第21話 お兄ちゃんと言われて
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「これ、サクサクで美味しいね! あとね、ジュワーって味が広がるの!」
リカルドは、よっぽど美味棒のコンポタ味を気に入ったのか、一口食べた後に熱烈な感想を頂いた。
口の周りに食べカスが付いているのだが、まだ子供だからご愛嬌ということで、王様にウエットティッシュを1枚貰い、それでリカルドの口を拭う。
「俺もこれ好きだぞ」
「んんー! お兄ちゃんと一緒!」
はにかみながら、俺とお揃いであることが嬉しいらしいリカルドは、パクパクと口の周りを汚しつつも残りを食べて、あっという間にコンポタ味を食べ終わり、「あっ」と小さく呟いた。
リカルドは、夢中で食べたコンポタ味が無くなったことに気が付いて、ゴミとなった袋を悲しそうに見つめる。
「食べた後のゴミは、スライムに食べさせろ。それはリカルドの世界には無い素材で作られているんだ。もし、これのことがバレたら面倒くさいことになるぞ」
「ん。分かった。よろしくね、アイン」
「あーうー!」
リカルドのスライムであるアインにゴミとなった袋を渡して、溶ける様子を名残惜しそうに見つめるリカルド。
そのあまりの不憫さに、思わず声を掛けた。
「なぁリカルド。コンポタ味以外にも、まだ他の味の美味棒やお菓子もあるんだぜ? それに、明日も教会のお手伝いをしてお小遣いを貰ったら、またここに来れば良い。今日と同じことをしたら、明日も同じ分のお菓子が食べられるぞ」
「そっか! そうだね。じゃあ、今度はこれ食べる!」
理解が早いリカルドは、俺の言葉ですぐに浮き上がり、今度はカルパスに手を伸ばした。
「これ、何だろ?」
初めて見るであろうカルパスを、上下左右から観察したのちに、パクンと口に含んでモゴモゴと咀嚼するうちに、段々と顔がとろける。
「んんー! お肉だぁー。お兄ちゃん、これお肉だよ!」
「あぁー。うん。サラミ系の加工肉だな。何だ? リカルドはお肉大好きか?」
「うん! お肉大好き!」
その後、残りの美味棒も美味しい美味しいと食べて、残ったのは飴玉だけとなった。
「んふふー」
にっこにっこ笑いながら、コロコロと飴玉を口の中で転がしているリカルドは、床に届いていない足をパタパタと揺らしてご満悦だ。
「飴、そんなに美味しいか?」
リカルドが舐めている飴は、フレーバーも何もないただ甘いだけの飴だが、リカルドは甘いだけでも十分な様だ。
「美味しいよ! だって、すんごく甘いんだもん。僕、こんなに甘いの食べたの初めてー! お兄ちゃんありがとぉー」
「おっおう」
オーバーリアクション並みに、腕をブンブンと振るいながらお礼を言うリカルドに、俺は打ち震えながら聞いていた。
「ねぇ蒼。さっきからニヤニヤ変な顔しているけど、どうしたの? 普通に気持ち悪いよ?」
「グハッ」
そんな俺に、アイオーンは容赦なく言葉の剣でぶっ刺し、俺は思わず胸元の制服を握りしめた。
迷惑神の一言でも、意外とダメージを受けてしまった。
「あぁ、うん。まぁ簡潔に説明をするならば、俺ってそろそろ30な訳なのよ」
「へー」
「ん?」
「はっ?」
「んっふふー」
俺の言葉にアイオーンとリカルド以外の空気が止まった気がしたが、気にせずそのまま説明を続ける。
「でな、こっちの世界だと30を過ぎたらおっさんって言われる訳よ。ってか、親戚の子らにはすでにおっさん呼ばわりだけどなー」
後半はすでに説明では無く愚痴となってしまったが、俺は今年の7月に30歳になる。
人によって考え方は違うだろうが、おっさんの仲間入りを果たしてしまうのだ。
おっさんの仲間入りを果たすだけで、別に魔法使いになったりはしないし、女々しいと言われようと、まだギリギリおっさんの仲間入りは果たしていない。
なのに、親戚の子らにはおっさん呼びをされていたので、心にダメージを負っていたのだが、リカルドがお兄ちゃん呼びをしてくれたので、つい嬉しくてニヤニヤしてしまっただけなのだ。
別に小さい子にお兄ちゃんと呼ばれて、疚しい気持ちにはなったりしないぞ!
