宰相さんはいつも通りの行動へと移り、先に買い物を済ませていたリカルドとアイオーンが座っているテーブルへと着いた。


 それを教皇様は遠巻きに見て、全員がテーブルに集まった時に、皆がテーブルの上に広げている商品を物珍しげに見ながら聞いてきた。

 それを俺は、返品する雑誌を回収しながら聞いていた。

 店内にいる客は異世界メンバー以外に居ないので、集中して聞いていれば話の内容が聞こえてくる。


「儂はビールと燻製チーズだ。

 うーむ。こっちは向こうで言うところの、エールやラガーに似た様な物で、炭酸がかなり効いておる。それに、これはビックリするほど冷えておるぞ。

 この燻製チーズは、外は燻製されたおかげかプツリと嚙み切れるのだが、噛めば噛むほど中のチーズが口の中でネットリと広がるのだ。

 それをビールで流し込めば……クゥーーー! 堪らん!」


(やっぱり王様はビールとチーズか。

 そういえば、最近よく買う昼用もチーズが入っているグラタン系が多かったな)


「はぁ。チーズの方は美味そうだが、断念ながら儂は炭酸が苦手でな。ヴォルフのは何だ?」


(へー教皇様は炭酸ダメなのか)


「私のは栗入りのどら焼きに、抹茶ドーナツ、モチッとドーナツですよ。

 この栗入りどら焼きは、パンケーキに豆で作られたあんこと栗を共に挟んだ物ですが、向こうにはあんこが無いので説明が難しいですね。

 あとは、こちらの2つは生地を油で揚げた物の様で、こちらは茶葉を生地に混ぜ込んだ物で、サクサクとした食感と独特の風味がしますね。

 もう1つの方はモチモチの生地に、甘いシロップを付けて乾燥させた物で、どれも甘くて美味しいですよ」


(宰相さんはいつも通りだな。

 それよりも、ここ1ヶ月ほどで店内の甘い物系を制覇しそうな勢いに慄くわー)


「だろうな。お前が同じのを5個ずつ買うほどだからな。

 だが、甘い物か。儂はヴォルフに比べるとそこまで甘い物を得意としていないぞ。

 それでリカルドは何を食べているのだ? 見ただけではそれが何なのかよく分からないぞ?」


(まぁ、宰相さんが異常なだけで、教皇様の態度が普通だよな)


「これですか? これはグミって言うみたいです。なんか甘くてクニュクニュしてて面白いですよ!

 あと、こっちのは僕のお気に入りでカルパスって言うのですが、教皇様。これお肉なんですよお肉!」

「そうかそうか。美味しいかリカルド。良かったなぁ」

「はい!」


(教皇様とリカルドの会話だけを聞いていると、フフ。爺さんと孫みたいだな)


「食べている最中に話しかけて悪かったな。それで、最後はアイオーン様だが、それは一体……?」


(最後はアイオーンか。確かアイオーンが買ったのってーー)


「これかい? これは水みたいに見えるだろう? チッチッチ。たが残念ながらこれは水じゃなくてお酒なのさ!」


(あっそうだった。ワンカップ買ってたんだっけ)