俺にロリやショタの性癖は無く、三次元の守備範囲は成人以上からだ! ただし、二次元のJK物は美味しいです。ごめんなさい。
「となると、蒼はいま29歳という事ですか?」
「おう」
「……お主。髭が無いせいか、余計若く見えたぞ」
「うわっ! びっくりした! いきなり何だよ!」
俺の隣に座っていた王様の手が、いきなり頬や顎を摩る様に撫でたので、思わず払いのけてしまった。
「いや、すまん。だが、20代前半かもう少し若いかと思っていたぞ」
「ええ。私もそれくらいかと思っていました」
「いや、どう見ても10代には見えないだろう?」
王様の言葉に宰相さんも同意を示したが、もしや10代かもしれないと思われていたのか?
「まぁ、蒼の年齢を聞いて驚きましたが、こちらの世界では、成人を過ぎている男性の殆どは髭や体毛が生えているのですが、蒼は……」
「まぁ元から髭は生えにくかったけど、髭が無いからってそこまで若くは見えねぇだろ?」
「確かに、こう見ると顔も腕もツルツルであるな」
「うるへー!」
王様に撫でられて、ちょっぴり気持ちが悪い顎を摩る。
昔から俺は髭や体毛などが生えにくいらしく、男っぽい印象の顎髭などに憧れていたのだが、女性陣からは似合わないと猛烈に批判を食らったことがあり、いまでは諦めている。
しかし、いままでは体毛が薄かろうが、他の人には年相応に見られていたのだから、王様達がこの見た目の俺を20代前半に見えると言うことは、外国人が見た日本人は若く見てしまうという、アレな感じなのだろうか?
と、いうことはだ。
「じゃあ、王様と宰相さんって幾つなのよ?」
もしかしたらもしかしてと思い、俺はいままで聞いていなかった2人の年齢を聞いてみることにした。
別に女性じゃ無いから、年齢を聞いてもなんら問題はないだろう。
「儂らか? 儂らは同年で、43だ」
「……へー」
「ん、何だ? その変な間は」
「何でもねぇよ」
「あはは。蒼、目が泳いでいるよ」
「ウッ」
2人は同い年の様だったが、ごめんなさいと心の中で謝っておいた。
何故なら、2人とも50過ぎかと思ってしました。
俺の親父より年下なのに、俺の親父より老けて見えると思ってました。ごめんなさい。
「僕は長く生きすぎているからーー」
「いや、アイオーンには聞いてないわ」
「モーー!」
この話の流れにアイオーンも混ざろうとしたが、俺はそれをぶった切った。
「いや、もーー。って言っても、アイオーンは一応神だから年齢とか無いんじゃないのか? あったとしても、すんごいジジイだろ?」
「こんなピチピチな僕にジジイ言うなよ! ジジイなら僕じゃなくて、断然コンラートの方じゃないか!」
確かに、見た目は見目麗しい美少年のアイオーンには、ジジイと言う単語が合わないかもしれないが、だからと言ってビシッと指差された王様が可哀想だ。
……いや、俺も王様のことをジジイ呼ばわりしてたわ。
アイオーンのことをとやかく言えないね。
「ふふっ。神から公認のジジイ呼ばわりされるとか。コンラート、貴方。……ふふふ」
「ヴォルフよ。其方、儂で爆笑している様だが、其方も歳だけなら儂と同類だからな」
どうやら宰相さんのツボにクリーンヒットしたようで、肩を震わせてテーブルに突っ伏しているのを、王様は気にもしないで淡々とビールを飲みながら指摘する。
「えっ? 見た目だけなら完全にコンラートの方がジジイだよ!」
「あはははは!」
そこに、空気を読めない系神様アイオーンが爆弾を投下し、耐え切れないとばかりに宰相さんの笑い声が店内に響き渡った。
今回のこぼれ話
蒼とリカルドが戯れている最中、王様はチーズをつまみにビールを、宰相さんは買ったお菓子をずっと食べながら2人を眺めていました。
アイオーンは、それぞれからチーズとお菓子をお供えされてました。
次回予告
「怪しい奴ら」