「ほう! 確かに匂いを嗅いでみると酒精を感じるな。それで、その茶色いのは一体何だ? 干し肉か何かか?」

「うーん。違うと思うよ? 蒼ーー! 僕が買ったこれって何ー?」


 買い物カゴに返品用の雑誌を全て回収して、さぁ裏で返品数を入力するぞって時にアイオーンから声がかかった。


「あー。これだけ裏に持っていくからちょっと待ってくれ」

「あーい!」


 カゴを軽く持ち上げてアイオーンに見せると、アイオーンもここの仕事の内容をほとんど理解しているので、快く返事して待っていてくれる。

 なので、取り敢えずカゴをレジ内に置いて皆が揃っているテーブルへと向かった。


「それで、アイオーンが買った物だよな?」


 テーブルに置いてある沢山の商品の中から、アイオーンの目の前に広がっているのは、さっき話題に上がったワンカップの通常サイズと、あとはツマミが3点。


「あたりめとくんさきとゲソだな。3つとも少ないサイズの方だな」

「まぁ、これと同じ見た目で量が多いのも売っていたけどさ、どんな味か分からないのに大量買いはしないよ」

「……」


 アイオーンのこの台詞に、スッと宰相さんが目線を逸らしたの、俺はバッチリ見えてしまった。


「けど、これはどれも美味しいね。噛めば噛む程旨味が口の中に広がって、それをお酒で……プハァーー! 美味しい!」


 美味しそうにあたりめに齧り付きそれをお酒で流し込む、見た目は子供のアイオーンに俺はもう見慣れてしまった。

 だって、3日に1回の割合で酒類とツマミ類を食べ比べしているのだから、流石に1月もそんな光景を見ていれば慣れてしまう。

 最初は子供の見た目のアイオーンが酒を飲む姿に違和感しかなかったが、今では俺のおススメの組み合わせを教えたりする程だ。


「それは良かったよ。あぁ、あとついでに言っておくが、それ全部原材料はイカな」

「イカ……だと?」

「教皇様。イカってアレのことですか?」

「あぁ。こちらでは儂1人でどうにか出来ない程の強敵よ」

「そんな。こちらではあのモンスターを商品化出来る程に狩れるのですか?」

「えっ? 何この反応?」


 俺がイカと言った瞬間に、この場にいる全員の顔が一斉に青ざめる。

 唯一この中で青ざめていなかったアイオーンに、俺は視線を送る。


「うーん。蒼が言うイカって生き物は、こっちの世界ではクラーケンってモンスターに該当するようなんだ。ほら、ここと向こうの世界の言語が違うから、僕が翻訳機能を付けただろう? それでイカって単語がクラーケンって翻訳されたようなんだ。

 それでクラーケンっていうのは深海に潜むモンスターで、運悪く遭遇した場合は、あの巨体で船に巻き付かれて海の藻屑になるか、無事に帰って来ることが出来れば御の字って位には恐怖の対象だね」


 成る程。

 確かに異世界系の話には、イカやタコの様な姿をしたモンスターのことをクラーケンって名称で呼んでいるな。


「それに補足するのですが、前に胡椒の話をしたでしょう?」


 アイオーンの説明の続きを、宰相さんが繋がる。


「あぁ。確か小さい島国しか扱っていない……あぁー。もしやあれか? その島国に行く海域にそのクラーケンが出る的な?」

「その通りですよ。おかげで万が一の為に、クラーケン討伐用の腕利きの冒険者も雇うことになるので、それの費用も込みで胡椒の値段が跳ね上がってしまうというわけなのです」


 どうやら俺の予想は当たったらしいのだが、こっちでのイカとは随分と違う感想を皆がお持ちの様なので、ここでイカの説明をしておこう。

 可哀想に、リカルドなんか怖がって教皇様のローブにしがみ付いているのだ。


「向こうでのクラーケンの怖さは分かったが、こっちでのイカって生き物はそこまで怖いもんじゃないぞ?」


 そう言って俺は、レジに置かれている要らないレシートを捨てるゴミ箱から1枚を取り出して、サラサラと絵を描く。

 絵を描くとあってもこんな感じ。


【 イカ→ くコ:ミ 】


 それを皆が見える様に見して、如何にイカが素晴らしい食材かを熱弁しなければ!


「これイカな」

「いや、これは余りにも……」

「絵心云々の話は今は無しで」


 俺が見せたイカのイラストに王様が怪訝な顔をして話を止めたので、それを手で制して話を続ける。


「それでこのイカなんだけど、こっちの世界で取れるイカってのは主に、俺の掌2つ分有るか無いかくらいなんだ。それに、攻撃方法も噛み付くや吸盤で絡み付く、あとは墨を吐くくらいで余り脅威って威力じゃない。

 ほら、こんなにサイズが違うから、体に巻き付かれても大人なら自力でどうにか出来る程なんだよ。

 それでこのイカなんだけどな、生でも焼いても煮ても揚げても蒸しても干しても燻製にしても美味いんだよ!

 マジで酒好きにはオススメする一品だね!」


 俺が自信を持ってイカがどれほど美味いかを説明したが、王様達はそんなに心惹かれる様子では無いが、ここで唯一イカの加工商品を食べているアイオーンが言った。


「蒼がここまで熱弁するの初めて見たかも。でも確かに蒼が言う意味は分かるかな。ここに有るおつまみはどれも美味しいもん」


 その一言で、教皇様が決意をした様だ。


「どれ。神も美味いと言わしめるそのイカとやら、儂も食べてみるぞ!」


今回のこぼれ話


教「それにしても、コンラートは太ったな」

宰「ブゥフォッ! ふふふ。フハハハハ」

王「なん……だと。そんなにか?」

蒼「チーズ食べ過ぎなんじゃね?」

ア「向こうで食っちゃ寝してるからじゃない?」

リ「チーズ美味しぃー!」


次回予告

「飲み比べと食べ比べ」

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